ずっと愛してます３
羅衣 作
第52話　魔性の系譜


　ズウゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！

　無言の抗議である一撃が彩佳を打ち抜いた。

　桃亀君は巨大ながら巧みな形状により、いとも簡単に女芯を貫いていく。
　何度経験しても慣れない圧倒的な存在感に悶絶してしまう。
　脳裏に郁美の言葉が蘇る。

「桃亀君　あれって中から支配されるって感覚よね」

　そう支配されるのだ。
　１度嵌められたら女は決して逆らえない魔棒なのだ。
　あまりの衝撃に四肢が痙攣してしまう。

「ひいぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃ」
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ！！」

　本能的に続くであろう激しいピストン攻撃を覚悟し、目を閉じて身を固くして備える。
　大事な旦那様を蔑ろにした天罰だと諦める。
　しかし待てど暮らせど嵐のような打ち込みは襲ってこず、太く逞しい桃亀君がピクピクと律動する感覚に戸惑うばかりだ。

　恐る恐る目を開けると眼前に祐司の顔が迫っていて、鋭い眼光に射貫かれてしまう。
　その瞳は怖いぐらい澄んでおり、彼女は心の奥底まで見通されそうな感覚に囚われる。
　夫の表情は穏やかでありながら、不安げなものであり彼女を切なくさせる。
　不安にさせているのは自分自身なのだと理解する。
　自分は倍ほど年上の夫を不安にさせて嫉妬させているのだ。

　彼女にすれば祐司は彼女をHigh Societyに引き上げてくれた大切な旦那様であり、打算まみれであった彼女を優しく受け入れてくれて愛情一杯で抱き包んでくれた存在であった。
　彼とのセックスは素晴らしく彼女をたちまち虜にし、彼女を一気にオンナに生まれ変わらせた。
　毎日、毎日充実した日々が送れるのも彼との性生活があればこそであり、いつも情熱的に燃え上がるのも愛情の証でもあった。

　再び郁美のアドバイス、忠告の言葉が脳裏に蘇る。

「祐司叔父様は　亜弥子叔母様を失った時に」
「心が傷ついてしまったの」
「きっと今でも癒えていないと思う」
「それは　わたしでは癒やせなかった」
「紗弥も駄目だって言ってた」
「それを癒やせるのは　彩佳」
「あなただけしか出来ないし　そうでなきゃ駄目」
「お願い　祐司叔父様を　癒してあげて」

彩佳　「あなた　ごめんなさい　わたし」
祐司　「・・・・・・・・・・・・」
彩佳　「わたし　分かってくれてるって思ってた」
　　　「言葉が足りなかったわ」
　　　「愛してます　ずっと　ずっと」
　　　「あなたについていきます　ごめんなさい」
　　　「不安にさせて」
祐司　「彩佳　俺には　彩佳が居てくれないと」
　　　「いや　俺も　愛しているよ」
　　　「誰よりも彩佳のこと」
彩佳　「うん　分かってます」
　　　「ごめんね　わたし　浮かれていたかも」
　　　「あん　まだ動かさないでぇ　あひぃあん」
祐司　「そう言いながら　締めつけ凄いよ」
　　　「それに　にゅるにゅるしてきたよ」
　　　「がはぁはぁ」

　祐司は、愛妻が「美あんず」の夫達と交流することについては理解していたし受け入れていた。
　それは自分自身が今更郁美や敬子達との関係を絶てないことも理由であるが、若く魅力的な妻を閉じ込めたら彼女の成長を阻害してしまうと考えていたからある。

　ただホステスという仕事を通して出会う男達は別だ。
　その男達と彼女がセックスすることには明確に拒絶感があり、それは浮気だと思っていたのだ。
　毎日のように抱いている愛妻の身体が他の男とセックスしてきたかどうかなど、抱けば１発で分かる。
　だからこそ嫉妬の炎で我を忘れて肉棒を荒々しく打ち込んだ途端、鞘に収まった桃亀は満足げに脈打ち安堵と安心で精神的に落ち着きを取り戻したのだ。
　妻は不貞行動をしてないのは分かっただけに、自分が稚拙にも焼き餅を妬いて軽挙に出たことを後悔する気持ちが湧き上がってくる。

