レビレート
はちみつ太郎 作
５

　応輔の大学受験は２校に絞られている。行きたい方と出来れば行きたくない方。両方とも合格圏だが、どちらか選択する権利は自分にあるのか微妙だった。

　受験前夜の宿泊地は、一駅圏内のビジネスホテルだった。同じような学生も多く、保護者同伴で滞在しているものも多い。応輔は一人でいるはずだった。

　イレギュラーは、大きくボールを弾ませた。小百合が、応輔の受験地の間近でローカル放送の情報番組のリポート取材のため、現れていたのだった。

　小百合の取材も夕方には終わり、取材クルー達との夕食となりかけていたが、気を使ったクルーは、応輔との時間を作ってくれた。

　ビジネスホテルの前で、小百合は待った。電話の後、五分も経たないうちに応輔はロビーに降り立つ。他の受験生風の男達は、母親と顔を背けながら、夕食の選定に入っている。ロビーに現れた小百合は応輔に声をかけた。周りの受験生らは小百合の方を向いた。

　地方局のアナウンサーなためか、認知度はない。だが、大学ではミスキャンパスに選ばれたほどの顔立ちと１７０近い身長は、見るものの息を飲み込ませていた。

　応輔は、義理の姉とはいえ、他との違いに少し優越を持った。受験前からの自信は少し他のものと開いたように感じた。照れくさそうに小百合に話しかける。スタッフと食事ではないのかと。

　小百合の答えは、スタッフの気遣いを伝えるのではなく、応輔への励ましのため、家族代表で現れたと告げる。だよね、といった受験生の顔もある。応輔はその顔を見るだけで受験へのアドバンテージを感じるほど、高揚していった。小百合は、応輔に食べたいものを聞き取るが、照れくさそうになんでもいいとだけ伝える。

　案を練ることもなく、受験だけにカツを食わなきゃと、ホテルに備え付けの近隣マップを手に取ると、カツ丼やらの店を検索していた。徒歩５分ほどに落ち着いたお店を見つけると、行動力とアポイントを取りつける癖で、電話をし、席を確保していた。

　電話を終えるなり、応輔の肩を叩き、ロビーから離れていく。並びの小百合をチラ見する受験生や、ビジネスマンに優越を感じながら徒歩五分の店へと向かった。

　

　お決まりのようにカツ丼を注文し、大きさは違えど小百合は同じものを注文する。運ばれてくるまでの会話は、受験地の見学は終わったのかとか、受験生と話をしたのかとかに限定されていた。

「合格する前提だよね。」

「ま、まぁ。」

「国立、受かっても。ここ？」

「え、あ、それは。」

「ごめんね、お父さんみたいなこと聞いて。」

「いや、いいよ。わかんない。まだ。」

「だよね。仮定のことを話ししても。家のことってあるけど、自分の選ぶ道ってのも大事だし。お父さんの言うこともわかるけど、自分を誤魔化してまで、それに倣っても後悔は残るし。」

「小百合さんって、どうだった。立志社大、受けるときって。第一志望でしょ。」

「うん、あそこしか受けてない。」

「決めてたの完全に。」

「うん、今の仕事がしたいわけではなかったけど、ここにいきたいって気持ちだけかな。確かに都会への憧れってのもあったけど。お父さんに進められた時、いいな、ここって感じれたんだ。」

「俺には、それがないんだな。今のところ、父さんの言うように憧れだけかもしれないし。」

「それはそれでもいいと思う。あとから、地元の大切さだってわかるんだし、どこかの青年部好きの人みたいに。」

「そうだね。」
　圭輔のことを茶化すと小百合も応輔も笑顔が浮かんでいる。遠く離れたこの地で、したことのない義姉との食事。受験へのストレスを発散させるにはちょうどいい程度の時間だった。

　最後の茶をすすり、勘定を小百合の財布から支払うと、店を出ていた応輔はごちそうさまと礼をのべる。時間は、夜２１時を過ぎていた。小百合はビジネスホテルのロビーまで見送ろうと応輔の横を歩く。

　コンビニにより、夜食の買出しに付き合うと、レジ店員に声をかけられた小百合。そのバイト店員は、小百合らの地元出身者で、ローカル局のアナウンサーとして知られていた小百合に声をかけたのだった。

　応輔は、知らぬ振りをして小百合のそばを離れる。店員は、応輔の姿を見た。彼氏、彼女にしては歳が違うように見える。が、店員はプライベートを聞き出すように、関係を問うた。

　小百合は、毅然と応輔の存在を伝える。バイト店員は唖然とし謝りの言葉と、応援の言葉をなんども繰り返している。応輔と小百合は店を後にし、ビジネスホテルまでの歩幅をあわせている。

