ずっと愛してます２
羅衣 作
第59話 帰還と新たなる命


　郁美は、改めて健二の存在の大きさを思い知った１週間であった。

　長老達とのひとときも楽しくて、彼らは惜しみになく色んなことを教えてくれた。
　男達が女体を苛めることで興奮を得る生き物なんだとも再認識した。
　健二が郁美達を縄で縛りたがるのも、今までは今ひとつ理解出来なくてプレイの一環で受け入れてきただけであった。

　それも男達の潜在的な女達の裏切りへの不安感から、女達を縛り付けて拘束し自分だけのものにしたと自己満足したい欲求から生まれた行為だと知った。

　もちろん非日常的なことをされて辱められる興奮、拘束されることで男に所有物と扱われることへのマゾ的な快感も女が感じることは否定出来ないが、泣き叫んだり喘ぐ女体の業を引き出すことに男達は満足しているんだと理解したのだ。

　正直、長老達との経験は濃厚すぎて、健二との関係がなければ彼らの性奴隷に墜ちてもおかしくないものであった。
　今でも縛られて恥ずかしい体勢で天井から吊されて、身体中を舐められたり、筆で弄ばれたり、そのままの体勢で女芯を貫かれた時の凄まじい快感が肢体に生々しく残っていた。

　しかし気がつけば彼らに跨がり、彼らの精の全てを吸い尽くしてしまった。
　いつしか彼らに対して、可愛いおじいちゃん達との思いが強くなり、どこまでも尽くしてあげたくなる感情が抑えられなくなった。

「５大老」といっても、やはり男である以上、萎えた肉棒を女に優しくフェラチオしてもらって力を取り戻した時に浮かぶ歓喜の表情が子供のようであるのは隠しようがない。

　近年、特に若い女性が老世代と結婚する歳の差婚が目立つのは、この感情から女性に芽生える母性本能が理由なのではないかと、ふと思う。
　今の若い男性に足りないのは、女性に見せる子供のような表情だと思う。

　最終日には彼らは全員涙を浮かべて別れを惜しんでくれた。
　つられて泣きそうになってしまった郁美であったが、麻輝から聞いていた通り、彼らは可哀相な男達だと再認識していた。
　彼らの余生はそんなに長くないであろうし、彼らが余生を楽しいものに出来るのであれば精一杯尽くしてあげたいと思ったのだ。

　彼らは自分に対して愛情を注いでくれるだろうことは理解していたので、その分自分もおじいちゃん孝行で楽しいセックスで満足させたいと、麻輝が以前教えてくれたことに共鳴していた。

「可愛いおじいちゃん達 うふふ」


　老人相手とはいえ５人の経験豊富な男性相手の１週間は、若い郁美にとってもかなりハードな経験であった。
　鈍い疲労感が腰に残り、足取りも重い。
　それでも帰ったら健二に抱いて欲しかった。
　出発の日の悲しそうな健二の表情が、今になって郁美の心を締め付けていた。

　あの時は、健二の暴走を懲らしめることと女子会を守るの為に、武史をいかに成長させるかで頭の中がいっぱいであった。
　健二の心情を思い遣ることが出来なかった自分の未熟さを反省していた。
　彼は妻を信じる気持ちと不安の板挟みで、苦しかったんだと今頃気がついたのだ。

　思えば再会し結婚して以来、健二と何日も離れ離れになったことがなかったのだ。
　真也の元から還った時の健二との情熱的なセックスがどんなに身体に染みたかは言葉にしたことはなかったのだが、今までで最高のセックスだったと思っていた。
　亜紀には絶対健二には教えちゃ駄目だと言われたが、今回の経験から今度は教えてあげようという気持ちに変化が生じていた。



　新神戸駅のホームに佇む健二を見つけた瞬間、郁美の感情が弾けた。
　真っ直ぐ健二の腕の中に飛び込んだ。
　いつもの匂い、いつもの暖かさ、そしてなにも言わずにギュッと抱きしめられてキュンと切なくなる抱擁。
　郁美はこれがあれば、もうなにもいらないと思った。

　彼女の居場所、還る場所はここなのだ。
　背伸びしてキスをねだる。
　蕩けそうになるキスを返してくれる健二が大好きであった。

「健二さん ただいまぁ 愛してます」
「逢いたかったよ えっえぇぇぇぇぇん」

　２人は人影が無くなるまで抱き合いキスしていた。

　健二は、疲れて帰ってきた妻を癒そうと、新神戸オリエンタルホテルのスイートルームをとっていた。
　まず一緒に入浴して、シャンプーリンスも手抜きせず全身隈無く洗ってあげる。
　髪のドライヤーから全身マッサージを施し、愛情込めて癒しに注力する。

