ずっと愛してます３
羅衣 作
第38話　邂逅


　夕刻の新神戸ホームに降り立った美女に、場の雰囲気は一変していた。
　多くの者達が彼女は芸能人だと思っただろうが、名前が浮かばないので近づいて来れないだけであろう。
　２０歳そこそこの若さなのだが、身に纏った色香はただならぬ質と量であった。
　白のブラウスとミント色のミニスカートに生足と、恐ろしく軽装でラフなスタイルなのだが、彼女の可憐な容姿が全てであった。

　そんな彼女は、一般女性よろしく単独行動であり、ミッキーマウスのワッペンが付いた白のキャリーバックとバーキン25ヒマラヤという不釣り合いな持ち物ひとつとっても、謎めいた存在であった。
　持っているバックとヒールが超高級品なので彼女がセレブであろうことは窺い知れるが、ファッションに疎い男性から見ればただの若いギャルにすぎない。
　そもそも安物のキャリーバックが一般女性感覚過ぎてギャップがありすぎるのだ。

　まだ大学生に過ぎない彼女こそ九条瑠璃子の実妹、九条佳子であった。
　一般人が不埒にも彼女に近づこうものなら、屈強な男達がたちまち現れて阻止される。
　彼女は、取り巻きを持たない単独行動派であり、お嬢様にありがちな世間知らずではなく、基本的に普通になんでも出来る。
　勝手にシークレットサービスが常に十数人付いている身ではあるが、彼女が嫌がるので彼らは苦心して常に周囲に目立たないようにしているのだ。
　彼らの心配をよそに、何度も神戸には遊びに来て土地勘はあるので、この日も、お構いなしに、市営地下鉄に繋がる連絡通路を歩いて行く。
　こういったお嬢様らしくないのは、姉である瑠璃子の影響だったかもしれない。
　ただ姉とは違って単独行動が多い佳子は、護衛する者にとっては気苦労が多い存在でもあった。
　そんな彼女に１人の青年がおもむろに近づく。

優貴　「佳子様！！　 佳子様！！」
佳子　「あらっ　優貴さん　じゃない！！」
　　　「うふふ　来てくれたのね」
優貴　「お願いします！！」
　　　「こちらに　お車用意していますので」
佳子　「嫌よ　　まあ優貴さんが」
　　　「今週　一緒にずっと居てくれるなら」
　　　「それが条件ね」
優貴　「はあぁ　困りましたね」
佳子　「もう　子供扱いしてぇ　知らない　じゃあね」
優貴　「あわわぁ　分かりましたぁ！！」
　　　「佳子様　お供します」
佳子　「もう素直じゃないんだから　うふふ」

　綾小路優貴は、３０歳、身長１８７㎝、速水○こみち似のイケメンシークレットサービスである。
　若いが現役の警視庁所属警視であり、米国ＦＢＩで研修経験もあるＳＰスペシャリストで、ゼウスの意向で九条家警護総責任者に着いている超エリートだ。
　実は佳子が片想いで、心寄せている憧れの存在であった。
　佳子から好かれているという自覚はあったが、彼女は大恩あるゼウスの孫娘であり、一応遠慮する気持ちを優先させていた。

　彼は、実は天涯孤独の孤児であったが、優秀な資質をゼウスに買われて、特別な計らいで武家名門の綾小路家養子となった経緯があり、九条家には特別な恩義があって事実上子飼いのスタッフであった。
　恵まれた心技体と抜群の器量の良さで、警察官僚としては間違いなくトップを走る存在であった。

　彼にしても佳子ほどの美女に好かれて満更でもなかったし、やはり野心もあった。
　もし九条家の縁者ともなれば、警察どころか内閣総理大臣も夢ではないのだ。
　だからこそ孫娘を溺愛するゼウスの意向が気がかりであり、ことは慎重を要する一大事であった。
　といっても幸運にもゼウスに気に入られて順風満帆の人生をここまでは送れたが、ゼウスは高齢であり、いつ後ろ盾を失うかもしれず怖くもあったのだ。

