鞭を執れ
はちみつ太郎 作
４２．


　上町の雑居ビル５階「トリコロール」あずさは、押し棒を押し、店に立ち入った。小笹は、フランス国旗の掲げられた扉の向こうにある世界に足を止めた。

「桧山さん、お店間違えてません？」

「いえ、合ってますよ、行きつけのバーです。」

　スポットライトを浴びているのは、マイクロビキニ姿の人妻風の女。アイマスクを付けられてはいるが、細工の悪い顔立ちではないことはわかる。

　桧山は、カウンターに行き、バーテンダーに酒を頼んだ。小笹にも同じものをと告げ、行き場を失いそうな小笹を呼び、自分の隣に座らせた。

　小笹は、マイクロビキニの女が徐々に足を開き、オレンジ色の布の部分の湿り気を見逃さなかった。小笹は、椅子に腰かけ、バーテンから受け取った酒をひと飲みする。

「刺激がきついですよ、桧山さん。」

「そうですか？」

　あずさのそうですかには、別の意味があるが小笹は気が付いていない。

　マイクロビキニは外されることなく、乳首の突起が目立ち始めると、被りつきのテーブルに座る男たちが、辱めの声を浴びせている。

「おい、おい、勃起が止まんないよ、奥さん。」

「ビキニの隙間から、乳首見えてるんじゃない？風営法大丈夫？」

「もう少し、脚開いてよ、、、ほら、ほらぁ。」

「お、おお、、、染み、、できてんじゃん。エチエチやん。」

「旦那公認ってほんとかね。」

「うちの嫁さんやったら、どうなんやろ、、、みんな、こんな事考えてるんか？」

　とめどなく、男らの卑猥な言葉を浴び、椅子に座ったままの女は、徐々に背筋を丸め、視線から逃げようとしていた。

　背後の男が、女の肩を引き、背筋を伸ばす。

　女の口元から声が漏れる。

「恥ずかしい、、、、。」

　背筋を伸ばしたとき、マイクロビキニの乳首を覆う布が動き、ころりと転がった乳首の色、形に皆が再び声を浴びせる。

「なにが恥ずかしい？、、、コロコロに乳首立やがってよ、、、。下のお豆もコロコロに尖がってんだろ？」

「、、、。」

　恥ずかしそうに顔を振るが、男たちは容赦しない。

　下腹に力を入れ、体をよじる女。少し腰を浮かせた瞬間の反応を男たちが見逃さない。

「おぉぉ、、、ま○こ汁が椅子にべっとりじゃん。」

「まじか、見逃した、、、おい、おねぇちゃん、、、腰浮かしてよ、、、、まん汁みせてや。」

　女は、後ろの男に促され、少し腰を浮かし、椅子に腰を甘目に座る。割れ目のシミを見せつけるようにして座ると男らは前のめりで視線を集中させる。

「エロォォ、、、まじで、人妻なん、、、、この子？」

「そうやろ、、、だって、、、、オプション無って、、、あるやん。見せるだけなんだろ、、、、今は。」

「状況次第で、、、成長していく、、、ってこと？」

「だな、、、良し、、、、先行投資、、、、２万。」

　男は立上り、会員ＩＤを後ろの男に手渡し、女のマイクロビキニの隙間に投げ銭した。

「お、、、まじか、、、んーーー、、、すぐ止めちゃうかも、、、だし、、、５千円。」

　もう一人の男も、投げ銭を反対側のビキニの隙間に差し込み、女の乳首を両方露わにした。

「よし、、、、兄さん、、、ＳＰチケット買うは、、、クレジット、、、で、、、５万。」

　男は、ＳＰチケットという、店の名前の書かれた紙幣を手にすると、おもむろに開いたままのマイクロビキニの股間に、チケットを差し入れる。

「ひぃぃ。」

　女は少し驚き、仰け反るが、陰毛を少しはみ出させた格好でＳＰチケットを咥えこんでいた。

「えぇ、毛並やん、、、、さらさらやで、まん毛。」

　５万のチケットを入れた男は、女の陰毛に触れた感想を皆に伝える。

「それに、、、えぇ匂いしてるし、、、５万の価値あるって、、、。」

「でも、もう、来ないかもしれんやん。」

「若いなぁ、、、絶対、、、、来るし、、、、まん汁、、、見たやん。あれ、、したくてしょうがなくて、踏ん切りがついてないだけ。」

「２，３回、後には、、、、投資が回収できるって。」

「じゃ、、おれも、、、ＳＰチケット３万。」

「おれも、、、。」

　数人が、チケットを差し入れる。押し込むたびに、陰毛を触られたり、乳首に紙幣を触れたりとソフトな辱めだけのためか、アイマスク以外に見える頬は緩んでいるようだ。

　後ろの男が、女のマイクロビキニを戻し、乳首を隠す。肩を引き再び背筋を伸ばさせると、女はごめんなさいと後ろの男に謝った。

　チケットと、紙幣を男が回収すると、総額を発表していた。

「本日、頂きました投資金額、18万6千円。皆様ありがとうございました、アプリに投資金額が記載されていることをご確認ください。」

「投資金額に応じて、この人妻の個人情報が掲示されております。」

「筆頭株主の0165様、、、本日、お帰りの際にこの投資案件であります、檀上の人妻が、本日昼の仕事で穿き続けた、、、臭い付きショーツを株主優待としてお渡しいたします。」

