ずっと愛してます３
羅衣 作
第23話　目覚めた天使３


　徹の胸騒ぎは、第３章に突入した。

　目の前で繰り広げられているオンナ達の饗宴は、もはやＡＶを越える情景であった。
　木馬の尻を鞭打つだけの光景なのに、彼女達のボンテージ衣装が過激すぎて若い徹を煽り立てていた。
　衣装から露出しているオッパイが躍動する、魅惑的なヒップが躍動する、慣れない運動でうっすら滲む汗がエロスを体現していた。

　順番に交代して鞭の扱いをマリア（美帆）が指導していくのだが、要領が良く飲み込みが早い彼女達は２巡３巡するにつれて様になっていく。
　会場の熱気がますます彼女達をヒートアップさせていくようだった。
　次第に彼女達の瞳の輝きが妖しく変化し始めた頃に、講習内容が一転する。

　全員にあの倶楽部オリジナルのスペシャルティーペットボトルが配布されて、一休みしながら、今度は色んな拘束具がテーブル上に並べられて取り扱いの解説が始まった。
　拘束具は、徹も知らない妖しいものが多くあって、自身の不勉強を思い知らされる。
　それらを美帆と佐紀子は事務的に説明して、全員に取り扱いを指導していく。

　見ていた徹は、急に不安になった。
　彼女達が全員Ｓ嬢になってしまったら、自分はどうなるのだろうという不安だ。
　そもそも自分はＳかＭか、など、考えた事もないし、ＳＭ自体意識したこともなかったのだ。

　敏感な徹は、次第に彼女達の中で微妙な適正の違いが現れていることを察していた。
　そう、やはり向き不向きがある世界なのだ。
　その中で変化著しいのが、亜紀だった。
　目チカラ抜群でカリスマ性のある彼女だけに、周囲が一歩下がるほどの存在感を放ち始めていたのだ。
　それは美帆と佐紀子も感じたらしく、自然と講習は亜紀を中心として進行していく流れになっていく。

　その亜紀に触発されたように輝きを放ちだしたのが、敬子だった。
　もともと身体能力が高い彼女の鞭扱いは、もはやプロ級のレベルになりつつあった。
　練習で棚に並べたタバコを連続で十数個をミスなく叩き落としていて、全員から拍手されていた。
　更に長身の彼女だから、ひときわ絵面が様になっているのだ。
　徹は、愛妻から引き出されたものに、一抹の不安を感じていた。
　それは男達全員が感じた変化だったらしい。

健二　　「うぅぅぅん　やはり亜紀さんは　凄いな」
　　　　「天賦の才を感じる」
　　　　「あのマリアが」
　　　　「気迫で圧されているのを初めて見た」
祐司　　「それにしても　ゾクゾクする美しさですね」
　　　　「いやぁぁぁ　田原さんが羨ましい」
凌　　　「いやいや　彩佳さんも　素晴らしいですよ」
祐司　　「でも」
　　　　「この方面は」
　　　　「亜紀さんが抜きんでいると思います」
徹　　　「同感です　輝いています」
真也　　「そうかなとは思っていましたが」
　　　　「あっ　皆さん　遅れて申し訳ありません」
祐司　　「紗弥の具合はどうかな」
真也　　「ボチボチです　申し訳ありません」
祐司　　「いやいや　大事にしてくれているので」
　　　　「問題無い」
徹　　　「・・・・・・・・・・・・」
健二　　「真也　後で話がある　いいな」
真也　　「はい」
　　　　「それにしても　先輩は凄いです」
健二　　「はあっ？？」
真也　　「レイナ（麻輝）　マリア　だけでなく」
　　　　「アテナ（郁美）さん」
　　　　「凄すぎます　クオリティが異次元です」
　　　　「アテナさんは」
　　　　「アグライア(亜紀)さんと違いますが」
　　　　「来てますねぇ」
凌　　　「やはり　君も　そう思うか」
　　　　「郁美は　やはり天使過ぎる」
徹　　　「同感です」
健二　　「ありがとうございます」
　　　　「確かに　彩佳さん　悠希さん」
　　　　「佳菜子さん　葵さんの４人は」
　　　　「この方面は嗜む程度ぽいですね」
凌　　　「うん　亜紀　郁美　敬子　の３人が」
　　　　「なにか持っているのは間違いない」
　　　　「それにしても　佐紀子は逸材だな」
健二　　「そう思われますか！！」
　　　　「わたくしも注目しておりました」
　　　　「彼女は逸材です」
　　　　「さすが亜紀さんが」
　　　　「寵愛するだけのこと　あります」
智久　　「えっえぇぇぇぇぇぇぇそれは」
祐司　　「彼女は　既に完成している」
　　　　「天賦の才と言って過言ではないと思うが」
凌　　　「そう思う　それに亜紀が」
　　　　「彼女を手放すはずもない」
健二　　「はい　彼女は」
　　　　「亜紀さんの最高の片腕ですね」
智久　　「それは・・・・・」
健二　　「一応　説明しておきますが」
　　　　「ここは基本的に身体を許すことは」
　　　　「ほぼ有り得ません」
凌　　　「現役時代には　彼女は」
　　　　「そういうことは一切無かったと」
　　　　「報告もあったしな」
智久　　「それは知っていますが・・・・・」
凌　　　「まあ　焦ることはないさ」
　　　　「それに店に戻れというのではないしな」
　　　　「「会」スタッフとしての活動だからな」
智久　　「あっ　そういうことですか！！」
健二　　「それは説明不足でした」
智久　　「分かりました　２人でよく相談してみます」


