鞭を執れ
はちみつ太郎 作
６１

　潜入時の体験を細かく発している小春の言葉はすべて計の耳の奥まで届いていた。

　告白してはいけない、所属、過去の捜査状況、現在の潜入を自ら発してしまうことは、無事に脱出することのパーセンテージを下げていることは明白だった。

　計が言葉にならない音を発するが小春には一切届いていない様子で、事細かな描写の記憶も塩田の耳に届いている。

「ほぉ、最後はダム堰堤の中で、他人棒の男の目の前でかい？」

「ダムの中に入れるところのカギをかけて、、、賢さんは扉の格子の外から、、、覗くようにいわれて。」

「いい趣味だね、その公務員は。」

「、、、でも、ゴムを渡されなくて、、、。」

「おやおや、、、まさか、生で？」

「、、、嫌だっていったら、、、、賢さんが、、、お尻でって。」

「フリークだね、、、アナルフリーク。」

　計は首を振りながら聞かぬふりをしていたが、塩田が小春の椅子を押して計の横たわるベッドの横に移動させた。

「お尻で、、、やっちゃった。よかったんだよね。」

「短くて、、、おさまりが悪くて、、、往けないからって。」

「どうやって処理したの？」

「、、、お尻に入れたあとの、、、お〇んちんを、、、口で、、、。」

「瀧井小春巡査の、う〇ち付のを、、、尺八かね、、、なかなか、豪鬼な公務員だ、国を任せられる男だな。」

「、、、。」

　計の眼に涙が浮かんでいるのを小春は見ても正気を取り戻す気配はない。塩田が肩を抱き、下乳を持ち上げるように揺らしても嫌悪の顔すらなかった。

　塩田は、話を止めずに計の顔を見ながら小春に問いかける。

「じゃ、仮の旦那には、それは報告もできていない、あずさとかいう先輩刑事にも、ダムでのエッチや、死体遺棄の件は、言ってないんだね。」

「はい、、、。」

「なにか、思い出しそうだけど、、、そこまででいいよ今は、瀧井巡査。」

「はい、、、。」
　
　小春の下乳を癖のようにタプタプと揺らしながら、今後の流れを端的に伝えた。

「よし、、、じゃ、、雑談もここまで、、、これから行う作業の流れをつたえるよ。」

「お手伝いを？」

「あぁ、できるね。」

「出来ることがあれば、、、はい。」

　塩田は小春の視線を引っ張るように手先を動かしている。ついてきた視線は、計の睾丸だった。

　睾丸をひねり上げるようにしたり、握りつぶすようにしたりと計の悶絶の声を発せさせている。

　計への感情のなさを確認するように塩田は、刺激を加えている。無味な感情を確認した後塩田は本題に移る。

「牡の精遺伝子は、善良なのか、それとも極悪なのか、推し量ることができない。」

「、、、。」

「ある人は生まれ持った遺伝子は、まず善良でしかないという。果たしてそうだろうか。」

「、、、わかりません。」

「そこで、、、瀧井巡査には、お手伝いと実験の協力をお願いしたいんだよ。」

「どんなことを。医療の経験はありませんが。」

「いやいや、、、医療的なものではなく、一部の臓器をお貸しいただければいいんだよ。」

　塩田の視線は、小春の臍下の「研究素材①」と書かれた部分を見つめる。

「臓器？」

「なに、心配はいらないよ、、、痛くもかゆくもない、、、。」

　塩田はマジックを取り出し、計の睾丸に「研究素材②」と記し始める。

