鞭を執れ
はちみつ太郎 作
３７.


　守衛に通された先は、ごく普通の応接室だった。

　ソファーに腰掛け、深く腰を沈めた際に、今日の服装のチョイスを誤ったと感じた。

　膝を何とか閉じ向かい側に相手が座らに事だけを願っていると、この施設の実質的運営者が現れた。

「お待たせいたしました、桧山さんでよろしかったかな。」

　あずさは、立上り、名刺を差しだし名を述べた。

「お時間ありがとうございます、警察庁の、、、。」

　名刺を受取った、男は、あずさの名刺を一読みし、名刺入れにしまう。

「桧山あずさ　警部補、、、部署は？」

「警視監付きでして。」

「秘書のような役割ですか？」

「え、ええ、まあそんな感じで。」

「話は、小笹次長から伺っております、、、ここの副所長をしております、長野と申します。」

　あずさは名刺を受取り、促されるまま、ソファに腰掛けた。気にしたスカートの隙間をのぞかれる心配のある向きに長野は腰掛ける。

　そこに集中する視線は、時折感じるが、男としての反応は仕方がないだろう感じる。

「早速ですが、時間がない物で、お話をお伺いいたします。」

　長野が声を掛けると、あずさは、一般的な教誨師の役割を問うた。

　長野は、その問いに一般的な役割を教えていく、箇条書き程度の話を笑顔を交えて述べた。

「何か、教誨師の活動に問題でもありましたか？」

「個別の事案には、お答えできないので、、、申し訳ありません。」

　５分くらいで教誨活動の話を聞き、用意していた長野の資料を受け取った。長野は、あずさのスカートの隙間を何度かちら見している。

　あずさは、資料を除き込もうとし、長野への視線を外す。長野は、資料を覗き込むあずさのスカートの隙間に視線を刺した。

　少し開き気味の膝を閉じることなく、資料を落とすふりをし、横に体を曲げると、大きくスカートの隙間を拡げた。

　恐らく、ストッキングの縦線ぐらいはのぞき見えただろうとあずさは感じる。長野は、あずさの股間へ刺した視線を瞬時に外す。

　資料を戻し、もう一度教誨活動に触れるあずさ、丁寧に答え、それ以上の話は、資料にある教誨師の連絡先で聞いてほしいと言う。

　資料を膝上に載せたあずさは、長野の話しぶりに違和感なく、スカートへ刺さった視線も、異常者の視線でないことを感じる。

「ありがとうございました、お時間いただき感謝します。」

　立ち上がる瞬間も少し股間が開くあずさ、長野は先に立ち上がっていたが、ブラウスの胸元に視線が移っていたようだ。

「いえいえあ、お構いなしで、協力できたかな？」

「参考になりました。」

「出口まで私がご案内しますよ。」

「ありがとうございます。」

「さ、どうぞ。」

　長野は、あずさを前にし後ろから通路を説明する。どうして前を歩かないのか気にしている。

　あずさが、何度か振り向くと、長野はそこに気づきこう答えた。

「あ、私が後ろを歩く理由ですか？」

「え、あ、はい。」

「職業病ですよ、後ろから襲われたくないのでね。」

「なるほど、、。」

　あずさは前を向くと長野の言うとおりに進んでいく。

　もう一つの理由を長野は心でつぶやく、尻のライン、ふくらはぎ、、、役職とあいつの生餌にぴったしだ、と。

　あずさは、その呟きは聞こえないが、尻のラインに視線が焼付くように感じている。

　外に出、守衛室とは別方向に進められるあずさ。

　向きが違うのではと、長野に言うが、綺麗な花が咲いているところを見せたいと遠回りを指示する。

　拘置所の裏に到達すると、仮設の仮囲いに囲まれた解体直前の建物の横を通る。

「これは？」

「これですか、来年には解体される予定の、旧、、、死刑室です、、、。霊安所もありますよ。」

「、、、。」

「工事業者がね、入札辞退を繰り返す案件でね、金額より、、、、怖いものがあるようです。」

「そうですか、じゃ今は何もないので？」

「いえ、怨念は残っているのでは、、、。」

　あずさは、手を合わせそちらを向いた。

「桧山さん、情けは禁物ですよ、、、怨念へのそういう慰めは、そいつらに付け入る先を与えてしまう。そいつらに吸い寄せられますよ。」

　あずさは、長野の言葉の真意に気づくことなく、そこをあとにした。あずさの頭のメモには、解体前の施設の位置をインプットした。

　通り過ぎたあずさの尻を追う長野は、携帯を取り出し、外にいるはずの強盛会の男に尾行を指示し、あずさを車まで見送った。


　あずさは、車に乗り込み、見送りの長野に会釈し移動を開始した。直後に動き出した車には気づくことなく、状況報告をハンズフリーで開始する。

「桧山です。」

「どうだった？」

「一か所だけ、怪しい建物が。」

「内部に？」

「いえ、外部に、旧死刑室、、、、取り壊し前で、仮設の囲いで入れないものが。」

「解体日は？」

「入札辞退が続いているようで、、。」

「金額を上げてでも、壊すだろ、、、そのような忌み嫌うもの。」

「壊さない理由は、、、。」

「そこが、監禁場所と？」

「９９％。」

「解体をどこかに請け負わせば、、、動き出すのではないか。」

「入札不調で、延期され続けている、、、だれかが裏で、、、辞退させている。」

「誰が？」

「、、、拘置所、、、副所長の長野、、、とか。」

「所長より、長く居続ける、、、ノンキャリの実力者か。」

「はい、視線から、女を人として見ていない、、、強く感じました。」

「わかった。その判断を１００％にする方法を考えろ。」

「わかりました、実行します。」

　あずさは、バックミラーを覗き込み数台後ろの車の悪い気配を感じていた。
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2020年9月25日掲載
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