　佐紀子は、正直、Ｓ嬢に復帰することを迷っていた。
　夫、智久が駄目といったら従うつもりであった。
　それが今回のイベントに参加して考えが一変しつつあった。
　彼女が一番尊敬し敬愛する亜紀が、その方面の天賦の才があると感じたからだ。
　彼女にとっては亜紀は、実の姉以上の存在であって、彼女のためならなんでもするほど盲目的に信奉する対象であった。
　そもそも今のような幸せな結婚生活が送れるのも、亜紀があの失意の日々でもたった１人で彼女を守ってくれたからだと信じていた。
　もし亜紀が守ってくれなかったら、あの頃に耐えきれなくて間違いなく自ら命を絶ったことだろう。
　佐紀子は亜紀のそばでは常に笑顔でいられて、人としての矜持を維持できたし、Ｓ嬢という自身も知らなかった引き出しを開けてくれて居場所を作ってくれたのだ。
　だからこそ確信した。

「わたしは復帰します　亜紀姉様のお役たてる」
「こんな素晴らしい方法があったなんて」
「わたしは　常に　亜紀姉様のそばに　いたい」


　美帆は、うすうす感じていた亜紀の資質に驚嘆していた。
　恐らくあと数回、経験を積めば、彼女は間違いなく伝説になると確信しつつあった。
　そして、その亜紀に付き従う、噂に聞いていた佐紀子の才能にも感心していた。
　間違いなく佐紀子は亜紀の完璧な片腕になるだろう。

「これほどとは　もしあうんの呼吸で活動する」
「女王様ペアが誕生したら」
「「会」はどうなってしまうのだろう」
「健二　これは　とんでもないことになるわよ」


　麻輝は、美帆の困惑が痛いほど理解出来た。
　健二が見つけてきた女子会は、なにもかもが異例すぎて規格外過ぎた。
　麻輝も美帆も「会」の歴史上希有な存在であったが、単独の個性に過ぎなかった。
　それが亜紀と郁美を軸にする女子会は、集団として機能していて、その全てが飛び抜けているのだ。

　そもそも５大老の面々にお会いするなぞ、天井人の彼らであるから、限られた人間が年に数回面談できるかどうかなのだ。
　直接の弟子である健二、そして寵愛されている麻輝と美帆などは例外であるが、「会」の実質的な権力者１２人衆ですら年に数回会えるかどうかであろう。
　それを郁美は、この半年の間に月に複数回、５大老の面々と面談が定例となっていた。
　それも彼らの方が彼女に逢いたいと、わざわざ来神する有り様であった。

　そんな妻を持った健二の「会」の立場は、今では１２人衆に迫るものになっていたのだ。
　そこに、その郁美が慕う亜紀が出産を経て颯爽と登場することになるのだ。
　間違いなく「会」は騒然となるであろう。
　郁美は自身の魅力が規格外の存在だが、亜紀は周囲への影響力が規格外であった。
　「会」の幹部達は、彼女が女であることから、過小評価しすぎだと感じていた。

　彼女は女子会の中心人物との分析は真実だが、そこで理解が思考停止している男達の愚かさが哀れであった。

「彼女はソープ嬢上がりという衣をまとうことで」
「男達を完全に油断させることに成功している」
「男達は　色眼鏡を捨てられない生き物」
「ここの男達は　既に気がついているけど」
「彼らは　もう彼女の虜」
「彼女には　郁美さんが固い絆で結ばれている」
「それは　もう５大老が凋落されているのも一緒」
「つまり　遂にオンナの時代がくるのね　うふっ」
「健二　ごめんね」


