レビレート はちみつ太郎 作
３ 「小百合さんの問題じゃないみたいね。」 「は、はい。婦人科の先生はそうおっしゃられてました。」 「信頼の置ける先生だし、内密にしてくれるようだけど。お父さんに知られないとも限らないし。」 「え、報告を？。」 「今はしないわよぉ。」 「あ、はい。圭輔さんにも？」 「そうよ。でもね、時間には限りがある。どこからか煙が立つこともあるし。」 「でも、どうしたら？圭輔さんに治療をしてもらったほうが？。」 「それは、やめておいたほうがいい。あなた、ここにいられなくなってもいいなら別だけど。」 「え？どういうことですか。」 「山内の家は古いから、ルール、昔風に言えばしきたりがあるの。」 「ど、どんなものですか。」 「はっきり言うわよ、子が生まれないなら廃嫡、もしくは離縁ね。」 「離婚しろってことですか。」 「離婚しなくてもいいけど、実質的な長男ではなくなるし、ま、分家に夫婦養子に行かされる。ま、あなた達は恋愛結婚だし、好きあって結婚したんですから、この家にも未練はないでしょ。」 「そ、そういうことでは。」 「長男の嫁じゃなくなれば、自ずと、いろいろな眼で見られるし、結局は離婚。」 「そんなことは。」 「そうならない方法がないわけでもないけど。」 「どんなことですか、お母さん。」 「私の口からは言えないは、ま、かしこい小百合さんなら、判ってくれると思うけど。」 　離れのほうを向いた豊乃の顔を気にする小百合。豊乃の口に出さない無言の圧力は、痛いほどに感じ取れた。小百合も釣られて離れのほうを見つめると、新婚当初のことを思い出してしまう。 　３年前の６月。 　新婚旅行を終え、親戚へのあいさつ回りを終えた頃だった。夕食をすませ、山内家のルーティーンどおり時が進む。主である豪輔が湯を浴び、豊乃は、経営する飲食店への出勤のため、シャワーだけを浴びている。 　新婚だが他の目を気にしてか、別々で入浴する夫婦は、圭輔の後で小百合が湯を浴びに向かう。応輔が、離れに戻るのを見た後、小百合は浴室に入り新設された鍵つきの脱衣所で、着替えを始めていた。 　服を脱ぎ去り、ブラ、ショーツの順に脱衣かごに入れる。汗ばんだ梅雨時、裏地の汚れを気にするように、少し鼻を近づける。酸味とも汗の臭気とも言えぬ臭いが鼻筋を抜ける。 　生地が痛まぬよう、汚れた下着だけ、袋にしまい、ファスナーで閉じる。洗濯機は、脱衣所にないため、脱衣かごに再び置いた。小百合は順番を覚えることなく置き、１０分後のその置き位置の関係性には頓着のないはずだった。 　鍵つきのはずの脱衣扉は慣れていない小百合の癖か、施錠されぬまま閉じられている。ジャーと湯の流れる音が響く浴室からの誘いの音色は、離れに向かった応輔の行き先を変更させる。 　照明は灯り、湯の音が聞こえ、そこにいる人物は、自分と違う性の人間だった。中学３年の男には眩しい存在の女性は、いつも見ている夕方のローカルニュースのキャスターだった。 　兄と付き合いをしていることを知ったその時から、この日を待ちわびていた。友人に聞かれても、小百合のことは興味がないと、言い続けていた。 　応輔は、離れに戻る姿を小百合に確認させるように、いつもは言わぬような物言いでその場を離れていた。新設されている脱衣の扉。鍵はおそらくかかっているだろうと、近づき、廊下、居間共に誰もいないことを確認すると、引き手に力を少しだけ加える。 　スー、新設された扉の駒は、音もなく開き、応輔の進入を許す。扉は半開きにしたまま、浴室からみえぬように体を半身にし、脱衣かごに入れられた抜け殻の順番を記憶する。 　Ｔシャツ、７分丈のデニム、その下に隠されるようにしてある洗濯袋、お目当ては目の前だった。シャワーの湯は断続的に流れ続けている。湯を張っていないこと知る応輔は、時間にして４、５分であろう湯の流れる消音のタイミングを見間違うことなく、袋のファスナーを開く。 　現れる汚れた下着。小百合の元を離れた瞬間に、応輔にとっては、汚物から、お宝へと変化していた。興奮は抑えることができない。パープルのブラには目もくれないで、ショーツの汚れを確かめた。昨晩抜いたはずの性衝動は早くも下腹部に司令を与えている。 　汚れを剥きあげるように股布の厚い部分を裏返しにすると、パープルの生地が少し毛玉付き、わずかに残る黄色い染みが応輔の後頭部を叩く。 　鼻につく香り、臭覚だけでは飽き足らない。小百合の陰部を想像し、なんども舌を這わせ、汚れた部位を口内に染み付かせ、胃の中ではなく、その味を脳の中に焼き付けていた。 　シャワー音はまだ聞こえている。シルエットの見えぬところで応輔は、臭気を嗅ぎ続ける。