堕（おと）された完熟桃
極楽とんぼ 作
第１１章　　日毎に増える内緒事　　　　

　４月３日の金曜日、岡山の道場と治療院に出掛けるから、ＰＣの指導は夜の７時以降なら可能だと、夫人には伝えていた。
　金曜日は、旦那が夜釣りに出る日で、明け方にならないと帰らないと知っていた。
　留守の夜のＰＣのレッスンの設定は、夜に忍んで来いと誘っている様なもので、露骨過ぎないか？の心配もあった。
　どう対応してくるか？を、探ろうとして、一つの賭けに出たのだ。
　引っ越しの日にした問診票によると、７日の火曜日辺りが排卵日なので、男をオスと意識し易い時期に当たる。
　身体がメスの機能を強める時期だから、貞操観念のスイッチが入り、敬遠するのでは？と危ぶんだ。

　だが、この心配は杞憂で、日が暮れた午後の７時３０分頃、夫人は台所の勝手口をノックして来た。
　スイッチが入ったのが、メスの本能の方なら、若くて逞しそうなオスの傍に居る方を選んだのかも知れなかった。
　ともあれ、旦那が留守の夜、離れに忍んで来ると言う新しい内緒事・秘密を、夫人は新たに作った。
　しかし、周囲の目を気にしているのは確かで、暗闇に溶け込み易いグリーン系の上下のトレーナーを身に着けていた。
　夫人が留守の夜のレッスンに対して、何も気にしていなかったと言えば、嘘になる。
　お茶を飲んで語り合う仲間は何人も居たが、ＰＣを隣の学生に作って貰った事も、学生の部屋に通い操作を教えて貰っている事も、誰にも話していなかった。
　それを話せば、「その学生と、浮気している！・・・」と、思われるに決まっていると感じていたからだ。
　だが、現実には貞操の危機など何も起こっていない訳で、行動にブレーキを掛ける要因は何処にも無いと、夫人は思っていた。

　それが危険な振舞いだと分かっていても、抑えられない理由が幾つか有ったのだ。
　ＰＣを作ってくれたから、邪険には振る舞えないし、教えて呉れると言う好意を拒絶するのは、恩義に欠けると思えた。
　留美さんの監視下にある修行僧だと言う事も、何となく安心感を抱かせていた。
　だが一番大きな要因は、教えられながら過ごす時間が、何とも言えないドキドキ感、ときめきを与えてくれるひと時だったからだ。
　何となく華やいだ一時が、長年単調な日々を過ごして来た人妻には、魅力的の思えたのだ。
　華やいだ一時、何となくときめく感覚の奥底に、巨根願望と性衝動が潜んでいる等、想像もしていなかった。

　整理用バインダーと筆記具、其れと携帯とは、小さい布袋に収めていたが、小皿に入れたハッサクの剥き身を持って来ていた。
　この日こそ、ナイト精神を大いに発揮し、少しの警戒心も抱かせないように振る舞うよう村田から釘を刺されていた。
　旦那の留守の夜に初めて学生の部屋を訪れる夫人が、襲われるのでは？と、ほんの少しでも疑念を持てば、チャンスは２度と巡って来ないからだ。

「忙しい時期なのに、無理を言ってゴメン・・・昨日の夜も今朝も挑戦して見たけど、分らないことだらけ！・・・一応、メモして於いたから、無理のない範囲で良いから教えてくれる？・・・」
「入学式も未だだから、大丈夫ですよ・・・メモを見たから、予め準備も出来たし、教え易いわ・・・同じソフトを入れた小型デスクトップＰＣを用意して於いたから、これでやりましょう・・・ＯＳも、ウインドウズ７ですから・・・」
「じゃぁ、起動させるわよ・・・傍で教えてくれるんでしょう？・・・」
　言葉は大胆だったが、気配からは、ピリピリする様な警戒感が放射されていた。
　先輩の言い付けに従い、廊下の窓は少し開けて置き、カーテンは完全には締めないで於いた。
　密室状態は警戒心を高めるので、声を上げれば、家の外に聞こえる状態を作って於くようアドバイスされていた。

