ずっと愛してます4
羅衣 作
第24話　　even if ２


　西園寺勇人は早々に実家で相続権の放棄と共に廃嫡を申し出すると、制止する親兄弟をよそに佳菜子との結婚を宣言した。
　既に彼女が身籠もっているので、議論の余地無しで一切の話し合いにも応じないとの強硬なものであった。
　突然の三男による離脱騒ぎであり西園寺家は騒然となるが、もとより身ひとつで財産などの要求も一切無い状況であり一族的には当初は問題無いだろうとみなした節がある。

　しかし勇人が神戸に移り住み、佳菜子と暮らし出すと状況が一変する。
　一応、西園寺家は佳菜子の素性を調べたのだ。
　その結果に、騒然とする。
　彼女は出自は秋田県農協有力者の娘であり、なにかしらの事情で神戸のホステスになった流れだが、あの九条家当主代行の亜紀が寵愛する秘蔵っ子という報告に動揺が走った。
　他家とはいえ亜紀は九条家当主代行であり、前例通りに人事されると五摂家総帥の地位になるのだ。

　その彼女が祝福して承認している婚儀に対する西園寺家の現時点のスタンスは極めて不適切でしかない状況なのだ。
　勇人の両親は真っ青になる。
　慌てた両親は息子の勇人に面談を要望するが、彼は１度切れた縁を舌の根も乾かぬうちにどうこう言う神経も理解できないし、佳菜子への侮蔑の言葉を決して忘れないから、あきれ果て取り合おうともしない。

　そんな慌てふためく実家を無視して、勇人は自身の事業拠点を神戸に設けるに当たって田原氏の協力を仰いで事務所などの開設を着々と進めていた。
　その頃にやっと亜紀が九条家嫡流の出自で、九条家当主代行に就任したことを知る。
　そこで自分は五摂家の出自である運命なのだと解釈して、恩義を感じている亜紀に仕えたいと名乗り出てしまう。

　その結果、彼は佳菜子の中村姓による入籍を考えていたのだが、一転、西園寺姓で佳菜子を迎えてしまう。
　唐突に西園寺家の分家が誕生することになる。
　西園寺家実家は困惑するが、九条家との争いごとになりかねない事案には関わりたくない他の３家は冷たい。
　事態はどんどん進行して結婚の保証人が亜紀夫妻というお墨付きまで付いて、田原家のサポートで身内だけの結婚式も執り行われたのだ。

　この事態をゼウスは亜紀の器量を計る試金石だと考えて、面白がって静観していた。

　困り果てた西園寺家は、西園寺家出身５五大老のヘパイストスに助言を求めて泣きつく。
　ヘパイストスは苦慮する。
　もしゼウス治世なら異論を言えば、逆に西園寺家が高圧的に攻撃されかねない事態だ。
　それほど九条家と西園寺家は勢力差が歴然としているのだ。

　今まさに九条家は亜紀達の復帰で急激に勢力を盛り返している真っ最中で、ここ数十年態度をハッキリしなかった勢力も手のひらを返したように九条家支持を表明している流れなのだ。
　ある意味、九条家は目障りな勢力はこの機会に叩き潰そうとしていると感じるほどで、非常に危険なタイミングなのだ。
　とはいえヘパイストスが亜紀に直接話をするのも立場上憚られるし、ゼウスにあざ笑われるのも屈辱だ。

　ヘパイストスは丁度郁美に会いたかったから、神戸に早々にやって来て彼女に面談して内々に口添えして貰うという方法で打開策を引き出そうとした。
　孫娘のような年齢である郁美を頼るという嘘のような話だが、５大老からの彼女の人望はそれほど大きくなっていたのだ。
　実際、郁美はヘパイストスの苦境を早々に理解して、亜紀と直ぐ話し合うから心配しないでと彼を労ったのだった。

　亜紀と郁美の意思疎通の早さは周囲が驚くほどだ。
　亜紀は自身の行動による影響の大きさを改めて認識すると、直ぐに対処の行動に出る。
　情報を確認すると、西園寺家を九条家がかなり圧迫している状況だと確認したからだ。
　特に若い男女の婚姻騒動が発端であるから、亜紀は両親のことがあるので敏感に反応した。

