ずっと愛してます３
羅衣 作
第48話　佳子動く


　九条佳子は、自身の失策を知って愕然としていた。
　三銃士の失敗は佳子の失敗である。
　そもそも女の器量調査に男達を使ったのは、とんでもない間違いであった。

　一般女性ならともかく「会」で話題になっている若い女性グループ「美あんず」がターゲットだ。
　高名なゼウスすら惑わされてしまう彼女達に、まだ自身の欲望が先行しがちな若い男どもが彼女達を上回るなど有り得ないことは彼女自身が証明していたはずではなかったのか。
　彼女の魅力に惹かれている彼らが、彼女に優るとも劣らないオンナ達に屈してしまうことなど容易に想像できたことなのだ。

　
　満足しきった男達の顔を見ていて、改めてオンナという生き物がやはり人間社会を影で牛耳っているのだと実感した。
　女性は本質的には支配者には向かない性であって、だからこそ自らは権力志向は持たない傾向が強い。

　女は嫉妬と攻撃性の塊で残酷な生き物であり、ライバルと思う相手には容赦ない仕打ちを平然とやってのけるのだ。
　ゆえに女が支配者となった国、時代は、策謀が渦巻き平穏な時代が訪れたためしがない。

　女は自身が持つ業を本能的に理解しており、だからこそ自ら見込んだ男達を自身の持つ魅力で操る生き方を好むのだ。
　筋力的に劣る肢体であるが、女体は生物学的には男の身体より数倍強いのは医学的にも平均寿命の長さが証明している。

　業に深き生き物ゆえに、利発なHigh Societyのオンナ達は影の支配者として生きることを良しとしてきたし、結果的にはそれが最良の時代を作ったのだ。
　オンナ達が快楽に溺れて男達の手綱を緩め過ぎて、男達の覇権争いを放置した結果が悲惨な戦争という時代を招いたのだ。

　女同志は互いに攻撃し格付けし合う生き物であるが、本質的には母性があり殺し合いは望まない。
　男達は常に争い、自身が望むものを獲得するためには殺し合いも辞さない生き物である。
　全てはバランスである。
　そんな男達の中でもオンナ達の影響を排したオトコ達もいたが、その多くが夢半ばで倒れる。
　結局、次世代を産み育てるのは女にしか為し得ないからだ。
　五摂家のオンナ達は忠実に継承して守ってきた。

　その次世代の中心人物が九条家の娘達であり、瑠璃子と佳子であった。
　しかし野に下った潮流を継承すると想定されるオンナ達が現れたのだ。
　過去もそういった返り咲きともいえる変革が何度も繰り返されてきただけに、それが現代でも生じてもおかしくない。

　未だ独身である九条家の２人は、脆弱であった。
　結局、女は女でしかなく、実力のある男を得てこそのオンナなのだ。
　ただ今回のことで、佳子的には区切りがついた。

　形として「王妃の三銃士」と彼女の取り巻きとされている彼らであるが、佳子自身が彼らとの肉欲の日々に固執してキープ君にしていたのが本質であった。
　彼らはいずれも資質、器量いずれも彼女の格に見合った男達であり、誰か１人選んで彼女自身がオトコに導けば良いの話なのだ。

　５大老達はその時を待ち望んでいたのだが、その選択は彼女自身がするべきものであり、彼らが口を出すことでも無かったゆえに彼らは見守っていたのだ。
　佳子は遂に彼らを解放して自ら動くことを決心した。

　そして彼女は、思い慕う綾小路優貴を夫にすることを目標に定めた。

「翔　勇人　悠真　ごめんね」
「わたし　ずっと甘えていた気がする」
「わたしが　ハッキリしなかったから」
「だから　お爺さま　わたしをここに」
「みんな　解放してあげる」
「今回の任務は　わたしが果たすわ」



　山田 徹は卒論の追い込み真っ最中で、「美あんず」がいろいろと動いていることは知っていたが、基本的には郁美と敬子からのお願いに応じるのみで他は全く余裕が無かった。
　断片的に話は聞いていたが、彼女達を信頼しており全容を理解しようとは考えていなかった。
　まさにそんな時に、教授から大事なゲストとの調整役を任された。

　最優等生であった彼は、ほぼ完成した卒論は評価が高く後は規定の書式に整える段階に達していたので、教授は息抜きも兼ねたつもりであったろう。
　もちろん彼が女性から大人気であったことも念頭にあっただろう人選であったかもしれない。
　教授が国際学会で発表を控えた演説資料を纏めるに際して、アドバイザーとして紹介されたポルトガル語のスペシャリストとの調整が彼の任務であった。

　研究室に現れたスペシャリストの姿に驚いたのは、徹だけでなかったはずだ。
　現役の外国語大生でありながら、専攻外の外国語スペシャリストとして国際組織から指名されて紹介されるという事実も驚きであった。