「そうだ、、、潜入捜査中の避妊に関して聞いてはいなかったが。」

「、、、ピルの服用を、、、、でも、、、いつまで、飲んでいたかは。」

「ＩＵＤは？」

「覚えていません、、、あの時に入れられたあとは、、、外した記憶がありますけど、、、今は、どうだったか。」

「そうか、飲んでいないのは、、、２０日ほど、、、か。ＩＵＤは外しているんだろうけど、一応触診してみるか。」

　避妊についての問診を進めている塩田の考えを予見した計は、首を振りながら必死に伝えている。

「どうした、研究素材②よ、、、何が言いたいんだ。実験の邪魔をするなら、素材としても使わないけどいいの？」

「むうううううう。、、、むううう。」

　計の嗚咽の交る声を無視し、小春に選択肢を２つ与えた。

「よく聞いておけ。研究素材②」

「瀧井巡査の善良な卵子を介して受精せしめた、善良な遺伝子を悪逆非道な環境で育てるのと。」

「逆に悪逆非道な遺伝子を受精せしめて、善良な環境で育てるのと、どちらに優劣が働くのか、それを選択してほしい。」

　轡を取り除こうとして体を揺さぶる計は、塩田に押さえつけられるが、振りほどきを止めないでいる。

　小春は、塩田と計の顔を何度も見返してばかりいて答えが出てこないでいる。

　塩田が、おもむろに計の轡をずらす。

　よだれを垂らしながら、懸命な顔をして小春に言った。よだれの付いた塩田の手は、洗面台の流水で清められている。

「小春、、、だめだ、、、正気に、、、なって、、、、聞いちゃだめだ。」

　手を洗い流すと塩田が再び近づいて言った。

「いいだろう、研究素材②にも選択肢を与えてやろう。これでどうだ。」

　人差し指を上げて１の選択肢を言いはじめる。

「一、研究素材②であるお前の睾丸を摘出し、そこから、最後の精液を抽出し、研究素材①へ受精させる。産み落とした子は、悪逆な環境下で瀧井巡査とともに育てられる。」

親指を足して２の選択肢をつたえる。

「二、研究素材③、これは、ある性犯罪者、警察の諸君ならご存じのあの男の冷凍精液を、お前が愛してやまない研究素材①の子宮へ受精卵として戻してやる。」

「産み落とすまでは、、、、檻の中だが、、、大切に托卵してやるよ。産み落としたら、、、お前かどうかはわからんが、汚れのない環境で瀧井巡査のもとで育ててやる。」

「その時は、お前の睾丸は温存してやるよ、、、托卵している瀧井巡査を見ながら我慢汁を十月十日漏らし続けてもらう。」

「性犯罪者の子を産み落としたら、排卵剤をすぐに投与し、選択肢一を実行してやるよ。」

　二つの指を計に見せつけ、受け入れられぬ選択肢を突き付けた。

「お前の子を育てさせるか、あの性犯罪者の子を育てさせるか、、、、いい実験だろ。選択をしろ、、、早く。」

「どっちも、許されない、、、。」

「はぁ、、、、じゃ、三、、、MAD、、、覚えてるよなぁ、、、西村賢という名の男の睾丸を研究素材②に移植し、、、、研究素材②との交尾なのに、西村賢の子を宿す、、、。」

「そんな、、、、。」

「どうだ、、、、楽しいだろ、、、ま、お前の睾丸は、摘出するんだがな、瀧井巡査のお手伝いで。もしかしたら、あいつ生きてて、、、産み落とし子をMADと研究素材①とで、育てるのってのも一計かな。」

