若妻・預かります ひら 作
◆第１３章 　週末の２日間、俺と優美はお互いの身体を貪るようにして、何度も何度も抱き合った‥‥。 　その間、堅く勃起したペニスを彼女の膣の中に何度か挿入してみたが、いずれも直ぐに萎縮してしまい、正常に機能することはなかった。 　それでも俺は、優美の献身的なフェラチオやパイズリによって何度も達していたし、彼女の方もたくさんの絶頂を迎えていた‥‥。 　お互いに、膣の中では正常に機能しない二人だったけれど、俺はこういう愛し方があってもいいんじゃないかと思えるようになっていた。 　しかし、優美にとっては少し違っていたのかもしれない。 　求め合えば求め合うほどに、それでも一つになることができないという現実の前に、少しずつ打ちのめされていくように見えたからだ‥‥。 　俺はそんなもどかしい状況を何とかしようと、彼女の身体を激しく責め立てた。淫らによがりまくる身体を更なる絶頂へと何度も導いていった‥‥。 　しかし、優美の笑顔から悲しみの色を消し去ることはできなかった。 　俺と優美‥‥そして朝倉との間のこれからの事。二人が抱えている心の病の事。それらの問題を何とかしないかぎり、俺たちはこれ以上前に進んで行くことができないのかもしれない。 　日曜日の夕食後、俺はいつものようにソファに座って彼女の炒れてくれたコーヒーを飲みながら、そんな事を真剣に考えていた。 　私は、少し沈んだ表情でコーヒーを飲んでいる彼の姿を眺めながら、これから先の事を考えていた‥‥。 　晃さんに愛されていることを実感すればするほどに、私の不安はどんどんと大きくなっていく。私は彼のパートナーとして本当にふさわしいのだろうか‥‥という疑念が日増しに高まっていく。 　汚れた身体を抱えながら、自分の家族からも逃げ続け、何の希望もない抜け殻のような人生を送ってきた私に、彼から愛してもらえる資格があるんだろうか‥‥。 　彼を近くに感じたいという理由だけでここにやって来て、最初は彼との思い出ができればそれだけで十分だと思っていた。 　けれど、一緒に暮らせば暮らすほどに、彼に惹かれていく自分がいた‥‥。 　だから、こんな私を愛していると言ってくれた時は本当にうれしかった。こんな幸せな日々がずっと続いていくのではないか‥‥という希望を抱いてしまっていた。 　けれど‥‥、彼を初めて自分の中に受け入れた時に、私は痛感した‥‥。 　彼を満足させてあげられない私の心と身体では、いずれまた、破局の時がやって来てしまうのではないかと‥‥。 　彼を好きで好きでたまらないのに、どうすることもできない自分自身の無力さに、絶望感だけが募っていく‥‥。私はこれからどうしたらいいんだろうか‥‥。 　 　そんな事を考えていると、スカートのポケットに入れていた私の携帯電話から、数ヶ月ぶりの着信メロディが聞こえて来た。 　携帯を取り出して、そこに表示されている見覚えのない電話番号に首をかしげながらも、私は応答のボタンを押していた。 「もしもし、どちら様ですか？」 「優美、久しぶりだな‥‥。元気に暮らしていたか？」 　その声を聞いた瞬間にソファから立ち上がっていた。全身が激しい緊張と恐怖に総毛立っていくのがわかる。 「お、叔父さま‥‥！？」 「ふふっ、覚えていてくれたようだな‥‥」 「ど、どうして‥‥この番号を‥‥」 「製薬会社に関係のある専門大学で山之辺の名前を使っておいて、どうしたもないだろうが‥‥。多分、お前の両親にも既に伝わっているはずだ」 　私は自分の迂闊さを後悔しながらも、昔と変わらない叔父の声色に全身が震え出すのを抑えることができなかった。中学生の頃の忌まわしい出来事が蘇ってくる‥‥。 「お前が家を出て以来だから、こうやって話をするのは９年ぶりになるのか‥‥。さぞや美人になったことだろうな」 「よ、用事が無いのなら電話を切ります。あなたに話す事は何もありません‥‥」 「優美‥‥、俺はお前に謝罪をするために電話をしたんだ‥‥。直接会ってはもらえないだろうからな」 「くっ、今さら‥‥どうして‥‥」 「確かに、今さらだとは思う‥‥。謝罪をしたからと言って、それで許される話でもないしな‥‥」 「そ、それじゃあ、なぜ‥‥？」 「半年前に‥‥俺がお前の父親に社長の座を譲り渡して、引退をしたのは知っているだろう？ それは‥‥俺の余命があと１年と医者に宣告されたからだ。乱れた生活を送ってきた報いという事なんだろう‥‥。だから、この世から消えてしまう前に、お前に謝っておこうと思ったんだ‥‥」 「そ、そんな‥‥」 「優美‥‥、本当にすまなかった。お前の人生を滅茶苦茶にしてしまった責任は全て俺にある。けっして許してはもらえないだろうが、死に逝く者に免じて謝罪だけはさせて欲しい‥‥」 　叔父のその言葉に、私は激しい衝撃を受けていた。 　憎んでも憎みきれないほどに‥‥私の人生を変えてしまった‥‥あの叔父が、まもなく死ぬ‥‥。 　激しく打ち震える身体‥‥。何も考えられなくなっていく頭‥‥。私を形作っているモノの全てが、ガラガラと崩れ落ちていくように感じた‥‥。 　気がつくと、私は晃さんに身体をしっかりと支えられていた。ぽっかり空いた心に少しだけ精気が戻って来る。 