　悠希は、凛々しい亜紀が眩しくて、楽しくて仕方がなかった。
　彼女のように超売れっ子としてトップを張り続けて水商売を長くやっていると、男と女のやり取りがすっかりお金にまみれた関係が当たり前になってしまい、もはや正常な男女の愛などは正直言って難しいものになっていた。
　酒宴というものは欲望が渦巻く場であり、そこで働く女達にとっては戦場であった。
　男達の究極目的は女の肢体にあるのは当然であって、あの手この手でアプローチしてくるのだ。
　女達は、虚々実々に男達の欲望を受け流しながら、財布の紐を緩ませるのが究極の目的であった。
　それは人間のエゴが渦巻く、ある意味、究極の男と女のラブゲームとも言えた。
　しかし悠希ほど長く、そのような経験を積み極めてしまうと、普通の男性相手では全てお見通しであって、全くトキメかなくなってしまうのだ。

　そんな悠希にとって、三井 剛との出会いは新鮮であった。
　出会った男達は例外なく彼女に興味を示すのだが、彼は当初は振り向いてもくれなかった。
　危険な世界の住人と分かっていながら、そんな彼に強く惹かれてしまう。
　その彼は亜紀の信奉者で、荒っぽい世界の住人でありながら純粋でプラトニックな愛であった。
　女というものは男の本質に惚れる生き物であり、悠希はその彼の姿にすっかり惚れてしまったのだ。
　叶うはずもない愛に苦悩する彼を暖かく見守りながらも、彼女は巧みに彼の心の片隅に棲み着いてしまうのは流石だ。
　
　悠希は幼少時代から単独行動が多いタイプで、学生時代も、その傾向は変わらず、友人らしい友人いない、親友など持った経験すらなかった。
　そんな彼女は学業も優秀であり、更に抜群の容姿に加えて、単独で行動するという男性にとって近寄りやすい雰囲気があって、美人はモテないという都市伝説に反して男性からは非常にモテる学生時代を過ごしたのだ。
　だからこそイケメンで大人気であった飯田智久の彼女の座を独占し続けたのだ。

　ホステスという競争社会に入ると、もともと一匹狼であり同性との協調や調和に臆さない性格が功を奏して、抜群な容姿と頭の回転の速さも兼ね備えた彼女はあっという間にナンバーワンに登り詰めるのは当然の成り行きだったのかもしれない。
　このように彼女が同性に対して興味を持つことは全く無かったが、気質として男前な性格であったため、不思議と同僚達に対しては面倒見の良い存在となっていた変化があった程度であった。

　そんな悠希は、想う男性が恋い慕う存在であった亜紀に対して不思議と嫉妬心を感じなかった。
　彼から伝え聞く彼女の人柄そして彼女のとった行動、彼との関係のケジメの付け方に女として共感を覚えていたのだ。
　生まれて初めて同性である女性に興味を持ったのが亜紀だった。
　そして出会いは、思いの外早くて偶然に訪れた。
　出会って、直ぐに彼女は亜紀という女性に強く惹かれた。
　ある意味、一番探していた同性の友人、いや戦友ともいうべき存在に出会ったという感覚であった。
　田原という一流の経済人が、いろいろな不利益があるだろう経歴を持った彼女に拘った理由が分かったような気すらしていたのだ。

　悠希にとっては、同学年であった亜紀は最初から距離感が近かったことも大きく影響したのは事実であった。
　更に高卒に過ぎなかった彼女だが、それは経済的な事情で進学出来なかっただけで、知性と知識レベルは超有名大学でも進学できたであろう聡明さが証明していた。
　長いホステス生活から自然と身に付けた、面談で人間性を見抜いてしまう特技がある悠希が初めて舌を巻くほどであった。
　特に悠希が投資家として傾注している政治・経済問題に対する知見を彼女は当たり前のように受け答えして、それに違うアンチテーゼを提示する論客ぶりに唖然とさせられるなど１度や２度ではなかったのだ。
　その彼女は、隠し立てせず悠希に三井を託してくれたことが、いつしか２人を強い絆に結びつけたのだ。

　これで男と女、夫婦関係がそれぞれ定まれれば話は単純であった。
　悠希、亜紀は、女であることを武器にしてお金を稼いできた生き物であり、もはや一途な愛とは縁のない痛んだ心を笑顔に包み隠したオンナ達でもあった。
　女の本質そのままに他者のものがよく見えて欲しくなってしまう、救いようのない本性が彼女達の共通点でもあった。
　まず亜紀が自身の欲望のままに行動に出て、それに触発された悠希も自分の気持ちに気がついたのだ。
　亜紀は三井への女としての思慕の情を行動に移した。
　悠希は、経済人、男として大きい田原への興味を隠しきれなかった。
　オンナ達の思惑がきっかけとは露とも思わない男達は思い思いに踊らされていると気づくことは恐らくないであろう。