　亜紀は勇人に事態収拾の一任を取り付けると、早々に西園寺家実家を訪問する。
　そして勇人の廃嫡申請の取り下げ、彼の一族復帰を要請し、その上で佳菜子との婚姻の承認を求めた。
　もとより西園寺家が望んだ幕引きだから、異論無く受け入れの意思表示があった。
　それを見届けると、今回の騒動は自分自身である亜紀九条家当主代行による他家への干渉が発端であるから、その非礼については陳謝したのだった。

　亜紀の弁護士らしい幕引きであるが、これにより西園寺家も事態を平穏に収拾することが出来たし面目も保たれたことになる。
　一見格上が格下に謝ったように見えるが亜紀自ら全て判断して実行した為、最若年の亜紀が名だたる当主達より極めて常識人で大人の対応が出来る器量を持っているのだと知れ渡ることになるのだった。

　結果的に亜紀はさすがは九条家男系嫡流の姫だとの高い評価を得て、長い歴史を誇る五摂家総帥の地位を女性初で任されるきっかけになるのだった。

　事の次第を眺めていたゼウスは感心しきりだ。
　西園寺家出身５五大老ヘパイストスもゼウスにわざわざ礼を言いに来たほどだ。

「亜紀よ　そちはひょっとしたら」
「予より　ずっと器量が大きいのかもしれぬな」
「女でなく男であれば」
「いや　女であるからこその器量なのだろう」
「我が息子　良義よ」
「そちの忘れ形見は　どうやら　ただ者ではない」
「見事じゃ　予は負けを認めるわ」
「これで」
「西園寺家は重要局面では」
「必ずや　九条家につくであろう」
「たいしたものじゃ」
「それにしても　ヘパイストスめ」
「あっさりアテナに縋るとは・・・予も同類か」
「ふむ　予も　そろそろ逢いに行こうかの」
「アテナの顔を見たいのぉ」



　女の感情は実に身勝手だ。
　綾小路佳子は自ら三銃士の男達をソデにして違う男に嫁いでおきながら、勇人が違う女性と結婚したことに複雑な感情を抱いていた。
　彼とは何度も肉体関係があって、意識の中に彼は自分のものだという感情があるのだろう。
　そしてなにより自分と比較してどうなのかという女特有なマウンティング丸出しの行動に出る。

　誰にも相談も無しで予定も計画も無しに、唐突に「美あんず」航空便でたった１人で神戸にやってくる。
　もちろん夫である優貴にもなにも相談もしていない。
　プライベートジェットで同行できなかったＳＰ達はパニック状態だ。
　慌てて上司である優貴に報告しつつ、神戸駐在の者達に緊急連絡する。

　突然のことだから神戸の方では人員が確保できない事態となると、優貴から兵庫県警に緊急指示が出る。
　今度は兵庫県警が大騒ぎだ。
　そんなことにはお構いなしである佳子は、タクシーでさっさと「美あんず」病院に向かってしまう。
　神戸空港で入れ違いなった兵庫県警の警官は路頭に迷うし、本部に連絡するといないじゃすまないと雷落とされる。
　
　佳子は佳菜子を直接訪ねると、同年齢の彼女がモデル並みの高身長で容姿端麗であったので、生まれて初めてダイレクトな敗北感を感じてしまう。
　自分は可愛い系、彼女は明らかに綺麗系であり、なにより身長差がある上に肌が抜けるように白いのだ。
　会話しても同年齢とは思えないほど大人だし、言葉遣いも丁寧なのだ。
　見下ろされながら話していると、なんか無性に悔しくなってくる。

　不意に虚しくもなってくる。
　夫の元カノに押しかけられても涼しい顔で、丁寧にもてなしてくれる佳菜子は大人だ。
　彼女は妊娠していて幸せオーラが半端ない。
　「おめでとう」などと社交辞令を言うハメになっている自分が子供だと今更認識する。
　見苦しい元カノの嫉妬で遠路わざわざやって来た自分が恥ずかしくなる。
　神戸で再び惨めな敗北感に包まれる。

