ずっと愛してます３
羅衣 作
第6話　女子会のチカラ


　男性が目にしたら自信喪失するような官能美に包まれている情景が繰り広げられていた。

　亜紀は、そんな２人を満面の笑みを浮かべて見つめていた。

　兄夫妻が「会」に属しているという事実を知って動揺している郁美を慰めながら、彼女から訊き出した兄夫妻の話で彼女が特に興味を持ったのが恋(れん)のことであった。
　郁美の話しぶりニュアンスから、彼女すら自覚していなかった恋への秘めたる気持ちも瞬時に洞察していた。

　郁美は元々バイセクシャルな資質が潜んでいたので、一度目覚めてさせてしまえば、亜紀にとっては可愛い同胞であった。
　その彼女が高校生時代に唯一心惹かれた存在が恋であると見抜いていたので、亜紀は興味津々だったのだ。
　そして来場した恋を見て、亜紀は内心驚喜していたのだ。

　亜紀にとって恋は初めて接する女性のタイプであり、少女のような雰囲気が色濃く残るのだが妖艶な大人の表情が共存しているアンバランスさが魅力的な女性であった。
　さぞかし高校生時代は、可憐で可愛らしかったに違いない。
　夫の歪んだ性癖に翻弄されて、妖艶な部分が肥大化していったのだろう。

　その彼女が亜紀と面談したときに見せた憂いを含んだ表情の中に、亜紀は彼女に潜む同胞の匂いを感じて確信していた。
　亜紀は欲しいと思った女性は必ず手に入れる主義であり、すぐに行動に移すタイプであった。
　郁美に恋の中に潜む同胞の種子があると明かしつつ、彼女の中にしまい込まれていた同級生への思慕の感情を目覚めさせたのだ。

　亜紀と郁美は、お互い姉妹がいない者同士であったゆえに、その反動もあって今では実の姉妹以上の絆に結ばれていた。
　２人の間に、もはや細かい言葉は必要ではなく、お互いの仕草と表情で以心伝心の関係であった。
　郁美は、亜紀が恋を欲しいと意図していることを理解して、その認識から自分自身に潜んでいた青春の日々に埋もれていた劣情を強く感じていた。

　当時の彼女は、女同士、レズビアンの関係など考えたこともなかったので、自身に生じた不思議な感情の扱いに困って封印してしまっていたのだ。
　そんな心のモヤモヤは、健二と出会って男性とのセックスの素晴らしさを教えられて夢中になってしまい、吹き飛んでしまった。
　今では郁美自身も、敬子、環、と可愛い妹分を抱えていて、もはや男性との関係だけでは全てが満たされない状態であった。
　つくづくオンナという生き物は、欲張り、貪欲な存在なのだと我ながら思い知った。

　レズビアンの門を開放すると、オンナとしてキャパシティが数倍に広がっていると実感があったのだ。
　亜紀は、実に巧みに女性の中に潜むレズビアンへの扉を開けてしまう達人であった。
　気がつけば女子会のメンバーは全員バイセクシャルとなっていて、女同士しか達し得ない領域を共有している運命共同体であった。

　それが深く強くなればなるほど、男性達とのセックスで得られるアクメが強くなっていく傾向があって、もはや病みつきであった。
　亜紀は、もともと男性とのセックスには冷淡であったのだが、健二、徹に出会った頃から、変化が現れて女としてのアクメに傾斜するほどであるから、その気持ち良さは麻薬ともいえるものであった。
　恋は、まだその素晴らしさに気がついていないのは明らかであった。

　亜紀は２人の世界には干渉しようとせず、見守り続けていた。
　郁美に任せておけば、恋は亜紀のモノになるのは既定路線であった。
　郁美の男性も女性も亜紀のモノでであり、亜紀の男性も女性も郁美のモノであるという関係が確立されていたのだ。

　亜紀は双子の出産という大事業を果たしたが、身体の負担は大きくて体調が思わしくない日々が続いていて、自重の日々が続いていたので欲求不満気味であるのは自覚していた。
　凌は不器用ながらも亜紀の体調を心配して、子育てなど積極的に手伝ってくれるので申し分ない夫であった。

　そういった意味で亜紀は幸せであったが、すっかり欲張りなオンナになってしまったので、ますます我が儘し放題となりつつあった。

　凌の立場では、一男一女の双子を出産してくれた若妻である亜紀は宝物であった。
　我が子を溺愛する以上に、亜紀のことに気を遣っていた。
　もともと亜紀の意志を最大限尊重するところがあったが、今ではなにもかも彼女次第のような有り様となっていたのだ。

　結果、亜紀のレズビアン方面の暴走を抑える存在は皆無であり、まさにやりたい放題であった。
　凌は、更に郁美に対してもメロメロであって、もはや２人の女性に対して全く頭が上がらない状態であった。

