ずっと愛してます３
羅衣 作
第13話　禁断２


　直前に発表された出演者とお題目の変更に、誰も異議を唱えなかった。
　むしろ驚きが先行して、会場はざわついた雰囲気となった。
　もともと全国から集まった目の肥えた者達にとって、輪姦ショーなどありふれたお題目でしかなかった。
　それが「会」で注目の兄妹による、初めての近親相姦セックスを披露するというのだから盛り上がらない訳がなかった。

　特に、いきなりＳ級性調教師に抜擢されたアテナ（郁美）への関心は小さいものでは無かったというか、この日皆が集まったのは彼女を見たい逢いたいがメインであったとも言える。

　会場はずっと乱交一色となっていたが、さすがに数時間も経てば平静を取り戻してパーティ会場の雰囲気に戻っていた。
　そもそも男性陣の年齢層が５０歳代中心と高く精力が続かないのが、大きな理由の１つとなっていたのだ。
　対する女性陣はまだもの足りず一様に不満を感じていた。
　男性陣は大半は身勝手であって、欲張りで底無しとなった女性陣を満足させる者は僅かであった。
　その彼女達にとって、克也に続く関西支部の看板として登場した徹と祐司、そして九州の新星、達也は注目の人物であった。
　この３人に共通するキーパーソンが、今話題のアテナ（郁美）であった。

　彼女達にとってアテナは娘のような若さであり、彼女達が愛してやまない岩永健二の若妻であった。
　アテナは、彼女達が欲しいと思う男達をも独り占めしていたのだ。
　それだけでも想像を絶する嫉妬を一身に集めていることを意味した。
　しかしアテナは５大老達の寵愛も独占しており、日本ではもはや敵はいない女として頂点を極めたといっても大げさではない。
　アテナのお願い、おねだりは、人の命すら左右する影響力を有していたのだ。

　レイナ（麻輝）とマリア（美帆）の２人は、健二の秘蔵っ子ということに加えて、長い年月を経て彼女達としても２人の実力は認めざるを得ないレベルであった。
　アテナは、その２人を凌駕する評価をいきなり受けていて、優れた男達を全て独占しているのだ。
　それは元来、嫉妬深い女という生き物の中枢神経を刺激するには十分であった。
　馬鹿げたことだが、彼女達は真剣に娘のような若い女に対して、殺意に近い憎悪似た嫉妬を抱いていたのだ。

　それは徹と環の母親、優衣ですら多少なりとも抱いている嫉妬心と通じるものであった。
　優衣は、彼女達の中ではトップスターであり、美魔女として憧れの対象であった。
　その彼女ですら抱く感情を、普通の彼女達が何倍も強く抱くのは当然と言えば当然であった。
　だからこそ、突然の発表内容は驚愕であった。
　いくらＳＭや夫婦交換、スワッピングが当たり前の世界でも獣姦と近親相姦は忌避する傾向が強かったのだ。
　人としてタブーだという、ある意味、常識的な考えが「会」の中でも主流であるのは滑稽でもあった。

　会場にいた男達の反応は、女達とは真逆の反応を見せていた。
　男達は、それまでの行動を中断して、ステージ上へ意識が向いている者ばかりであった。
　なによりゼウスを筆頭とする５大老とご隠居の面々が一様に興奮してステージにかぶりつきの体勢であった。

　男達は、既にアテナに興味津々で、「会」が提供した彼女のプロフィールと雑誌のグラビア並みの写真パンフレットで全員魅了されていたのだ。
　レイナとマリアとは全く違う天使降臨だと誰もが期待していたのだ。
　それはオープニングショーで登場したアテナの妹とされているアフロディア（敬子）の美しさで確信に変わったのだ。
　男達には、彼らにとって天使かどうが大事であり、抜擢がどうこうとか、地位がどうこうとか、全く眼中にはなかったのだ。

　「会」は男女平等は名ばかりであり、事実上の実権は５大老を中心とする男達にあったのだ。
　実際、５大老どころか、その下の実質的に組織を動かしてる「１２人衆」にすら、過去も含めて誰１人して女性が任についたことがなかったことからも分かる。
　この事実を多くの者が気がついていないが、健二と郁美夫妻は「１２人衆」の次席に登り詰めていて、現在の席に空席が空き次第任官するという段階になっていたのだ。
　つまりアテナこと郁美は、明治維新直後に結成された１４０年を越える「会」の歴史で初めて「１２人衆」という大役につくことを意味したのだ。
　この時代の変革を正しく理解していたのは、健二と５大老だけだったのだ。