　そうなると佳子の存在が彼にとっても大切な保険であった。
　今回、わざわざ佳子に同行したのはゼウスの意向があったからだが、本質的に嫉妬深い彼が自分に佳子直衛を命じた意図に半信半疑であった。
　ゼウスは、佳子の気持ちを知っているはずなので、このような形で行動を共にすれば、なにかが起きてもおかしくないと思うからだ。
　一応、堅物として知られている優貴でも、佳子の色香にはすっかり参っているのは否定しようがない。

　優貴としては、まずは佳子に嫌われないように距離感を保つことに徹することにしていた。
　ゼウスの意図をしっかり把握してから動いても遅くないと、流行る自分の気持ちを抑え込んでいた。
　そもそも一度でも身体の関係を持ってしまったら、間違いなく踏みとどまることが出来ず、全て露見すると予測していたのだ。
　佳子は良くも悪くも、九条家の女であって、男を喰らい尽くす魔性の女なのだと良く理解していた。
　それでも彼女に惹かれる気持ちと自身の野心には、彼女は欠かせない存在であるのは間違いないのだ。
　そんな彼の思惑に関係無く腕を絡めてくる佳子に、その誘惑の破壊力に正直気が気でないのが本心であった。

　車に乗る際も、強引に後部座席に同席させられてしまう。
　部下達の視線が気になる優貴であった。
　彼らの中にもゼウスの息が掛かった者達が多く居ることは百も承知であり、常にゼウスに見られていると自覚して行動しなければならないのだ。
　まあ一般の鉄道に乗車されてしまうと護衛は気苦労が絶えないので、結果オーライではあるが、こうなると自分自身が崩れる心配が増大するのが困りものだ。

　九条家の娘達は、美しく、妖艶さが抜きんでいるだけに、その魅力に抗うことは正常の男には不可能に近い。
　それなのに隣に座っているのは、小旅行を無邪気に楽しんでいる美人女子大生としか思えない雰囲気なのだから、困ってしまう。
　一度心を奪われたら、一生支配されてしまうという伝説も嘘ではないのだろう。



　佳子と優貴を向かい入れることになった郁美達マンションのスタッフは、騒然としていた。
　彼らにとっては雲の上の存在である九条佳子と、セキュリティスタッフのトップである綾小路優貴の訪問は、ゼウス訪問に匹敵する一大事なのだ。
　特にＳＰ達は緊張の面持ちでホールに整列していた。
　彼らにとって綾小路優貴は伝説の人物であった。
　ＳＰで唯一ゼウスと面談が許された人物であり、日本でただ1人殺しの許可証を持っていると噂されている程の存在なのだ。
　米国ＦＢＩでＳＰとしての研修を首席で修了して、今ではア○リカ要人が来日した際には現場責任者に指名されるほどであった。
　ＦＢＩだけでなくＣＩＡにも友人知人が多くいるという、そんなスーパースターである優貴は、彼らの憧れなのだ。


　マンションロータリーに滑り込んだ車内から周囲の状況を伺う彼の視界に１人の女性が入り、そして目が釘付けになった。
　佳子に匹敵する妖艶さが漂う、その佇まいに胸騒ぎがしていた。

「あれは！！　今話題の　岩永郁美様だ」
「あの５大老が　女神と讃える人だ」
「なんという色香だ」
「佳子様とは　違う　艶ぽっさがハンパじゃない」
「この神戸訪問は　きっと　なにか　ある」
「俺は　とんでもないことに」
「巻き込まれたのかもしれない」
「ゼウス様は　違った意味で」
「佳子様を守れとお命じになったのでは・・・・・」