　里奈や悠希、紗弥、敬子、彩佳達は、亜紀と郁美の支持者、信奉者であって、彼女達が中心的な役割を果たそうなどという意識は全く無く、お気楽な女だけに許された人生の享受を満喫したいだけであったから、夫達の思惑はともかく人間関係の骨格は既に固まっていた。
　既に次世代の女の子達も亜紀と郁美の支持者が集まりつつあって、もはや男達の思惑など入り込む余地など無くなりつつあった。

　九州経済界で勢力を拡大している峰家の当主である達也の正妻である恋の立場は、女子会としても見逃せないものであった。
　郁美との関係を軸に魔の手を伸ばすのは自然な流れであった。
　都市銀行支店長の愛娘であるお嬢さん育ちの恋は、亜紀が出会ったことないタイプであって、一目会っただけで興味津々であることは郁美にも痛いほど伝わってきていた。
　郁美にしても、実の兄が「会」に属しているという驚きと共にショックもあったのだが、兄妹という立場を再構築する必要に迫られたのだ。

　どうしても郁美も旧家の出身であるから、男尊女卑的な考えが色濃くあって、女である自分自身に引け目を感じてしまう。
　女の狡猾さであるが、兄の妻である恋を共犯者にすることで、逃げてごまかそうとする意識も働いたのは否定出来ない。

　恋は、もはや公認、夫の愛人「ありさ」とは奇妙な連帯は構築されていたが、女として満たされない想いは秘めていた。
　そんな時に郁美に再会したことで、すがる気持ちが抑えられなかったのだ。
　女性が女性を好きになる気持ちをどうすれば良いのか分からないという潜在的封印が、郁美のくちづけで解かれた瞬間に噴出した。

　彼女が欲しかったもの、憧れていたものが目の前にあったことに気づかされたのだった。
　そして自身がなぜに達也に惹かれたのかも、初めて明確に自覚したのだ。
　恋は、ずっと郁美に憧れていたのだ。
　郁美に出会った当時は高校生で汚れを知らない少女であり、性の知識すら想像と妄想でしかなかったのだ。

　もう立派な性の悦びも知ったオンナであって、自覚さえしてしまえば女同士の意味も理解していた。
　好きな人と身も心も結ばれることがオンナとして一番幸せなんだと、もはや迷いなど一切無かったのだ。



　亜紀はその場を立ち去り、全てを郁美に託した。

　それよりオープニングショーを託した敬子のことが気がかりで、足早でメイン会場に向かっていた。
　黒人男性のタフさは、飛び抜けている部分があって、亜紀ですら閉口したのは１度や２度でない。
　経験の無い敬子が戸惑ってないか心配であったが、会場にたどり着いた時にはショーは既に終わっており、亜紀は場の異様な雰囲気に驚いていた。

　男性陣のギラギラした興奮した目を見て、女として身の危険を感じたほどであった。
　すぐに凌がそばに身を寄せてくれなかったら、犯されていたかもしれない熱気に包まれていたのだ。

　亜紀は、なにが起こったかを理解した。
　敬子は見事に役割を果たして、かつタップリと初黒人男性を楽しんだに違いない。
　性をエンターテインメイトの様に楽しみ、その嗜好にウルサイだろう観客達が一様に興奮させて満足させるのは簡単ではない。

　若い美女が黒人男性にただ陵辱される姿だけで、喜ぶ程度の生易しい相手ではない。
　２年という年月は、貪欲に成長していくオンナには十分な時間なのだということを証明した形となったのだろう。
　亜紀は、郁美と共に、敬子をオンナとして成長させた張本人でありながら、他人事のように感じていたのだ。

「もう敬ちゃんたら　黒人さん楽しんじゃったのね」
「心配して損しちゃった　うふふ」
「凌たら　悔しかったと見えて　涙目じゃない」
「徹は・・・・・・・」

　会場には戻っているはずの徹の姿は見えなかった。
　亜紀は、急に徹のことが心配になった。

亜紀　「凌　徹は」
凌　　 「妬けるなぁ　そんなに徹　気になる？」
亜紀　「まあ　わたしを責める気なの？」
凌　　 「いや　俺が悪かった」
　　　　「俺は亜紀が一番だと言いたかっただけだよ」
亜紀　「あはっ　それは分かってます」
　　　　「確かに　わたしが凌のこと」
　　　　「疎かにしていたのね　反省します」
　　　　「でも今はごめんなさい」
　　　　「敬ちゃんのことがあるから」
凌　　 「徹は　照明制御室に行ったよ」
　　　　「里奈と紗弥が　面倒見てるはずだよ」
亜紀　「えっ　里奈　来てくれたの？」
凌　 　「ああ　徹が心配だったみたいだよ」
亜紀　「凌　わたし行ってきても良いかしら」
凌　 　「もちろんさ　実は俺でも」
　　　　「ちょっとショックだったからな」
亜紀　「そうかもしれないわね」
　　　　「凌　ちょっと待ってね」
凌　 　「おう」

