鞭を執れ
はちみつ太郎 作
５７

　20時過ぎ、3回戦目がお預けとなった二人。

　月明りが絶望的な闇の空は、通り過ぎる雲間から星のきらめきが数秒差し込むだけだ。

　着替えがないわけでもない小春だが、ノーパンでレギンス、ノーブラでＴシャツ。

　メイクを落とし終えるとテントの前に置いたチェアに腰を落としていた。

　賢はコンビニで買っていたおにぎりを食べ、小春にも包装のままの鮭入りを手渡した。

　包装を取り、一口だけ口に頬張ると小春は先の出来事を口に出さざるをえない。

「、、、。怖くないです？」

「ショーツハンターのこと？」

「呼び名は変なだけど、、、ショーツ盗んだってことは、、、、。」

「エッチを見られたかどうか？」

「うん。」

「でも、、、もう顔モザで、配信されてるからなぁ、、、見られてても。」

「だめですよぉぉ、、気になります。だって、、、また、このあと、夜に来るかも。ですよぉ。」

「いいじゃん、、、見せてやれば、、、ね。」

「襲われたりとかって、、、。」

「ハイエース、鍵掛でもいいよ。」

「うーん、、、、。」

「それだったら、、、いいって感じだね。」

「まぁね、、、窓は、スモーク？」

「スモークあり、、、ライトナシなら見えないでしょ。こんな暗闇。」

「キャッ、、、け、、けんさんっ。」

　充電ランタンの電源をオフにすると、小春は怯え、賢の手首をつかんだ。

　離そうとしない小春の手に、賢は嬉しくなり、ライトを消したまま小春の耳に囁いた。

「怖いかな、、、。」

「怖いよぉぉ。賢さん、、、。」

「ねぇ、小春、どうやったら、、、俺の嫁ちゃんになってくれるの？」

「何言ってるのぉ、、、ちょ、ちょっと、、、怖いですよぉぉ。」

「教えてよ、、、教えてくれたら、電気付ける。」

「むり、、です、、、怒りますよ。」

「ヒントだけでも、、、。」

「、、、もぉぉ、、、、旦那、、計くんが、浮気して、、、私が捨てられるまで、、、だめです。」

「旦那の浮気だけじゃダメ？」

「うぅ、、、ダメかな。賢さん、、、もぉ、点けてよぉぉ。」

　賢は、闇の中で小春と唇を重ねる。拒否するはずもなく、小春は舌も絡めた。

　小春は舌を絡めていても手首を力強く握っている。離れる恐怖を最大限にするべく賢は絡めた舌を外し小春に告げる。

「神流川ダムって、、、何か月か前に、、、浮気された旦那さんの死体が上がったって知ってる？」

「もぉぉ、、、いやです、、、そんなこと知りたくないっ。」

「旦那さんが、、、、上がった数週間後に、奥さんの遺書と遺体が発見されたらしい、、、。」

　小春は、賢の言葉を最後まで遮らずに聞いた。

「どうもね、、、俺らと同じなんだって、、、旦那さんが他人棒好きで、、、奥さんも合意の元で楽しんでたらしい。」

「、、、。」

「で、奥さんが、相手に本気になったらしくて、、、他人棒さん主導で、、、旦那さんを、、、で、面倒になった奥さんも、、、、。」

「、、、、だめっ、、、、そんなこと言ったら、、、、言霊って、、、おばあちゃんが、、、、言ってた、呼んじゃうからぁぁ、、、だめぇ。」

　賢の両手をきつく握りしめた小春は離れられずにいるジレンマと、1107事件の２件目の被害者の発見場所がリンクしてしまった。

　1107号事件は、新聞にも伏せられていた。賢は、それを知っていた、半信半疑ではあるが、小春は自分の身も案じた。

「絶対ダメ、、、賢さん、、、ダメだから。」

　賢は恐怖の中の怯えと感じているが、小春は緊張の中の涙声だった。

「ごめん、、、小春ちゃん、、、ごめん、、、許してよ、、、ちょっと、旦那くんに、、、いじわるしたくなった。ほんとごめん。」

「、、、。」

「どうやったら、小春ちゃんにこっち向いてくれるか、、、と、思って、、、ごめん、、、ダメだよね、許してくれる？」

「、、、さっきの話は嘘だって、、、言ってください。」

「作り話だよ、、、ほんと、、、そんなに怖がるとは、、、思ってなかったから、、、ごめんなさい。」

「これ以上は言わないって、、、約束できますか。」