　ロビー手前で、夜食の袋を応輔に手渡すと、タクシーを迎車できるかフロントに問い合わせようとする。応輔は、意を決してその言葉を遮断した。

「小百合さん、ちょっと相談してもいい？」

「え、あ、うん。時間はあるからいいよ。」
　小百合は、フロントに尋ねる声を止め、応輔の言葉に耳を傾けていた。受験生の不安、それを解消するのも義姉の仕事だと言い聞かせている。どこか、場所を変え、近くの居酒屋か、カフェで相談を聞こうと思うが、応輔はコンビニ袋を持ったまま、エレベーターの上のボタンを押した。小百合はそれに追随するほかなかった。部屋には行けないよとまで、極端な拒否も出来ない。

　なぜなら、まだ、家族だから。

　エレベータに乗り込み、瞬く間に７階に止まる。同乗した人間はいないし、開いた廊下でも人とすれ違うことはない。応輔は、カードキーで扉を開ける。小百合を押し込むようにではなく、自分から入り込みそれに追随した小百合を待ち勝手にドアは閉まっていく。

　照明は点くが薄暗く、小さなテーブルの上に置かれた参考書の題名もあまり見えていない。カーテンは閉じられていて、シングルのベッドもまだ乱れてはいない。

　小百合はどこか落ち着かない。応輔もそうだった。テレビをつけ、備え付けの椅子に腰掛ける。小百合に促す椅子はなかった。座れるところは一つしかない。乱れのないベッドの上に腰掛ける。膝より下の丈のスカートを少し気にし、黒のストッキングが覆う向う脛を浅く組んで座り込む。

「相談て、やっぱり合格してからのこと？」
　小百合は予想している範囲内か、こうであって欲しいと思う相談事を詮索する。応輔は、答えを持ち合わせていないのかだんまりだった。義姉としての相談。それとも、女としての相談なのか。後者であれば、乗ることは出来ないはずだった。

　応輔は、下を向き、涙を堪えるように小百合に問うた。

「小百合さん、おれ、どうしたらいい？」

「うん、自分に正直に、それが、・・・ね。」

「正直にっ。・・・って。それがわからないからっ。」
　もう一度、仕切りなおそうと小百合が声をかけようとしたときだった。家族という線が過去に引かれた国境線のように変更を余儀なくされてしまう。

　応輔は、椅子から立ち上がると、ベッドに座る小百合の方へにじり寄った。小百合はこの先に起こることを予見する。１８歳の少年ではなく、身近な男の子が男に変わる時だった。

　小百合は肩口を押さえつけられベッドに倒れこむ。胸元を隠すように両手を抱え込んでいる。応輔は、大きく声をあげない小百合の首筋に抱きつき、涙声で何かをつぶやいている。小百合にはそれがなんといっているのか聞こえない。目をつぶり応輔の顔を見ることは出来ない。

　応輔は、乱暴を働く様子ではなく、ただただ、泣きじゃくる子供のように小百合に抱きついているだけだった。小百合の中で少し緊張が解けた。かかえていた両手を緩め、覆いかぶさるようにしている応輔をゆっくりと抱きしめ始めていた。

　応輔は小百合の変化に気がついているが、抱きついた体を離すことなく、小さな嗚咽を繰り返している。小百合は応輔の抱きつきを突き放すことなく抱きしめる。

　言葉なく、セーターの胸元を涙に濡れさせている。少しの静寂が、二人を変えていた。まず変わったのは、小百合だった。応輔の頭を撫で、まだ感じたことのない母性を応輔にしてみせる。

　母ではない母性は応輔には、伝わらないでいる。首筋辺りに顔をうずめていた応輔は、小百合に顔を近付けた。本当の相談事、女という存在への好奇心。それを伝えるように、目を閉じ、動きの少ない小百合の唇を吸った。

「・・・。」

　言葉なく受け入れてしまう小百合。舌をねじ入れるようなことはしない応輔の唇を突き放すようなこともしない。重なり合った唇は、少しの時間の後に離れるだろうと小百合は受け入れたままだった。

　猛々しさを感じない応輔の唇の動き。重なるように覆いかぶさったままの体は、半身だけ小百合の脇にずれる。その時に離れた唇は応輔の言葉を放す。

「ごめんなさい。」
　小百合は、言葉を返さずにまた応輔の頭を撫でている。小百合も応輔の涙に呼応し、目尻に涙を溜めていた。目を閉じると、頬を伝い耳元まで一筋の線を残す。

　応輔は、離れるタイミングを忘れてしまっている。どこまでが家族の線なのか、小百合との線なのか、はっきりしていない。謝罪めいた言葉の後、脚をベッドから投げ出したままになっている小百合は、楽な姿勢をとるためか、頭をずらし枕のほうに動く。足は、ベッドに乗り、履いていたパンプスは、床に落ちてしまっていた。

　目を閉じたままの小百合。眠っているわけではない。応輔は、疑心にまみれている。小百合は、受け入れてくれるのか？家族の線を保つことをしないのかと不安だが、ごめんなさいの言葉とは裏腹な本能が応輔を覆う。

