鞭を執れ はちみつ太郎 作
４９ 　執行中の音が届かぬ、小春の居住区の戸が開く音がする。 　朝なのか昼なのか判らぬ小春は、ガサガサという音で目覚めてしまう。その音は朝の音と感じていた。 　誰っ、と警戒するということもなく粗末な朝食が運ばれたであろうとだけ感じた。 　３８０９が投げ捨てるように檻の隙間から6個入りが4個になったロールパンの袋を放り投げる。小春は、それを無視し続けている。 無言で檻の外から小春の姿を観察している３８０９に、一度だけ視線を移してしまった。 　笑みを浮かべながら３８０９は計の昨晩の話をしはじめた。 「おい、嫁ちゃん、、、尻童中の精液空っぽになっちまったよ、、、。」 「、、、。」 　無視を決め込む小春は、視線を外し３８０９の気をそらすようにロールパンに手を付けた。袋が開いていることに興味もなく３８０９の言葉を無視する。 「金玉の中身がからっぽ、、、ってこと、、、なにしてたかわかるよねぇ。」 「、、、。」 「尿道口からねぇ、どろどろどろどろ、、、嫁ちゃんの奥に届くはずだった遺伝子ちゃんが、、、はぁぁぁぁっはは。」 「アナルから前立腺、刺激されて出るは出るは、、、まぁ、エロ猿だからすぐ再生産されるんだろうけど、、、、でもでも、その工場も、もうすぐ倒産かなぁ、、、クックックッ。」 　ロールパンを３８０９に見えぬよう一かじりする。味に変化もなく、のども乾きそうなくらいパサついた感じがした。 「そんなに急いで食べたら、のどに詰めるよぉ。」 「、、、。」 　小春は３８０９を無視しながら、３つ目のパンにかじりつく。 「そうそう、それ少し苦いでしょ、、、それだけ、ザー汁入れてるのよ、、、、旦那のねっ。」 「、、、ど、どこまで、、、いたぶるつもりなの。」 　小春は声を失いながらも、少し生臭さの感じたロールパンを飲み込んだ。 「夫婦だねぇ、、、まぁ、ごっくんは慣れてんだろうし、、、、他人棒のザー汁も構わず飲んでんなら気にする方がおかしいよな。」 　涙をこらえながら、３８０９に強がりの視線でにらみつけるが、茶化しはさらにエキサイトする。 「よしよし、、、泣くな泣くな、濡れ濡れの嫁ちゃんのマン汁でもこすり付けて、残りのロールパンに沁みつけてやろうか？旦那喜ぶよぉぉ。」 　そうされぬようになのか、小春は残りのロールパンも口に頬張り、体育すわりのまま３８０９の視線をかわしている。 「よーし、全部食ったな、、、３０分後に迎えに来てやる、即効性だからなドクターの作った化合物は、起きた時にはおしゃぶり嫁ちゃんならぬ、おしゃべり嫁ちゃんかな。」 　３８０９の化合物という言葉と、知らない登場人物であるドクターという言葉に焦りを感じた小春。 　呼び戻したくない３８０９へ呼びかけるが、無視するように鼻歌で消えていく。 「３０分って、、、起きた時って、、、睡眠薬、、、まさか、、、コカインとか、、、や、くぶつを、、、。」 　３８０９に真意を確かめることもできず、３０分と言われたカウントダウンだけがすでに始まっていた。 　指先を喉の奥に差し込んで戻そうとするが、咀嚼物はなかなか戻ろうとしない。 　３分経った頃、めまいがはじまり、座っていることもままならなくなり始めた。体育すわりをやめ、コンクリートの床に横たわると水平なはずの床は湾曲を始める。 「、、、、うぅぅぅぅぅぅっ。」 　目を閉じても、高速のメリーゴーランドに乗せられている感じが消えない。 　５分が経ち、意識の混濁が激しくなったころ、体の力が抜け、音声だけが聴力を支配する。 「もう、、、いいよ、、、、全部、、、終わったから、、、、、もういいよ、、、、隠さなくてもいい、、、、ね、こ、、、、はる、、、。」 　数十回言葉だけが脳内をめぐり続ける。 　繰り返された最後の一回だけの言葉も脳内から消えた。 「つらかったよね、、、今までのこと、ぜんぶ、、、教えて、、、、あたらしい、人格をさずけるから、、、。」 　３８０９は小春が、ロールパンを咀嚼した２０分後に独房へ戻った。 　泥のようにへたり込んでいる小春の脇腹を足で動かすと、仰向けに力なく体を変えた。 「ドクターのドラッグ、よく効くなぁ。まじで、、、記憶、飛んでんのかねぇ。」 　小春の脇に腕を入れ抱え上げると、尻をひと叩きすると、車いすに座らせた。 「少し軽くなったな、、、そりゃ、毎日ロールパンだけで、あれだけ姦されてりゃ、痩せるわ。」 　車いすの持ち手を握ると、小春の髪を撫でながら、鼻歌交じりに廊下を進んでいく。 「びちょびちょビッチ、びちょビッチ、、、びちょービッチッ。♫まだ子連れ狼じゃないな、ま、でも、これから死刑囚の子を孕むんだ、まんざら間違いじゃない。」 　別の独房を覗き込む３８０９。 「お、二人ともいねぇ、、、そうか、嫁ちゃんの仕込みは、後日か、、、高貴な女の方を先に始末するんかぁ、もう一人いたはずだけど、、、。」 　空になった独房の主に向かって念仏を唱える。 「南無三、、、しか、、、しらねぇし、、、けけ、、嫁ちゃんは、よかったねぇ、、、ドクターに見込まれて、、、モルモットで生きられる。ま、死んだようなもんだけど。」 　もう一度髪を撫でながら、聞こえない耳の中にしゃべりかけていく。 　移動し廊下の角まで到着すると、ドクターが待ち構えていた。 「ここから先は、、、研究に専念させてくれ、、、気が散るんだ、長野さんの許しもいただいた。」 「あ、まじですか、、、、実験、、、見たかったんだけど、、、。」 「気が散るといっただろ、、、。」 「注射針でおどされたんじゃ、、、仕方がないですね。じゃぁね、、、、嫁ちゃん。」 「悪いな、、、動画はあとで見れる、、、、副所長に聞いてみろ。」 「まじですか、、、2000万とか言わんでしょうね、、、。」 「ヤクザの世界じゃないよ、、、。」 「ヤクザより恐ろしいけど、、、この中は。」 　すぐさま振り返り、来た廊下を戻っていく３８０９。その姿を気にすることなく、車いすから降ろし、小春を肩に担ぐと電子錠のキーを変更し、扉を開けた。 「服用から４０分、、、、あと５０分はこのままか。」 　もう一つのＳＤを開けると、自宅へ帰ったようなため息をついた。小春を診察ベッドに横たえると、人形に話しかけるように言った。 「私はきみを助けたいんだ、、、いままで、、、大変だったね、、、もう、心配しなくていいんだよ、、、、ゆっくり、、、教えてくれるかな、、、いままでのこと、、、目が覚めたら教えてね。」 　催眠術のように耳元で小さく話しかける。 　小春は無意識なのか、首を軽く傾けた。 「いい兆候だね、、、。」 　一声小春にかけた後。扉の外に『塩田和正Dr　在室』と書かれたネームプレートを引っかける。 　扉は自ずと締まり、塩田は小春の首に『研究素材①』とかかれた首輪をかけ、へそ下下腹部にはマジックペンで同じく『研究素材①』と書き込んだ。
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2023年9月22日掲載
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