堕（おと）された完熟桃
極楽とんぼ 作
第１３章　　　風邪気味なんだけど頼める？　　　

　今日教えて貰う予定のアプリケーションの操作は、夫人にとって非常に魅力的なものだった。
　そうだ！・・今日は学部のガイダンスとか言っていたから、今は休憩時間みたい・・・
　手は、考える間もなく携帯を操作していた。

「藤堂君？・・・今は休憩時間よね・・・ちょっとだけなら良い？・・・」
「良いですよ・・・ガイダンスが終ったところじゃから・・・帰るのは１時になるけど、夜のレッスンは延期にしない？・・・留美姉さんの話だと、天候が悪そうで、夜釣りは無理みたいらしいよ・・・昼食を済まして、１時からで、どう？・・・」
「あのね・・・風邪の引き掛けみたいなの・・・予定の変更は構わないけど・・・レッスンに、着いて行けるかしら？・・・」
　衝撃的な初体験談を聞いて既に３日経っていたが、自分からホイホイと尋ねて行く事には抵抗があった。
　エッチ談義が好きな女だと思われたくないと言うプライドなのだが、風邪を理由にして、引き気味の姿勢を示そうとしていた。

「初期なら９割方治せるけど・・・由美さんが風邪って、信じられないなぁ・・・」
　何時ものじゃれ合うような受け答えを聞いて、夫人は軽く乗せられてしまった。
「まぁー・・馬鹿は風邪を引かないって、言われているみたいじゃないの！・・・」
「この前の施術で分かったけど、由美さんの気のエネルギーは結構強いから、生命力も強いよ・・・簡単には、風邪なんか引かない筈じゃけど・・・もしかして、寝相が悪かったりして！・・・」
「茶化したらダメよ！・・・ねぇ、熱は微熱程度だけど、かったるいし・・・ソフトの扱いも学びたいし・・・」
　いつもの軽妙なじゃれ合いだったが、訪ねるのを躊躇している姿勢は伝えることが出来てホッとした。

「良いよ！・・・２つとも同時進行で解決してあげるわ・・・手っ取り早くやるよ・・・」
「迷惑でないのなら、お願い・・・何か用意しておくことは無い？・・・」
「そうじゃな・・・解説書はコピーしておくから、この前の用具を持って来れば良いよ・・・それと、服は背中にファスナーが付いたワンピースが良いな・・・出来ればだけど、ブラは後ろフックのものが良いんだけど・・・」
「それは構わないけど、何か意味があるの？・・・ワンピースがお気に入りなのは、分かったけど・・・」
　後ろフックのブラと聞いて、乳房を覗き見されるのでは？と、心配になったのだ。

「先に施術をすると、由美さん寝てしまうじゃろう？・・・それからパソコンの指導となれば時間が掛かるじゃないか・・・同時にするとなれば、風門がある背中が開くワンピースが最適じゃ・・・ブラのフックも後ろなら外せるじゃろう？・・・１時頃おいでよ・・・気を入れるのは、背中の気海癒から出来るから・・・但し、終わったら、家に帰って転寝すること！・・・直後は元気になった感じがするけど、転寝して起きた時に気持ち良かったら、本当に治ったと言えるから・・・」
「寝ないといけないのなら、帰るわよ！・・・藤堂君の傍で転寝なんか、出来ると思う？・・・」
「目が覚めて調子が良かったら、風邪は抜けたと判断して良いよ・・・」
　気海癒が何処にあるのか覚えていなかったので、気にはなったが、電話は切られた。
　夫人は、幾つかのワンピースの中から、背中にファスナーが付いていて、渋いエンジ色の生地に茶色の模様が入ったシックな感じのものを選んだ。