「メモには色々有ったけど、今日は、ＶＨＳビデオをＤＶＤにする方法と、ＩＭＥの辞書登録方法とかやりません？・・・レコーダーで録画したＤＶＤのＣＭカットの仕方は、ＶＨＳビデオをＤＶＤにする方法を覚えたら理解し易いので、次回にしようか？・・・」
「思い付いた儘を書き留めたメモだから、順番は任せる・・・適当で良いわ・・・」
　話の成り行きで、次回、即ち６日（月）の夜にも来そうな雰囲気だったので、じっくり取り組む段取りにした。
　留守の夜に２度目のレッスンを承諾した訳で、通常なら、人妻が採るべき行動ではないと言われるだろう。
　更に、それを内緒にすれば、誰が考えても不倫か？と、疑われる行為だった。

「じゃぁ、ＶＨＳビデオデッキは準備出来ているから、このデスクトップＰＣで始めましょう・・・取り込む時間は再生時間と一緒だから一時間程掛かるので、ＩＭＥ操作の基本はノートＰＣでしましょう・・・」
「ねぇ・・このマニュアルみたいなのに沿ってしたら良いのね？・・・」
　俊英が用意したマニュアルに沿い、ビデオデッキとＰＣとをＵＳＢに内蔵されたケーブルで繋ぎ、ライトキャプチャーを起動させ、ＨＱモードに設定して再生ボタンを押していた。
「再生と同時に、録画ボタンをクリックすればＯＫです・・・ＤＶＤの元になるＭＰＥＧファイルが作られています・・・再生が終る１時間程の間に、別の課題の挑戦ですよ！・・・」
「うん・・分かった・・・今、用意している・・・」

　夫人は部屋の隅に置いていたノートＰＣを掘り炬燵の上に並べ、レッスンの用意を始めていた。
　単語登録の実際を何通りかやらせてみて、次はＩＭＥパッド入力の実技、ＩＥの操作に関する基本事項、ワードでの文書作成一般へと進み、大体１時間掛かった。
　習ったことをその都度メモするから時間は掛かるが、習得は早かった。
　掘り炬燵の一方に並んで座り、操作する夫人の手と画面とを見る訳だから、膝は触れ合うし、時には夫人の髪で頬を撫でられることも有った。

「ねぇ・・ちよっと休憩にしない？・・・こんな勢いで習ったの、初めて・・・」
　膝や時には足先が触れ合うことも有ったが、臆する様子も無かったので安心したが、調子に乗らない事と気持ちは引き締めていた。
「丁度良いタイミングだから、一休みしますか・・・紅茶を飲んでいる内に再生が終りそうですし・・・」
「じゃぁ、紅茶の用意は私がする・・・それと、ちょっと寒くなって来たから、炬燵の電気入れて良い？・・・」
　８時半位だったから、冷え込んだのか、廊下のガラス戸と障子も自分で締めて、紅茶の用意を始めた。

「そう言えば、花冷えとか言っていたな・・・ハッサクは食べてしまったから、ショートケーキを食べません？・・・義姉さんに貰ったのが有るから・・・」
　ピリピリしたような緊張感は無くなっていたが、じゃれ合うような雰囲気でも無く、どちらかと言えば、淡々としたレッスンであり、休憩時間だった。
　ガラス戸と障子を締めたのも夫人で、２人で炬燵に向き合って入り、紅茶を飲みながら話をするのも、新しい内緒事・秘密の進展だった。

「由美さん、ちょっと聞きたいんだけど、ＴＭＰＧのオーサリングワークスと言うソフトを先輩が付けていたけど、あれは、由美さんが注文したの？・・・」
「ソフトの注文なんかしてないわ・・・そもそも何に使うソフトなの？・・・」
「映像好きがよく使うソフトで、結構高価だし・・・そうか！・・由美さんが使いたがるソフトだと、先輩が気を利かしたのかな？・・・」
「ねぇ、ライトキャプチャーで取り込んだ映像ファイルは、パワープロデューサーじゃなくて、ＴＭ何とかを使う訳？・・・」
「そうですよ・・・カット編集もやり易いし、圧縮やファイル変換も自在にこなせるから、お気に入りソフトになると思いますよ・・・」

