ずっと愛してます4
羅衣 作
第19話　　葵の煌めき


　須貝 葵(あおい)は、岩永夫婦に見初められたあの日から人生が一変してしまった。

　政治家の娘という出自から背負った運命なのか、なにかと人が集まるとリーダー的な役割を担ってしまうことになってしまう人生だ。
　その結果、学生時代は生徒会委員長を異例の２期も務めてしまうほどであった。
　それでも大学生時代に出会った年下の夫に出会い普通に恋愛して結婚し普通の主婦として生きてきた。
　夫は地元志向が強く地元の有力企業に就職したが、優秀だったのでメキメキと頭角を現して、３０歳代で財務のプロとして企業グループ内で存在感を高めていた。

　そうなると、どうしても奥様間との交流も求められるようになっていく。
　２人の子供に恵まれ忙しい中であるが、グループの奥様会に参加するようになる。
　すると彼女のカリスマ性が動き出す。
　気がつくと夫と同じく奥様会でリーダー的な立場になっていくのだった。

　そんな時に、企業グループの総帥田原氏の元に２０代の若い亜紀が降臨する。
　亜紀との出会いは葵の人生を激変させる幕開けであった。
　夫が田原氏から重用にされるに伴い、彼女の立場も変化していく。
　そしてあの日、夫婦共々呼び出されて岩永夫婦に出会ったのだ。
　健二との出会いは、彼女の女としての人生観を一変させた。
　そして郁美との出会いは、彼女のオンナとしての人生観を一変させた。

　葵は想像だにしない夫婦交換という荒波に晒され、健二に女の悦びを深く教えられてしまう。
　もともとお嬢さん育ちで人一倍道徳観と正義感の強い彼女にとっては、天と地がひっくり返るような衝撃的な体験だった。
　２人の子供達への愛情を注ぎ、普通に母親として毎日をがむしゃらに生きている普通の女だったのだ。
　それなのに唐突に自分は女なのだと引き戻される。

　全く知らなかった深い情欲の世界。
　そして１度味わったら決して忘れられない快楽。
　急速に膨れ上がる夫以外の男性への気持ち。
　健二とのセックスでどんどん自分の肢体に生じる快感に溺れていく自分。
　そして加速度的に淫らになっていく自分。
　あっという間に健二との逢瀬に心躍らせるように変化していく自分。

　彼女には、それを押しとどめようとする理性がある。
　これは持って生まれた自意識の強さだ。
　大人の女として求められた環境には順応しつつ、不道徳な状況は受け流し健二との関係に一定の距離を保とうと意識する。
　あの日は快楽に飲まれてしまい淫欲を貪ったが、一旦自宅に戻ると自意識を立て直し健二との誘いを何度か断る行動も見せたのだ。

　もちろん夫共々、田原氏の要請に応じて「会」の世界で生きていくことは受け入れていたが、やはり母親としての生き方も守りたいから自分なりに両立する方法を見つけようと模索していたのだ。
　しかし肢体に生じた変化は彼女を困惑させる。
　そんな時に、郁美から面談の誘いがある。

　もとより上司の奥様だから彼女の立場では断りにくい状況だし、奥様会には男達とは違う女社会のルールがある。
　年下の彼女だが、あの健二の妻であり亜紀と共に不思議なオーラを感じる女性で、自分のような普通の主婦とは持っているバックグランドに明らかな差があると感じていたのは事実だ。
　迷った結果、彼女はその呼びかけに応じてしまう。

　戸惑って警戒している葵のことを気遣ったのか、郁美はホテルのランチに誘ってくれる。
　美味しいランチは家に籠もってモヤモヤ悩んでいることを忘れさせてくれる。
　郁美が話してくれる内容に次第に引き込まれていく。
　健二の若い頃の話などをいつしか夢中で聞いている。
　そしてのんびりくつろいでいると、エステサロンに行ってリフレッシュしようと誘われる。

　いつしか郁美と過ごすことに癒やされていた葵は受け入れてしまう。
　一緒にマッサージを受けながら聞く彼女の人生観、女としての考え方、その全てが葵が信じてきたものと真逆なのだが、彼女のいう女の生き方に強く惹かれる自分に気づいていて狼狽える。
　エステの体験ですら彼女が自分自身が楽しく人生を謳歌していないという現実を思い知らされる。

　思えばここ十数年、夫と子供達のことばかりで、自分のことは二の次であり、日頃の手入れが面倒だからとベリィショートにしてしまった髪型が良い例だ。
　そこであの日の健二の言葉が蘇る。

