鞭を執れ
はちみつ太郎 作
３６．


　決壊した膀胱からは、香ばしいコーヒーの残り香とともにアンモニア臭の尿が、あてがわれたしびんへと注がれる。

　小春は、最初に飲尿されてから、12時間喉の渇きと戦ったが敗れ去り、置かれたペットボトルのコーヒーを飲み干していた。

　その後６時間余りがたったころ、男が頃合いを見て、小春の独房の檻外から監視する。

　体育座りや、脚を伸ばしたり、体勢を入れ替えるが、膀胱の張には効果がなかった。

　小春が、下腹部をさすり、尻の谷間に力を何度か入れていたのを見つめた男は、檻のカギを開け、小春のもとに近寄った。

　近づく気配を感じると、壁に背を付け、見えぬ存在を探す。追ってから逃れることのできない、盲目にされた小春は、あっけなく男に寄り添われ、下腹部をさすられる。

「パンパンだよ。僕のために、ありがとう、いっぱい溜めてくれてるね。」

「、、、い、いやっ。ト、トイレで。」

　小春の脇腹を抱き寄せた男は、逃げようとしない小春のあきらめを腕に感じ、耳元でささやいた。

「大丈夫、僕はこれを飲んだら、、、もう、この世にはいられない。君のおしっこを飲んだよ、なんて、だれにも、言うこともできない。」

「、、、。」

「教えてあげるよ、、、僕は、明日、、おそらく、死刑台にくくられる。」

「し、死刑台、、、。」

「そうだよ、君は何も知らないんだね、、、僕の名は、、、広本淳二。３年前に殺人罪で、死刑が確定してるんだ。」

「、、、。」

「奥さんみたいな、、、子猫ちゃんをね、、、首を絞めて、、、、その時の、末期の尿漏れがたまらなくて、、、２人も。」

「こ、殺さないで、、、。」

「どうかなぁ、、、この後、台に上るんだ、、、、どうなるかな。僕の自制心なんて、、、。」

　小春は、首筋にかかる手の感触に答えは一つしか持ち合わせていない。

「う、ん、、、し、します、、、お、おしっこっ。」

「本当かい？」

「は、はい、、、だから、殺さないでください、、。」

　小春の首筋にまとわりついた指は、肩にかかり、押し下げるようにした。男の指示は、小春の想像通りの体勢だった。

　膝を曲げ、犬の芸当のようにチンチンといわれ、小春は蹲踞の姿勢で足を開く。

　男は、小春の浮いた尻の間に顔を入れ、見上げた景色の解説を小春に聞かせている。

「いい眺めだし、、、尿道から、膀胱タンクの中身の臭いが漏れていそうだね。」

　小春は触ることもできず、陰唇の開きも自ら確認できていない。実況するように男が小春の性器に語りかける。

「へへへ、、、僕も、この穴から生まれてきたんだよね。ピンクできれいな穴を焼けた肉のような色した襞襞が閉ざしているよ、へへ、焼けた肉のような襞襞が。」

「ふーーー。」

　小春は、息を吹きかけられた陰唇襞を隠そうと手を当てた。男はすかさず指示し、小春は命令に従う。

「隠したその手で、、、拡げないと、おしっこが飛び散ってしまうよ。」

「は、、はいっ。」

　小春は陰唇を拡げると、男は生まれてきた道とは別の道に賞賛の声を掛けた。

「ぃぃ。絶妙な大きさの尿道だよ、、、。」

　男は、感嘆の声を小春に浴びせ、ポケットにしのばせたものを取り出した。

「少し、我慢してくれよ、、、。」

「え、、、な、なにを、、、いっ。」

　男の狙いの道に、素早く差し込んだのは小春の尿道口と同じサイズのカテーテルだった。するすると、男は小春の尿道を捉え、配管工のような手つきで、終端まで挿菅した。

「え、え、、、い、いたいっ。」

　腰をもじもじとする小春に男が、尻をつかみ動きを止める。

「膀胱、も尿道も、、破けてもいいのか？」

「ぼ、、うこうって、、。」

「入院経験がなさそうだね、、、導尿カテーテル、、、奥さんの膀胱まで、、、もう繋がってる。」

　男が、管の先に口をつけると、小春の意思とは関係なく、尿意を促される。

　止めることもできず、膀胱をきつく閉じようと尻に力を入れるが、男の口の中には、大量の小水が流れ込んでいる。

「ゴ，ゴクゴクゴク。」

　カテーテルのストッパーを閉じ、テイスティングのように公表した。

「あぁぁ、若い女のおしっこだよ、、、冥土の土産、これ以上のものはないね、、、コーヒーの味も問題ない。濃厚で、、、ゴク。」

　言葉を止めストッパーを緩めると再び管は黄金色に染まり、男のすぼめた口の中に流入する。

　小春は、視覚で確認できないためか、慌てたそぶりもなく、男の願望のまま膀胱を制御できぬまま、尿意の無くなりを待つだけだった。

「奥さん、、、そろそろ終わりかなぁ、、、どうだい？」

「、、も、もう、、、終わりに。」

「止められないよ奥さんの意思ではね。空になるまで、、吸い続けるからね、、、でも、、おしっこ吸われて嫌なんだろうけどもね、、、、僕が生まれた穴の方も、準備が整い始めてるよ。」