　年の離れた若妻を持つと祐司ほどの男でも不安で堪らないのだ。
　若妻が美しく魅力的であればあるほど、その感情は膨れあがる。
　安堵がギリギリ保っていた感情を爆発させてしまう。
　必死で抱きつく、それは若妻を逃がすまい誰にも渡すまいとする、やや子供じみた行動であろう。

　しかしそれが肢体で感じる生き物である女に一番伝わる方法であるのは紛れもない事実であった。
　夫に如何に愛されているかを実感するということが結果的に妻を強くすることに繋がる。
　そうこうするうちに肢体の準備が整った彼女は、夫にゴーサインを出すように両手両脚を巻き付けていく。

「あなた　アリガトね　わたし　分かった」
「もっと明確に　彩佳本人と　杏というホステス」
「演じ分けてみせる」
「そして　２度とあなたを不安にさせたりしない」
「わたし　悠希さんのお陰で」
「違う自分見つけられたの」
「きっと　あなたも驚く　杏という女性」
「見せてあげるからね」


　相思相愛で、周囲が羨むほどに熱い年の差夫婦にとって、今更細かい技巧を凝らした性技は必要としない。
　男と女の肉欲をぶつけ合うだけで、お互い天井知らずに燃え上がっていく。
　その凄まじさは高級ベットのスプリングが数ヶ月と持たないという逸話が流れるほどであり、恥ずかしいからとウォーターベットに変えたが同じく数ヶ月で破裂したらしい。
　恥ずかしいから言わないが、彩佳は既に桃亀中毒であった。
　亡くなった前妻亜弥子が長らく独り占めしてきた桃亀は放浪を経て、遂に新たな所有者を迎えたのだ。

　ピクピクと脈打ちながらゆっくりと引き抜かれていく桃亀君に、アワビ貝は必死に絡みつく。
　再び押し入ってくると分かっているのにキュンと切なくなる名残惜しさが女を狂わしていく。
　襟首に引っ掛かり内部から押し広げられる感覚に、思わず喘ぎ声が漏れてしまう。
　この感覚は桃亀を味わった女だけが知る魔の瞬間であり、アクメの波の谷間に訪れる負の瞬間、それがアワビ貝を飢えさせる。
　ぷるんと抜け出した感触に四肢が震えると間を置かずに真逆の圧迫が襲いかかる。
　飢えたアワビ貝は主の意志に関係無く桃亀を咥え込んでいく。
　何度も何度も繰り返される陰部同志の交接が女の肢体を桃色に包んでいく。

　グチュルプゥゥゥゥゥゥゥゥ
　プッゥグチュルゥゥゥゥゥズプッパァ♪♪
　グチュルゥゥゥゥゥズプッパァグチュル
　プゥゥゥゥゥゥゥゥプッゥ♪♪
　グチュルプゥゥゥゥゥゥゥゥプッゥ
　グチュルゥゥゥゥゥズプッパァ♪♪
　グチュルゥゥゥゥゥズプッパァ
　グチュルプゥゥゥゥゥゥゥゥプッゥ♪♪
　グチュルプゥゥゥゥゥゥゥゥプッゥグ
　チュルゥゥゥゥゥズプッパァ♪♪

彩佳　「あひぃあん　凄いぃ」
　　　「いくぅいっちゃうぅぅぅぅぅあん」
祐司　「うほぉふん　うはぁふん　ふんふんふん」
彩佳　「いぃっいぃぃぃぃぃぃぃぃあん」

　毛穴という毛穴が開いていく様な女しか分からない凄まじい浮遊感から女のアクメは始まる。
　次第に視界が眩しいばかりの光に包まれて周囲が見えなくなっていき、自分の位置が分からなくなり恐怖を本能的に感じる。
　だから男性の身体だけが彼女と現世を繋ぐ唯一の手かがりと感じるから思わずしがみつかずにはいられない。
　カッと子宮が熱くなる感覚から次第に脊髄を伝わって後頭部から広がると脳が溶けるような痺れた感覚に襲われる。
　もう蕩けてしまうような気持ち良さが頭を突き破って吹き出す寸前に、彼女が人として留まろうとするリミッターのようなものが働くのか絶叫してしまう。
　その瞬間、ブレーカが落ちて停電した様にプツンと意識が跳んでしまう。

