ずっと愛してます３
羅衣 作
第22話　目覚めた天使２


　煩悩の塊、男達の不埒な神戸山の手の隠れ家でのお昼時は、刺激的な展開を迎えようとしていた。

　麻輝が奥から現れて、美帆を除く全員に色んな形状の鞭を１人ずつ手渡していく。
　郁美は、なぜか先端に赤いハート柄をあしらったラケットタイプのキュートなデザインが特徴のスパンキングラケット乗馬鞭であった。
　敬子と亜紀は、黒い本革一本鞭を手渡された。
　他は扱いやすい持ち手部分はメタル製で、鞭部分は本革スウェード製の高級感あふれる本革バラ鞭であった。

　美帆と麻輝は、もちろん使い慣れた本革一本鞭を取り出した。

　麻輝のボンテージファッションは、シースルーメッシュの透け感とＰＶＣの光沢が妖しくマッチしたブラウスとＧストリングショーツからなる黒いＢａｒメイドドレスで、彼女の爆乳が強調されて男のロマンを刺激する。
　これにウェットルックの妖しい光沢感が魅力的なフィンガーレススタイルの黒いラメ革製グローブが刺激的である。

麻輝　　「さぁぁぁてぇ　皆さんお揃いね」
　　　　「いよいよ　待ちに待った}
　　　　「マリア様のドＳ講座を開催しますぅ」
　　　　「それでは　マリア様」
　　　　「よろしくお願いします」
美帆　　「はい　では　まずは皆さん」
　　　　「鞭の扱い方を指導します」
　　　　「間違っても　自分を叩いたりしないように」
　　　　「ちょうど　そこに木馬がありますから」
　　　　「あのデカイ尻をぶっ叩きます」
　 　 　 「まずは　カナ（佳菜子）から」

　徹は、次第にマジックミラーにかぶりつきに、前のめりになって覗き込んでいた。
　彼にとっては愛しい女性達が、普通では考えられない刺激的なボンテージファッションで全員コスプレしているのだ。
　それにしても美女には、この過激ファッションは似合う。
　もはや人数が多すぎて誰を見て良いのか、脳がパニック状態で目がキョロキョロしてしまう。
　
　郁美は、もともと可憐さに妖艶な雰囲気がアンバランスに入り交じった女性で、コンパクトグラマーを体現した肢体が過激ファッションと同化していた。
　そしてハートフルなスパンキングラケットがピッタリで、Ｃｕｔｅなリボン柄のガーターストッキング姿に心を奪われてしまう。

　亜紀は、既に女王様雰囲気満載の大人の過激ファッションであった。
　スレンダーな肢体ながら、男性だけでなく女性をも惹きつけるフェロモン満載で視姦せずにはいられない。

　彩佳は、持ち前の小悪魔キャラと男前な性格が入り交じった不思議な女性だが、その肢体は男を狂わす魔力的なフェロモンが匂い立つのが魅力だ。
　このような過激ファッションを見事に着こなし、肢体を惜しげなく露出していて、徹はおかしくなりそうであった。

　葵は、最近、めきめき艶っぽさが増していて、以前のような上流階級の奥様雰囲気とは違い、魅力的な大人の女性になってきたと思う。
　師匠たる健二が、熱心に可愛がっているだけに、今では亜紀も信頼を寄せる「会」関西支部女性陣の中心人物であった。
　冒険はしないが、可愛らしさを同梱する過激ファッションを選ぶところが彼女らしい。

　悠希は、その美貌だけで圧巻な美女だが、その肢体はメガトン級の美を具現化した芸術品だ。
　切れ込み激しいＶカットから除く魅惑な谷間と肌の美しさに、徹は鼻血噴出寸前であった。

　佳菜子は、悠希の秘蔵っ子で、悠希とは違った究極の秋田美女であった。
　今一番、徹が興味津々な存在が彼女であったが、悠希の管理下いるので、その肢体を知る男は祐司のみであって、今は凌が必死になって口説いている最中であった。
　悠希は、彼女を自分の後継者と考えていて、ホステスとしての帝王学継承の真っ最中であったため、亜紀と郁美も賛同しているので、徹には手を出しようのない存在でもあった。
　それなのに、このような機会に真白いフリルをあしらったフレンチメイド風ドレス姿で登場するのだから、徹にとっては残酷な仕打ちといえた。

　美帆は、もはや定番のスタイルだが、彼女を何百何千人もの男達が女王様と崇めるのは納得の過激ファッションであった。
　バックスタイルはベルトバックルだけという完全露出が、彼女の肢体と相性の良い徹を盛りのついたオス犬に変えてしまう。

