ずっと愛してます３
羅衣 作
第24話　天使達と男達の思惑


　徹の胸騒ぎは、第４章に突入した。

　レイナ（麻輝）が黒く塗装された太いチェーンを引きずって会場に現れた。
　チェーンは異様な風体で四つん這いになった男の首輪に結ばれており、彼女がグイグイ引っ張ることで会場に引きずり出されてきたのだ。
　見るからにイラついた彼女が、更に乱暴に男を引っ張る。
　いつもは温和な麻輝も１度ボンテージに身を包むと、人が変わったように行動が攻撃的になる。
　男の登場に、会場で待っていたボンテージ姿のオンナ達に歓声が上がった。
　彼女達にとっては男はただの生け贄に過ぎないのだ。

　徹は、男の正体が非常に気になった。

　先日の開幕祭で行われたマリア（美帆）の瞬殺ともいえる残酷さは、今でも語りぐさとなっていて、徹は女性に潜む二面性に恐怖を感じたのだ。
　美帆は、生け贄が気に入らないと瞬殺するのは有名であったが、その残酷さが規格外であって、先日の生け贄は両手を複雑骨折して全治数ヶ月の重症であった。
　そういったＢＤＳＭの感覚が今ひとつ分からない徹にとって、プレイという範疇を逸脱したとしか思えない暴力が支持される理由が理解出来なかった。

　女性陣のボンテージファッションはセクシーで魅力的に感じるのは共感できたが、それ以上は正直理解出来なかった。
　実際、健二が女性達をすぐ縛って自由を奪い辱めるセックスをすることを快く思っていなかったのだ。
　彼にとっては女性達は女神様であり、身体を張って守るべき庇護すべき存在であった。
　しかし、その彼女達が嬉々として加害者になろうとしている事態に、複雑な心境であった。

　生け贄として供された男の風体も普通ではなく、黒い革製の拘束着姿であり、両手首と両膝が互いに連結されていて自由など全く無い状態で立ち上がることすらままならないであろう。
　拘束着といっても名ばかりで、実際は革ベルトで構成されたもので、ほとんど裸体といってよかった。
　なにより徹が気になったのが、男にとって一番大事な肉棒に取り付けられた銀色に光り輝く金属製の見慣れない拘束具であった。

　彼が色々と研究熱心で、ネットで色んなアダルトグッズに詳しい方であったが、それは見たことがないものであった。
　その拘束具の存在で肉棒が異様に赤黒く膨張しているのが、離れて鑑賞している彼ですら分かるほどであったのだ。
　そして彼がなにより驚いたのが、拘束された男が既に興奮して勃起している事実であった。

　「マゾ」、「Ｍ」という言葉は知っていたし、そういう性癖があることも知っていたが、いわゆる「ドＭ」の存在を現実に目の当たりにすると衝撃的であったのは否定出来ない。
　人と人の関係では、相対的にＭ的感覚、Ｓ的感覚があるのは一般的であるが、性癖として顕著なものは異質なものと感じるのが普通の感覚であろう。

　ましてＡＶのように絵空事ではなく、よく知っている女性達が当事者なのだからリアリティが有り過ぎであった。
　それにしても彼が敬愛する女性達は、全員甘くて危険な香りが強くて刺激的過ぎる。
　全員がそれぞれの好みを反映したオーダーメードのボンテージファッションだと聞かされていただけに、それぞれの個性にマッチした装いがハマりすぎている。

　悪戯っ気たっぷりのラブリー感満載の郁美には、ピッタリの赤いハート柄をあしらったスパンキングラケット乗馬鞭をただ１人渡すという麻輝のチョイスが素晴らしすぎる。
　恐ろしいほどＳ嬢オーラ満載の敬子は、本格的なハードな本革一本鞭を既に達人並みのコントロール術で扱う姿が圧巻であった。
　亜紀は、皆から「亜紀様」と言われるオーラがもはや風格となってハマっていて、完全にその場の女王蜂と化していた。
　美帆と麻輝、佐紀子は、ボンテージを普段着のように着こなしていて違和感が無いのが凄い。

　この６人は既に完成しているレベルで、クオリティが飛び抜けていて、もはやケチのつけようが無いものだと感じていた。
　悠希、彩佳、葵、佳菜子は、この６人と比べてはコスプレ感が感じられるのは致し方ないが、ボンテージが彼女達の美しさを引き立てる効果は抜群であった。
　イメージからすると彩佳がハマりそうでありながら、そうでないのが面白い展開であった。

