レビレート
はちみつ太郎 作
２１


　新たなる年を迎え、年末に足止めされた雪は跡形も無く消えていた。応輔は、帰省することなくバイト、サークル内の旅行などと理由をつけてこの場にはいない。小百合は訪れたもの全てにめでたいといわれ、圭輔への叱咤をともに聞いている。真実を知りえるものは自分とお腹の子の血だけで、豊乃は状況証拠だけでしか真実を知れていない。

　年始の挨拶として、蔵野が訪れていた。圭輔と酒を飲んではいるが飲まれることなくしらふに近かった。小百合の体を慮るような言葉を掛けてくれている。圭輔はしらじらしいとした顔をしているが、小百合はマタニティーヌードの仕掛け人とは知らない蔵野に酒を注いでいた。横から斜め見る蔵野は小百合のボディーラインを注視し、目に焼き付けているタンスの花園の羽衣たちを着せ替えているようだった。

　圭輔はそれに気がついているが、制する事も出来ず視姦され続ける小百合を傍観するだけだった。小百合が蔵野からはなれ冷蔵庫のあるキッチンに移動すると、その後姿も凝視している。尻のラインを見つめ続け、目を細めると裸を想像し年末に持ち帰った、使い古しなランジェリーショーツをシンクロさせていた。

「ええわぁ、あれ、穿いてるの想像して、、、ほらよ。」

「蔵野さん、もぉ、ばれたら、えらいことになるから。」

　蔵野が腰を押し出し、圭輔のほうにテントを見せている。遮るように小百合を見えないように体を重ね、蔵野の横暴をいさめた。

「小百合さん、８ヶ月？名前って決めたの？」

「いえ、まだなんですよ、男か女か聞いてないんで。」

「へ、珍しいね、今時。名付け親になろうか？」

「いや、お断りします。」
　圭輔がそういうと、蔵野は不服気に小百合に直接的に言った。

「きれいなスタイルしてるんだし、最近はやりらしいじゃん、マタニティーヌード、セミヌードで、俺の知り合いも撮ってたけど、綺麗だったよぉ。」

「えぇ、圭輔さんと同じこと言ってる。蔵野さんが首謀者？」

「ど、どういうことよ？圭輔が？言ってるの？」

「本当に知らないんですか？少し前に撮ろう撮ろうって、カメラマンに頼まれてるんだって。」

「へぇ、そうなんだ、でも、いいとおもうけど、小百合さんのスタイル。俺なら、セミヌードでも写真集でたら２万は出すよ。」

「え、ほんとに？」

「乗り気だね、何人かのサユリストを募れば、結構な額になりそう。」

「そうかなぁ、自信ないんだけどなぁ、確かに、胸は張ってきてるから、こんなに無いですからね、普段は。」

「小百合、何言ってる、蔵野さん本気だぞ。」

「え、圭輔さんが言いだしっぺじゃん。」

「そ、そうだけど、、、、。」

　蔵野は方向性と小百合の決心を見透かしポケットの中に忍ばせた小百合の穿き古しのショーツを握り締めた。それを、小百合の視線から外れたタイミングで、圭輔に手渡すと慌てた圭輔は床に落としそうになる。小百合に気がつかれないタイミングで拾い、自分のポケットにしまうと、蔵野をあきれた顔でみつめ、トイレに行くふりをして小百合のタンスを目指す。

　圭輔は、蔵野が名づけた小百合の花園にもとあった位置を忘れたので、奥に引っかかっていた体を再現し、タンスの引き出しを閉める。再確認し、違和感の無さを感じると寝室をあとにした。

　蔵野は対面のソファでお茶をすする小百合と話している。酒が少し進み、顔が赤くなった蔵野は、圭輔の姿を見て手招きした。

「小百合さん、話を聞いてもいいって、おれ、出来上がり二万で買うことになったから、話し進めてくれ。」

「え、あ、なに？いいの、小百合？」

「あ、うん、ま、蔵野さんにあげるかどうかは別として、残してもいいかなって、。」

「きまり、圭輔、鉄は熱いうちに、、、って言葉、知ってるよな。」

「、、、。」
　蔵野は上機嫌のまま、残ったビールを煽ると、玄関に向かい、帰宅していった。嵐のような男は、機嫌よく帰ったあと、圭輔は小百合の真意を聞き取った。

「ん、ま、確かに、恥ずかしいけど、綺麗にとってくれるならそれで、男性なの？カメラマン。」

「あ、あぁ、男性らしいけど、、、、おねぇ、系だから。」

「少し安心だね、うん、圭輔さんに任せる。」

「、、、。」
　蔵野の差し金どおりことが進み、圭輔は心配の種だけが残る。蔵野の暴走を止められるか、今日でさえ止められなかった暴走は始まったばかり。小百合にはその暴走の代償を伝えることは出来ない。


　蔵野の策が功を奏し、話が段を上っている。一月の中旬産休に入る二日前、時間のあった昼食時、圭輔から連絡がありカメラマンから打ち合わせがしたいとあった。圭輔から携帯の番号を知らせたと言われ、少し憤慨をしたが、あの時聞いたおねぇ系の男であることを思い出し怒ることはやめた。少し間を開け、見知らぬ着信番号がモニターにあった。