　いわゆる女が言う「逝き」という現象であるが、全ては女が精神的破綻から身を守る為に作り出すリミッターの様なものである。
　女の性感には限界は無いというのは医学的に証明されており、初歩の逝きを男が味わったら覚醒剤中毒のようになってしまうほどの気持ち良さだという。
　女は自身の精神力、成熟度、経験値、快楽への探求心など、技量に基づいて本能的に限界値を設けて「逝き」というリミッターで精神的破綻から守る才能を備えている高度な生き物なのだ。

　体内で生命を育み、更に男では決して耐えられないと言われる激痛も克服して産み育てる母体なのだ。
　苦痛と快楽は、陰と陽、正と負と対を成す対極的な存在であり、互いにその奥深さは同等である。
　女性は出産という究極の苦痛に耐える肢体を手に入れた時から、極限の快楽を味わえるご褒美を与えられた性なのだ。

　女の本能が作り出したリミッターであるから、経験を積み重ねて精神的に成熟していくと加速度的に貪欲に変化していく。
　本性として欲張り、貪欲なのが女である。
　これを体現しているのが、郁美である。
　男達が彼女が日に日に限界知らずの寝室の女王と感じるのは、このリミッターがもはや規格外に解放されているからに他ならない。
　「美あんず」の女性達は、郁美という存在に引っ張られるように、良質な男達にも恵まれたお陰で一般女性より解放されているのが実態であった。
　彩佳は特に人一番アクメへの執着心が強くて貪欲であるので、桃亀がもたらす究極アクメを丸ごと食らい尽くすことが出来るから彼の妻になり得たのだ。

　ただ当然ながら精神的廃人である淫乱の狭間を彷徨う快楽の狂乱であるから、常識的な限界はあるのが普通である。
　一般女性ではこれを強制的に越えると精神的に壊れてしまうのは、よく知られている話である。
　それをもう数段上まで登り詰められる資質を持った女達が、いわゆる「魔性」と呼ばれる存在であった。

　五摂家が長らくこの魔性を持つ女を追い求めた結果、女系女子に継承しやすいとは把握していたが男系嫡流権力権威継承を軸にしてきた為に、常にそのギャップに苦しめられていたのだ。
　そして今、郁美、紗弥、瑠璃子、佳子という４人の魔性が現れて、男達を惑わす混乱の時代が訪れようとしていた。
　ここに彩佳の様に、突然変異のように魔性系オンナが同時に多数誕生するとは誰もまだ気がついていなかったのだ。

　彩佳は、既に健二が郁美に出会って魅せられた当時と同じくらいオンナを開花させており、恐ろしいほど性感を貪り食い尽くしつつあった。
　だから際限なく連続逝きを満喫しきっていく。
　１度逝き、その次は更に高みを、更に次はもっと高みを登り詰めて行く。
　祐司は前妻より格段に限界が高い若妻に驚喜して応えていく。
　もともと彼は重度のセックス依存症であり、彩佳だけに限らず、悠希、敬子ら女達をどんどん限界まで高みに導く存在であり、ある意味魔性系オンナを続出させる原動力となっていくのだった。
　そして今、彼は愛妻をもはや一般女性ではあり得ない領域まで誘おうとしていたのだった。


　健二は、自らの肉欲と野心に夢中で、愛妻郁美が近親相姦というタブーを破ってまで固執する叔父祐司の本質を見誤っていた。
　しかし郁美が十二家末裔と見極めたゼウスですら見落としていたのだから、彼だけを責められない。
　郁美がそうだとすれば、その叔父祐司も十二家末裔の因子を持つ血族なのだ。