　笑顔で帰ってくれたことが健二は救いであった。

　いつものように郁美から抱いてとねだられる。
　その瞬間、健二の中で抑圧された感情が爆発した。
　改めて自分が郁美に夢中なんだと思い知った。

　この１週間ずっと郁美への自分の気持ちを深く考える良い機会となったのだが、自分がそもそも性の世界に生きてきた目的は出世ではなくて郁美という女性に出会うためだったのではないかと悟ったのだ。

「郁美 還ってきてくれてありがとう」
「俺は 君無しでは 生きる意味がないんだ」
「愛してる ずっと愛し続けること誓うよ」






亜紀 「凌 りょおぉぉぉぉぉ」「だめぇぇぇ 生まれそう」「あひぃいいぃぃぃ」
凌　　「えぇぇぇぇぇぇ えらいこっちゃ」
亜紀 「あ ひぃ いたいぃぃぃ うぅぅぅぅぅ」
凌 　 「まってぇ えぇぇぇぇ」「救急車など待てん おいで 俺が連れてく」

　凌は慌てふためいて車を出し、身重で産気づいた愛妻を運ぶ。
　途中何度も泣き叫ぶ愛妻を励ますが、なにも出来ない自分に苛立つがどうしようもない。
　病院になんとかたどり着いた途端に、気が緩んだのか破水してしまう亜紀に病院スタッフは大騒ぎとなった。

　凌からの連絡で、担当医を含めて万全の体制で待機していた病院スタッフであるが予定日より１ヶ月も早い事態に大慌ては隠しようもなかった。
　凌は亜紀を病院スタッフに託した時点でへたり込んでいた。
　こればかりは新米のパパ候補である以上、オタオタするのは仕方がない。
　真っ先にまた身重になっている里奈が駆けつけてくれたので、凌はやっと落ち着きを取り戻した。

凌 　 「亜紀が」
里奈 「もう凌らしくない もっとしっかりしてよ」
凌 　 「すまん」「あんなに痛がってると平静でいられない」
里奈 「もう男って」「こういう時 頼りにならないんだから」
敬子 「凌さん 里奈姉さん 亜紀姉さんは？」
徹　　「大丈夫ですか？」
里奈 「わたしも 来たばかりなの 行きましょ」
敬子 「徹 お姉ちゃん達に 連絡とって」
徹　　「わっ分かった」

　激しい愛の第１合戦が終わり、余韻で微睡んでいるときに郁美の携帯が鳴り響いた。
　郁美は正直電話に出たくなかったし、健二も出て欲しくなかった。
　しかし呼び出し音は郁美が徹限定に設定しているメロディだったので、なにかの急ぎのようだと察していた。
　徹ほどの察しの良い子が、今２人が愛を確かめ合っている大切な時間だと知らないで電話するとは思えなかったからだ。
　郁美はやっとの思いで携帯に手を伸ばす。

郁美 「はい 徹ぅ どうしたの」
徹 　 「郁美ぃ 一大事」「亜紀さんが 産気づいて 今病院」
郁美 「えっえぇぇぇぇぇぇどうして １ヶ月早いよ」
徹 　 「知らないよ もう敬子も 里奈も 来てるよ」
郁美 「わかった すぐ行くから じゃあ あとで」
徹 　 「うん 待ってる」
健二 「うん？ なに事？」
郁美 「亜紀が 生まれるって 今 病院だって」
健二 「うわっ そりゃ一大事」
郁美 「心配だわ」
健二 「１ヶ月ぐらい早いの よくあることだろ」
郁美 「うん でも赤ちゃんが超心配」
健二 「なんで？」
郁美 「双子なの だから」
健二 「えっえぇぇぇぇぇぇマジですか」
郁美 「だから 亜紀ぃ 頑張って！！」

　２人は慌てて身支度調えると、ホテルを飛び出した。
　今日、愛車レクサスＣＴ２００ｈで来ていた良かったとステアリングを握りながら、健二は思った。
　助手席では、郁美がブツブツ亜紀の名を呟きながら祈っている。
　健二と郁美夫妻にとって、亜紀は特別で大切な女性であった。
　ある意味、彼女がいたからこそ、２人は再会して結ばれることが出来たとも言える。
　病院のロータリーにたどり着くと、郁美は車を飛び出していった。
　健二は駐車場に車を止めてから後を追いかけた。
　待合室では、不安げな凌と徹と敬子が待っていた。

