鞭を執れ
はちみつ太郎 作
３５．


「昨晩、京極管区局長に会ってな、進展はと尋ねられたよ。」

「どうお答えに？」

「部員が潜入できたことを伝えた。」

「、、、。」

　あずさは、小池に視線をあずける。

「では、事を急げと言われたのでは？」

「あぁ、もちろん。婿養子は、どうでもよいが、、、娘だけでも、、、とな。」

「、、、。」

　あずさは、小池にこれからの動きを伝える。

「本部長、ＭＡＤのＩＰアドレスからの足取りで、明らかになったことが。」

「最後に連絡を取ったものの、、、アドレス？」

「えぇ、海外レンタルサーバーで、そこの契約者の名前が、、。」

「誰のものか、分からぬと？」

「いえ、大上勇作という男の契約でした。」

「そいつの住所は、特定したのか。」

「えぇ、、、ですが。」

「ですが、死んでるとでも？」

「いえ、、、拘置所に、、、。」

「拘置所？、、、拘留中。」

「はい、広山拘置所に６０日ほど前に、、、未決拘留中でして。」

「支払先はからは。」

「それも、大上勇作のクレジット口座から。」

「落ちてるのだな。相当額が入れてあって、自動的に落ちてるのだろう。」

「はい、ですが、数日前に口座に入金されていて、、、。」

「身内が入れたのだろう。」

「いえ、天涯孤独で、、、。」

「弁護士が、頼まれたとか？」

「国選です。そんなことするとは。」

「思えんな。」

「では、そいつに近いものが、アドレスを買った。」

「はい。」

「近いやつとは？」

「、、、。拘置所内部、、とか。」

「消えたＭＡＤの車両は、見蓋山のダム湖の近くに放置されていたと聞いたが。」

「はい、そこからは、何も出ていません。」

「付近のＮシステムは？」

「それが、、、。」

「何か当たりがあった。」

　あずさは、確信をもって小池に伝えた。

「広山拘置所所属の、、、護送用ハイエースが、、、。」

　小池は、あずさの声色で自身の有無を感じた。

「法務省管轄、、、。手が出しにくいな。」

「一度、広山拘置所にカマをかけてみようかと。どなたか、お知り合いは？」

「無いこともない、法務省矯正局の局長に話をしてみる。少し待て。」

　小池は、あずさを残し、デスクを立った。廊下に消え、丁寧な言葉使いで、回りくどい訪問の依頼を話している。

　１５分ほどの後、デスクに腰かけた小池はあずさに言った。

「お前の電話に、法務省矯正局の小笹という次長から電話を掛けさせるとのことだ、連絡を待て。」

「はい、小笹次長ですね。」

「いいか、京極管区局長の娘さんのお命を優先に、瀧井巡査長と入れ替わりで、、、始末などされたら、、。」

「、、、。」

「目の前に、見えたものだけを捕えようとするなということだ。」

「プルプルプル。」

　あずさの携帯に、見知らぬ番号が表示される。

「おそらく、小笹だろう。」

「はい、桧山です。」

　少し、トーンを変えたあずさは小笹の声を聴いた。

「はい、えぇ、聞いております。うちの本部長からの、、、。」

　あずさは、ホワイトボードに小池が書き込んだ内容を問いただす。

「えぇ、広山拘置所内の教誨師の活動について、、、、お尋ねしたいことが。」

　あずさは、小池の文字を解読しつつ、難解なアプローチを続けた。

「はい、当部局にて、調査している該当者が、、教誨活動を行っておりまして、当方もその活動の事を知っておく必要があるかと、。」

　ホワイトボードに日時を指定した小池の文字が赤で記される。

「お忙しいとは思いますが、明日の10：00頃、、広山拘置所にてお話を聞かせていただけないでしょうか？」

　小池は指で丸の文字を作り、あずさの表情を伺った。

「よろしいですか？、、、はい、私、１名です。」

「小笹さんは、、、あ、では、その時間でお願いいたします、あ、教誨師の方は、特に必要ではありません、あくまでも、どのような活動かをお聞きするだけですので。」

　小池が、デスクに腰を掛けると、あずさは小笹の最後の言葉を復唱した。

「あ、はい、では、広山拘置所の長野副所長を尋ねればよろしいですね、はい、では、明日の１０時に。失礼いたします。」

　あずさは電話を切ると、小池の仕草を見つめる。

　小池は、腕組むとあずさに軽い口調で言った。

「証拠を見いだせなければ、あの時の人材創出セミナーの時と同じく、君が一時的に備品になってもいい、そこの判断は君次第だよ。」

「、、、。」

　小池をにらみながら、あずさは黙った。

「あの時は、怖かったのか？」

「当たり前です、、、殺されるかもと、、、。」

「だが、あの時は順応して、内応出来るくらいまで近づいたじゃないか。」

「、、、。」

「あの岸本の元であれば、捜査は破たんし、君もどこかのクレイジーな組織に買われていた。」

「、、、。」

「あの時、岸本を追い出さず、おれが、関わらなかったら、、、君も、あの三人の婦人警官同様、、、かの国の生贄として、、なぁ。」

「はい、おっしゃる通りです。」

　あずさは、小池に言いくるめられるように従った。

「証拠集めが明日破たんの恐れ、もしくは、継続できそうになければ、あずさの行動力を信じるよ。」

「、、、はい。」

「瀧井巡査もあの時の君と同じであろう、今の状況は。従順に女としての武器で生き残っているとは思うが、長引くとなぁ。」

「だから、、、早くしなきゃって。」

「であれば、、、だろ。」

　あずさは、小池の言葉を最後まで聞かず、明日の拘置所での振る舞いをシミュレーションした。
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2020年9月19日掲載
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