　紅茶とケーキの休憩が終ると、ＶＨＳビデオの再生を止め、取り込まれたＭＰＥＧファイルの編集に取り掛かることになった。
　ＨＱに設定したから、ファイル容量が５ギガを超えていることをまず確認させた。
　次に、ＤＶＤの書き込み容量が４・３ギガ程だから、圧縮が必要な事と、ＣＭカットや音声変換が必要な事を教えた。
　実際にオーサリングワークスを起動させ、音声ファイルをドルビー・デジタルに変換する必要があることを確認させると、熱心にノートに書き込んでいた。

　ＣＭカット編集は面白かったらしく、「これで良い？・・」と、得意満面の笑顔を向けてきていた。
　時には肩で突いて来て、出来栄えを見ろと促して来たし、膝小僧を突きながら合図を送ってきたり、ボディ・ランゲージが次第に増えていた。
　時には、探るような目線を股間に注いできているのも確かめられたし、触られることに馴染んできたことも重要な成果だった。

　諸々の操作に３０分程、圧縮と変換に２０分少々要し、１０時を少し過ぎた頃、ＤＶＤ―Ｒの書き込みまで完了した。
　パワーＤＶＤで出来栄えを確認させると、夫人はご満悦の表情を浮かべていた。
「１０時を過ぎたから、ぼつぼつ帰る準備をしないと・・・ねぇ、次も今日みたいに教えてくれると約束して！・・・」
「今日みたいに」が、身体をくっ付けて、ボディ・ランゲジーを織混ぜてのレッスンの意味なのか？、マニュアルと実技指導を含めての指導を意味しているのか？は、読み取れなかった。
　村田が言った正常性バイアスに、スイッチが入っているのは間違い無さそうだった。
　次も、旦那が夜釣りで留守の夜に来ると言うのだから、今後も留守の夜にＰＣのレッスンを受ける心算のように思えた。

　４月４日・５日の土日は、姫路に帰り、朝から夕方までは法事や、和尚の手伝いで忙しかった。
　夕方になると寺の用事から解放され、道場の師範代としての務めを果たし、夜中になると何時もの様に未亡人の許へ通った。
　由美夫人との出逢いで、熟女に対する性欲が、何時もにも増して滾っていた。
　次に会うのは６日（月）の夜で、夫人の排卵日の前日だから、メスの本能も強まっていて、オスの欲情など簡単に察知されそうな気がしていた。
　２人の未亡人の許へ通ったのは、溜りに溜まった性欲を思いっきり放ち、ギラギラした欲情を薄めて逢わないと拙いと考えたからだ。

　夫人の方も、主人が明け方まで留守になる夜、若い男の部屋を訪ねることに、躊躇が無かった訳ではない。
　施術もそうだが、パソコンの組み立ての見学、見習い僧だった若者との語らい、それまでの日常に無かった一連の体験が夫人の背中を押していた。
　昼間に何度も訪ねているが、少々おふざけをした位で、何事も無かったと言う事実が、警戒心を和らげていた。
「親切に作ってくれた上に教えてもらえるんだから、使いこなせるようにならないと、悪いじゃない・・・」
　夫人の心は、そう呟いていた。
　それだけなら、薄化粧や普段と違う服を着る必要などない筈なのだが、無意識に着飾った服装を選んでいた。

　４月６日の月曜日、治療院での助っ人が終わり離れに帰ったのはちょうど７時だったが、夫人は帰りを待ち構えていたように現れた。
　当然のことだが、縁側の窓は、少し開けたままにしておく配慮はした。
　だが、その日の服装は少し違っていた。
　夫人は、ジーンズ生地のワンピース姿で現れたのだ。
　その裾丈は短く、膝小僧がやっと隠れる程度で、広い襟は乳房の谷の辺りまで切れ込んでいた。
　胸から腰、ヒップに掛けて、その服はピッタリ張り付いたようになっていて、ボディラインはくっきりと浮き出ていた。
　胸の張り出し具合、ウエストの括れ、ヒップラインの張り出し具合等が、とても４０前の女のそれとは思えないのだ。