「前ボタンのジーンズのワンピースも似合うけど、今日のは一段とシックな感じじゃわ・・・スタイルが良い美人には、こういう感じの仕立てが一番と言うことか！・・・ねぇ、この服を着て街を歩くと、男の視線が集中するんじゃない？・・・」
　決してお世辞ではなく、思わず口から飛び出した言葉だった。
「まぁ・・お世辞だけは巧いんだから！・・・街には若くてピチピチした女性が溢れているわ！・・・男の視線はそっちに向かうんじゃない！？大学なんか特にそうでしょう？・・・目移りして対象が定まらないのと違う？・・・」
「ほんとにそう感じたんですから・・・大学の女性なんか、名前も知らないし、怖くて話し掛けられませんよ・・・」
「人見知りする性質なの？・・・私には、結構図々しくしているじゃない！・・・」
「そりゃぁ、由美さんは気性がさっぱりしているし、義姉さんみたいじゃから・・・構えずに向き合えるから楽だけど・・・出来たら次もその服が良いんだけど・・・早く慣れないと困るし・・・」
「ねぇ、慣れないとって、どういう意味？・・・」
「どうもおっぱいに弱いみたいで、目が惹き付けられてしまうから・・・由美さんのに慣れたら、どんな女性と向き合っても、冷静に振る舞えるんじゃないかと・・・」
　バレるのは時間の問題だと思ったから、小言をもらう前に自分の方から白状した。

「そう言えば、この前だって２度ほど・・・今も、眼線は胸じゃない！・・・」
「気をつけるけど、引力が強いから、１〜２回は許してもらわないと・・・」
「背中が開く服と言うから、これにしたけど・・・襟口が深いのが気になるじゃない・・・」
「その服だとする方は楽だけど・・・ソフトの使い方を習う方に神経を集中していたら、気にならんと思うよ・・・じゃぁ、始めようか？・・・」
　キャミソールの上から背中や尻に手を当てるわけだから、感じ始めるのは火を見るよりも明らかだった。

「気になるようなことを言うから、ドキドキしているのよ！・・・大丈夫かしら？・・・」
　これから始めようかと言う時に漏らした言葉だが、この大丈夫かしら？には、２つの意味が込められていた。
　１つは、突如オオカミに変身しはしないか？であり、２つ目は、自分の方が昂ぶって醜態をさらすのでは？という恐れだった。
「そりゃぁ、美人で色白の由美さんだし、こっちだって緊張はするよ・・・施術は治療だから、その点は安心してもらわないと・・・」
「でも・・さっきの電話では、３０分は肌に手を当てたままだとか、それに気海癒って、お尻じゃない・・・」
「初めて体験する女性の場合、特に感覚の鋭敏な人は感じることがあるから、予備知識を持ってもらおうと思って・・・」
　回りくどい言い方をして、男と女を強く意識するよう言葉を選んだ。

「最初に頭のてっぺんを軽く叩くからな・・・次に、手と足の指先を摘むよ！・・・これは少し痛いかもしれん・・・」
「頭は百会よね・・・手と足は覚えてないけど・・・」
　どうやら、リーフレットを、何度か見ていたらしい。
「そうだよ・・・百会は、気の入り口だし、魂が抜ける時の出口なんだ・・・手や足の指先は気の陰陽が反転するところじゃ・・・入り口を開き、反転する場所を活性化する為です・・・」
「ねぇ、どうして風門が先で、気海癒が後なの？・・・」
「理由は簡単じゃ・・・邪気を残したまま気を入れると、正邪が混じって全身を巡るから効果が薄まるんです・・・由美さんの感覚は鋭敏そうじゃから、邪気が抜ける時の感覚が分かると思うよ・・・」
「邪気って、邪な気と書くのよね・・・私に分かる？・・・」
「多分な！・・・肩が怠くなって、その怠さや鈍い痛みが腕に移動して、指先辺りで消える筈じゃ・・・そう感じられたら、風邪は抜けているよ・・・」
　手と足の指先なのだが、身体に触られても説明に納得したのか、身を固くする様子はなかった。

「ファスナーを下ろしたら、フックは掛けて於かないとダメよ！・・・」
　背中のフックを外そうとすると、間髪入れずチェックが入った。
「参ったなぁ！・・・密かに期待していたのに！・・・事前注意が早過ぎるわ！・・・」
「やっぱりそうだったんだ！・・・特に胸に関心が集中しているみたいだし・・・油断も隙も出来ないんだから・・・」
　戯けて誤魔化したが、巧い具合にじゃれ合いペースに持ち込めた。
　手を当てて気がついたが、ワンピースの下はキャミソールで、ブラは、後ろフックだった。