「ああ　もう少し伸ばそうね」
「葵には、今はショートカット過ぎるよ」

　葵の目に不意に涙が溢れる。
　郁美に涙を拭われる。

　郁美の言葉が滲みる。
　母親として生きることを否定もしないし、邪魔もしないし、むしろ応援したいと思っている。
　ただ葵に女としてもっと輝いて欲しいだけ。
　だから上手く両立して、母親としても全力投球、そして「会」としての立場も頑張って欲しいけど、なにより葵が女として充実した人生を送って欲しいから手伝いだけだと言われる。

　走馬灯のように蘇る健二とのセックス。
　今の自分のヘアスタイル。
　郁美が話していくれる言葉の数々。
　愛する夫は既に喜んで川を渡ってしまっているし、郁美ともセックスしてしまっている状況だ。
　彼女の言うとおり自分は勝手に１人で犠牲になる生き方していると自覚する。

　思えばこうやってエステ行ってリフレッシュして、肢体のケアしたって良いのに自分は何を我慢していたんだろうと思う。
　夫の収入は同年代の人たちの既に十数倍もある高額所得者なのだ。
　もう少し自分自身を大切にしても良いんだと思う。
　その一環で彼女と楽しく過ごすのもアリなのだろう。

　子供達が学校から帰ってくる時間が迫り帰宅したいのだが、郁美ともっと話していたいと思った。
　葵と真逆な生き方をしてきた彼女の話は楽しくて仕方がないのだ。
　既に彼女は郁美と同じ生き方が実は自分が望んでいる生き方なのだと考え始めていたのだ。

「だって　もう　元に戻れないじゃない」

　葵は初めて友人として郁美を自宅に招いた。
　彼女は社交的なタイプだが、決して友人を自宅に招くようなことはしない公私の区別がハッキリしたところがあった。
　その彼女が家に招くという変化は実は大きい意味があったのだ。
　子供達も相当驚いたであろう。
　ただ母親が連れてきた若い女性は子供達と打ち解けてあっという間に仲良しになってしまう。



　あれから１年ちょっと経つ。

　葵は娘、雅（みやび）を伴って、健二美容室でヘアカットしてもらいに岩永家にやって来たのだ。

　葵はあの日からずっと健二にヘアメイクしてもらっていて、今ではセミロングでふわふわにパーマを掛けてもらい持ち前の美貌が引き立ち周囲から大好評だ。
　この髪型を子育てしながら維持管理できるのは、健二の存在あってのことだ。
　今では女として色んな事を満喫しているが、その全ての原点がこのヘアメイクなのだ。
　髪は女の命とは古い言葉だが、それは事実だ。

　「美あんず」全員がキラキラ輝いている原動力は、間違いなく健二のヘアメイクにあると当事者の１人である葵は確信していた。
　もう生き方を真逆に変えてから、全く後悔していないし毎日が充実している。
　夫との夫婦生活も子供が生まれてから途絶えがちだったものが、今では週に何回もあるほど仲良しだ。

　そして夫の公認で、健二とも楽しく逢瀬しているし、田原氏や多くの夫達とも関係がある。
　同時に郁美と惹かれ合って女同士関係に目覚めてしまって、いつしか亜紀との関係も深くなり、もう今ではどっぷり「美あんず」主要メンバーの１人になっていた。
　もうセックスを楽しむ生き方が病みつきだ。

　母親が女として輝くと、不思議と子供達にも影響があり、授業参観日などになると子供達は自慢の母親に鼻高々だ。
　同級生から羨ましがられる。
　敏感なのは娘で、母親のようになりたいと意識し出すのだ。
　４月から中学生になる雅は、もう自意識は女だ。
　母親と同じヘアサロンに行きたいと言い出したのだ。
　郁美と交流ある雅は触発されて急速に成長し始めていたのだ。

　健二は喜んで受け入れた。
　ちゃんと挨拶もするし健二とのやりとりもしっかしていているが、彼の行動に目を輝かしている恋に恋する女子全開だ。
　健二にすれば次世代以前の話だが、苦笑いだ。
　それでも要望はしっかりもう女だ。

　健二は真剣に彼女の顔形とスタイルからベストなものを思案するが、彼女の要望も気になる。
　髪型は女のモチベーション左右するから、理論理屈だけで正解とは限らないのだ。
　だから決めつけず３つほど提案する。
　すると今はロングだけど、もう少し活動的な方が良いからミディアムでママのようにフワフワにしたかったから提案してくれたこれでと輝いた瞳で言う。
　思わず強く女を感じてしまう健二。