　昨日も繰り広げられた様な光景が展開し、セキュリティスタッフ達に緊張が走る。

　違うのは、停車した車両後部座席から颯爽と屈強な長身男性が素早く下りてきて、あっという間に車の反対側に回ってこれから下車するＶＩＰを保護する行動を見せて、現地のセキュリティスタッフがつけいる隙が全く無いことだろう。
　後続車両３台からも、次々と平服姿の男女スタッフが降りて周囲に鋭い眼光を放つ。
　結果的に現地スタッフ達は行動が一歩遅れてしまう。
　そんな中でただ１人、郁美だけは平然と車列に歩み寄る。

　郁美としては、出来れば佳子とは争いたくないし、瑠璃子と築き始めた連携を軌道に乗せるために穏便に済ませたかった。
　ただゼウスの意向も背後にあって、更に瑠璃子の実妹ということで、それほどレベルの低い用件で来たのではないだろうことは予測していたのだ。
　それより彼女の興味は、車から降り立ったイケメンスタッフ男性に移りつつあった。

「この人は　誰？」
「ただのセキュリティスタッフじゃない」
「レベルが違う」
「感じる　極上の香りがする」

郁美　「遠路　お疲れ様です」
優貴　「郁美様で　いらっしゃいますか？」
郁美　「はい　失礼致しました」
　　　「わたくが岩永郁美です」
　　　「見事な　お仕事ぶりね」
優貴　「はあっ！！　こちらこそ失礼致しました」
　　　「わたくしは」
　　　「九条家のセキュリティを任されております」
　　　「綾小路優貴と申します」
　　　「よろしくお願い致します」
郁美　「まあ　あなたが　綾小路さんなのね」
佳子　「ちょっとぉ　早く下ろしてよぉ」
優貴　「あっ　申し訳ありません」
　　　「どうぞ」
佳子　「もう　優貴さんたら」
　　　「もうデレデレしちゃって」
　　　「はいなぁ　こんばんは　郁美さん」
　　　「わたしが九条佳子ですわ」
郁美　「失礼致しました　お待ちしておりました」
佳子　「もう堅苦しいのは　止めましょ」
　　　「わたくし　年下ですし　学生ですからねぇ」
　　　「うふふ」
郁美　「ありがとうございます」
　　　「遠路お疲れになったでしょう」
　　　「どうぞこちらに」
佳子　「ありがとう」

　優貴は、郁美の雰囲気に圧倒されていた。
　しばし佳子の存在が跳んでしまったほどであった。
　これほど女を意識させられたのは、初めての経験であった。

「次元が違う」
「５大老の皆様が夢中になられた理由は　これか！！」
「俺は　佳子様達だけが」
「あのオーラを纏っておられると思い込んでいた」
「まだまだ　俺は未熟者」
「それにしても佳子様は器が違う」
「あのオーラ意に介さないとは」
「あの佳子様の笑顔は　なんだ？」
「俺には分からない事が多すぎる」

　彼は、唖然と２人の美女を見送った。



佳子　「そう言えば　今日　瑠璃子姉様は？」
郁美　「お泊まりで　お出かけしておられますわ」
佳子　「そう　お泊まり・・・　まあ　いっかぁ」
郁美　「はい？」
佳子　「かえって好都合　なんてね　うふふ」
　　　「それにしても　近代的なお城を作ったものね」
郁美　「はい　亜紀さんの旦那様が凝り性なもので」
佳子　「そう　そうそう　今日は　亜紀さんは？」
郁美　「居ります」
　　　「上で佳子様をお待ちしておりますわ」
佳子　「もう　様は　こりごり」
　　　「優貴さん達だけで　勘弁して欲しいわ」
郁美　「うふっ　分かります」
佳子　「それにしても　凄いオーラですね」
　　　「ごめんなさい　失礼だったかしら」
郁美　「いえいえ　ストレートなのが良いです」
　　　「みんなから言われるのですが」
　　　「自分では分からないのです」
佳子　「あっはぁ　確かに　そうだ」
　　　「わたしもそうなの」
郁美　「あらぁ　そうでしたかぁ」
佳子　「色っぽいだの　艶っぽいだの」
　　　「言われても　意識してしてるわけではないし」
　　　「これって　持って生まれた」
　　　「資質みたいなものかなって」
郁美　「そう思います　あんまり言われると」
佳子　「馬鹿にしてるのかぁ！！　って」
郁美　「はい　うふふ」
佳子　「やっぱり　実際　人同士って」
　　　「会ってみないと駄目ね」
郁美　「はい？」
佳子　「この様子だと」
　　　「もう瑠璃子姉様と」
　　　「仲良くなっちゃったでしょ？」
郁美　「まあ　多分　そういうことだと思います」
　　　「あっ　着きます　どうぞ」
　　　「左側が　わたしの岩永家です」