「由美さん、キャミソールの下から手を入れて、ブラのフックを外すよ！・・・」
「分かった！・・・触らないように上手に外して！・・・ドキドキしているんだから！・・・」
「ハイ！・・気を付けます！・・・でも、生地が薄いと効果は上がるから、良しとするか・・・それと・・・手を当てている間も、ソフトの使い方の指導はするからな・・・分かり難くい時には、直ぐに質問すること！・・・」
　ワザと事務的な対応で、夫人の気持ちを落ち着かせ、同時にレッスンを始めることを伝えた。

「何か意味があるの？・・・」
　顔を向けてくるわけだから、襟元からこぼれる胸の柔肌が嫌でも眼に飛び込んできた。
　隆起の麓しか見えないわけだが、その艶やかで白い肌には緩みなど微塵も見えなかった。
「だってな、並んで座って手を当てているんだぞ！・・・パソコンに集中してもらわないと、重苦しいじゃないか！・・・」
　少しばかり遠回しな表現だったが、妖しい雰囲気になると直に気付いたようだ。
「分かった！・・・じゃぁ、紙ｃｏｐｉの使い方から始めて・・・それと、ＭＰ３ＧＡＩＮと言うのも知らないし・・・」
　風門のツボを指で押している間はそれほどでもなかったが、手を当てて其処に気を注ぎこむようになると、夫人の敏感な身体が反応し始めた。
　紙ｃｏｐｉの便利さに驚き、それの習熟に熱中していたから、辛うじて平静を保っている状態だった。
　幅が９０センチの掘り炬燵とは言え、並んで座っているのだから、時には膝や太腿が接触することがある。
　特に、夫人が「これで良い？」と顔を向けて来る時は、必ずと言って良いほど膝頭はくっ付き、時には太腿も接触してきた。

「次はＭＰ３ＧＡＩＮだけど、これはサラ・ブライトマンの曲をダウンロードしてから教えるよ・・・曲のボリュームが違う場合に、フォルダ内のＭＰ３ファイルをまとめて一定のボリュームに変えるソフトじゃから・・・」
「便利そうね・・・聴く時に曲ごとにボォリューム調整するなんて面倒だもの・・・ねぇ、後何分ぐらい風門に気を入れるの？・・・」
　この時には、２人の太腿は完全に触れ合っていたが、離そうとする気配はなかった。
　肩まで触れ合う様な間隔で座っていて、いきなり顔を向けて来ると、広い襟元の中の真っ白な隆起の麓が目に飛び込んできた。

「わっ！・・白くて綺麗！・・・」
　不意打ちを食らった状況で、夫人の質問とは関係のない言葉を、俊英は思わず発していた。
「こらっ！・・・何処を見ているのよ！・・・尋ねている事には上の空で！・・・」
「御免！・・・急に胸元が目に飛び込んで・・・つい眼が吸いつけられて・・・もう１０分も掛からないと思うけど・・・」
「チラッとだったから、今回は大目に見てあげるけど・・・何度もしたら拳骨だわよ！・・・」
　本気で怒っていないことは表情と目で直ぐに分かったが、座っている位置も変えようとはしなかった。

「ねぇ・・感じたわ！・・・肩の辺りで、モヤモヤした鈍い痛みが動いている！・・・」
　邪気の流れを感じ取れたのが嬉しかったのか、再び顔を向けてきた。
「おっ！・・キャッチできた？・・・やっぱり鋭敏なんじゃ！・・・」
「こらっ！・・また、眼線が下を向いている！・・・」
　膝に置いていた手で目の前を塞いできたが、その手も直ぐに膝に戻していた。
　チラッと覗く位なら許してあげるわよ！・・といった感じなのだ。
　腕から手先の方へと移り、そして消えた！と、喜んでいたから、胸の肌を見られることなど、どうでも良くなっていたのかもしれない。