　その瞬間、葵の視線を感じる。
　普通ならロリコン親父警戒の視線だろうが、この場合は違う。
　明らかな嫉妬の目線だ。
　親子でも女同士なのだ。
　思わず見返す勇気の無い健二は、視線を向けずに彼女の髪をかなり切ることへの同意を事務的に保護者に投げるスタイルでやり過ごす。

　自然とカットに集中する健二。
　思うようなラインに仕上がるとやはり楽しいし、一気に女性の輝きを増すことが出来るから格別だ。
　自分でカットしながら、彼女の変化に驚く。
　子供と思って真面目に見ていなかった自分の迂闊さに気づく。
　母親も目が大きい美女なのだが、彼女も母親譲りの印象的な目チカラだ。
　女優で人気急上昇中の今○美桜似の超がつく美少女なのだ。

　強く心惹かれると自覚する健二はぐっと我慢する。
　あの環との経験から自覚しているロリコン気質が自分でも危ないと思う。
　ぐっと我慢して髪を優しく洗っていると、その時の反応が葵とそっくりだからまたドキッとする。
　今春から中学生で、まだ今は小学６年生の女の子に女を感じてしまう自分に動揺してしまう。

　髪のブローとスタイリングの仕上げしていると、ますますその美しさに驚愕する。
　こんな子が普通に中学校に入学してきたら、絶対騒然とすると思うほどだ。
　妻、郁美も高校生の時はかなりの美少女ぶりであったが、この子は規格外だと思う。
　それは母親の葵もそう感じたに違いない。
　彼女もいつの間にか真後ろに来て、一緒に愛娘の変化を楽しんでいるのだ。

　ただなにより驚いて感激しているのは本人だ。
　もう瞳の輝きがキラキラしてたちまち彼女に自信が満ちていく様子が伝わってくるほどだ。
　完成すると姿見でずっと自分の変化を確かめている。
　もうテンション上がり放題で、健二の手腕を褒め称えることに余念が無い。
　健二も我ながら会心の仕上がりだ。


　目を丸くしている葵を招き寄せると、健二は彼女に変化を提案する。
　もとより彼女は健二に全て一任しているから、うんとしか頷かない。
　健二としては、やはり葵を娘以上に輝かさないと気がすまない心境になる。
　少しカラーを入れてボリュームに変化を持たせて、芸能人級のフワフワミディアムに仕上げていく。

　今度は雅が母親の進化に目を丸くする番だ。
　葵は「美あんず」では姉さん格の年長組だが、その美貌は悠希と並ぶと健二は評価している。
　素材は一級品であって、それを生かすのが健二の使命だ。
　雅は母親が急激に輝き美しくなった理由を本能的に理解したのだった。

　この美容師として一流の技術を習得したことが健二をライバル達から頭ひとつもふたつも抜きん出た理由だと気がついたライバルは唯一真也ただ１人だ。
　この差は決定的で、彼は女を味方に出来てしまうし女を輝かすチカラを持っていたのだ。
　しかし既に気がついた時には手遅れであり、実は真也は敗北を認めて自身の生きる道は性調教師にあらずデザイナーなのだと踏ん切りつけさせたきっかけになったのだ。

　改めて葵の美しさに惚れなおす。
　１０代の娘に負けない大人の色香が圧倒的だ。
　彼女はもう顔つきも出会った頃と全く違っていて、自信に満ち溢れているから思い切ってショートカットもしっくりきそうだと思っていた。
　今回は雅に手本となる彼女だから、同じミディアムで仕上げてみたけど次はショートカットかなと考える。

　丁度、そのタイミングで麻輝が葵の息子である大介を連れてやってくる。
　彼は郁美が大好きな小学生で、呆れるほどベタベタする明らかにエロに目覚めているマセガキだ。
　暇さえあれば遊びに来るようになり、郁美が病院住まいになると今度は麻輝にまとわりついているのだ。
　健二にとっては幼少時代の自分を見ているようで、正直目障りなガキでしかない。

　そんなマセガキは母親の変化に敏感であり、遠慮無く抱きついて甘えまくる。
　それに焼き餅を妬いて、彼から母親を奪おうとする大人げない健二だった。
　その夜に１人で行く予定だった打ち合わせに、唐突に葵を連れていこうとする。
　意図を察した麻輝は呆れ顔だ。
　当の本人である葵は健二の誘いには二つ返事だから、麻輝は協力するしかない。

