レビレート


レビレートはちみつ太郎作
６　夕方のイブニングローカルニュースの取材で、放送局から近い県民ホールに小百合はいた。真新しいスーツを着込んだ新入生がカメラを気にするように、小百合の方をチラ見している。　数人の男女にインタビューをし、地元国立大への入学後の意気込みなどを聞いて回っていた。インタビュー終わりに、最近会話の少ない義弟がこちらを見ていた。小百合はきっかけが欲しかった。　仲直り、喧嘩もしていないが、気まずさはそれ以上だった。あのまま、電話が鳴らなければ、小百合にも応輔にも着地点は見えていなかった。　小百合は、ディレクターらをおいて、少しの時間をもらう。放送用の画像は十分収めていた。応輔は、そばに知り合いもなく、カップコーヒーを飲み干そうとしていた。　小百合が近づくのが判ると、少し照れたように会釈する。取材に来るのは判っていた。どこにいるのかと、探したくらいだった。が、小百合と顔を合わせしゃべり始めた時は、よそよそしい感じで近親者らしからぬ装いで接する。　たわいもない話。大学の近所に越した部屋の具合。昨日の夕食。友達が出来たかどうか。明日の予定。今日の予定。他にも聞いたことはあったが、あまり残っていない。　残った言葉は一つだった。「小百合さん、この前はごめん。」小百合の返答は、笑顔だった。困惑も、拒絶感もない。応輔は、小百合の笑顔から、あの一件は、誰も知らない二人の秘密。そう解釈するだけだった。　小百合の気持ちはわからない。応輔の謝罪の言葉を聞いた小百合は、程なくして言葉が耳に溶け込むようになった。父の言葉を受け入れ、地元国立大に進学した応輔の気持ち。変化の理由。　理由の一つは、応輔も伝え切れていない。小百合にはまだ気づかれていない。身近に接することの出来る空間にいたい。義姉の存在が地元に残る唯一の理由だった。　程なくして、小百合はスタッフに呼ばれた。小百合は、腰掛けていたベンチから離れると、軽く手を振り仕事に戻っていく。脇にいた同級生になる男は、応輔に問うた。　小百合の存在、応輔との間柄だった。応輔は、端的に答えた。兄の嫁。新入生の男は、うらやんだ。ローカル局アナとはいえ、顔立ちスタイルに恵まれた小百合の親族であること。　応輔は、鼻が少し高い。が、それ以上に不便なことも多いと返答する。不便なことは何も無いのだが、小百合の女の部分も知っていると言いたい口が、顔を出しそうだ。誰も信用しないだろうことは判っていた。　わだかまりは解けた。小百合は謝罪の後から、いつもの、以前の小百合に戻ったように感じた。　これからのことは、これから。応輔は、名前も知らぬ新入生と会話を始め、夕食の相談を始めていた。　小百合は、夕方の放送を終え、自宅のある集落までの県道を急ぎ帰る。応輔の入学式の取材をしたこと、元気そうであったことを豪輔に告げると、満足げな笑顔を見せている。圭輔は青年部の寄り合いでその場にはいない。　出勤前の豊乃は、小百合に応輔のことを色々問うた。地元に残った理由。両方受かったのに国立大を選んだ理由。小百合は、それは応輔にしかわからないとだけ答える。　豊乃は、ある一定の理解をしている。応輔の心変わりのいきさつ。全てを見通したわけではない。が、受験地から帰宅した応輔と小百合のよそよそしさ。　圭輔からその日の電話の内容を伝え聞いたこと。二つの事柄は、豊乃の想像を膨らませる。膨らんだ想像の一旦は事実だが、より深くまで進んでいないことは当たっていない。　小百合への問いはオブラートに包む。小百合が応輔の心変わりを促したのだと。豪輔は、小百合に感謝を伝える。小百合は、照れくさそうに何もしていない、応輔の心境の変化と、家を思う真面目さだと伝えるだけだった。　豊乃は、その夜あったことを想像しながら、小百合を見つめ、２１時の出勤時間を向かえ出かけていった。　小百合は、一人眠る寝室の布団の中にいる。食事を済ませ、湯を浴び、一日の疲れを癒すように布団の中に身を預けた。二日後にある、イベントの台本を少し読みながら。うとうと出来ずにいた。　抑制できない排卵の日。小百合は精を欲するように、台本をおき、少し冷えた指先を寝巻きの内側にくぐらせる。パンツのゴムをずらし全部脱ぎ捨てず、膝にかかるよう留めた。体は九の字に折り、右手が上になった形で太ももの隙間に冷えた手をくぐらせた。　ショーツの上から、自らの疼きを確かめるようになんども摩り、開けていた目を閉じ、指先を誰かのものとシンクロさせていった。声をあげず、女の芯を温めていき、排卵を促すよう女を火照らせている。　薄ピンクのショーツは、程なく染みを作り、中指の摩擦で筋を引いていく。