　「九州地区会員選抜男性陣」とは、峰 達也とその子飼いの大田俊哉を中心としたテツ、健太、康二の５人であった。
　その彼らですら、相手役の変更内容に驚きを隠せなかった。
　九州経済界では結婚したい美女として有名であった郁美と紗弥が「会」に属している、参加しているということを知って、ただでさえ驚いていたところであった。
　俊哉達は郁美の兄である達也に気を遣って言葉にしないだけであり、実は気になって仕方ない話であった。
　その彼らでも達也が、実妹とセックスするという事態をどう受けとめているのか理解しかねたのは当然であった。

　真っ先に達也の変化に気がついたのは俊哉であった。
　目つきが途端にギラギラし初めて、言動は急に雑になった。
　もはや実妹のことしか頭に無いのは明らかであった。
　そこでアテナ（郁美）の写真を見て感じていた違和感の正体が、明確な形で理解したのだ。

「そう　アテナは　ありさに似ている　年齢も一緒だ」
「いや　ありさはアテナに似ているんだ」
「まさかそんなことが。。。。。。。。。。。。」
「とすると　俺は　ありさを奪われたんだ」
「そんなこと　今頃分かってどうするんだ」
「だが　そうすると　達也」
「峰さんは　実の妹を」
「そんなことが　いや間違いない」
「女として愛しているんだ」
「なんてことだ」
「いけない　僕らは　関わるべきでない」
「これ以上踏み込めば　僕らも無事では済まない」

　理由はともかく他の３人も俊哉と同意見であった。
　そもそも彼らは達也の雰囲気に危険なものを感じたのだ。
　親しき仲にも礼儀ありの要領で、ここは退くべきだという組織人としての嗅覚がそう判断させていた。
　それにアテナは５大老が肩入れしている女性であり、彼らレベルでは手出し叶わない存在であった。
　お近づきになれば出世するチャンスも大きいが、逆に粗相があれば５大老からの制裁を招く恐れがあった。
　それは日本で生きていないことを意味し、下手をすると命の危険すらあるだろうと彼らは学んでいたのだ。

俊哉　「達也さん　我々は辞退します」
　　　「お題目が変わってしまいましたし」
　　　「アテナさんは我々では・・・・・」
達也　「うん　そうだな　そうしてくれると助かる」
俊哉　「はい　そうさせて頂きます」
　　　「みんな　それで良いかな」
健太　「同意します」
テツ　「はい」
康二　「同じく」
俊哉　「それにしても　妹さんと　宜しいのですか？」
達也　「これは　郁美　いや　アテナの指名なんだ」
　　　「俺は　ずっと　ずっと愛していたんだ」
　　　「異常と思うかもしれないが　俺は」
俊哉　「お美しい方です」
　　　「おっと　そろそろ　お時間です」

　俊哉は、全てを理解したのだ。
　しかし、それがなにの役に立つのだろう。
　確かに、ありさは奪われたが、彼女は俊哉の妻だった頃とは天地ほど違う贅沢な暮らしをしているし、既に達也の子供身籠もっている状態であった。

　俊哉自身も恋の妹である真美を後妻に迎えて峰家の縁者になったことで、今では会社の要職についていて思うような仕事を自由出来る身分となっていた。
　真美は、結婚して以来、一転して家庭的な妻となってくれて、今では俊哉にとって一番大切な宝物となっていたのだ。

　心配だった借金問題も解決し、病気の母親も有名な病院に転院させることが出来て病状は好転の兆しを見せているところであった。
　達也には恩義の方が多く、もはや恨むことは出来ない心境であった。
　そして叶わぬ恋を実の妹にしている彼を気の毒に思う気持ちすら芽生えていたのだ。



　有名芸能人、誰でも知っている一流若手女優を輪姦できると有名のような企画であり、達也のテンションは、もともとかなりのハイテンションであった。
　やはりテレビ、映画で見る有名人というのは特別な存在であって、達也ほどの地方の有力者でも憧れを抱く存在であった。
　「都会の女」というカテゴリーの中で、レア中のレアであり超高級品的な存在であった。
　特に、今回の女優は清純派で売り出されている「お嫁さんにしたいランキング」でも一位二位を争うほどの話題の人気女優だ。
　その彼女が「会」に属しているというのが驚きだが、親子代々数代に渡って属している名家の出身であったらしい。
　これは達也が従える他の４人も同じ想いだったろう。