パープルの布地は、応輔の唾液にまみれると、汚れと唾液の区別がつかないくらいに濡れている。 　袋にしまわれた下着を、再度見返すことはないだろうぐらいの感覚だった応輔は、蛮行に打って出る。ショーツのみを取り出すと、ファスナーを閉じ、元の脱衣かごに記憶どおり戻した。 　パープルのショーツは、応輔のポケットに収納される。と、同時に、その場から立ち去るように駒の音を掻き消しながら、脱衣の扉を閉じた。 　小百合は、その気配を感じぬまま、シャンプー、リンス、と洗髪を終え、体を流し終えていく。湯上りのバスタオルを扉を軽く開けてとると、脱衣所の空気に変化を感じなかったが、どことなく質量の変化だけを感じていたのか、誰にも問いかけることの出来ない不安を声に変え、誰もいないよね、とだけ言うと、バスタオルで体を拭い去る。 　新しいショーツ、ブラ、就寝用のＴシャツと薄手のパンツに着替えると、圭輔と自分の洗濯物を洗濯機に放りこむ。ショーツのない軽さには気がつくことはない。 　洗剤をいれスタートさせる。回り始めた洗濯機には、小百合のショーツはない。一番汚れ、恥ずかしさの分身は、離れにいる応輔の股間に押し付けられていることも知らずに回り続けている。 　小百合は脱衣をあとにすると、居間にいない応輔の姿を探す。次の風呂の順番を告げるためだ。居場所はわからないが、離れに戻ることを宣言していたことを思い出す。 　圭輔に呼びに行かせようとするが、コミュニケーションのためと、すっぴんであるまま、離れに応輔を呼び向かった。夜も、９時の終わり、中学三年生のその時間は、どう使われているかも知らない小百合は、扉の前で声をかける。 　反応があったかなかったかわからぬが、応輔の部屋から聞こえるのは、声ではなく、銃撃の音。オンラインのゲームからの発砲音だった。 　少し待ち、ノックを繰り返す。三度目のノックでようやく反応があった。 　ハイ、と扉が開くと、Ｔシャツにジャージ姿の応輔は、わざとらしく目をパチクリさせながら、小百合に目を合わせないでいる。 　小百合は、風呂が開いたこと、洗濯機を回してしまったことを応輔に言うと、その場から離れるように、後ろ姿を見せた。応輔は、小百合に声をかける。洗濯の順番だった。 　風呂上りの自分の汚れ物はどうしたらいいか。小百合らの洗濯物を取り上げるわけにはいかないという趣旨の問いだった。初日で、豊乃もいないからか、いつもどおりが判らない小百合だった。 　応輔にいつもどおりを尋ねると、自分で回す。兄の分と自分の分は、いつもは一緒に回しているとの答えだった。 　小百合はその答えに、これからを尋ねる。応輔は返答に困った。自分の汚れ物と一緒に洗ってくれるのか、それとも、除外されるように、別で洗われるのか。 　小百合の答えは、明快だった。応輔の分も一緒に洗うと宣言してくれた。これからは、応輔が、風呂をあがってから洗濯機を回すことを告げている。 　応輔は、承諾の意を伝えるように小百合に言うと、小百合の明るい返事は、指を小さく丸にしＯＫのサインをしている。応輔は、脱衣扉の鍵のことはクリアできたことに満足感をえる。 　小百合が家に慣れ、鍵をかける事を忘れなくても、今日の出来事を繰り返すことが出来ると感じていた。母屋に向かう小百合を見つめ、ポケットの中で握られたショーツの行方を考えながら、自らも母屋の脱衣に向かう。 　脱衣で、自ら服を脱ぎ去る。小百合でもないのに、鍵をかけた。トランクスと他の服は脱衣に放り込み、ポケットから取り出した丸まったパープルのショーツを取り出すと、再び股布を広げ、汚れの部分の臭いを嗅いだ。 　酸味は少し薄れ、香りは脱衣の湿った空気に消えている。残り香を、わずかながらに感じながら、汚れの部分を亀頭に宛てがうと、目を瞑り、摩擦運動を柔々と始めている。離れの部屋でも少し行っていたが、小百合の訪問に中断し、あとわずかまできた絶頂感は、９合目を登り始めている。 　ガツンと来る射精感は、延髄を駆け上がり、信号を下腹部に発する。白く放たれた射精液は、小百合の汚れと交わるようにこびりついている。 　小百合の匂いはかき消され、自らの嗅ぎなれた青臭い臭気を打ち消すように、シャワーでその汚れを軽く流しさると、洗濯機を一時停止させ、ショーツの片割れの入った洗濯袋に押し込んだ。 　すすぎの段階で、少しためらいもあったが、応輔は再度スタートボタンを押すと、浴場に入り、汗と共に陰茎の汚れを流し始めていた。
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2015年9月26日掲載
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