その動きは、緩慢で臆病だった応輔のそれと同じようで、刺激だけを求めるわけではない小百合の心はそこにあった。　締め付けられるような胸の収縮は、あの時と大差なく、応輔の指と化けた小百合の指がショーツの隙間をのぞいている。ショーツの濡れ具合は頃合で、指先は応輔と同じように移動する。あの時と同じようにショーツのゴムをもぐり、色は違えどワンポイントのリボンが盛り上がると、繊毛を抜け、陰唇の重なり場に指先は触れる。　剥きあげず、包皮を揉みこんでいくのは応輔とは異なる。自身の女の部分の扱いは心得ていた。指で転がしつつ、体は九の字から仰向けへ体を変える。膝を折り、閉じず開かず半開きの股は、応輔の分身のような手を甘押さえしている。　包皮からその先に進むと、陰唇をかき分け、サーモン色した膣前庭は指先に湿り気を感じさせていた。応輔の分身は、女の柔肉を平らげるように前庭を上下に押し開き、蜜壺を開封した。指先は右へ左へ前庭を押し広げそのうち関節で上下の押し開きを指図する。　付け根まで飲み込まれると、上側に眠る敏感なスポットを指の腹でなぞる。応輔はここまでしなかった。たどり着かなかったが正解だ。ここを知らないのかもしれない。圭輔もここに触れてくれることはない。昔、体を許した男。その男に教えられたその場所を応輔の指先に念じる。　小百合は自分ではない指先に、Ｇの刺激を求めていく。くちゅくちゅとした清音からぐちゅぐちゅという濁音に変わる頃、目を瞑った小百合のまぶたの裏には、あの日の応輔が映っていた。「応くんっっ。」　旦那ではない義弟の名を布団の中で呼ぶ小百合。指先に感じる自分の恥汁は、応輔の指先にシンクロさせるようにかき混ぜていた。ぐちゅぐちゅと音をたて、腹筋と背筋は交互に力が加わりながら、伸び縮みを繰り返している。　仰向けながら体は丸く曲がり、指先の進入角を考えながら、鍛えられぬ膣肉のＧの部分に応輔を感じさせる。「あぁ、応くんっっっ。」　義弟に正統な交わりを欲しているのか、強引なる交わりを望んでいるのかまだ半疑である小百合だが、応輔の名を性感でビクつくたびに呼んでいた。　１本の指は、数を増し、二つの指で慰め始める頃には、閉じ気味の膝も完全に開脚し、隠しきれぬ布団はズレ、かろうじて下半身を隠す程度まで下っている。　掻き毟るような指先の動きは応輔のそれをはるかに凌駕し、シンクロしていたはずの指先は、小百合の本性が宿ったように激しい。仰向けの小百合は枕を外し、顔にうずめる。漏れる喘ぎは、豪輔に聞こえぬよう枕で消音させ、腹筋に力をこめている。　腹に力が入り、喘ぐ声を抑えるたび、指先にかかる膣肉の圧力はぬめりとあいまって性とは反対に淫門から吐き出されてしまう。「お、おぉぅくんっ。も、もっと、いいよぉぉ。」　そこにいない応輔の名を呼び欲しがり、再びぬめる膣肉を掻き分け、前庭の上側のＧのポジションに指先を潜り込ませた。潜り込むだけでいい。そうすれば、滑りと圧力で再び押し出される。　なんどもなんども繰り返す。小百合は絶頂と解放、それを繰り返すたびに、枕の奥に応輔の名を呼び、行き着けぬ生殖のもどかしさを声にした。「お、おうくん。」　小百合は、受験地での一夜、未遂に終わった性夜を思い出しながら排卵日の一人寝を、義弟にシンクロさせた指先に慰められ、果たしきれず果てないジレンマに沈んでいった。　ジレンマを残したまま小百合は、慰めの指先を抜き去った。息を整えるように、目を閉じる。指先の濡れは空気に触れながら乾き、生殖のジレンマを忘れるように元に戻っていた。　ショーツを戻し、濡れた違和感をそのままにし足を閉じ、布団に潜り込む。ふと襲う睡魔。生殖の欲求をとどめるようにしながら小百合は目を瞑り、眠りに落ち、浅い眠りに変わっていた。　３０分ほどたっただろうか、睡魔の遠ざかりを感じた。去り行く睡魔の後を引き継いだのは、酔魔に犯された圭輔の指先だった。　九の字に眠る小百合の背後には、同じように重なる圭輔の息づかいが感じられた。　小百合の体を痴漢のように触り、前戯には満たない動きで小百合を起してしまう。小百合は圭輔に声をかけなかった。圭輔を、名で呼びこの先の要望を問いかける事はしなかった。　目を瞑りシンクロさせるものを手から体全体にし、まぶたの裏にある応輔の顔を思い浮かべながら圭輔の欲求を受け入れていく。
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2015年9月30日掲載
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