　容姿はキャピキャピの女子大生であり、たちまち研究室にいる男達のハートを鷲掴みにしてしまうが、女性陣は警戒心剥き出しとなった。
　正直、徹を始め全員が彼女が任に適当なのか心配になったが、彼女はもともとポルトガル語がネイティブレベルに話せて建築物見学マニアで専門用語にも造詣が深いということが分かると安堵したのは言うまでもない。

　通常の通訳では専門用語がネックであり、彼女のようにその壁がないことは彼らの仕事を半減させる以上の効果があったし、文面を読むだけで誤訳や単語の使い方の間違いも指摘してくれるので大助かりであった。

　そのスペシャリストとは、九条佳子その人である。
　徹は彼女の名前を知っていたはずだが、あくまでも一連の話から蚊帳の外に置かれていたし、自身のことで忙しくて真剣に聞いていなかった部分もあった。
　そもそも彼女がそのような才女であり、このような形で現れるとは考えもしていなかった。
　古典ポルトガル建築に関する内容で、その協力で既に複数の通訳者を雇用していたがが専門用語の壁が厚く難航を極めていた。

　教授も日常会話程度の語学力はあったが、専門的な話となると些細な表現の違いで適切に内容を伝えるのは至難の業だ。
　だからこそアドバイザーを募ったのだが、思うようにいかない。
　やむなく国際組織であるポルトガル語諸国共同体に協力を要請した結果、彼女が推薦されたという流れであった。

徹　　「いや～　素晴らしいです」
　　　「ずっと苦労していた論文が」
　　　「あっという間に片付いてしまいました」
　　　「ありがとうございます」
　　　「数ヶ月滞っていたのが」
　　　「１日で終わってしまうとは」
　　　「いやはや　凄いです」
佳子　「うふふ　とんでもないですわ」
　　　「翻訳自体は終わっていたから」
　　　「表現と単語の見直しだけですから」
　　　「うふふ　それにたまたま」
　　　「バカンスで　丁度神戸に来ていただけです」
　　　「これも運命かしら」
徹　　「いやいや　幸運なのは　私どもです」
　　　「ポルトガル語諸国共同体のお話では」
　　　「日本で建築用語に詳しい方では」
　　　「佳子さんが第一人者らしいじゃないですか」
佳子　「わたしは」
　　　「あの造形美を見るのが好きなだけ　うふふ」
　　　「まあ　お役に立てて　良かったですわ」
徹　　「バカンス中だったのに」
　　　「申し訳ありませんでした」
　　　「ありがとうございました」
　　　「教授が　あれほど上機嫌であったのは」
　　　「初めてのような気がします」
佳子　「徹さん　今晩はお暇ですか？」
徹　　「はい？　まあ」
　　　「これほど早く終わるとは」
　　　「思っていなかったので　大丈夫です」
　　　「お礼に　どちらでも　ご案内します」
佳子　「では　有馬温泉に連れて行って下さる？」
徹　　「えっえぇぇぇ　温泉ですか！！」
　　　「今晩ですよね　ちょっと予約取れるかな」
佳子　「それは　わたしの方でとれますから」
徹　　「はあぁ　分かりました」
　　　「では　お車をご用意します」
佳子　「助かります　実は　個人的に徹さんに」
　　　「ご相談したいことあるの」
徹　　「そうですかぁ　分かりました」
　　　「では午後６時に　ホテルにお出迎え致します」



　佳子は偶然とはいえ、ポルトガル語諸国共同体の要請に歓喜していた。
　まさか山田 徹の研究室への直接訪問するチャンスが都合良く訪れるとは考えもしなかったから当然だ。
　これも彼女が「女神」の資質を持つ存在だからこその運命なのであろう。

　人のとの出会いも、自ら動くことなく向こうから近寄ってくるものなのだ。
　そして研究室に出向けば、望まなくても彼が彼女との調整役となっていた。
　そんな邪心満々の彼女であったが、徹に出逢った途端に一目で彼の素晴らしさに心奪われる。

　存在そのものが女にとってヤバすぎるのだ。
　彼の無意識の所作全てが女の心を惹きつけるし、彼の声を聞いているだけでウットリしてしまう。
　「美あんず」から一身に愛を集める男とは、これほどとは彼女も侮っていたと動揺を隠せなかった。
　自分はミイラ取りがミイラになる轍を踏むのではと、不意に不安になる。
　しかし徹への興味と彼が振りまく魅力の吸引力に屈した。