「まじか、、、えぇやん。」

　筆頭株主として呼ばれた男は、ガッツポーズし、スマホの秘匿事項を見つめている。

「投資案件　滝口真菜32歳、保険の入口○○営業所　顧客窓口担当、、結婚5年目、、、目標ファウンディング総額320万。」

　スマホを見た後、男は女の方を見つめる。もじもじとした女の姿を見て、言った。

「今度行くは、、、、保険はいらなあかんし、、、。」

「保険屋のねーちゃんか。」

　背後の男は、マイクであおる言葉を制した。

「株主様、秘匿事項を漏洩されますと、投資金額を没収されますので、お気を付けを。」

　慌てた顔して、男はしゃがみ、拝むように背後のマイクの男に謝った。

　ビキニの男は、滝口真菜の脇に手を入れ、体を立ち上がらせる。男の手には真菜の汗がじっとりと纏わりつく。

「じ、自分で起てます。」

　それでも男は脇を掲げ真菜を立ち上がらせた。株主と呼ばれるステージ前の男たちに一礼させると、ステージ袖に消えた。

　株主の男は、真菜の座っていた椅子の天が濡れているのを見て、一言言った。

「まん汁こぼして、あと300万欲しいってか。何に使うんや？旦那の借金か、それともぉぉ。ま、じわじわ、投資していくかなぁ。」

　照明は消え、落ち着いた音楽が流れ始めると、帰宅するものが何人かいた。

　小笹は、桧山にこの店を選んだ経緯と、常連なのかどうかを尋ねたかった。

「小笹さん、気になります？」

「え、、、、この店、、、ですか。」

「えぇ、、、私がこの店に来る理由。」

「いや、、、もしかして、、、。」

「そうなんです。」

　あずさは、最後の答えを言わず、小笹の考えている方の答えを望んだ。

「まさか、出演しているとか？あの、女の人みたいに。」

「そう見えます、、、私。」

「見えなくもない、、、かな、、、失礼でした？」

「いえ、、、、出てみたい気持ちは、、、、どんな女の人でも持っていると思いますよ。」

「、、、。」

「多かれ少なかれ、、、女って、結構、、、そういうものですよ。」

「そ、そうなんですね、、、で、、、実際は？」

「ご想像に、、、。」

　小笹は、あずさの目を見つめ続けることが出来ないで、バーテンダーにもう一杯酒を欲した。

「ま、本当のところ言いますと、、、、私のパートナーが出演してました、、、過去形です。」

「パートナー？、、、男性、、、彼氏とか」

「いいえ、、、、ネコちゃんです。」

「はぁ、、、。」

「そのネコちゃんがね、、、、ここの、常連株主に、、、いろいろと面倒を起こされまして。」

「へぇ、、、猫がですか？」

「そう、、、その常連株主の仕事がね、、、お坊様で、、、拘置所や刑務所の教誨師をされているの。」

「、、、、。」

　この間の問い合わせと、瞬間的に話が交わったので小笹は、話を本題に振った。

「問い合わせの、、、教誨師の話は、その一件でですか。どちらかというと、職権乱用な感じが。」

「ま、自分だけのネコちゃんであれば、仕方がないのですけど、、、警察庁の、、、警視監クラスの、、、ラマンであると、そうも言ってられないんです。」

「桧山さんの、、パートナーとおっしゃったように。」

「今はね、、、払下げです。でも、思い入れもあるようで、、、どうしているかと尋ねられたら、、、本当のことを言わなければ。」

「報告義務ですか。」

「まぁ、、、そんな感じです。で、ここで、教誨師の現れるまで、張り込みを。」

「そのネコちゃんと一緒にいるところを、捕まえるとか、、、そういうことは。」

「職業上、、、いかがなものかと。」

「で、この前いらっしゃった時に教誨師のリストを、、、欲したと。」

「はい、、、小笹さんのご協力を頂ければ、、、。」