　残念ながら彼らの興味は、既にもう１人の紗弥の方に向けられていたので、彼らが結局女体に固執する男達に過ぎないことの裏返しであった。
　ただ「会」にとってはサラブレットである三宅真也が一発で夢中になってしまった紗弥の魅力は、彼らから見ても羨望であり、彼女が早く出産を終えないかと心待ちにしている状況だっただけに冷静さに欠いていたのもの致し方ない。
　祐司の特質は類い希なるタフさと貪欲性が目立つが、実は桃亀に他者には逆立ちしても勝てない最終兵器であることだった。
　実の娘ですら忘れられなく魔棒は、このまま多くの美女達を欲しいままにしていくことになる。

　セックスの知識と技量は岩永健二、天性のスケコマシモテ男子は山田 徹、そして究極の女殺しは山田克也、突き進む重戦車は田原 凌、オールマイティ完成形の三宅真也、そして郁美が大きな期待を寄せる秘蔵っ子である森川武史、それぞれが際立った男達であったが、祐司はその中で魔性天然育成師たる資質を持つ稀な男なのだった。

　彼の存在が「美あんず」の優位性を高める基礎になっていることなど、実はこの時点では郁美しか認識していない秘密中の秘密であった。
　当の本人は「会」の存在で長年思い慕っていた姪っ子郁美と定期的な肉体関係を楽しめるようになった事で性的な不満は皆無となり、若く美しい若妻彩佳を後妻に迎えてまさに盤石のセックスライフを欲しいままにしていた。

　今回の様に彩佳への執着が彼にとっては一大事なのだから、他のことには興味が無かったゆえに台風の目のような存在となっていくのは当然の成り行きであった。
「美あんず」の夫達には、彼自身それぞれ認めるところがあって、その妻達がご馳走過ぎたために引き替えに彩佳が楽しむことも許容していたに過ぎず、他の男達が彼女に近づくことには明らかな嫌悪感を抱いていたのだった。
　不幸中の幸いに彼自身が愛妻を際限なくレベルアップものだから、結果的に彼女の視野から一般男性が外れていくことになり、次第に安堵することになっていく。



　そんな彼に熱い視線を送っていたのが、出産経て完璧なバイセクシャルと化した亜紀であった。
　もともとは男性とのセックスには消極的であった彼女が、今ではそれまでの損を取り戻すかのように貪欲であり、絶倫でならした夫の凌とも朝晩とお盛んに楽しむほどの変化を遂げていた。
　更に山田 徹、岩永健二、三井 剛とも煩雑に愛瀬を重ねていて、それだけではもの足りず達木祐司にも興味を示しつつあったのだった。

　以前は良い男に目がない郁美のことを窘めていた立場だったこと、そしてなにより夫の目線を気にして表面上は冷静さを装っていたが、虎視眈々とチャンスを狙っていたのだ。
　桃亀の話に興味津々で表情を変えずに、郁美や彩佳、敬子、紗弥達の話を聞いていたが身体は疼いていたのだった。
　そんな変化には郁美だけは気がついていたのだが、そもそも彼女の隠された資質に以前から気がついていてから、とうとうその時が来たのだと思っていた。
　だからこそ郁美は亜紀に心惹かれたのだ。

　亜紀の特質性は、夫凌に止まらず裏社会の狼である剛ですら脱帽の剛胆さと決断力と共に、セックスでの許容範囲の広さからオンナとして魅力に溢れていることにあった。
　時には女帝のように強烈に我が儘でありながら、一転女として武器をも使いこなす強力無比の存在であった。

　もちろん夫の圧倒的な財力も背景にあるが、まだ２０代後半の若妻でありながら関西政財界で知らぬ者がいないほどの存在となっていた。
　「会」関西支部の主宰は凌と健二であったが、実質的には彼女が女帝なのだ認知され始めていた。
　山田優衣を初めとする名だたる先輩女子を凌駕してしまったのは、郁美を筆頭とする「美あんず」の存在があった。