　里奈は、特別鑑賞室に戻ってきたものの入室を躊躇った。
　中にいる男達の異常な興奮状態が握っているドアノブから、熱い熱気となって伝わってきたからであった。
　身重な妊婦である女の本能として危険を感じるのだ。
　もちろん彼らは乱暴するような男達ではないとは理解しているが、今の彼らには女の肢体の薫りは火に油であるのは明らかであった。
　まして、これから会場で起こる出来事を思えば、ますます自分は特別鑑賞室に居づらくなるのは間違いなかった。
　しかし、それでも行われるイベントは見届ける義務が里奈にはあったのだ。

　里奈は、西川家に迎えられてからまだ数週間しか経っていないあの日、なんでもない日常の中で知ってしまったある事実から、いつかこんな日がくるのではと予感がしていた。
　それは夫、義則の書斎を掃除している過程で見つけてしまった夫の性癖であった。
　彼女は、ソープ嬢という仕事を経験しているだけに男の性というものには理解があり、夫がＡＶなどに興味があっても当然との寛容さは普通よりある方だと自負していた。
　その彼女が、驚き、愕然としてしまう、ものを見つけてしまったのだ。
　それは彼女が一般女性であれば、決して気がつかないであろう証拠から露見してしまう。

　夫の書斎で掃除をかけていた彼女は、誤って机上角に設置されていた名刺整理用の器具を落としてしまったのだ。
　散らばった名刺をあいうえお順に整理し直し戻している過程で、とある名刺に愕然としてしまう。
　「HOTEL A○PHA-IN」マネージャーと記載されたものであったが、普通の女性であれば気がつくことはないものであろうが、里奈は運悪く性風俗の出身であって関連情報には知見があったのが不運であった。
　麻布狸穴町のＳＭホテル、ア○ファインと言えば知らぬ者はいないという、その筋ではかなりの有名プレイスポットであった。
　その名刺所有の意味することを洞察することは、里奈にとって容易なことであった。
　優しい夫の隠された素顔を知ってしまった彼女は、以来ずっと苦悩することになるのだ。



　敬子は、鞭を振るうという行為に、学生時代新体操のスターとして注目された頃の高揚感に通じる、言いようのない悦びを感じていた。
　大学進学時に周囲の反対を押し切って引退してしまったが、体育系大学、名門新体操部を抱える有名大学からのオファーも数多くあって、彼女の将来を嘱望する声は大きかったのだ。
　スポーツとしては健全なものではあったが、未だ男性を知らなかった彼女にとって、新体操というものを見つめる一部の男性の視線が耐えられないものになっていたことも彼女が半ば強引に引退の道を選んだ理由でもあった。

　決して新体操が嫌いになったとか、体力、技術的限界を感じて辞めたわけではなかった。
　むしろ注目されること、厳しい課題を自身に課して乗り越えて達成したときの高揚感など、ちょっと病みつきなってしまう悦びを自覚していたほどであった。
　それにも増して、中学生時代には少年のようにスレンダーであった肢体が、高校３年間で劇的に魅力的なものに変わったことに自身が戸惑ってしまったのた。
　そういう意識は、自然と異性からの視線に敏感にさせていき、過剰なまでの嫌悪感に繋がっていたのだ。

　その敬子も、若くして人妻であり、性欲旺盛で人並み外れた男達との経験を経て、今では立派なオンナに成長を遂げていた。
　義理の妹、環のコーチとして、高校の体育館で再びレオタードに身を包んだ彼女は、女子高生達のそれを凌駕して圧倒していた。
　数年間のブランクを全く感じさせない身体のキレを見せて、彼女の輝きは未だに失われていないことを周囲の者達に知らしめることになる。
　彼女のコーチは、まさにやってみせる、そのままであって、環の急成長の原動力でもあった。
　もはや完成された肢体を見せつける敬子、そして発展途上ながら既にモデル並みの肢体を躍動させる環、２人の共演は高校内に留まらず、神戸ではちょっとした注目の話題となるほどであった。

　コーチとしての活動は敬子のアスリートとしての身体能力の活性化に繋がり、新体操に繋がる鞭という得物扱いが卓越する結果に結びついたのだった。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2020年6月20日掲載
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