「巧く抜けたみたいじゃから、後は気を注ぐだけじゃ・・・」
　こう声を掛けられると、夫人は急に慌てだした。
「お尻に手を当てるんだから、胸を見たらダメよ・・・それに、顔も・・・」
　気海癒に手を当てられたら、昂奮しそうだと予感しているらしく、予防線を張ってきた。
「心配要らないよ！・・・これも治療だから、美人の由美さんにでも、無心で施術は出来るよ！・・・見られても大丈夫と思っているから、その服で街を歩けるんじゃろう？・・・何で俺だけダメなわけ？・・・理由が知りたいわ！・・・」
「だって・・見ながら想像しているじゃない！・・・」
「由美さんの胸を見たら、男だけじゃなく女でも、何がしかの想像はすると思うけど・・・何も言わずに想像していたら良いのか？・・・」
「何も言わないのも気持ち悪いし・・・口にするのは半分位にしてくれる？・・・」
　今問題にしていることが本題でないことは、互いに分かっていたから、決着は早かった。

「今日は背骨側の気海癒から入れるが、言わば間接じゃから、少し時間は掛かるよ・・・でも、パソコン使いながら出来るのが利点だから・・・」
「うん・・分かった・・・ねぇ、このまま座っていたら良いの？・・・」
「じゃぁ、その姿勢でお尻を少しだけ浮かせてくれる？・・・」
　夫人が少し腰を浮かせた瞬間、ワンピースの裾から手を入れ、キャミソールの上から腰の後ろに手を当てた。
「こうして於けば、お尻も隠れるし、気は十分に入れられる・・・さぁ、次にしたいと言っていたことに取り組むぞ！・・・」
　否とも、良いとも返事する間もなく行われたので、夫人は言葉も出せなかった。
　それでも気になり、腰の方に視線をむけたが、太腿もお尻も裾で覆われているのを見てホッとした。

「サラ・ブライトマンの曲をダウンロードするんだったな・・・ついでに、ＣＤにするところまで挑戦してみないか？・・・」
「それ、やってみたい！・・・」
「邪気が抜けると急に元気になったな！・・・気が入れば、顔も艶々になると思うわ・・・今日来た時には、生気が無かったもんな・・・」
「そうなの、鏡を見てがっくりしていたんだもの・・・でも、今は温かいのが拡がっていくのが分かる・・・」
　今日も潤みそうだと予感しながら、夫人の胸はときめき始めていた。

「じゃぁ、始めるよ・・・ダウンロードした曲を保存するフォルダを作っておいたから、確認してくれる？・・・ミュージックフルダの中にサラ・ブライトマン名のフォルダがあるじゃろう？・・・確認できたらエクスプローラを畳んで、ＩＥを立ち上げてみて・・・」
「あっ、ヤフーになってる！・・・」
「そしたら、検索欄にこれを入力して、それから検索ボタンをクリックする・・・」
　予めプリントしておいたサイトのアドレスを見せ、これは安全なサイトだと説明を加えた。
「あっ、同じ画面が出たわよ・・・」
　それから、それをＩＥのお気に入りに格納する方法を教えた。
「じゃぁ、リストの処にチェックを入れ、サーチの欄にサラ ブライトマンを英語名で入力してサーチボタンをクリックしたら、かなりの曲数が出る筈じゃ・・・
「ほんと！・・いっぱい出て来たわよ・・・でも、ちょっと待ってくれる？・・・メモしておかないと忘れそう・・・」
　夫人は教えられた手順をメモしていたが、意識を集中しているからか、尻に手を当てられていることなど忘れた感じだった。

「その中から好きな曲を選んでダウンロードするのだが、mp3 file の欄をクリックすればダウンロード画面に移るから・・・その時に、保存先をさっき確認したサラ・ブライトマンフォルダを選択しておけば良いんだ・・・」
「じゃぁ、やってみるから、見ていて・・・」
「うん、上手くいっている・・・直ぐに終わるから、元の画面に戻してまた好きな曲を選んで、同じことをすれば良いんだから、簡単じゃろう？・・・」
「もう一回見ていて・・・間違うと大変じゃから・・・」
「もう気も十分入ったみたいじゃから手を離すぞ・・・コーヒーを入れてあげるから、一段落したら飲まないか？・・・」
　有り難う・・と言って目を合わせてきたが、身体の方は潤み始めていて、新しいことに夢中で忘れているようだった。
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2017年3月27日掲載
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