　それにしても会場の女性陣のテンションが異常に高くて、やや今後の展開に徹は不安を覚えていた。
　生け贄の男を容赦なく苛め始める姿に、徹は違和感を感じていた。

「ちがう　僕が望んでいるのは　こんなんじゃない」

　不安げに視線を泳がせると、健二はラブリー小悪魔に変身した愛妻、郁美の姿に釘付けになっていた。
　徹は、不意に敗北感を抱いた。
　自分はこういった点で健二に負けて、郁美を奪われてしまったのだと気がついたのだ。
　彼は、目の前の郁美だけを見ているだけでなく、彼女の奥に潜む無限の可能性に惚れ込んでいて愛しているのだと知ったのだ。

　それに対して、徹自身は郁美が好きすぎて目の前の彼女のことしか見えていなかった。
　そして今では自身の妻となった敬子も、全く同じなんだと不意に気がつかされたのだ。
　健二と郁美は、ずっと以前から敬子の奥に潜む無限の可能性に気がついていたに違いない。

　徹は、敬子は郁美から託された大切な宝物なのだと再認識した。
　郁美への愛に生きるということは、すなわち敬子を愛し守っていくことであると理解したのだ。
　自身の若さゆえの未熟さを素直に認めて自ら気づき成長していく、これが彼の凄さであった。
　そうなると急に敬子しか目に入らなくなっていく。
　敬子は自ら身を引いてしまったが、望めば新体操で日本一、そしてオリンピックにも出られたと言われるほどの天才であった。

　その身体能力の高さは抜きんでいて、跳躍力などは徹でも全く歯が立たないほどである。
　テニスなど夫婦で楽しむのだが、セミプロ級の腕前を誇る徹と互角のプレイヤーと化す妻であった。
　スタミナ面でも、空手で鍛えた徹に全く劣るところを見せない。
　そもそも運動神経が異次元のレベルで、二言三言アドバイスしただけで忠実に出来てしまう天才肌であった。
　そして今、その才能はＳ嬢としての鞭使いとして開花の時を迎えていたのだ。
　もはやベテランと言って良い美帆が、驚くレベルの鞭扱いを披露する愛妻の姿に徹は見惚れていた。

　壁の棚、各種拘束具の柱の上など各所に置かれたタバコを、美帆の指示通り全くミスなく一撃で落としていくのだ。
　驚くのは、鞭の手元の引き上げも振るった反動を巧みにコントロールして、そのまま一瞬で手元に戻してみせるのだ。
　これには美帆も驚嘆していた。

健二　「いやはや　天才とはいるものだな」
　　　「これほどの鞭の達人は」
　　　「日本には初めてかもしれないな」
徹　　「えっ？」
健二　「美帆も上手いが　ここまで完全に鞭先を」
　　　「コントロールするのは難しいだろう」
　　　「初めてで　あれほど完璧に出来る子が」
　　　「いるとは　正直　驚きだな」
　　　「ウィッピングマスター　まさに超新星だな」
徹　　「敬子　運動神経抜群ですからね」
凌　　「本人は新体操の延長のつもり」
　　　「なんだろうが・・・・・・・」
健二　「間違いなく　本場ＥＵでも」
　　　「絶賛されるレベルです」
　　　「もはや護身術レベルです」
　　　「あれでは複数の男でも」
　　　「鞭を持った彼女の敵ではない」
　　　「徹底的に制圧出来るレベルです」
　　　「鞭のスピードは常人では避けるのは無理です」
徹　　「そんなに・・・・・・・・」
凌　　「確かに　彼女を怒らしたら怖そうだぁ」
徹　　「そんなぁぁぁ」
健二　「あはっ　彼女は優しい女の子だからね」
　　　「大丈夫だよ」
智久　「そう　佐紀ちゃんなんて」
　　　「家では　そんなとこ微塵も感じさせませんよ」
徹　　「だと　良いんですが」
　　　「どうも郁美が煽るからなぁ」
健二　「妻は悪戯好きで　すまん」
徹　　「まいったなぁ」
　　　「それにしても　佐紀子さん　風格というか」
　　　「品格がありますね」
智久　「うぅぅぅん　実は　今でも　戸惑ってます」
　　　「でも現実なんですね」