「それじゃあ、教えてください‥‥。なぜ、あんな事をしたんですか‥‥？ 私はあなたを心から信頼していたのに‥‥」 「それは、お前をこの世の誰よりも愛してしまったから‥‥。あの晩、天使のようなお前の寝顔を見た瞬間に、自分の気持ちを抑えることができなくなっていた‥‥」 「そ、そんな‥‥身勝手な理由で‥‥」 「そうだな‥‥。俺はどうしようもなく身勝手な男だった‥‥。自分の娘のように愛していたお前の心と身体をズタズタに引き裂いてしまったのだから‥‥。本当にごめんな‥‥」 「ううっ‥‥、お、叔父さま‥‥」 　私の頬を止めどもなく涙がこぼれ落ちていく。この世の誰よりも憎いはずなのに、この死に逝く叔父の言葉に、心が張り裂けてしまいそうになる自分がいた‥‥。 「優美‥‥。こんな最低の男のために悲しんでくれて‥‥ありがとう‥‥」 「ううっ‥‥、叔父さまは‥‥ずるい‥‥、ううっ‥‥」 「そんなお前に、俺からの最後の言葉を贈る‥‥。お前は今、愛している男がいるか？」 　その問いかけに思わず晃さんの方を振り返ると、彼は大きく頷いてくれた。私の心に少しだけ勇気が湧いて来る。 「‥‥はい。大好きなヒトがいます」 「優美、その好きな相手に自分の全てをさらけ出せ。そうして初めて、お前は今まで背負って来た重い枷から解放される‥‥」 「‥‥重い枷‥‥？」 「お前にはわかっているはずだ。つらいかもしれないが、俺との忌まわしい過去の出来事から目を背けるな。あの中にこそ、お前のもう一つの姿があるのだから‥‥」 「もう一つの姿‥‥？ わからない‥‥、私には何のことだかわからない‥‥」 「思い出せ‥‥。自分のもう一つの真実をしっかりと受け止めて、それをさらけ出さない限り、お前の望む幸せは得られない‥‥」 「叔父さまっ！」 「優美、これでさようならだ‥‥。俺はいつまでもお前の幸せだけを願っている‥‥」 「叔父さま！ 叔父さまっ！」 　そうして電話はプツリと切れた。私は携帯をかたく握り締めたまま、しばらくの間呆然と立ち尽くしていた‥‥。 　その日のベッドの中で、私は意を決して、晃さんに叔父との会話の内容を全て打ち明けることにした‥‥。彼は私の話す言葉を一つ一つ噛み締めるようにしながら、黙って最後まで聞いてくれた。 「そうか‥‥。自分のもう一つの姿から目を背けるなと言われたのか‥‥」 「私には‥‥どういう意味なのか、よくわからないんです‥‥」 「優美は、その時に起こった事を‥‥覚えていないのか？」 「は、はい‥‥。叔父からどのような仕打ちを受けたのか‥‥ほとんど思い出せないんです‥‥」 「無理もない‥‥。中学生の少女には耐えきれない辛い出来事だっただろうからな‥‥」 「‥‥‥‥」 「けれど、その叔父さんの言葉が正しいのだとすれば‥‥、君はそれを思い出して、しっかりと受け止めないかぎり、心が解放されないのかもしれない‥‥」 「え‥‥？」 「優美がアソコで感じることができないのは、その時の出来事から目を背けているせい‥‥という事なんじゃないだろうか‥‥？」 「‥‥そ、それは‥‥」 「優美、俺は今のままでも幸せだと思っている‥‥。過去を思い出して辛い思いをするぐらいなら、ずっとこのままでもいいんじゃないか？」 「私も‥‥すごく幸せです‥‥。けれど、今が幸せであればあるほどに、将来に対する心の中の不安も大きくなっていくんです‥‥」 「優美はどうしてそんなに不安を感じるんだ‥‥？」 「大学生の頃に付き合っていた彼も‥‥先ほどの晃さんと同じようなことを言ってくれました‥‥。けれど、そう言ってくれた彼は、１年後には私から離れて行ってしまった‥‥。愛しているけど、もう耐えられないと言って‥‥」 「そうか‥‥、そんな事があったのか‥‥。それじゃあ、俺がどんなに優美が愛おしい存在だと言っても、信じてもらえないかもしれないな‥‥」 「い、いえ、そんなことは‥‥」 「けれど、それを言ったら、俺が君を満足させられないせいで、優美の方から離れて行ってしまう可能性だってあるんだぜ？」 「いいえ、そんな事は絶対にありません」 「だろう？ 俺たちは同じ対等な立場にいるんだ‥‥。一緒に悩みながら、これからの事を考えていくしかないんじゃないのか？」 　私は彼の言葉が心の底からうれしかった。けれど、本当に私たちは対等な立場にいるんだろうか‥‥。私は彼と違って、自分の人生からずっと逃げ続けてきたのだから‥‥。 「晃さん、ありがとうございます。けれど、もう少しだけ考えさせてください」 「優美‥‥」 「必ず自分なりの答えを出しますから‥‥」 「わかった‥‥。けれど、これだけは忘れないでくれ。俺は優美と一緒に居るためだったら、朝倉に一生恨まれてもいいと思っている‥‥」 「晃さん‥‥」 　彼に出会えて本当によかった‥‥。たとえ別れる事になったとしても、私は今の言葉だけで、これからの人生を生きていけるような気がしていた‥‥。
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2010年3月13日掲載
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