　少し緊張気味に応答する。男の声だが声色はグレーに近い色だった。カメラマンであることはすぐにわかる。局の近所にいるのだが、少し時間をもらえないかと、丁寧に尋ねられる。印象は声色と違い、白だった。すぐさまＯＫを伝えると小百合の行きつけではない、カフェを伝えた。相手は、大体の場所だけ聞くと、自らのいでたちを伝え、その場で先に待つことを告げた。小百合は、任されている仕事の少なさを告げると、概ねの時間帯を決めた。

　肌寒い一月の風がコートの中にまで届きそうに吹き付ける。いつも行くカフェの前を通り過ぎると店員は声を掛けようとするが通り過ぎていく小百合に声を掛けるのやめた。行き先が違うのだろうとその後姿を見つめている。気がついた、小百合は振り向き軽く会釈だけする。店員も会釈をし、小百合を見送った。路地を曲がり、大通りに差し掛かると４０席以上あるカフェに足を踏み入れる。人が多く、知り合いでも探すのは一苦労だっただろう。きょろきょろしていると、奥の隅に椅子二つの席で一人のそれらしき派手な人影がある。

　声を掛けるわけではなく、少し手招きをしていた。小百合はおねぇ系と教えられていたが、がたいの良いマッチョ系の男がそこにいた。整髪剤で髪の毛をきれいに整えた男は教えられていたそれとは違うような気がしている。が、近くまで行くと、体に似合わない声で小百合を呼び止める。

「小百合さん？ですよねぇ、始めまして、写真家のＭＩＲＵＫＯです。どうぞ、こっちに掛けて、椅子よりソファーのほうがいいわよねぇ。」

「あ、あはい、始めまして、山内です。」

　隣に座っていた女性二人は会話を少しだけやめ、小百合の顔を少し見た。アナウンサーの小百合のことを知っているようで、少し会釈だけすると、会話を再び戻していた。視線は、何度か小百合とＭＩＲＵＫＯに行きがちだが、次第にそれは無くなった。

　周りの視線が消えていくと、ＭＩＲＵＫＯは小百合との会話を始めた。何ヶ月なのか、性別は、どこで出産をなど柔和な表情で話しかけられると小百合は引き出しを開けられていく。聞き上手なアナウンサーだと自分でも少しの自負はあったが、その上を行くようなＭＩＲＵＫＯの会話に圧倒されていた。

　圭輔とのかかわりなどを聞き、つじつまの合う人物の名前などが聞かされる。それらの人物は小百合にも好意的な人間で、ＭＩＲＵＫＯへの不信感は早くも消えてしまう。本題にはなかなか入らない。小百合はそれを聞きたかったが、３０分ほどたったころ、隣の女性らが席を立ち、会計に消えた時ＭＩＲＵＫＯは本題を口にした。

「ようやく、お隣が消えたわ。」

「あ、そういうことですか。」

「だって、小百合ちゃんこのあたりじゃ、有名人でしょ。ヌードの話しなんて、こんなとこじゃ、、、。」

「あ、気を使っていただいて。」

「そうよぉ、お金は使わないけど、気は使うのよ。」
　少し大きめな声だったのか二つ越えたテーブル席の男性が振り向いた。ＭＩＲＵＫＯは、その男にウィンクをし、手を振っていた。

「お知り合いですか？」

「知らない、けど、少しタイプのイケメンくん。」
　小百合はその男の方を見ると、視線が合った。確かに男前の部類だが、ＭＩＲＵＫＯに手を振られて少し居心地が悪そうにしていた。小百合は、その姿に笑みを浮かべ、ＭＩＲＵＫＯをたしなめた。

「怯えてますよ、彼。」

「そうかしら、武者震いじゃない、私と視線が合って。」

「そうですかねぇ、、、。」

「そう思わないと、やってられないし。」

　二人は声をあげて笑う。波長の合いそうなＭＩＲＵＫＯとの会話を本題に戻す。

「撮影って、二人でするんですか？」

「ううん、スタッフもいるけど、みんな女性よ。私も含めて。」

「あ、そうですね。ハハハ。」

「レンタルスタジオ、近くだけど、覗く？」

「い、いえ、少し時間が無いし、」

「夕方どう？、実はね、撮影だけじゃないから、少し宣伝チックだけど、、、。」

「え、なんですか？」

「マタニティーエステもかねてて、それ終わりに撮影に入ってもらう、そういう感じなのよ。」

「へぇ、いいですね。」

「乗り気？」

「えぇ、すごく、興味あります。地元の情報番組のネタに困ってて、少しいいかも。」

「そうなんだ、ぜひ、取り上げて欲しいわ。だから、小百合ちゃんに、、、モニターで体験して欲しいの。」

「無料で？」

「もちろんよ、夕方、時間ある？」

「あ、少しなら、」

「実はね、午前中、クライアントの女性を撮影したの、だから出張でエステティシャンも来てるのよ。明日も撮影があるから、泊まりだし。」

「え、え、モニターでってことですか？」

「お時間無ければ、仕方ないけど。」

「あ、あ、してみても、？」

「いいわよぉぉ、スナップだけ撮らしてくれる？」
　小百合は、迷うことなく了承し少し遅れる帰宅を圭輔に連絡した。ＭＩＲＵＫＯは、エステティシャンに連絡をしているように見せている。
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2015年11月9日掲載
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