　ガチァッ！！

　唐突に扉が開いて、麻輝と里奈が台車を押して入室してきた。

里奈　「お楽しみのところ　ごめんなさいねぇ」
　　　「お昼の準備整ったから　持ってきたの」
麻輝　「みんな　お腹すいたでしょ」
凌　　「おおぉ　美味しそうだな」
麻輝　「もう　凌ったら　目が血走ってるわよ」
凌　　「しょうがないだろ」
　　　「そんな格好見せつけられたら」
　　　「その　あの　はほぉ」
麻輝　「もう素直なんだから」
　　　「今日はお披露目会なんだから」
　　　「手を出しちゃ駄目よ」
　　　「お家まで我慢　我慢」
健二　「おいおい　田原さんに失礼だろう」
麻輝　「あらぁ　凌は　こんな私　嫌いですか？」
凌　　「そりゃ大好き　がはぁはぁ」
健二　「・・・・・・・・・田原さんも」
　　　「すっかりやられちゃってますね」
徹　　「僕も　大好きです　はい！！」
健二　「はあぁ」
里奈　「健二さん　気にしない　さあ　食べましょう」
　　　「これから長いショーが始まるんだから」
徹　　「あれれ　敬子達は？」
麻輝　「彼女達は　もう軽く済ましているし」
　　　「バックヤードにも用意してるから　大丈夫よ」
　　　「じゃあ　わたしは向こうに戻らなきゃ」
　　　「あとは　里奈さん　お願いしますわ」
里奈　「はい　ここは大丈夫」
徹　　「それにしても」
　　　「里奈さんのボンテージ姿見たかったです」
凌　　「おう　残念だ」
里奈　「徹が　それを言うの？」
徹　　「えっ・・・・・・・・・・すいません」
健二　「それはそうと　ご主人の様子はどうですか？」
里奈　「もう　見ての通り　大興奮状態ですわ」
徹　　「まさか　あの生け贄は」
　　　「義則さんなんですか？！」
健二　「そうだが　あれ　話さなかったっけ？」
一同　「えっえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
　　　「マジですか！！」
里奈　「変態だったの　なんてね」
智久　「そんなことが」
凌　　「そういう趣味もあるとは知っていたが」
祐司　「うぅぅぅん　彼女達の相手役」
　　　「分からない訳ではないが」
徹　　「ヤバイですよ」
健二　「まあ　本人の強い希望だからな」
徹　　「そうなんですか・・・・・・・・」
　　　「亜紀さん　敬子は　なんか　こう」
　　　「危険な香りが」
　　　「それで良いのですか？　里奈さん」

　徹は、里奈のことが心配でならなかった。
　愛する夫の隠された素顔がドＭ男とは、彼女にとってはショックであるのは疑いようがなかったからだ。
　師匠である健二は、「会」として都合が良いと利用しているだけで、その彼女の動揺をついて彼女を抱こうとしたのは１度や２度ではない。
　その度に彼女は徹の腕の中に逃げ込んできたのだ。
　徹と健二の子弟関係は、常に女性の奪いに他ならなかった。
　徹の究極目標は郁美の奪還であったが、今は守らなきゃならない女性が大切であり、里奈が今は攻防の最重要人物であった。
　そこに新たな強敵が複数現れて、徹は焦りまくっていた。

　亜紀の夫である凌が日に日に存在感を高めつつあり、莫大な財力だけでなく人望が若い徹では到底太刀打ちできない差があった。
　女子会の根幹は亜紀と里奈、郁美が中心であり、３人の愛情を一身に集める存在が最終的勝者だという男達の思惑があったのだ。
　特にその争いが過熱した原因は亜紀の変化であった。
　出産後の彼女は、以前とは違って自ら女の悦びを好むようになったのだ。
　その変化を凌が驚喜して食い付いたのは言うまでもない。
　亜紀は、パワフルな凌のセックスにより次第に独占されつつあり、流石の健二ですら圧倒されつつあったのが実情だ。
　健二も愛妻、郁美を愛するのにかなりのエネルギーを割いているので、確固たる夫がいる女性には分が悪いのは致し方ない。
　徹も彼女達の妹分である敬子の夫であるから、亜紀と郁美の２人には関して防戦一方を強いられるのが現実であった。

　そうなると主戦場は、里奈となるのだ。
　里奈を制する者が女子会を制すると考えた男達の攻防は激化の一途辿ることになる。
　現時点では里奈は徹が大のお気に入りであって、彼らと肉体的快楽を享受しても、その姿勢を揺るぎそうもなかった。
　なにより子種の相手として、徹を今回も選んだ意味は大きかった。
　再度の妊娠は、ある意味、徹の勝利を証明しているのだが、ライバルは強敵であり油断する余裕などなかったのだ。
　もともと里奈は美乳として知られていたが、出産を経験してマシュマロのようなオッパイを手に入れていたことが男達を狂わす一因となっていた。

　祐司は、若妻の彩佳が素晴らしくて毎日が充実した性生活を送っていたが、それでも郁美、敬子、悠希、佳菜子と若い彼女達とのアバンチュールもそつなく楽しんでいた。
　最近は熟女である優衣とも関係を深めていたので、普通なら全く余裕など無い筈なのだが、タフなことに亜紀と里奈への欲望を抱いていたのだ。
　本来は１穴主義だったのだが、姪っ子である郁美と関係を深めて以来、彼のセックススタイルが一変してしまったのだ。