　麻輝は、「会」関西支部女性陣女番頭的存在で、健二郁美夫妻のまさに腹心であった。
　爆乳美乳は圧巻で、彼女はあらゆる過激ファッションを着こなす達人であり、日頃からコスプレ天使として男性陣の心を鷲掴みであった。
　今日は、アシスタントに徹しているはずながら、その肉感的存在感が徹の性欲を噴火させてしまう。


　徹は、我が妻、敬子の美しさは、郁美が期待していた資質が開花したものだと改めて惚れ惚れしてしまう。
　彼女には、他にはないハガネのようでありながら軟体生物のような肢体が武器であって、道を歩けば大半の男性が振り返る美貌を兼ね備えているので鬼に金棒状態であった。
　もともとは彼女から好意を示してくれた関係であったのだが、妻となった今では真逆となり、徹は彼女を失わないように常に努力を強いられたのだ。

　初めて見る愛妻の過激ファッション、レースアップバック＆ボーン入りコルセット姿は、あまり煽動的で心配になってしまう。
　恐ろしく小さいデルタしかないＴバックに加えて、蜘蛛の巣をモチーフにしたガーターストッキングにもう卒倒しそうであった。
　郁美とお揃いのレースアップフィンガーグローブが、彼女が郁美に対する思慕の情を露わにしているのがささやかな救いであった。

　敬子が、彼女に横恋慕する凌と健二、祐司達に視姦されているのかと思うと、妖しい嫉妬心がメラメラと紫煙の炎を燃え上がらせる。
　不意に周囲に目線を走らせると、彼らも一様に鼻息を荒くして、徹と同じく、かぶりつきで見入っているのが分かった。
　これは男の本能だが、彼らも自身の妻の新たな魅力で圧倒されて、他の女性の妖艶さにまったく余裕が無いということが共感して分かった。
　それだけ彼女達は１人１人が美しすぎて、男の欲望をたった１人で満水にしてしまう存在なのだ。
　そう考えると健二が、愛妻郁美だけでなく、麻輝と美帆をなんだかんだと独り占めしている事実が師匠への畏敬の念を抱かせるのに十分であった。


　健二は、愛妻、郁美の美しさは理解していたが、今回はそれほど期待してもいなかったし気にしていた訳でもなかった。
　彼女は、存在そのものが素晴らしすぎで、正直、麻痺していた部分もあった。
　ハートフルでＣｕｔｅな過激ファッションで現れた姿に、健二は唖然となり心を打ち砕かれてしまった。
　彼女の資質は、もはや彼でも手に余るほどバタフライとして飛翔し始めているのだと実感した瞬間であった。
　間違いなくゼウスはこの姿を見たら自制心を失うと、強く危機感を感じた。

　もはや健二は、愛妻の魅力に脱帽であった。
　なにをさせても彼女らしく、Ｓ嬢スタイルも美帆のような正当派ではないのに、いつの間にかナンバーワンになってみせる魔性の女であった。
　彼は、女性にスパンキングラケットでぶたれたいと初めて思ったのだ。
　美帆の説明を輝く瞳で、興味津々に聞き入る姿に、彼は言いようのない不安に駆られていく。
　まさか彼女はゼウスにすら手をかけるのではないかと一抹の不安が浮上した。
　生まれながらの天井人であるゼウスに手を上げた者など、この世に存在しないと言われているのだ。


　凌にとって亜紀は女神様であるのは、自他共に認めるところである。
　元来の女好き、彼女が男女のセックスに貪欲でない、などが重なって、彼女の許しを得て女子会メンバーと大奥のような性生活を満喫して油断していたと言って良いだろう。
　若い徹とテクニシャンな健二にもアプローチされ続けている亜紀は、まさに絶品の美女だと改めて思い知らされたのだ。
　正直、不埒ものの自分を、あの鞭でぶって罰して欲しいとすら思ったのだ。
　凌は、彼女は彼にとって絶対的女王様であることを、ある意味、自覚したのはこの時だったのかもしれない。

　この代償を彼は以後払うことになるとは、この時気がつきもしなかった。
　亜紀の意向に外れた悪さをした彼は、彼女からプレイと称して折檻されることが頻発するのだ。
　だがこれは凌に限らず、女子会の意向に背いた男性陣全員を見舞うことになるという悲劇の序章に過ぎなかった。
　十数年後には「会」伝説的女帝と言われるアグライア（亜紀）が、危険なサディズムに目覚めた日が今日この日だったのだ。
　