　達也のテンションは、イベント中止変更の知らせに１度どん底に落ちたのだ。
　しかし変更内容を聞かされ、最愛の妹から寄せられた誘い、挑戦状で、一転爆発寸前のハイテンションとなった。
　目は血走り、周囲の者達が退くほどのものであった。
　いくら乱交をふんだんに経験した者でも、いきなりの近親相姦話となったら動揺するのが普通であろう。
　それを驚喜し興奮しているのだから、正直理解出来ない感覚であった。
　俊哉ですら、いくら美しい女性といっても実の妹となったら話は違うと考えていたのだ。
　
　唐突に会場の照明が落とされて、とても薄いピンクの色がついたダウンライトの柔らかい照明となった。
　一気に会場の期待が高まるのが、ステージ裏にいる俊哉達にも伝わってくる。
　反対側から白いガウン姿のショートカットが印象的な美女が登場した。
　途中ターンして一回転すると、ショートカットの髪が躍ると共にガウンの裾がたなびく。
　眩しいくらい白く艶めかしい美脚が覗いて、会場の男達のボルテージはヒートアップしていった。
　静まりかえった会場で、会場の男達が生唾を飲み込む音が同時に響いたのだ。

　郁美も、これほどの大人数の観客が見ているステージに上がるのは初めてであったが、不思議と落ち着いていた。
　ある意味、観客人数が多すぎるし、会場も広すぎて、ハプニングバー経験者というもあるのでしっくりこないのだ。
　むしろ狭い空間で、とても近い距離で見られてしまうハプニングバーの方が恥ずかしいし興奮すると感じていた。
　ステージから会場を見渡すと逆光でよく見えないし、人の気配は確かに大人数の圧迫感あるが、男達の興奮した熱気が彼女の女の部分を刺激するチカラが優っていたりだった。
　男達の女体への純粋な気持ちに応えたいと感じて、自然と身体が男達を挑発するように動いてしまう。
　気がついたら、ターンしてフェロモンを撒き散らしていた。

　実兄と人前で初めてセックスするという異常なシチュエーションであったが、誰よりも兄の素晴らしさを知っているという自負があったし、今の彼女には、こういう形で実兄となぜ結ばれるのか、理由が明解な形で理解出来ていたのだ。
　郁美は、物心ついた頃から７歳年上である達也の姿を追い続けて育った。

　その目線は、紛れもなく女の目線であった。
　２人は実の兄妹でありながら男と女として惹かれ合っていたのだが、郁美が幼少期に目撃した彼の行動が全てを狂わした。
　あの時、明解な形で兄に男を感じた瞬間、彼女の中で常識的な考えと貞操感が一気に強まった。
　結果、自身も意識していない達也への女としての愛は封印され、全て無かったことになったのだ。

　兄が「会」に属していて、更に九州地区の代表的な人物であることを知った時の郁美のショックは小さいものでは無かった。
　そして郁美にとっても大切な「恋」を辱めて、苦しませているという事実は認めたくないものであった。
　夫、健二から聞かされた真実は、更に衝撃的なものであった。
　「会」が調査、分析した達也の正体、それは重度のシスターコンプレックス、つまり郁美への異常ともいえる固執であった。
　その話を聞いた瞬間に、彼女の中で全ての違和感、謎が解けたのだ。

　郁美が健二と出会った頃に一番応援してくれた兄であったが、処女を健二に捧げて女へ成長を遂げていく彼女を暖かく見守ってくれながら、ふと見せる悲しげな表情への違和感があったのは事実であった。
　こういう時期は普通の家庭なら母親が一番近しい存在であるだろうが、母親は幼少の頃から女の色香を身にまとう娘を呪われている存在として避けている有り様であったので、郁美は母の愛を知らなかったのだ。
　異性であったが、兄は彼女を誰よりも理解し愛してくれた。
　しかし、その愛は肉親の愛を超越して男としての愛だったのだ。
　そして郁美は、その事実を幼きあの日に知ったのに、今まで封印してきたのだ。

　それでハッキリと気がついたのだ。
　自分と兄は遠回りしたのだと思ったのだ。
　２人の血には先祖代々受け継がれた呪われた資質が流れていて、近親者異性への距離が異常に近い意識は実感としてあった。
　つい先程まで恋と愛し合っていた郁美には、明解な形で解決すべきなのだと理解していた。

「わたし達　離れようとすれば　するほど」
「まわりの大切な人達が傷つく」
「兄は　わたしを失ったことで　暴走している」
「こういう非日常の場で逢うのは　わたし達の宿命」
「わたし達に流れる血が引き寄せ合うのよ」