　亜紀は彼女達を独り占めしつつ、彼女達を通して名だたる男達を精神的にも肉体的にも支配していたのだ。
　既に出産して２人の母親であり女としての幸せは手に入れており、レズビアンとして名だたる美女の集まりである「美あんず」も作り上げたのだ。
　残るはオンナとして欲望を満たすだけであり、その為には桃亀は気になって仕方がない逸物であったのだ。

　今までは気になっていても郁美の存在が大きくて、その余裕は無かったのだが彼女が妊娠となると安定期に入るまでは自重せざるを得ない。
　涼子達も急成長していたが、やはり郁美ほどのパートナーは存在しないというのが本音であった。
　男性を見るも冷淡であり、彼女が認める存在は数えるほどしかいない。
　もともとお金で肉体関係を結ぶソープ嬢出身であり、一目で男の資質、器量を見抜くようなところがある。

　彼女の目立てでは「王妃の三銃士」はまだ発展途上の男達であり、自身や里奈、郁美、紗弥が関わるほどの器量は無く「美あんず」の敵ではないと見切ったからこそ次世代エース敬子に一任したのだ。
　もちろん信頼するパートナー悠希にサポートをお願いすることは忘れない。

　瑠璃子も佳子もお嬢様過ぎて、社会のどん底を経験した亜紀から見ればまだまだ発展途上だと見定めていた。
　事実、２人とも郁美と亜紀の前に、あっという間に懐柔されてしまう。
　２人が屈したのは郁美の魅力と表面上は見えていたのだが、実は亜紀の圧倒的な存在感にあったのは女達しか知らない事実であった。

　出産で出遅れていたから「会」内の地位も今だ主宰の妻という位置づけに過ぎなかったが、今では郁美と共に美帆と麻輝とも完全な協力関係を築いており、関西政財界に続いて名を轟かすのも時間の問題であった。
　亜紀がただの成り上がり女では無いと周囲が唸らせるのが、司法試験一発クリアであろう。

　彼女は、両親の病没そして膨大な借金を抱えて社会の最下層に落ちたが、高校を卒業と共にソープ嬢として働いて弟武史を守り東大医学生に送り出した苦労人だ。
　田原 凌という財界人に見初められ再三の援助申し出も受けながらも拒絶し、自力でそのどちらも完遂してみせたのだ。

　彼女にすれば凌の愛人に墜ちれば、どれほどの楽な人生であったが誰の目から見ても明らかである。
　レズビアンであり、当時は男性にほとんど興味が無かったこともあるが、それより尊敬する父親の誇りを他人の力を借りて守るということが彼女には耐えられなかったのだ。

　彼女も父親が健在の頃はかなりのお嬢様育ちで、通学には執事が運転する車がつくほどの神戸の一等地芦屋育ちであった。
　母親は元国際線のＣＡであり、お嬢様として育てられながらも厳しく現実派として教育されたので、身の回りのことは自分で出来る教育を受けたことが不幸中の幸いであった。

　彼女が中学生に進学することから父親の事業がバブル崩壊に巻き込まれて思わしくなくなった。
　彼女一家の事情は特殊であり親類縁者の付き合いが全くといってなかった為に、傾いた事業を立て直すのは簡単では無かった。
　そんな時期に父親が悪性腫瘍の病に倒れてしまう。
　一家の大黒柱が倒れてしまえば、援助してくれる親類縁者が皆無の一家は坂道を転がり落ちるように崩壊していく。

　父親が亡くなると続けて母親も病没してしまう。
　１２歳になったばかりの弟を抱える１８歳の少女にはあまりに過酷な現実が待っていた。
　容姿に優れるお嬢様育ちの彼女に、不埒な欲望を抱く債権者の男達が迫っていた。
　その誘いを拒絶して、彼女は自ら生きていくこと決断する。
　彼女に残されたのは、可愛い弟を守り通すことへの強い意志だけであった。

　彼女は社会の底辺にいても、他人の風下に甘んじて愛人で生きることなどは父親から受け継いた「誇り」が許さなかったのだ。
　それは死す時まで「誇り」を失わなかった父親への愛に他ならなかった。

　魔性が目覚める全ての原点はここにあったのだ。


つづく
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2021年1月9日掲載
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