健二 「あれれ 郁美は？」
敬子 「里奈姉さんと一緒に」「亜紀姉さんのところです」
健二 「敬子ちゃんは行かなくて良いの？」「亜紀はそばに居て欲しいだろう」
敬子 「里奈姉さんが」「凌さんのそばに居てあげてって」「大丈夫 ２人がいれば」
凌　　「面目ない」「俺がそばに居なきゃ駄目なんだけど」
健二 「分かります こういう時の男は駄目ですよね」「他人事じゃないです」「俺も 自信ないです」
凌 　 「初めてで どうして良いか」
敬子 「良いんですよ」「わたし達が その為にいるんですもの」「男の人は 甘えちゃって良いと思います」「ここでドーンと構えて いて下さい」
凌 　 「うわぁ 亜紀 しんどそうだな」
敬子 「初産で 双子はしんどいと思います」
凌 　 「亜紀ぃぃぃぃぃぃガンバれぇぇぇぇぇぇ」
敬子 「駄目ですよ ここ病院ですよ」「大声出さないで下さい」
亜紀 「りょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
健二 「伝わったみたいですよ」
凌 　 「亜紀 亜紀 亜紀 ・・・・・・・・・・」
麻輝 「健二さん！！」
健二 「おお ２人来たか！」
美帆 「亜紀さん どうですかって 真っ最中ですね」
麻輝 「頑張って 亜紀さん」
健二 「悠希さんと彩佳さんには 連絡ついたのかな」
徹 　 「はい」「彩佳さんは間もなく来られると思います」「悠希さんは お仕事抜けられなくて」「終わり次第来るって言ってました」
健二 「そうかぁ」
麻輝 「凌 落ち着いて下さい ここに座って」
美帆 「そうよ 凌さんが落ち着かないと」
凌 　 「そうなんだが とほほ」

　一同の長い夜の始まりであった。
　祐司、彩佳夫婦も駆けつけて、母子共々の無事を祈った。
　亜紀の泣き叫ぶ声を聞きながら、健二は亜紀もやっぱり女なのだとしみじみと思う。
　凌が顔面蒼白なのは他人事ではなかった。
　自分も郁美の泣き叫ぶ声を聞かされたら、平静でいられないだろう。


　亜紀は自分自身は忍耐強い方だと思っていたが、パクン！という下腹部の強い衝撃を受けて子宮口にズキーンと一発鈍い痛みが走った途端、もう声を出さずにいられなかったのだ。
　こればっかりはオロオロする夫を叱咤激励しつつ、ドンドン強くなる痛みに気が遠くなりそうであった。

　よりによって佐紀子がいない日に限っての出来事であった。
　佐紀子は、夫、智久の実家で不幸があり、たまたま休みを取っていたのだ。
　初産で不安だった亜紀は、佐紀子に頼んで可能な限りそばにいてもらうようにしていたのだが、その不運を呪った。

　幸い病院までは持ちこたえることが出来たが、もうそこからは地獄であった。
　真っ先に徹と敬子夫妻が駆けつけてくれて、敬子が手を握ってくれて痛み立ち向かう勇気を貰ったのだ。
　泣き出しそうな夫、凌が逆に心配になってしまう亜紀は堪えようとするのだが、絶叫しないと死ぬのではないかという痛みに負けて絶叫してしまう。

　その時に駆けつけてくれた里奈の声が亜紀を奮い立たせる。
　ママの先輩、里奈ほど心強い援軍はない。
　凌の様子を見かねた里奈の機転で、敬子に凌を託したのだ。
　すぐに郁美が駆けつけてくれた。
　亜紀は１人でなくなったので声は漏れてしまうが、もはや不安はなくなり、出産の試練と向き合った。
　里奈が呼吸のタイミングを誘導してくれると、多少楽になってきた。
　まさにそんな時に、凌が亜紀の名を叫んでくれているのが聞こえたのだ。

　激痛と格闘すること数時間で、歓喜の時が訪れた。
　まず男の子が生まれて、その５分後には女の子が無事生まれたのだ。
　里奈達がいてくれなかったら乗り越えられなかったと思うほどの激痛との戦いであった。

　亜紀にとって愛しい宝物となる２つの新しい命がやって来たのだ。
　激しい疲労感の中で、里奈と郁美に抱かれて元気に泣き声を上げる我が子に対面した時に、女に生まれた悦びを知ったのだ。
　安全のために保育器に入るという我が子に頬ずりしてしまうが、同時に自身のオッパイに張りを感じて、自分は遂にママになったのだと実感した。

　そして凌と自分は、同時にお互い我が子の名前を決めなければならないという事実に気づいて悩んでいた。
　母親として、我が娘の大切な名前を決めることが最初のお仕事であった。

　凌はなにより亜紀が無事だったことに安堵して、腰が抜けてしまった。
　気が強い亜紀が泣き叫ぶ姿を初めて見て、一大事だとオロオロしていたのだ。
　前妻、和美を亡くして以来、彼は妻を失うことを一番恐れていた。
　やっと何年も追いかけ回して、妻とした亜紀を溺愛していた。
　その亜紀が、遂に凌が願っていた我が子をプレゼントしてくれたのだ。
　それも１度に、男の子と女の子２人同時だ。
　あまりの嬉しさに万歳してしまう。