　そこに彩佳と郁美が協調して、彼に他の女性との関係を勧めるような環境があるものだから、もはやフリーセックスにどっぷりと浸ってしまったのだ。
　自身の娘達と同年代の女性達は、ご馳走であり、その肢体の味わいは麻薬と言って良かった。
　更に前妻、亜弥子との経験によって、出産を経験した女体の良さを知り尽くしている彼にとって、亜紀と里奈は見逃せない存在であった。

　今までは出産、子育てを優先している里奈との接点が少なかったので、眼前に披露されたマシュマロバストに目が釘付けになってしまう。
　噂通りの匂い立つ肢体とは、まさに彼女のことを言うのだろう。
　もはや妊娠安定期に入っている里奈は、彼にとっては目逃せない得物であった。
　そして里奈は、妊婦ということで油断しきっており、まさか自身が今狙われているという自覚が無かったのだった。

　智久は、全てが過激すぎて圧倒されていた。
　正直、頭では理解していても、精神的にはパニック状態であった。
　妻、佐紀子が凄腕のＳ嬢であると理解しても、目にした現実を心が受け容れるのは容易ではなかった。
　しかし、それらは現実であり、もはや全て受け容れるしか結婚生活もなにもかも続けることは叶わないのだ。
　それでも以前は妻以外の女性に目が行くなど考えられなかったのだが、あの郁美との一夜の過ちから彼自身も変わってしまったと自覚があったのだ。

　今でも郁美との激しいセックスの余韻が身体の芯に残っていて、夫婦生活ではそれが火薬のように爆発するようになっていたのだ。
　結果、妻とは充実した夫婦生活が以前にも増して送れているのが現実であり、最近の佐紀子の言動から浮気を黙認されているような気すらしていたのだ。
　実際、年下である徹に対しても、ベットの技量は後れをとっていると自覚があったので、妻を満足させるためにはもっと経験が必要だと考えていた。
　スタミナに関しては人一番強いとの自負があっただけに、勉強を兼ねて郁美との再戦チャンスを伺っているのは否定出来ない自分がいたのだ。

　真也は、健二先輩が集めたメンバーレベルの高さに感心していた。
　彼は自身の妻となった紗弥だけでも素養の凄さに圧倒され続けている状態であり、もし彼女が妊娠していなかったら今このような場で冷静にいられたか自信が全く無かったほどであった。
　妻の従姉妹である郁美の存在は際立っており、５大老達が魅了されてしまうのは致し方ないとの思いであったのだ。
　そして紗弥も確実に彼女のような存在に成長すると確信があった。
　そういう風に冷静に分析理解している筈の彼ですら、もはや彼女達の魅力に飲み込まれていたのだ。
　紗弥が妊娠安定期に入るまでは我慢の日々であるが、そんな彼の元に煩雑に舞い降りる天女である郁美の誘いに縋ってしまう段階で、先輩健二に完敗していると自覚していた。
　健二は、愛妻、郁美を毎日のように満足させながら、麻輝、美帆だけでなく他の女性達をしっかりと攻略し続けているのだ。
　「会」のエリートであった彼にとっては、初めての挫折にも似た思いが強かった。
　正直、凌、祐司、徹の３人にすら圧倒されている状況であった。

「先輩達は　凄すぎる」

　凌は、出産後の亜紀がセックスに積極的になったことで、毎日が楽しくて仕方がなかった。
　そして今、目の前で彼女は新たな一面を見せてくれるのだから、彼の自尊心を満足させていた。
　そんな活発化夫婦生活でも、亜紀は彼が郁美や麻輝達と楽しむことを公然と黙認してくれるのだから、彼は幸せであった。
　郁美や麻輝達との関係は、もはや彼の性生活にとっては欠かせないものになっていたのだ。

　それでも彼の子煩悩ぶりは、周囲を感心させるほどマメであり、亜紀の負担を少しでも軽くしようという姿勢は女性陣の好感度を高めていた。
　なんといってもワンマン経営者でありながら、家庭、子育てに関しては、どんな些細なことでも徹底して亜紀と相談して決めて実施して行く形を貫き通していることが女性陣の圧倒的支持を集める所以となっていた。

　今日も本来では２人の乳児抱えた亜紀は、イベントに参加する余裕は無いところであったが、こういう時にと日頃から準備している専用病院とスタッフ、保育士が完全にバックアップが有効であった。
　それは里奈も同様であった。
　凌が莫大な財力を投じた女性陣を支える環境は、いよいよ効果を発揮しだしたのだった。
　凛々しいボンテージ姿を披露する亜紀に、すっかり見とれている彼にとって、もはや彼女は女神に等しかったのだ。


　不埒な神戸山の手の隠れ家で錯綜する男達の思惑は、赤く太い蝋燭にたなびく妖しい炎と共に蜃気楼となって揺れていた。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2020年6月27日掲載
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