「女は急には止まれないわ」
「彼こそが　「美あんず」」
「郁美の秘密への最短なのだから」

　佳子は優貴を心に決めたばかりだというのに、もう心揺らいでいた浮気者であった。

　佳子にすれば、しきりに誘惑しても自制心の強い優貴は一向に乗ってこないことにイラついていたことも理由になるだろう。
　そもそも彼女が誘惑して靡かなかった男はいなかったのに、肝心の優貴が思い通りにならないのだから我が儘な彼女には耐えられないのだ。
　だから今回あえて彼に見せつけてやろうと企てたのだ側面もある。

　彼は超一流のセキュリティサービスであり、だからこそゼウスから徴用されて警察官僚の実力派キャリアとして登り詰めたのだ。
　簡単には彼は揺らいだりしない男であり、だからこそ佳子も認めたのだ。
　普通の手段で駄目なら、制御が難しい嫉妬という基本的な感情を刺激してやろうというのが彼女の考えであった。
　その企みはいきなり壺に嵌まる。



　綾小路優貴は、郁美の魅力に感服していただけに彼女の秘蔵っ子という山田 徹に明解な対抗意識を抱いていたのだ。
　興味深いことに「王妃の三銃士」には抱かなかった感情が芽生えたのだ。
　彼らとなにが違うのか、本人すら分からない差であったが、明らかに郁美の影があったことが無関係ではないであろう。
　郁美という女性は男なら１度は抱きたい女であり、そして１度味わったらもはや忘れられない女なのだとゼウスが先日彼に漏らしたことがある。

　その彼女が真逆に愛して育て上げた究極のイケメン男子こそ徹である。
　そして彼は「美あんず」全員から愛を一身に集めていると噂された男なのだ。
　密かに将来の目標として佳子の夫でありたいと企んでいる彼にとっては、徹の登場は一大事であった。
　影ながら護衛しながら、彼と笑顔で会話を交わす佳子がこれほど遠い存在に感じたことがなかったであろう。
　佳子はこれまでに何度も彼にサインを送っており、その誘いに応じなかったことに今頃になって悔いる優貴であった。

「俺は　慎重になりすぎて」
「もしかして　時を逸してしまったのではないか？」



　佳子は徹の運転でドライブを満喫していた。
　ベンツA-Classのシートが程よい加減で彼女を包み、適度な彼とのトークが楽しい。
　彼は彼女と見事に話が合う、いや日頃から女性が興味があることに精通していて見事に会話を合わせてくれているのだ。
　そしてなによりも女性との会話術に秀でている。
　女性はネットサーフィンよろしく結論がない会話が主体であり、あくまでも共感型なのだが、男性は結論求める異質な会話文化である。
　それなのに徹は見事に共感型の会話が出来るのだ。
　もちろん男性特有の聞き流しをしているわけでない。
　急に話題が戻っても期待した通りの言葉が返ってくるから驚きさえある。

　佳子は同性の友人はほぼ皆無であり、基本的にそういう会話に飢えている部分があった。
　異性でありながら彼女は彼との会話にのめり込んでいた。
　そしてしゃべり出したら止まらないレディーストークに変化していく。
　もともと会話に飢えているだけに、自らしゃべらなくて良い話題も漏らしてしまう。
　途中自らしゃべり過ぎたことに気がつき動揺するが、次第に止まることが出来なくなってしまう。
　そんな彼女に相づちを打ち、適度に共感してくれる彼の話術に嵌まってしまったのだった。



　徹は佳子に出逢った時から彼女の可憐な容姿にノックアウトされていた。
　それは徹だけではなかったが、主に彼女と接する立場となった事から彼女の魅力を目の当たりにすることになったのは徹だけであった。
　翻訳と建築に対する知識は、徹ですら感服するレベルであった。

　それでいて可憐の中にゾクッとする色香が漂い、徹はいつか鼻血出すのではないかと気が気がでなかった。
　若い女子大生なので服装も相応なのだが、チラチラ覗くブラが眩しく邪な欲望を抑えるのに苦労したのだ。
　出逢ったインパクトは郁美に匹敵するものであり、女性キラーとしての劣情が沸々と沸騰してしまった。

　それでも既に敬子という妻がいる身であり、「会」関連以外の女性は自重しなければならないと理解していたので必死で我慢していたのだった。
　そんな中での有り得ない温泉デートのお誘いである。
　佳子の魅力の前に、徹のささやかな貞操は崩壊した。

　ウキウキ気分で一時帰宅して車を取りに戻った彼は、敬子には会わずに隠れて車を持ち出した。
　本能的に会って話したら浮気心がバレると分かっていたゆえの行動であった。
　普段の彼ならあり得ない行動なのだが、それほどまでに佳子は魅力的だったのだ。
　暴走した徹を至福の時間が待っていた。

　佳子が確保したという宿が、なんと徹がお気に入りの「有馬○ランドホテル」であり、更にテラスに専用露天風呂がある特別室といつもの場所だったからだ。
　もう彼女と露天風呂で淫猥に交わる妄想爆裂状態となった。
　なので車中のトークに力が入る。
　もう彼女を落とす気満々で、いつも以上にトーク内容に技巧を凝らすし質にも拘る。