　首筋に巻きついた応輔をふたたび抱きしめるようにし、頭を撫でている。応輔は小百合の体を弄るようにし始める。胸元には数回の愛撫。ふくらみの加減がわからない仰向けの姿勢では、ブラのパットを感じるだけだろう。あきらめるように下腹部に手をまわすと、膝下にあるスカートの裾に手を入れ、太もも、付け根と移動し、女を感じる部分へ移動していた。

　ストッキングの厚みは肌触りだけを伝えずに肉質の柔らかさを伝達している。小百合はまだ眼を瞑り、応輔も小百合の眼を見るのが怖いのか、目を閉じ触感だけをたよりにしていた。

　内太ももを触り、男のお目当てに近づき始めると、小百合は強張りを見せる。ついにきたかと観念しているように応輔は感じ取る。が、強張った股関節は少しずつだが外に広がり、完全なる拒絶を見せているわけではない。

　強張りを完全に取り除く言葉は発せない応輔。小百合もまた、全てを受け入れる覚悟を発することは出来ていない。応輔は、言葉の覚悟のないまま、行動で覚悟の意思をのぞかせる。枕元にある、部屋の照明を司るスイッチに手をふれ、段階的に暗くなる照明は応輔と小百合の心のように不完全に暗くなる。

　目を閉じている小百合も暗転し始める照明に気がついている。その時は、数秒と掛からず訪れる。再び、首元に纏わりついた応輔は、スカートの中の手を、上昇させ、内腿を通りすぎ、残り二枚の生地の下を探り始める。ストッキングとショーツ越しに、性の象徴を弄る。ストッキング越しにも女の温もりを感じ、温もりの中心に指をこすりつけていた。

　小百合の足は拒絶の意思を忘れ、誘導するようにスカートの中で足を広げた。応輔は、驚きを隠せない。少し間を空け、手の動きを止めると目を開け小百合の眼を見た。閉じたままの小百合の眼には、観念ともいい難いものを感じる。

　重い言葉の壁を越えられぬ応輔は、軽く本能のままの行動で壁を越えようとする。なんども行き来を繰り返したストッキングの上から、乗り越えるように小百合の隠されていた象徴に臨む。スカートの裾は肌蹴、隠される範囲も少なくなった女の象徴は、被さりを残したまま応輔に触れられてしまう。

　ストッキングとショーツのゴムを手の甲に感じ、引き締めの具合で動きは緩慢だが、狙い定めた部分への侵入は容易だった。ゴムをこえ、シンボリックなショーツのリボンを盛り上げると、自分のものとは違う繊毛に女を感じた。じわじわ近寄る応輔の手におびえるでもなく小百合はいっそう強く眼を閉じる。

　現実との境界を作りながらまぶたの向こうの現実を遠ざけようとしているが、応輔の知る現実は、小百合には残酷なものだった。

　指先は小百合の繊毛を通り過ぎ、熱源へとやすやす潜り込めた。陰核の皮に触れ、小百合は反応を見せるように応輔の首元を抱きしめた。これ以上ダメなのか、やってもいいのか。判断は、容易かった。

　甘い鼻息が応輔の頬にあたり、返答のない小百合は、甘たるい鼻息で空気を伝えている。反力を伝えるわけでもなく、応輔に体を預ける。受け取った応力は、指先に自信を持ち、押さえつけられるストッキングとショーツのゴムの力を跳ね除けるようにし、陰門にたどりつく。

　たどり着くや、固いはずの門はやすやす開門し、堰を乗り越える熱い女の分泌液は応輔の指先に触れてしまう。ぬるりと熱いその女液は、応輔の中指を濡らし、小百合の吐く息を多くさせる。堪え、押しとどめようとする鼻息は、微かに漏れ、喘ぎまではいかないが、女の弱さを聞かせてしまう。

　ヌルと濡れた前庭は、陰門の開閉をルーズにさせていた。熱い前庭を指先で感じる応輔は、小百合の吐息と共に反力の存在を皆無だと感じ、奥まった膣肉の存在を確信した。

　二人の時間はそこまでだった。両者の一存ではなく遠く離れた圭輔の虫の知らせがそうさせた。小百合への着信の後、反応のない小百合に代わりすぐさま応輔への着信。

　応輔の指先は、ショーツのゴムの圧力を忘れるように抜き去られ、小百合の陰門に触れていたのは逆の手で携帯を覗き込んでいた。

　小百合は、スカートとその中身を直すようにすると、横目で見ている応輔の視線をあえて反らしていた。圭輔との会話が終わる頃、先ほどまでの空気を真空にするように、ありきたりな言葉でその場を去った。

「明日、がんばってね。」

　応輔は、頷くのが精一杯で、今起きていたことの謝罪も出せぬままドアの向こうに消える小百合を目で追った。指先の香りは、まだ消えぬまま、応輔の男としての覚醒に尽力していた。
【前】/【次】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
はちみつ太郎さんの作品集→はちみつ太郎さんの作品
2015年9月28日掲載
Copyright (c) 2015 はちみつ太郎 All rights reserved.
▲