　佳子は、郁美と会話した途端、彼女が競い合う最大のライバルなのだと意識した。
　現時点では圧倒的に自分は負けていると理解した。
　そして祖父の意図を察した。
　佳子に、彼女を目標にして九条家子女としての役目を果たせということなのだ。

　そもそも彼女が纏っているオーラは、九条家などの五摂家血統女子だけに稀に資質として発現すると云われる男達を支配する魔性のチカラなのだ。
　それが何故郁美という地方出身の女性に備わっているのか、それを探ってくるのも佳子の役目であった。

　彼女が現れるまでは、この資質は新世代では瑠璃子、佳子の九条家姉妹の他数人にしかいないとされていただけに、５大老が動揺するのは無理もないし佳子も心中穏やかではない。
　恐らく姉は、そのことを意識してはいないと察していた。

　佳子は、極力フレンドリーさを装いながら、自分達と同じく、まさか彼女に隠された人格が存在していないかをしきりに探ろうとしていた。
　九条家の姉妹も実は隠された別人格の持ち主であり、それが魔性資質の根源とされるものなのだ。
　もしそうなら郁美はひょっとしたら五摂家血統に通じる女性である可能性が浮上し、恐らく激震が走る事態に発展する恐れがあった。

　この見極めは男達は魅了されすぎて分からないし、その資質を持つ者だけに分かるとされているので、祖父から佳子が極秘に頼まれた調査でもあった。
　一般女性でも稀に魔性を発現する者は現れるが、それは後天的資質であって、根源的な別人格が存在しているわけではないので異質なものであった。

　ゼウスは初めは郁美はそうだと理解していた様だが、次第に強くなる次元の違う魔性に疑念を抱いた結果、佳子に依頼したのが真相であった。
　もうゼウスも魔性に逆らえない状態に陥りつつあり、むしろ、その可能性に期待しているのではと佳子は疑っていたが、彼女自身も既に興味津々であった。

　もともと１２家存在していた名門一族は数々の血に塗られた権力争いを演じてきた結果、現在では５家が存続している状態であった。
　それが五摂家血統であるが、現在ですら一枚岩だったことは一度も無かったのだ。　
　本流だった者が失脚して都落ちしたり、傍流が争いから脱落して地方の豪族に転じた事例も数え切れない。
　郁美の出身、峰家も九州僻地ながら現代に至るまで権力と財を成している地方豪族の末裔だと報告されているだけに、その可能性は否定出来ない。

　彼女の出現は、時代が時代なら天と地がひっくり返りかねないものであり、過去にも日本史において武家時代を到来させたのは同様な女性の存在があったのだ。
　魔性の女はあらゆる男達を魅了して、意に染まない男達を争わせて抹殺していく歴史が繰り返してきたのだ。
　ある意味、支配体制の陰の支配者でもあった。

　魔性の資質は、理由は不明であるが血筋に不規則に劣性遺伝のように引き継がれるものであって、男系を重視する血統継承の原則と食い違いを引き起こしてしまい、多くの血を流す原因となってきたのだ。
　ゆえに没落した旧１２家を含む都落ちした血族に現れる危険が常にあることが、長く戦乱の原因となってきた。