「研究素材②のち〇こより、、、良いって、告白してるくらいだからなぁ、、、。」

「選択できねぇなら、、、副所長に依頼して、死刑確定の性犯罪者と並んで、瀧井巡査も絞首刑ってことだ。だって、潜入捜査官ってげろってんだからね。」

「、、、。」

「ま、床が開くボタンはお前の手で押させてやる。、、、お前の愛した、、、こっちは、愛してるかわからんが、瀧井巡査はこちら側からみると敵性犯罪者として執行よ。」

「俺の実験の中なら、副所長のお墨付きで、生きながらえさせてくれるよ、、、そうすれば、復讐や、脱出のチャンスだってある。」

「、、、一、、、。」

　計は顔を歪めながらつぶやいた。

「否、、お前は、一と二の間で答えを出せなかった、、、だから、、、選択は三だ。瀧井巡査、、、そこの診察ベッドに。」

　違和感を感じるくらい従順に計の横たわるベッドの横にあるタオルの引かれた寝具に仰向けになった。計の方を見ることなく、少しＭ字に開いた足の間に塩田が体を入れる。

　ワセリンを少量塗り付けただけで、陰唇を割り、中指だけを淫肉を割り裂きながら研究素材①へとたどり着いた。

「瀧井巡査、、、子宮が下がってるから、俺の短い指でも確認できたよ、、、ＩＵＤはないようだね、一応ゴナドトロピンを投与して排卵誘発しておくか。」

　小春は何も声を発せず横たわっている。塩田の指は離れることなく小春の子宮口の周りをかき回している。

　次第に、口を押えて聞かれないように喘ぎを隠していた。顔を何度も右へ左へと振り、頬を赤らめているのを確認した塩田は、子宮口の周りの膣肉だけを揺らす。

　ポルチオ刺激に耐え切れず、腰を浮かし、我慢しきれぬ声を上げ、ワセリン以外の淫汁をベッドにこぼして、果てる寸前だった。

　往かされることなく、指先を抜かれると、淡々と指先を拭い、アンプルを注射器に差し、血管を浮き出すこともなく、注射針を肘の内側へ差し入れた。

「やめろっ、、、何の注射だっ。」

　注射器の薬液を全注入が終わると荒く抜き取ったあと、髪をつかまれ、睾丸をつぶす勢いで握られた計は、途中で発する言葉を失った。

「心配するな、研究素材②、ゴナドトロピン製剤で、卵が増えるだけだ、、、いや、増えるよう瀧井巡査の脳下垂体からでるホルモンと同じものを人工的に送るだけ、、、それだけだよ。」