　この日のために地元経営が苦しかった病院を買収し、経営を立て直して新しい建物も建てて優秀な医師も集めたのだ。
　最新設備が亜紀のピンチに役立ったと確信していた。
　ここは女子会メンバーの為に設置した病院でもあり、避妊や不妊治療などの彼女達の健康管理を担う大事な拠点になるだろう。

　里奈の初産には残念ながら間に合わなかったが、これからはここが活躍するだろう。
　もちろん通常の病院業務は行われているが、最上階は女子会限定の特別フロアとなっていて一流ホテルスイート並みの居住環境とスタッフが常駐しているのだ。

　間もなく完成する新居となる豪華マンションには、１階は女子会と田原グループ関係限定の２４時間保育所を設ける予定であった。
　ここには悠希の要望もあって、悠希が所属する倶楽部のホステス達の子供達も受け入れることにしていた。
　料金は全て無償で、凌のポケットマネーであった。
　凌は亜紀と悠希を通して、この辺りの充実が女性陣の安全・健康を守るために最も重要なのだと知ったのだ。

　凌を筆頭に男性陣は号泣であった。
　それぞれの色んな思いが交錯して、感動の輪が広がっていた。
　ややお疲れ気味の亜紀であったが、男性陣は全員彼女を眩しく感じた。
　新生児室の赤ちゃんに、男達は色んな思いを馳せていた。

　祐司は今更ながら彩佳との子供が欲しくなっていた。
　徹も、いつかは敬子との赤ちゃんを欲しいと決意を新たにしていた。
　健二は、昨日今日なので、思うところがあって涙が抑えられなかった。

　亜紀は、女子会みんなに囲まれて幸せであった。
　みんなからお祝いと慰労の言葉をかけられて、女であった悦びを噛みしめていた。
　高校を卒業して風俗の世界に飛び込んだ時には、こんな女の幸せなど捨ててしまったと考えていたのに、凌に出会い一変した人生だったと思う。

　そして東京に行って動向を心配していた郁美が笑顔で駆けつけてくれたことが、なによりのご褒美であった。
　悠希がやっと駆けつけたのと同時に、女子会は亜紀を囲んでしっとりと語り合った。

亜紀 「里奈 ありがと」「アドバイスバッチリだったわ」
里奈 「でしょ 我慢は駄目よ うふふ」
亜紀 「ちょっと 凌 可哀想だったかな」
里奈 「いいのよ 産み苦しさ教えてあげないと」
郁美 「なに アドバイスって」
里奈 「うふふ 我慢しないで 泣け 叫べ だけよ」
郁美 「なるほど」
麻輝 「やっぱり 痛かったですか？」
亜紀 「うん ちょっとビックリしたけど」「うぎゃーって叫んだら 意外と耐えれたよ」
美帆 「うぅぅぅん なんか分かる気がする」
麻輝 「あはっ 美帆は違う意味で言ってない？」
郁美 「ある意味 近いのかも」
里奈 「確かに あはっ」「亜紀 疲れたでしょ 少し寝た方が良いわよ」
亜紀 「うん でも みんな そばにいて欲しいの」
郁美 「いいよ 居てあげるから」
一同 「了解ですぅ」
悠希 「わたしは 彩佳ちゃんと」「男性陣 面倒見てくるね」
亜紀 「悠希 いつもありがと 彩佳ちゃんお願いね」
彩佳 「お任せあれ お互い様です では お大事に」
一同 「よろしくぅ」

　男性陣は専用ダイニングリビングでくつろいでいた。
　正直、女子会の輪に入りづらく淋しかったのだ。
　そこに悠希と彩佳がやって来て、様子を見に来てくれたので場の雰囲気が一気に和らいだ。

悠希 「あれれ 皆さん どうしたんですか？」
凌　　「ちょっと しんみりしてしまった」「ここ 広すぎたかな がはは」
彩佳 「淋しかったのかな」
悠希 「お摘み作るから お祝い会しましょ」「皆さん 朝までは」「亜紀さんのそばに居てあげるおつもりでしょ」
祐司 「なるほど 助かります」「うん めでたい 一杯やりましょう」
彩佳 「では わたしが足りないもの買ってきます」「悠希さん どうですか？」
徹 　 「あっ 僕もお供します」
悠希 「助かるわ」

　深夜から始まったお祝いの席は、麻輝と美帆も合流して大いに盛り上がったのだった。


　亜紀の出産は新しい時代の幕開けを予感させる出来事であった。


つづく
【前】/【次】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
羅衣さんの作品集→羅衣さんの他作品
2019年12月15日掲載
Copyright (c) 2013-2019 羅衣 All rights reserved.
▲