　大きな外国との戦乱の後、一時的に封じられた日本の統治者達は、高度成長と共に復活して再び権力を掌握し栄華を欲しいままにしてきた。
　苦難と屈辱の時を経て、常に敵対し策謀を繰り返し争っていた五摂家は、カリスマ的なゼウスの父とゼウスにより纏め上げられて、５大老体制による協調体制が築かれたのだった。
　そして５大老達は、長らく女神の登場を心待ちにしていた。
　まさにそんな時に、郁美は現れた。
　九条家の姉妹にとっては、あってはならない事態であろう。
　郁美がイレギュラー的な魔性ならば、それは一時代だけの話なので騒ぎたてる話ではないのだが、懸念通り血統者ならば早々に協調関係を結ばなければ争乱の元になりかねないのだ。

　佳子の打算に基づいた調査活動は、郁美が発揮する凄まじい女子力に圧倒されて木の葉のように蹴散らせてしまう。
　入室して一息ついた途端に、彼女の盟友、姉格の亜紀を紹介されて追い詰められる。
　郁美や佳子とは全く違う凄いオーラを放つ亜紀に、佳子はゼウスと同じ存在感に驚かされる。

「これって　お爺ちゃん　もう覚醒してるよ」
「お爺ちゃん　鈍すぎるよ」
「急がないと　駄目よ」

　さすがの佳子ですら、挨拶を交わすだけで精一杯であった。
　そこに郁美が用意したというディナーのレベルに唖然としてしまう。
　超一流ホテルレストランとなんら遜色ないコース料理が展開していく。
　スタッフ達も良く教育されていて、全く無駄な動きがない。
　そして美味しい料理に絆された佳子は、いつの間にか郁美と亜紀からの質問に答えさせられている自分に気がつく。

　佳子もお嬢様育ちながら自分で出来ることはするし、出来るし、料理も普通に出来る。
　ただ、それに満足、自画自賛しているところがあったのは否定出来ない。
　それに対して、郁美は一流シェフ並みの腕前であり、所作において全て佳子を凌ぐ品格を身に付けていることが明らかであった。

　亜紀に至っては、早くも２児の母親でありながら、夫の事業におけるアドバイザーであり、傘下の者達からも圧倒的支持を集めるカリスマ主婦であった。
　更に司法試験にも一発合格して、近日中に司法修習生として研修に入るという凄まじさだ。
　姉、瑠璃子がキャリアに傾注する理由が今頃になって分かった。

「わたし　完全に負けてる」
「魔性は資質　そして　そのパワーは」
「持つ者の品格　器量に　比例するのね」
「このままでは　わたしは姉だけでなく」
「この２人に　負けてしまう」
「それにしても　亜紀姉様　凄いわ」
「初めてお会いしたけど・・・」

　佳子は、瑠璃子が早々に彼女達と融和したであろうことを思い巡らせていた。

「お姉ちゃんは　なにも知らされていないのに」
「さすがだわ」
「お爺ちゃんたら　わたしを試したのね」
「どうするの　時間を稼げって　言われても」
「わたし　お二人は苦手よ」
「そう　駄目よ　優貴」
「優貴を郁美さんに奪われたら　わたし」
「あの優貴の目　恋した男の目　絶対駄目！！」
「もう　お爺ちゃんたら」
「どうして優貴　寄越したのよ」
「わたしの気持　知っているはずなのに・・・」