　そこに郁美が様子を見にやってくる。
　分かっていたが間近に来られて面談すると、自分が如何に子供なのかと思い知らされる。
　大人の女の色香とは、こんなに違うんだと圧倒されるが、あっという間に神戸にやって来た意図を見透かされてしまう。
　祖父達が舌を巻く洞察力が抜きんでいるのだ。
　郁美のすぐ傍で生活している佳菜子が日に日に成長するのは当たり前で、既に妹のように可愛がられているのが見て取れる。

　姉の瑠璃子は、あっという間に従姉妹の亜紀と協力関係を構築して、もう郁美とも色々連携している。
　佳子が優貴との婚姻でバタバタしている間に、事態はかなり進行して亜紀が九条家に復帰して実質的な当主になってしまったことにほとんど関与していない。
　いずれにせよ従姉妹となる亜紀との関係はしっかりしないと夫にも迷惑がかかるから、ここは妻としてしっかりしなければならない正念場だ。

　そうこうするうちに郁美から亜紀と面談してから、帰ることを勧められる。
　実際、神戸に来て九条家当主代行になった亜紀に会わずに帰るのは非礼なことだ。
　郁美が直ぐアポを取ってくれると、亜紀の方からも是非来てとメッセージを貰ってしまう。
　そこで妙にニヤニヤしている彼女たちが気になる。
　懐かしい声がして振り返る。

徹　　　「おっとぉ　佳子ちゃん！！」
　　　　「お久しぶり　僕に逢いに来たのかなぁ？」
佳子　　「えっ　それは・・・」
郁美　　「うふっ　徹　ナイスタイミング」
佳菜子　「ですね」
徹　　　「郁美　頼まれたもの　買ってきたよ」
郁美　　「ありがとうぅ」
　　　　「そうだぁ　佳子様」
　　　　「亜紀に会いに行くから　送ってあげて」
徹　　　「はい」
　　　　「丁度　今日は真っ直ぐ帰るつもりだから」
佳子　　「えっ　悪いわ　大丈夫」
徹　　　「ご遠慮なく　というか　今日お供無し？」
郁美　　「まさか　優貴さんに内緒で来たの？」
佳子　　「えっ？　まあ　そうですけど」
徹　　　「えっ　優貴さん探してるよ」
佳子　　「まさかぁ　直ぐ帰るから」
郁美　　「いや　絶対探してるよ」
　　　　「彼が　どれだけ大事にしてくれているか」
　　　　「そろそろ　自覚しないと」
佳菜子　「メールだけでもしといたら？」
佳子　　「そう？　うわっ！！　着信すごぉ」
郁美　　「あらあら　まあ８７件も」
　　　　「電話してあげた方が良いんじゃない」
佳子　　「ふむぅ」

　佳子が電話すると、優貴が凄い勢いで話してくる。
　大丈夫だと話しても、彼は治まりがつかないらしい。
　そして驚く。
　今、神戸に向かって来ているらしい。
　そして至らないところがあったと謝られる。
　佳子的には彼に不満もないし、自宅にいるときはずっと抱き合って愛し合っている位ラブラブな夫婦関係で全く不満などない。

　常に彼女のことを最優先にしてくれる、我が儘な佳子には最高の夫だと思う。
　なんとか優貴をなだめると電話切った。
　周囲のみんなにも事態は伝わっているから、ちょっと恥ずかしい。
　すると佳菜子に意外なことを言われる。