　亜紀は男性という生き物が性的なことに対して、実に繊細で脆い存在であることを知り尽くしていた。

　肉体的に強靱であっても、内面、こと女性との結びつきに関しては、健全な男性であればあるほどガラスのような脆弱さを隠しているものなのだ。
　まして徹ほどの若い男性は、人生経験が浅いだけに、その懸念は大きいものであった。

　徹は、それを乗り越えて行かなければならない道を歩んでいるのだ。
　自然と照明制御室に向かう足取りが速くなってしまう亜紀であった。
　少しでも早く徹を励ましたかった、頭を撫でてあげたかったのだ。
　照明制御室にたどり着くと、案の定、意気消沈した徹が里奈と紗弥に励まされている最中であった。

里奈　「亜紀　徹が」
亜紀　「もう　徹たら」
紗弥　「徹　大丈夫だよ　クヨクヨしない」
亜紀　「紗弥　待ってあげて」
　　　「徹　わたしの目を見て」

　虚ろな瞳が亜紀に向けられる。
　亜紀が懸念したとおり、徹はやり場のない嫉妬心に負けて打ちのめされてしまったのだった。
　亜紀は徹の前にしゃがみ込むと、見上げるように徹と目線を合わせ続ける。

　そして無言で徹の頬に両手を伸ばして、自身のぬくもりで包んでいった。
　意図を察した里奈と紗弥も徹の両手をとり、自身のぬくもりで徹を包んでいった。


　不意に「ベルガモット」の香りが徹の鼻腔をくすぐった。
　徹がお姉さんの様に慕い愛する人、亜紀が好んで使うアロマの香りが現実に引き戻してくれた。
　目の前にある潤んだ美しい瞳に吸い込まれそうになっていた。
　頬に寄せられた柔らかい掌から伝わる暖かいぬくもりが心地よかった。
　両手も柔らかい掌に包まれて、自分は愛されているんだという実感があった。

　我に返ると、見下ろした目線の先に、心配そうに瞳を震わせている亜紀の顔があったのだ。
　両脇には里奈と紗弥が寄り添っている状況であって、３人もの美女を囲まれていたのだ。

徹　　 「亜紀さん　僕は」
亜紀　「愛してるわ」
徹　　 「ありがとうございます　僕も愛してます」
里奈　「良かった　わたしも愛してるわ」
徹　　 「里奈さん　来てくれたんですね」
　　　　「もちろん僕も愛してます」
里奈　「うふっ」
紗弥　「わたしも　徹のこと　大切なの　愛してます」
徹　　 「紗弥さん　僕はずっと」
　　　　「ずっと　淋しかったんです」
　　　　「愛してるのに　ずっと逢えなくて」
紗弥　「もう　どこにも行かない　一緒にいるわ」
亜紀　「あはっ　徹って」
　　　　「やっぱり強い子　そしてモテモテね」
　　　　「これまた　郁美の凄さだわ」
徹　　 「すいません　ちょっとショックで」
　　　　「自分見失っていました」
里奈　「いいの　だから　わたし達がいるのよ」
徹　　 「ありがとうございます」
亜紀　「あなたは　わたし達の天使なんだから」
　　　　「遠慮しちゃ駄目よ」
徹　 　「とってもイイ匂いです」
亜紀　「まあ　もうそんな余裕が」
徹　 　「てへへ」
里奈　「ご褒美に　発表します」

一同　「なになに？」
里奈　「お腹の子　また男の子なの♪♪」
　　　　「ありがとうね　天使さん」
徹　　 「えっえぇぇぇぇぇぇぇぇ！！」
亜紀　「それはそれは　おめでとう里奈」
紗弥　「おめでとうございます」
　　　　「じゃあ　わたしも報告があるんです」
　　　　「わたしも出来ちゃいました」
亜紀　「マジ？　徹の子？」
徹　 　「えっえぇぇぇぇぇ！！」
紗弥　「あはっ　残念　真也さんの子でした」
亜紀　「それは早い　真也さん恐るべし」
　　　　「それは　おめでとう」
徹　　 「そんなぁ　トホホ」
紗弥　「かわいい♪♪悔しそう♪♪」
　　　　「ホント　徹って　欲張りさん」
　　　　「徹　ちょっとお預けよ」
徹　 　「あっいや　はい　すいません」
　　　　「あっ　おめでとうございます」
　　　　「里奈さん　僕で　良いでしょうか？」
里奈　「さあ　なんのことかしら」
　　　　「身に覚えがあるのかしら」
徹　 　「・・・・・・・・・・」
亜紀　「あはっ　またまたベビーラッシュだ」
　 　 　「あとは　郁美と敬ちゃんかな」
　 　 　「徹　頑張れ！！」
徹　 　「そういうことなんですね」