　「美あんず」にはいないタイプの美女が味わえる絶好のチャンスに若い欲望は加速する。
　そのトーク途中で彼女が「美あんず」で話題となっている女性だと気がつくが、脳天気なことに浮気の良い口実だと喜んだだけであった。
　もうエッチしたくて、したくて、堪らないので、大人の事情は男の下半身には関係無かったのだ。


　夕刻からのチェックインだったので、２人は夕食から楽しむことになった。
　それは徹にとって拷問に等しい時間であったが、当初から信じられなかった２人で１室というシュチュエーションが事実であった為、再び妄想の温床になったのは言うまでもない。
　出逢ったばかりだというのに、目の前で浴衣姿の佳子がいたのだ。
　実際に徹は食事になにを食べたのか覚えていない有り様であり、ひたすら彼女とのセックスシュミレーションに明け暮れていたのだった。
　早々に食事を終えると、直ぐに寝室の用意を依頼する徹であった。
　その数十分間が彼には数時間に感じられたであろう。
　仲居達が撤収すると、間髪入れずに入浴を提案する徹であった。

徹　　「どうです？　あの露天風呂」
　　　「もう入っちゃいますか？」
佳子　「うふふ　もうですか？」
　　　「さっきお酒頂いたばかりだから」
　　　「わたし酔っちゃうかも」
徹　　「大丈夫です　僕がついていますから」
佳子　「じゃあ　部屋　ダウンライトして下さるぅ？」
　　　「明るすぎるのは　やっぱり恥ずかしいわ」
徹　　「もちろんです」
佳子　「わあぁぁぁい　露天風呂って久しぶり♪♪」

　佳子は３週間ぶりのセックスに期待が高まり、いつも以上に大胆になっていた。
　薄暗くなった室内を良いことに、徹の眼前で浴衣を一気に脱いで見せた。
　さすがの徹もその大胆さに呆気にとられた。
　なんと彼女は下着を着けておらず、浴衣の下は全裸だったのだ。
　思わず目を凝らして細部まで視姦しようとする彼であったが、目の前に舞い降りた天使はあっという間に専用のテラスにある露天風呂に逃げて行ってしまう。
　オスの本能が獲物を逃すかと血が沸騰する。

徹　　「あっ！！　待て！！」
佳子　「うふふ　わたしが欲しかったら」
　　　「１分以内に　捕まえてご覧なさい」
　　　「捕まえられなかったら　エッチはナシよ！！」
徹　　「なんだってぇ！！」

　まさに売り言葉に買い言葉であったが、徹は本気に受け取った。
　焦ると意外に浴衣は脱ぎにくいし、この時ほどトランクスが邪魔と思ったことはないであろう。
　徹は荒々しく咆哮し、もう見境のない発情した獣と化した。
　佳子は自身が持つ肢体の魅力を理解していないから、安易に精力溢れる若者を煽ってしまったのだ。
　本気で追ってくる彼に驚いた。
　彼女の眼前に迫る徹の鍛え上げられた肉体美に圧倒される。

　あっという間にテラスの隅に追い詰められて、抱きしめられてしまう。
　そして抱きかかえられて露天風呂に引きずり込まれ唇を奪われてしまう。
　しかしその強引さにキュンとする。
　彼の手は彼女をその気にさせようと妖しく蠢く。

　温泉の熱気で意識が揺らぐのを良いことに動きに遠慮なくポイントを集中攻撃してくる。
　無礼極まりない性急な前儀だが、キスが上手すぎてそちらに意識を引きずり込まれて抗うことが出来ない。
　木製の湯船であるから普通なら何処か身体的な負担があって痛いであろうが、不思議とそんな痛みは何処にも感じなかった。
　彼は彼女を荒々しく抱きしめながら、彼女の肢体を完璧にガードしていたのだ。

　湯が沸き出す音と彼女が漏らしてしまう喘ぎ声だけがテラスに響き渡る。
　他には一切邪魔するものが無く、彼女は本人も意図しない早さでセックスモードに引きずり込まれていた。
　温泉の湯温は高めであり、活発化した血行が女の官能を上気させて瞬間湯沸かしのように燃え上がらせる。
　いまだかつてこの電光石火で彼女を点火した男がいたことはない。

　早くも佳子は肢体と意識が分離現象を引き起こして、肢体は肉欲に貪欲な第２の人格に支配されてしまう。
　合体せずにこの現象を起こしたのは初めての経験だ。

「徹は　まさに規格外　お爺さま　わたし」
「駄目かも　彼は　恐らく伝説の・・・」
「わたし・・・彼に征服されてしまうかも」


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2020年12月12日掲載
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