　祐司は、乱れた性生活中で出会った若妻に翻弄され続ける人生を楽しんでいた。
　初めはお互い打算にまみれた関係だったかもしれないが、彼女の奔放さが彼にとって乱れた人生を正すきっかけになった。
　徐々にだが乱れた姪っ子郁美との関係も無くなりつつあって、若妻に夢中になりつつあった。
　大人の関係として佳菜子と懇意にしていたが、若いホステスと太い客との関係を踏み出すものではないし、悠希は無原則に肉体関係を許す女性では無いので、少々お預け君状態で有るのは事実であった。
　乱れて曇った目では分からなかった若妻の美しさにハッとなったのは、正直なところ、先日行った愛娘紗弥と真也の結婚式と同時に行った自身と彩佳との結婚式であった。

　愛娘紗弥のウェディング姿も眩しかったが、それにも負けない彩佳の美しさに彼の心は鷲掴みにされたのだ。
　郁美が彼女を紹介してくれた意味が初めて理解出来た瞬間でもあった。
　もともと１穴主義でもある彼は、完全に嵌まってしまったのだ。
　娘のような若妻に対して彼はもはや無力であって、そんな彼にお構いなしに奔放な彼女の行動は、紫煙の嫉妬心を燃えたぎらせるようになっていく。
　そして、今日、小悪魔キャラ満開の若妻に心奪われた彼は、嫉妬心を隠そうとしなくなっていく。
　そんな姿を郁美と紗弥の２人は思惑通りだと、ほくそ笑んで見つめていたのだった。



　里奈は、自身がオーダーした胸元が大胆に深くＶカッティングされたセクシーなボンデージドレスの出来映えに大満足であった。
　皆と同じ黒の光沢本革製でホルターネックスタイルでバックスタイルがとってもセクシーに仕上がっていて、チャームポイントである胸元には鋲が打ち込まれているタフなアレンジがばっちり決まっている仕上がりだ。

　これを直ぐに身につけれない焦れったさは隠しようなかったが、悪阻が酷くて今日来ることも出来なかった紗弥のことを思えばマシだと考えを改めていた。
　それにしても、つくづく女は身籠もるという役目が損だと思う。
　ある意味、女である悦びを感じる反面、数ある煩悩は我慢しなければ成らず、その産みの苦しみは男達には分かる筈もなかった。
　それでも身近の亜紀も同じく母になったことで、里奈は頼りになる戦友を得た思いであった。
　だからこそ初めてづくしで不安であろう紗弥を毎日のように訪問していたのだ。


　今日は持ち主が現れなかった紗弥のボンテージファッションは、フロントとバックが対となった真っ赤なレースアップリボンが印象的な黒い光沢本革製ビスチェ＆ガーターセットで、唯一の真っ赤な編み目タイプのガーターストッキングが刺激的な仕上がりとなっていた。
　唯一、赤使いが多いパターンであって、ファッションリーダーの紗弥らしいチョイスであった。
　これの出来上がりを一番楽しみにしていたのが、彼女だったのだ。
　そもそも母になる覚悟もなく、実はうっかりの出来ちゃった婚であり、彼女の人生設計は公私共に狂っていたのだ。

　彼女としては帰国してから、ファッションビジネスを幾つか抱えていたいたので、妊娠で周囲に迷惑をかけてしまったのだ。
　結婚を決めていた真也の子供であったから、生むという選択以外は考えなかったが、正直、女は身籠もるという役目が損だと思った。
　ということで心の準備すらなかったから、なにもかもが不安であった。
　そこに母親として先輩であり、再び同時期に妊娠している里奈の存在は、彼女にとって拠り所となった。
　亜紀も、なにかと気にかけて、アドバイスしてくれるので心強かった。



　真也は、遅刻して焦っていた。
　今日は、女子会ＳＭ部会始動の記念日であり、愛妻紗弥も本来であれば参加するはずの大切なイベントであった。
　彼女を帰国の一発で妊娠させた張本人であり、責任を自覚していた。
　そもそも身体の相性がピッタリの２人であるから、妊娠の可能性は他人の数十倍高いのは常識であった。
　数日後に、健二先輩からはそんなカップルでの避妊対策無しセックスは無謀だと諭されたが、既に手遅れだったのだ。
　それでも妊娠は自分自身の確信犯だとの立場を頑なに守り通して、悪者を演じきった。

　正直、彼女の妊娠は嬉しかったので、彼女の仕事を阻害してしまったのは事実であって、彼女が責められるのではなく彼が負うべきものなのだと行動した。
　彼にとっては、しがらみは小さいことに過ぎず、彼女と出会い結婚できたことに幸福を感じていた。
　彼女との生活は、彼の乾いた心をたちまち愛情過剰ともいえるほどに変貌させていた。
　遅刻原因は、体調の優れない彼女をお世話していて、家を出るのが遅くなってしまったのだ。