郁美　「どうかなされましたか？　佳子様」
佳子　「えっ・・・・・いえ」
　　　「ほんと　ご馳走様でした」
　　　「わたしも　ちょっとイチから料理」
　　　「学び直そうかなって考えていたんです」
亜紀　「あっはぁっ！！　ホドホドにね」
　　　「郁美は　名だたる一流シェフからも」
　　　「意見求められる域だから」
郁美　「もう　亜紀ったら大げさすぎ」
亜紀　「あら　どうして　先日だって」
　　　「海外からの某大使歓迎パーティの」
　　　「メニューでもアドバイス求められたじゃない」
佳子　「えっそうなんてすか！！」
郁美　「だってぇ　あれはシェフが恩師だから」
亜紀　「恩師が　弟子にアドバイスって　あべこべ」
郁美　「・・・・・・・・・・」
亜紀　「まあ　そんな感じだから」
　　　「佳子様は　別のなにかで」
　　　「郁美に　勝負挑まないと」
佳子　「勝負って・・・わたくしは」
郁美　「亜紀　失礼よ」
亜紀　「うふふ　わたし達　駆け引きなんて無意味」
　　　「ストレートで行きましょ」
佳子　「あはっ　そうでした　わたし　負けません」
郁美　「えっ　そんな　わたしは」
佳子　「今分かりました」
　　　「これって　女力　勝負なんですね」
郁美　「おんなりょく？」
佳子　「はい　女子力という男を」
　　　「意識したものではなくて　品格とか器量とか」
亜紀　「そうね　そういうものかも」
佳子　「ストレートにいきます」
　　　「お二人に　これだけは」
　　　「お願いしたいことがあるんです」
郁美　「お願い？」
佳子　「亜紀さんの弟さん　武史さんには」
　　　「しばらくの間　瑠璃子と引き合わせないで」
　　　「欲しいのです」
亜紀　「えっ？　なんで　なんで」
　　　「いきなり　武史が出てくるの？」
郁美　「おや　なんか　訳ありねぇ」
亜紀　「武史が　なにかしましたか？」
佳子　「いえ　いえ　なにも」
　　　「祖父　ゼウスが　とても心配しているのです」
郁美　「へ？　確かに武史君」
　　　「めっちゃイイ男だけど」
　　　「ひょっとして　運命の人ってパターン？」
亜紀　「それは駄目　環ちゃんの旦那様になるの」
佳子　「いやいや　そういうことではないんですけど」
　　　「理由は　わたくしからは」
　　　「今は　お話出来ないんです」
　　　「今度　亜紀さんに」
　　　「直接　お話ししたいそうです」
　　　「司法修習の際」
　　　「関東方面いらっしゃいますよね」
亜紀　「あらっ　とうとう」
　　　「わたしにも　お呼びがきたってわけ」
郁美　「えっそうなの　それって」
亜紀　「まあ　そろそろかなっては思ってたから」
佳子　「是非　小田原に寄って欲しいそうです」
亜紀　「分かりました」
佳子　「助かります　これで今回のお仕事」
　　　「ひとつ果たしました　うふっ」
郁美　「でも　亜紀　これから忙しいのに」
亜紀　「授乳期終わったばかりの子供を置いて」
　　　「司法修習に行っちゃう」
　　　「駄目ママだから　罰が当たったと思えば」
佳子　「祖父は　罰ですか？」
亜紀　「失礼致しました　失言でした」
佳子　「いえ　そうかもしれないって」
　　　「わたし思いました」
郁美　「えっ？」
佳子　「祖父は　あの通り　ワンマンで」
　　　「我が儘で　もの凄いエロエロで」
郁美　「わたし　可愛いお爺ちゃんだと思うけど」
佳子　「お陰様で　今とっても祖父は　元気です」
亜紀　「若いエキスのお陰じゃあ　なんてね」
佳子　「あはぁはぁはぁはぁ～」
郁美　「こらっ　失礼よ！！」
　　　「わたしのゼウスちゃんなんだから！！」
亜紀　「はいはい　もう郁美ったら」
佳子　「・・・・・・・・・・・・」

　佳子の特攻作戦は見事に暗礁に乗り上げてしまった。


つづく
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
羅衣さんの作品集→羅衣さんの他作品
2020年10月3日掲載
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