「する、、、もう、言わない。」

「ゆるす、、、、よ。ほんと、怖かったんだからっ。」

　賢はライトを灯すと、小春の涙顔を見つめた。頬をつたう涙を指で拭いさられると、小春は両手をもう一度つかみ、口を尖らせて言った。

「怖いから、、、車に行く。」

　椅子から立ち上がる時も小春は賢の手首をつかんだままだ。賢が指先を絡めるように変えると、腕を絡ませ密着した。

「俺もいるし、、、テントでも良くない？」

「賢さんも、、、怖いこと言うもん。」

「もう言わないよ、、、嫌われたくないし。」

「、、、。何とかハンター来たら？」

　これっと、言わんばかりにバッグからスタンガンを取り出し火花を散らしてみる。

「え、、、。」

「熊も出るかもだから、、、用心に持ってる。」

「それのほうが、、、怖いかも。」

「ね、、、テントで、、、。」

「えーー、、、、。」

　絡めた指がほどけない様に力強く握りしめたのは賢の方で、小春の迷いが消えないうちにテントの中を充電ランタンで照らす。

　サンダルを脱ぎ中に入る小春の後に賢は続こうとした。

「ちょっと、、、小便、、、。」

「えぇ、、、一人はいやぁだ。」

　ランタンを持った賢はテントの外に行こうとするが、小春に腕を取られ行く手を阻まれた。

「漏れちゃうじゃん、、、一緒に来なよ。」

「、、、賢さんの立しょん見るの？」

「小春も、、、連れしょんする？俺しちゃったら、、、あと、、、夜一人で行かなきゃ。」

「一人はむりっ、、、、付いていく。」

　ハイエースの横を通り２０ｍほど管理棟側へ行くと、ダム管理用の雨水側溝があった。

　賢はそこに立ち法面側へとびちゃびちゃと音を立て放尿している。ランタンをONにしたまま、放尿を終えると賢の背面にぴったりと腹をつけている小春が言った。

「賢さん、、、わたしも、おしっこしたいけど、見ちゃだめだよ。」

「ランタン消すか？」

「怖いなぁ、、、だって、賢さんいじわるするから、どっか居なくなるかもしれないし。」

「いいこと考えたよ、、、俺が小春と繋がってればいいじゃん、そうしたら無理に離れないし。」

「どうすんの、、、手をつなぐ？」

「小便後だけど、、、咥えてよ、、、おしっこしながら、、、ね、、、これなら離れられないよ。」

「うぅ、、、わかった。」

　小春はランタンの明かりを頼りに側溝をまたぐようにし、レギンスを足首までずらす.

　足の開き方がうまくいかず、足首に絡めたレギンスを脱ぎ去り、片手で持っている。

　賢の視線を逸らすように指さすが、無理にランタンを灯され恥ずかしさで顔を隠す。

「しゃがむよ、、、ランタン消して。」

「咥えるのが先、、、ほら。」

　小春は側溝をまたぎ、蹲踞の姿勢を取ると眼前に近づいてきた賢の陰茎に指を添えた。先端は小便で濡れているが、拭わずそのまま亀頭を一舐めする。

「おしっこの味、、、する？」

「うん、香ばしい。」

　ランタンを消されたあと、小春は根本付近まで咥えこむ。虫の音がひと時消えたかのように、小春の小便がボタボタと側溝に落ちる音だけが響いている。

「全部出た、、賢さん、、、紙、もって、、、ないよね。」

「あぁ、、、ないよ、待って、、、こうしよ。」

　賢は小春を側溝を跨いで四つん這いになるよう仕向ける。小春は何をするのかわかっていた。

「きたないって、、、、け、、、けんさんっ。いやっ、、、。」

「おしっこだけじゃない、、、、、早く入れたいんだよな、この味は。」

「うん、、、あぁぁぁぁっぁ、、、。」

　腰に手をまわし、持ち上げるように小春の姿勢を正す。

　賢の肩口に抱えられた小春は、狩猟民族の捕獲した獲物のように調理場へと持ち込まれる。

　暴れることもなく生き締めで一晩中調理されることは確定していた。

　剥がれた人皮のように側溝の脇にレギンスだけが残されていた。
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2023年10月28日掲載
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