「あっ！・・その服、すっごく似合っている！・・・スタイルの良さが見事に表現されている！・・・ドキッとするほど魅力的じゃわ！・・・うーん・・オーダーメイドだな！・・・」
　決してお世辞ではなく、思わず口から飛び出した言葉だった。
「３年前に作ったんだけど・・・急にそんなことを言うと、わざとらしいじゃない！・・・あっ、急じゃないわ！・・・今までだって、美人キヤスターと似ているとか！・・・この頃のお坊さんて、お世辞も修行するのかしら？・・・・・・」
「お世辞では無いですよ！・・・ほんとにそう感じたんですから・・・３年前とスタイルが変わらないって、凄いじゃない！・・・」
「そう？・・でも、そんなに言われると、次から着られなくなりそうだわ・・・」
「時々は、その服にして欲しいわ・・・胸のラインも綺麗じゃけど、腰のラインが見事だもん・・・眼が吸いつけられそう！・・・」
　バレるのは時間の問題だと思ったから、小言をもらう前に自分の方から白状した。
「さっきから胸と膝とに視線を感じていたんだから！・・・素直に口にしたから、拳骨は無しにしてあげるけど・・・ジロジロ見たら拳骨よ！・・・」

　チラッと位なら覗くのを許すニュアンスにも取れたが、夫人の真剣度はかなりのもので、先週の金曜日のメモを整理して、３０項目程に纏めていた。
　メモを見て凡そのレベルが分かった俊英は、生協の古本部で買っておいたウインドウズ７の解説本と３種類の切符を２階から持ってきた。
「これから、これらの質問メモを分類して番号を書き込むぞ！・・・それから、この解説本の該当する項目に同じ番号を書いた切符を付ける・・・次に、黄色の切符は具体的手順を書いたページに張り付けるからな・・・」
「１人でやって迷ったら、それを見れば良いのね・・・だけど、メモだけでそこまで見当つけるって流石ね・・・」

　説明して操作を示すと、理解できたことは解説本の参照を省いていたが、腑に落ちないことは解説本で確認し、何度か自分で操作するのに夢中だった。
　真剣で教え甲斐のある生徒だったが、太腿が触れ合おうが、肩が当たろうが、お構い無しと言う程のめり込んでいた。
　小さな液晶画面を並んで見ながらの操作であるから、ある意味では自然な成り行きだった。

「ねぇ、全部出来そうよ・・・これなら何とか使えそう？・・・」
　休み無しに１時間半も取り組んで疲れたのか、一区切り付けようと言ってきた。
　緊張が解けたのか、太腿が触れていることに気づいたらしく、ほんの少し隙間を開けるように膝頭の位置をずらしていた。
「休憩はもう少し後にしないか？・・・ＩＥがバージョン１１になって変わったところがあるから、それを教えておかないと・・・」
「分かった・・・じゃぁ、済んだらもう一度コーヒーを入れてくれる？・・・」
　少しばかり甘えた表情を向けてきた時、膝頭から太腿が触れ合ったが、慌てて離すようなことは無かった。
　２０分程で、それらもマスターしてしまい、休憩に入った時は９時になっていた。

「ねぇ、今日みたいに教えてくれたら、色んな事が出来る気がする・・・もっと色んな事を教えてくれる？・・・」
「じゃぁ、２〜３日かけて復習してからにしません？・・・火曜日と入学式の水曜日、それに木曜日は、１時から４時までは空いているし、金曜日は夜の７時半からならＯＫです・・・」
　旦那が家に居る土日は無理だと分かっていたので、平日の空いている時間を提案した。
　話はすぐに纏まり、取り組む課題を決め、マニュアルについては俊英が用意することになった。
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2017年3月12日掲載
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