「い、いや、、、そんなことっ。」

「あるんだよぉぉ、、、ねぇ、、、触らないよ、、、僕が愛しているのは、、、こっちの穴だからね。ズズズズズッズッッッ。」

　品の無いアイスコーヒーの最後を吸い取るように男が導尿カテーテルを吸い上げる。小春は、体をそらし尿道内に当たる痛みを解消しようとしている。

　動くとわかる自らの膣道のぬらつきは、カテーテルを咥えたままの男には何の興味もなく、ただ最後の一滴までおしっこを絞り取るようにしていた。

「あぁ、、ごちそう様、、。」

　男がそういうと、導尿カテーテルを抜き去り、大事そうにポケットに入れた。小春の跨りから体をかわすと、蹲踞の小春に体を休めるよう言う。

　体育座りになった小春は、男に事の真相を尋ねた。

「こ、ここは、、、どこなの。」

「知らないのかい？、、、知らない方が、、、いいかもしれないよ。」

「お、教えてください、、、ここで、なにを？」

　男は、ポケットのカテーテルを触りながら、檻の外とカメラを見つめた。知らぬ風に、小春に声を掛けた。

「死刑囚の最後の晩餐、、、ってとこかな。」

　檻の外に、行きかけた男は一度立ち止まり、声を掛ける。

「奥さんのおしっこストローは僕の六文銭として、あの世に持っていくよ。ま、地獄の入口で没収されるかもしれないけどね。」

　小春は、この施設の所在を確信した。

「こ、、拘置所って、、こと。」


　尿意が無くなると、小春は空腹を感じている。小水を飲まれてしまう事に抵抗はあった。が、もう一つの便への抵抗は、それ以上だった。

　入れ替わるように、３８０９が小春の檻に入って、声を掛ける。

「小便を吸われたんだってな。おれも経験済みだ、６０過ぎのおばはんにカテーテル突っ込まれてよ、、、吸われたなぁ。」

「、、、。」

「気持ちがいいもんだろ、以外と。」

「、、、。」

「返事しろよ、、、。」

「いいわけない。」

「そうかな、、。」

「ひっ、、、。」

　３８０９は小春の開いた襞に触れ、濡れ具合を確かめた。

「いいわけない、、、わけないわなぁ。」

「やめてって、、、。」

　小春は狙いから離れるように、腰をずらす。

「ま、俺はよ、、、女の体に興味もないし、、、ほれ、裸のお前を見ても、、、ほらよ。」

　小春の手をつかみ、自らの股間に触れさせた。数秒で手を振りほどく小春。硬直の無いそれは、数秒でも感じた。

「お前の身体が魅力的じゃないとは言わんよ、、、、俺のち○こは、お前より、旦那の方に反応してるんだよ。」

「、、け、計さんに、、、なにを。」

「あぁ、尻の穴は何度も頂いたわ。尻の筋肉がいい感じなもんでよ、、、それとよ、、、あいつのフェラ、、、なかなかよ。」

「、、、。」

　小春は、目隠しマスクの中で、視線を泳がせた。計への仕打ちを止めさせる方法など、皆無だが、交換条件を問うた。

「わ、わたしは、、、なんでも、、、、します。、、、あの人には、、、手を。」

「あいつも同じことを言ってるよ、、、俺は、何でもする、、、ってな、、、いろいろ同意してくれたよ。」

「えっ、、、ど、同意って、、、。」

「ま、聞いたら、、、。お前も発狂するようなことさ、、、。聞かない選択肢もあるよ。」

「な、なにを、、、計さんに。」

　３８０９は、小春の耳元で、一言つぶやいた。

「性転換、、、。」

「ま、、、まさか。」

「それを止めさせるって、、、、ことはよ、、、奥さんも、性転換、、、しかないわなぁぁ。」

「、、、。」

　３８０９は面白がり、小春にもう一度耳打ちする。

「奥さんのちっちゃな、クリトリスをよ、、、膨張させて、、、、亀頭を形成手術でなぁ、、、あるいは、あいつの陰茎を移植ってのもありかな？」

「そ、そんなことが、、、出来るわけ、、、、ない。」

「できるんだなぁ、、、、この、施設には、、、、そういう奴も、、、入れられてるんだ、、、おっと、、、しゃべりすぎたか。」

　３８０９は、袋に入ったあんぱんを２つころがし、小春に言いつけた。大便を我慢して食べないなら、計の性転換が早まるだけだと。

　小春は、落とされた袋を開け、あんぱんにかじりついた。
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2020年9月21日掲載
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