「リストを取得して、、、どうしようと、、、脅しをかけるとか？」

「いえ、、、もし、広山拘置所に来ている方であれば、面通しをお願いし、そういう教誨師のお立場の方が、このような事をなさるのはいかがなものかと、お伝えできれば。」

「、、、。」

　小笹は、あずさへの協力を拒むような顔をしている。新たな投資案件がステージの上に登壇した。連れられて来た女は、先ほどの真菜とは違う姿だった。

　カップブラは、隠すものではなく露出もので、乳首の部分が開いているものだった。下部のショーツも陰毛は露出し、組紐のように編み込まれた麻縄のしめ飾りのようだった。

　根元にバイブの強弱スイッチが見え、陰部に差し込まれたまま麻縄で固定されているのが判る。

　小笹は、そちらに視線を奪われると、横顔をあずさに撮影された。

「あ、、、。」

「ご協力をお願いします、小笹次長。」

「こ、困ります、、、消してください。」

「奥さんに送信しましょうか？」

「ぼ、ぼくは、独身ですから。役所に送るのは、、、止めてください。教誨師のリスト程度ならお渡ししますから。」

「ありがとうございます、、、では、明日、朝一に送信してください。」

「わ、わかりました、、、、長野さんから、、、送ってもらいます。」

「小笹次長は、長野さんとは昵懇で？」

「えぇ、、、まぁ、、。」

　もう一度、小笹が、ステージを見つめなおすと時間を気にし、あずさに断りを入れる。

「桧山さん、今日の事は、、、、。」

「誰にも言いません、、、、では、明日ご協力を。」

　と言うと、もう一口酒をあおる。客の入れ替え時間なのか、数人の男たちが店を後にする、入れ替わりで、入ってきた人相の悪い、男二人があずさの横に腰かけた。

　小笹はその二人を気にし、あずさとの会話を止めている。

　男二人は、バーテンダーに声を掛け問いただす。

「テキーラ、、、２で。」

「この店って、、、どういうジャンル？」

「あ、まぁ、、、ショーパブ、、ってとこですかね。」

「ショーでもするの？」

「ま、煌びやかなものはないんですけど、、、。あー言った感じの。」

　ステージを指さして、説明をする。男は納得し、システムを理解していった。

「じゃ、おねーちゃんに、投資して、、、投資金額に応じて、、、いい事するって感じだね。」

「まぁ、現金でも、カードでも投資できますので。」

「ふーん、今の、女にもできるのか？」

「はい、、、あの女は３万円一口です。現在、１５０万ですので、５０口投資されています。大口投資家の筆頭株主は、１０口購入されていますね。」

「一口じゃ、話にならんじゃねぇか。」

「ま、株ですから、、、早めで上場前の株を購入していくのが、、、楽しみ方かと。」

「ところで、名前なんかも、、、知れるのか？」

「えぇ、、、株の口に応じて、、、情報は、、、入ります。」

「女は、どうやって、、、仕入れてる。」

「企業秘密ですので、、、。」

「あ、そ、、、強盛会の杉山さんと、、、盃かわした剛新会の滝でも、、、ダメか。」

　あずさは、耳にした男の名をスルーした。小笹は、その男の名に敏感に反応し、席を立とうとした。狭いカウンターテーブルで、肩が触れる。

「なんだおまえ、、、あ、、小笹さん。」

「、、、。ひ、人違いだよ。」

「こんな店に来るんですね、、、、。」

「人違いです、、、。」

　小笹は、あずさに目もくれず、店を立ち去った。小笹は男たちとの関係性について、多くの接点を晒していた。
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2020年10月11日掲載
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