「よし、三、、、睾丸移植、、、最後は、、、、愛する女のフェラチオで、往かせてもらうか？」

　塩田が小春に向かっても同じように目を向ける。仰向けの小春は、もじもじとして、言葉を発してはいない。

　アルコール消毒を小春に促し、従順にそれを手に取り、計の睾丸を手に消毒を進めている。

「毛がないんですね、、、。」

「、、、。」

　轡を戻された計は、睾丸を洗浄する小春の指に、勃起していく衝動をあざけり笑う塩田を睨みつけるしか対抗はできていない。

「フェラチオを断ったんだ、、、、瀧井巡査、手でしこしこしてやって。」

　塩田の眼を見た小春は、小さく頷いて計の尿道口が濡れ始めた陰茎を握り、手こきを始め最後と言われた射精を促していく。




「21時予定でしたけど、、、早めに来いと言われたんで。」

「あぁ、聞いてるよ、、、ここに名前書いて。」

　出された入退出の紙に記帳する男、いつものことと気にもせず書類を受け取るとゲートを簡単にくぐらせる。

　白のハイエースワゴンが廃屋の仮囲いのゲートに横付けするさまを、昼食に向かう所長の宮野は視線も預けず横をすり抜けた。

　ゲートの先で事務官の女性が手を振ると小走りに向かい、執行の場から遠ざかっていった。

　教誨師の格好でハイエースを出迎え棺桶をストレッチャーに乗せ換えるのは３８０９だった。

「棺桶乗ってんの？牝ポリ。」

「あ、、はい。」

「聞いたぜ、クリピ付きなんだろ。」

「は、はい。」

　３８０９は、ストレッチャーに乗せた棺桶ののぞき窓を開ける。

「ほぉ、、男顔だけど、美形だなぁ。お前の趣味か、制服は。」

「いや、、自宅に忍び込んで、、、着させました、、、滝さんの命令で。」

　覗き窓を閉めると、３８０９はストレッチャーを押し始める。

「あとは任せろ、、そうだな、１時間後には、別の仏さんを預けるよ。」

「、、、はい、、、車にいます。」

　廃屋の入り口のカギ番号を３８０９が口ずさみながら言った、自分の囚人番号と同じ数字を合わせて、すぐさまカギをかける。

「３，８，０，９」

　白のハイエースに乗り込んだ男は、復唱しながらカギ番号をスマホに入力している。送信用の緑のタブをクリックすると、モニタリングしていた男の返信を待った。

「ＧＪ、生き永らえたな。」

　それだけの返信を見た後、溜息を吐いたが、手の震えは止まらずにいた。



　執行場の制圧には時間がかからなかった。

　搬入された棺桶は皆の視線を浴びた後、その中身を覗いた長野は所属の違う同じ国家公務員の本当の姿を見た。

　棺桶ののぞき窓から飛び出たＧ１７は、初弾ですべての行動を制御した。

　長野の眉間に一度は合わせた照準を数１０ｃｍずらし発砲する。跳弾にならず天井にめり込んだ弾薬の位置はつかめずとも、発砲音で他者の動きを制圧する。

「動きたければ、動け、あと１７発。」

　釘止めされていない棺桶の蓋が開いたとき、長野は手を上げたあと、ゆっくり地べたに手を付け、降参の仕草を見せた。

　京極さやかに覆いかぶさっている大山は唖然とするが、生への執着がないのか発砲音にひるむことなくさやかへの最後の一押しを続けている。

「パーンッ、、、残り１６発。」

　足蹴にされた大山は、あずさをみつめ鼻を膨らませている。射線にさやかがいないことを確認すると慈悲もなく、大山の後頭部を打ち抜いた。

　はじけた血がさやかに飛び散るが、死を覚悟しているのか、そこに意識は介在しないようだ。

　さやかの首の縄をほどき、壁際に横たえると、次の狙いである杉山に近づいた。

「私の死にざま、、、溶けるさまを見たかったんでしょ、、、言い値を付けていただいたようで。」

「、、、。くそ、、、、弾け、、、よ。」

「強がらなくていい、、、あなたの資金と過去の栄光は、滝と一緒にフッ素に消えたから。」

　言い返すことのできない杉山の陰茎は意気消沈しているように見える。佳乃が、膝つきのままそれを見つめているのにあずさは声をかける。

「歯を折られたの？」

　佳乃は、小刻みに震えると、一度だけ頷く。

「でも、、、？」

　あずさの問いかけにもう一度小さく頷き、恥ずかしがるように目を見て言葉を超えた意味を伝えていた。

　手錠姿の杉山には目もくれず、３８０９の逃げ出す姿にも反応はしないあずさ。

　土下座の様にしている長野の背後に立ち、銃で威嚇しながら頭の上に手を重ねさせる。

　指示に従う長野は、首筋に当てられた銃口に追い立てられるようにさやかのしていた縄の位置に移動した。

「わかるよね、、、。」

　あずさは長野の尻を蹴とばすと、意を含んだように首に自ら縄をかけた。

　足元には大山の息絶えた体が横たわっていて、その開閉式の床の隙間は隠れている。あずさは銃口を向けたまま開閉ボタンの位置まで後ずさると、ようやく自戒ではない言い訳の言葉が長野から出ていた。

「ま、まってくれよ、、、法務省の小笹の指示なんだよ、、、。」

「、、、。」

「こ。小笹を呼んでくれ、、、、あいつも、上からの指示で、、、やってるんことなんだよ。」

「、、、。」

「なぁ、、、公になることじゃぁないんだ、、、警察の調べの甘さを法務省がカバーしてやってる、、、それでいいじゃなぇかよ。あんたの部署のボスに引き継いでくれって。」

　３８０９の首に銃口を当てた小池が声をかけた。

「ボスならここだよ、、、あぁ、今引き継いだ、、、小笹も認めたし、法務省と警察庁も了承済みさ、、、内々に処理してくれとよ。」

「しょ、処理、、、、どんな処理だよ、、、なぁ、、、。」

「こうよ、、、。」

　床の開閉装置が開くと絶命した大山の姿も長野の姿も消えていた。小さくうごめく声ときしむ麻縄の音だけで事案の終わりが告げられた。
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2023年11月18日掲載
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