　それにして田原氏の財力と先見性は抜きんでいると感嘆せざるを得ない。
　まだ「会」関西支部は産声を上げたばかりだというのに、既に神戸には幾つかの巨大な施設を有していて、もう既に支部随一の規模となっていた。
　これには昔から彼が進めていたアンダーグラウンドのビジネスが、「会」の求めるものと見事に合致していた賜物であろう。
　新婚の真也達が来月早々に入居予定の新居も、田原氏が新規に建設した超豪華億ションの１室であり、その建物は「会」関西支部主要関係者達が一同に住まうものであった。
　破格の巨大なマンションで、最上階には田原家と岩永家が住む神戸山の手にそびえ立つ摩天楼であった。
　今回の会場も、もともとあった秘密ＳＭ倶楽部をそのまま活用したものだったが、ここは完全に住宅地域に唐突に紛れ込んでいて、いったい風営法の規制はどうなってると思わせるものだが、それは当然のように存在していたのだ。

　愛車であるホワイトメタリックのアゥディS3 Sportbackを地下駐車場に滑り込ませると、専用エレベーターに駆け込んだ。
　「会」のスタッフとしては完全な失態であり、先輩岩永から叱責を受けるのは間違いないところであった。
　決して言い訳を許されない世界だ。
　エレベーターの十数秒がこれほど長く感じたのは初めてであった。
　エレベーターは直接受付フロアに繋がっており、ここが普通の建物ではないのはすぐに分かる。
　受付には、刺激的なボンテージ姿となった佐紀子が待っていてくれた。

佐紀子　「お待ちしておりました　真也様」
真也　　「やばい　遅れてしまった」
　　　　「健二先輩どちらに」
佐紀子　「もう　特別鑑賞室に入られています」
真也　　「申し訳ない」
　　　　「佐紀子さんも」
　　　　「講習参加するはずだったんですよね」
　　　　「俺を待ってくれていたんだね」
佐紀子　「うふっ　そうですけど」
　　　　「わたしは　こっち方面専門なの」
　　　　「基礎編は大丈夫ですから」
真也　　「あっ　えっ　そっそうなんだ」
　　　　「いや　あっ　分かった」
　　　　「ありがとう　じゃ行くね」
佐紀子　「はい　では　右手の５つめ」
　　　　「ドアのお部屋で　特別室１０１　ですわ」
真也　　「どうも」

　真也は、いつもと違う佐紀子の色香に動揺を隠せなかった。
　女性は、シチュエーションの違いで全く違う表情を見せるミラーボールの様な存在であって、いくら勉強しても理解出来ない神秘な存在だとつくづく思わせる。

　今回のイベントも、女子会面々の隠された引き出しを開けることになるだろうが、なにか今までに感じたことのないパンドラの箱を開けるのでないかと一抹の不安を拭い去れずにいた。
　健二はレイナ（麻輝）、マリア（美帆）という逸材を見いだした功労者であったが、同時に彼は女性のパンドラの箱を開けてしまうアダムのような存在であることを示しているのではないかと危惧していたのだ。

　それを端的に示した存在がアテナ（郁美）であって、彼女はイブ的な役割を見事に体現しているのだ。
　アテナと相通ずるデメテル（紗弥）を愛し妻とした真也だからこそ洞察出来る状況分析が、残念ながら「会」幹部に報告されることはなかった。
　彼が関西支部に派遣された主任務であったのに、彼自身が紗弥と郁美、従姉妹の強力な魅力に飲み込まれてしまったのだ。

　鑑賞室に入った彼は、挨拶の言葉すら発することが出来ず、唖然と末席に座ることしか出来なかった。
　室内いた男達は、もう既に暴走する淫欲と妄想で殺気にも似た空気を発していて、とても声をかけることなど出来なかった。
　かくいう真也自身も、もの数分で彼らと同化していくことになる。

　マジックミラー越しで、眼前で展開する情景はあまりに扇情的で刺激的過ぎた。
　まさに鼻血噴出寸前とは、このことだろう。
　この中に愛妻の紗弥も参加するはずだったのだから、その心情は複雑なものであった。

　彼女のボンテージファッション姿を見たかったという残念感はあるが、それを他の男達には見せたくないという嫉妬心、それでいて愛妻の美しさを見せびらかせたいという不思議な男の優越感、入り交じった煩悩が渦巻いていた。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2020年6月13日掲載
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