　達也は、ステージ上の妹の姿に目を奪われていた。
　久しぶりに見た妹は、美しかった。
　会場の男達が一斉に生唾を飲み込んでいるのは当然であった。
　達也は、これほど美しい女性を見たのは初めてだと思ったほどであった。

「郁美　俺は　ずっと君を　ずっと愛していたんだ」
「俺は忘れない　君が健二を失った時」
「俺の前で泣いていたよね　そして言っていた」
「わたし　健二のこと　ずっと」
「ずっと愛してます　って」
「俺は　心の中で泣いていたんだ」
「なぜ　俺は兄なんだ」
「そして郁美　君はなぜ妹なんだ　って」
「俺だって　ずっと　ずっと」
「すっと　郁美のこと　愛していたのに」
「でも　今分かったよ　君も」
「俺たちの呪われた血のこと」
「封印したいと思っていたんだね」
「それを　君は乗り越えたんだ」
「俺は　もう隠さないよ」
「そして君とひとつになりたい」

　達也は郁美の美しさに惹きつけられるように、ステージに登場した。
　普通なら拍手のひとつもあがるところであったが、会場は静まりかえり、観客はこれから繰り広げられるだろう実兄と実妹の近親相姦劇に思いを馳せていた。
　会場の男達は、一様に達也に嫉妬していた。
　なぜ兄なのだ、兄であれば引っ込んでいてくれたら自分達にチャンスが巡ってきたかもしれないと、一様に身勝手に思ったのだ。

　ゼウスですら、唖然と美男美女の兄妹の抱擁を見つめていた。
　普通の男女であれば引き剥がすことは可能であるが、この２人は血だけでなく魂で惹かれ合っていると感じて本気で嫉妬していた。

「予のライバルは　健二だけじゃなかったようじゃ」
「予の夢の女　アテナ」
「ますます　欲しくなったわい」

　健二は、コントロール出来ない嫉妬心で平常心を保つのが困難な状況であった。
　本心から、この状況は回避したいと考えていたのに、結果的に原因を作ったのは自分自身であった。
　今でもステージに駆け上がって、止めたいと真剣で考えていた。
　郁美は、別離の後も健二を信じて何年も愛し続けてくれた女であり、５大老との面談すらも乗り越えて笑顔で帰ってきてくれた女であった。
　その彼女を信じなくてどうするという言葉を自問自答して、踏みとどまっていたのだ。

　恋は、恐れていた事態が唐突に訪れたことに唖然としていた。
　なにをされても、もはや誰よりも愛している夫、達也が変わってしまうことを恐れていた。
　達也の本性が開放された時に、自分と彼の関係がどうなるのか不安で堪らなかった。
　それでも高校生時代からの自身で秘めた思いを満たしてくれた郁美を信じる気持ちの方が強くなっていた。

　ステージの２人はバスローブ姿のまま、長いくちづけを交わしながら抱き合っていた。
　それは、まさに本気で愛し合っている男女のものであって、かりそめのものではないのは誰の目にも明らかであった。
　しっかり見つめ合って、目で語り合う２人。
　口と口で糸を引くほど激しく唇を求め合う２人。
　見ている者達は一様に嫉妬していた。
　もはや兄妹の間には障害はなにも存在していなかったのだ。

「達也　わたし　ずっと知っていたの　達也の気持ち」
「あの頃は　わたし」
「子供だったから　受け入れること出来なかったの」
「でも今は違うの　わたし」
「もう昔のわたしではないのよ」
「オンナって　貪欲な生き物なの」
「健二　徹　凌　祐司　武史　克也　真也」
「いっぱい素敵な男達に出会えたの」
「それでも　まだ　欲しいの」
「恋だけなく　達也　あなたも欲しいの　わたし」

「郁美　俺の宝物なんだ」
「俺は　ずっと君を追いかけて生きてきたんだ」
「ずっと　苦しかったんだ　妹だなんて　残酷すぎる」
「諦めようとしたんだよ　俺は　俺なりに」
「健二君と再会して」
「結婚するって言ってきた君は　眩しすぎた」
「あの時　吹っ切れたと思っていたのに」
「こんな場で再会するなんて」
「他の男達とだなんて　許せない」
「俺はシスターコンプレックスって」
「言われても構わない」
「俺は　ずっと　ずっと　愛しているんだ」


つづく
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2020年4月12日掲載
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