　徹はあらためて思い知らされていた。
　女性は、強くて逞しい生き物なのだ。
　そんな彼女達に、自分は愛されているんだという認識は自信に繋がっていた。



　敬子はステージ上で激しいセックスを満喫して、心地よい疲労感に大満足であった。
　大勢に見られている状況が病みつきになる官能を呼び覚ましていた。
　憧れであった黒人ＡＶ男優「ダニエル」との楽しいひとときは、彼女更に成長を促していた。
　真の開花を迎えた芸術的な肢体は、桜色に染まり男達を狂わすフェロモンを振りまいていた。
　そんな高まりを沈めようとシャワーを浴びるが、マグマのように噴き出した色香は流し去ることは不可能であった。
　敬子は黒人ＡＶ男優を経験して自身の中で生じた変化について、早く郁美や亜紀達に報告したくてウズウズしていた。

　ダニエルは、先ほどまで奮戦していた人生最高のセックス、その余韻に圧倒されていた。
　掌に残る女体の感触が恋しくて堪らなかった。
　そして初めての感覚、喪失感に放心状態であった。
　女性に敗北し圧倒された挙げ句に、男としての大事なものを全て喰らい尽くされたとの思いがあった。
　敬子という女性はダニエルが出会った女性の中で、決して性テクニックが秀でいた訳でもないし快楽に極端に貪欲だったわけではない。

　もちろん肢体は日本人女性としては超一級品の美しさを認めるところであるし、蜜壺の素晴らしさは病みつきになるものであった。
　近年ＡＶ女優は非常にレベルが高くて、ダニエルは、そんな女性に数多く出会っており、それだけで簡単に魅了されない男であった。
　その彼がすっかり惚れぬいてしまったのは、彼女の内面の美しさであった。

　ダニエルには、敬子が天使のように見えていた。
　キラキラして眩しくて、彼女の顔をしっかり見ることが出来なかった。
　ステージから戻った２人は控え室のベットに倒れ込んだが、いつもならアフターセックスを楽しむダニエルが全く動けなかった。
　そして２度と抱けないかもしれない天使は笑顔を残して、シャワールームに消えてしまった。
　もはやダニエルには、天使を追う気力も残されていなかったのだった。
　お金でセックスしてきた報いか、彼は決して叶わない恋をするハメになってしまったのだ。



　ゼウスは、再び仰天して絶句していた。
　遅れて来場した三井悠希を紹介されたときの衝撃は小さいものではなかった。
　もちろん調査部の資料と幹部達の推挙で、長く封印した通り名「ビーナス」を彼女に与えたのはゼウス本人である。
　先ほど楽しませてくれたアフロディア（敬子）の美しさでも、ゼウスは実は動揺していたのだ。
　不肖の弟子である岩永健二が、「会」創設以来誰もが願っていたが果たせない領域に手をかけている事実がショックであった。
　悠希の美しさは際立っており、他の長老達も唖然としているのが一目瞭然であった。
　ゼウスは、心底弟子に嫉妬していた。
　気がつけばゼウスが理想と思う郁美を妻とし、その妻を軸に亜紀というカリスマ性のある女性を手に入れて、敬子、悠希など美女を欲しいままにしているのだ。

　ただ悠希の存在で、ゼウスは諦めの感情が芽生えつつあった。
　才能がありながら性格が優しすぎる為に、不出来な弟子と決めつけていた岩永健二が気がつけばダントツの首席であった。
　かつて、これほどの女性陣を従えたスタッフが存在したことはなかった。
　肉奴隷、玩具の女達を多く抱えたスタッフは星の数ほどいたが、集めた女達のレベルが違い過ぎて頭ひとつもふたつも飛び抜けていた。

　思えば、麻輝と美帆は健二が運が良かったと決めつけたことが最大の誤りであった。
　その２人は、今では５大老ですら影響を及ぼす存在に成長していて、更に健二の妻はあの郁美だ。
　郁美には、亜紀を筆頭に敬子、悠希、紗弥などの美しいオンナ達がずらりと囲んでいるのだ。

　ゼウスが「会」を５大老が支配する時代が終わるのかもしれないと感じたのは、この時かもしれない。

　気がつけばゼウスは悠希の背後から抱きしめていた。

「まあよい　残る余生」
「弟子が集めたオンナ達と過ごすのも悪くない」
「それだけのオンナ達じゃ」


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2020年2月22日掲載
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