　こういう時に葵が変わったと感じる瞬間だ。
　あっさり母親から女に切り替わってしまうのだ。
　見え透いた誘い出しについてきて、明らかに同行の必要なかった打ち合わせにも笑顔で参加してしまう。
　ただ彼女達クラスの女は、その存在だけで場の雰囲気を変えてしまうチカラを持っていると実感させられる。
　打ち合わせ内容結果が変わるわけではないのだが、必ず面談相手から彼女達はまた来て下さいとお礼を言われるのだ。



　その夜の打ち合わせは、次のイベントに必要な淫具の製作に関するものだ。
　美帆の存在は絶大であり、その手の機器整備が急がれる状況だ。
　もちろんこういったものを作る専門業者達は一般人とはほど遠い男達が多いのは現実だ。
　彼らにとっては葵のような美女はご馳走であるから、横に座っている彼女が気になって仕方がない様子だ。
　彼らしきりに彼女へエロいトークを投げかけて、彼女の反応を楽しんでいる節がある。

　しかしもう色んな事を経験している彼女は、楽しそうにケラケラと笑って受け流してみせる。
　そうこうするうちに男達から試作したボンテージウェアを試着して見せてくれないかと懇願される。
　チラッと健二の顔色を伺ってくるが、健二はこういったことは敢えて強要しない。
　本心は業者と同じで見たいが、基本的には自由にしなさいというスタンスだ。

　そうするとあっさり着てみたいと言い出す。
　男達には一様に喜び出す。
　彼らにすれば葵のような美女が着ることをイメージにして作っているのだろうが、なかなか現実にはリアルに着ている姿を目にする機会は無いのだろう。
　初めてのデザインであるボンテージウェアは構造が分からないから、１人で着るのは難しい。
　構造を一緒に聞いて健二がサポートすることになる。

　別室に移動すると、彼女はもはや健二に裸身を晒すことへの迷いが無い。
　女は変われば変わるものだと改めて思う。
　もう彼女は新しいウェアに興味津々だ。
　かなりバストを強調するデザインで、思わず似合いすぎて健二ですら見とれてしまう。
　目の前でクルクル回って、自分が変身したことにウキウキな彼女が次第に心配になる。
　もう彼女は男達を吸引する色香が溢れんばかりで、それを自覚していて男達を平気で挑発することに遠慮が無い。

　部屋に戻ると業者の男達は絶句する。
　自分たちが作ったボンテージウェアが彼女から引き出したエロスは破壊力抜群だ。
　誰の配慮なのか彼女にスポットライトの照明が当たるようになる。
　彼女は自ら望んで着替えたからには、それを許してくれた業者の男達に感謝の礼を尽くしてセクシーポーズを惜しみなく披露する。
　動きやすいねーと言いながら、ストレッチするから胸元の谷間と股間の隙間が見ているだけでドキドキするほどだ。

　一斉に彼らから惜しみない賛美の声が上がる。
　スポットライトの照明に彼女の髪がキラキラ光っていて美しさが増していると感じる。
　女の進化は日進月歩で、今ではこういう場でも場を楽しむほどの余裕を彼女に感じるからちょっと悔しい。
　仮にこのまま彼らと乱交に発展しても、彼女は拒んだりしないオンナに進化してしまっているのだ。

　もちろん彼女にそのようなことは許すつもりは一切無いが、彼女の中に郁美の存在を感じるし、麻輝や美帆とも協調して健二の周囲に彼女たちの連帯を感じる状況に苦笑いだ。
　初めの頃は葵を落としたと自負していたのだが、いつの間にか真逆な状況になっているとの理解が正しいとボンテージウェアを身に纏いはしゃぐ姿を見て実感したのだ。

　業者の社長が試着しているボンテージウェアを彼女に進呈したいと言い出す。
　その代わり、また試作品出来たら是非着て見せて欲しいと彼女に懇願する。
　そこは健二が介入し代金は支払うと言い、また機会あれば試着は対応するからと話を纏める。
　彼らとはあくまでも対等の取引関係で無ければならないと考えるからだ。

　そう言いながら自分自身は葵の魅力に屈してしまう健二であった。

　葵は健二の気苦労をよそに気に入ったボンテージウェアを手に入れてルンルン気分全開であった。

　健二は彼女を連れてきたことを業者から凄い熱量で感謝されて、彼女は彼らからまた来て下さいと懇願されるといういつもの流れだ。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2021年8月9日掲載
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