佳菜子　「ふむ　やっぱり新婚だと旦那さんって」
　　　　「そんな感じで」
　　　　「むっちゃ愛をぶつけてくるんですね」
佳子　　「えっ？」
佳菜子　「勇人も　連絡も凄いし」
　　　　「毎日ここに泊まるし　手を繋いで寝るし」
郁美　　「そう言えば　毎晩居るね！！」
徹　　　「なるほど　素晴らしい」
佳菜子　「なんか　ちょっと過剰かと思ってたけど」
　　　　「普通なのかな？」
佳子　　「あれ　そうなのかな」
郁美　　「あっはぁっ！！　まあ　ちょっと例外」
　　　　「とは思うけど」
　　　　「愛情表現してくれる旦那さんは」
　　　　「すばり　当たり　だと思うよ」
佳子　　「当たり・・・・・」
佳菜子　「そういうもの・・・・・」
郁美　　「そうよ　愛妻家って」
　　　　「今の時代　稀少だと思う」
徹　　　「そうだぁ　早く帰らないと」
　　　　「佳子ちゃん　行きましょう！！」
郁美　　「でた　愛妻家もう１人いたぁ」
徹　　　「頑張ります！！　早く」
佳子　　「はいはい」
佳菜子　「稀少なのかな　そういう旦那さんだらけ」
郁美　　「あっはぁっ！！」

　隣で鼻息が荒い徹を見ていると、見ているこっちにも幸せ気分が移ってくる。
　確かに妻への愛情を迸らせている男性は実に微笑ましいし、不思議と輝いて見える。

　九条家の家訓。
「婚姻相手に先に惚れるな　先に惚れさせて支配せよ」

　正直、自分が先に優貴に惚れてしまったという自覚があっただけに、家訓通りにはいかないなと反省していたのだ。
　しかし今日の経験で不意に気づく。
　先に惚れていたのは逆に優貴の方だったのだ。
　最初に愛し合ったあの日以来、彼は佳子に夢中で凄く大切にしてくれるし、なんでもしてくれる。
　お陰で今までは出来なかった、しにくかったことが、彼が全てフォローしてくれてなんでも出来るようになったという実感があり、毎日確かに楽しいのだ。

　ふと冷静になった。
　実は隣にいる徹との一晩は忘れられていない。
　正直、彼ほどの同年代の男性がいるということが衝撃でしかない。
　そして思い知った。
　血筋だ、魔性だと言っても、やっぱり女なのだ。
　抱かれて肢体の芯から悦びを味わってしまうと相手の男性に強く惹かれてしまうのだ。

　凄い男性陣には、もう妻達が居てしっかり手綱を握っている状況だ。
　つまりそのような男性に惹かれても、結局妻には敗北して虚しいばかりなのだ。
　人一倍負けず嫌いの彼女は、だからこそ優貴との結婚を強行したのだ。
　そして彼は佳子が期待した以上の男性であったので、今では自慢の夫だ。
　姉より先に望む環境を手に入れたというのに、今回の行動はあまりに幼稚過ぎたと反省した。

　今だからこそ、こうして徹の運転する車の助手席でノホホンとしていられるのだ。
　これがちょっと前だったら、ドキドキが止まらず平静で居られなかったはずだ。
　それが今では徹の心動きが冷静に見えていて、やはり彼の心には妻である敬子がしっかり占拠しているのだと感じて、自分が結婚を急いだのは間違いではなかったと納得していた。

　田原家に着くと、亜紀と勇人に出迎えられる。
　勇人の存在に驚く。
　一応彼は元カレのような存在であるから不思議な感覚ではあるが、彼と視線が合ったときにもう彼の心には自分はいないのだと察したのだ。
　ちょっと淋しい感情があるのだが、そこはグッと我慢して彼に祝福の言葉を贈る。
　先程まで郁美と佳菜子に会ってきたと話すと、突然佳菜子に会いたくなったと凄い勢いで帰って行く勇人に唖然とする。

　亜紀はそんな勇人を温かい目で見送っている。
　彼が行ってしまうと二人きりだ。
　佳子は亜紀に手を引かれて巨大フワフワ丸ベットのある部屋に連れて行かれてしまう。
　びっくりする佳子だったが、不意に彼女がレズビアンだったことを失念していたことを気づく。
　自分はそういう気持ちは無いと言おうと振り向いた瞬間、視界が遮られる。

　びっくりするほど柔らかいものに唇を奪われる。
　怯んで後ずさると、ベットに躓き自ら倒れ込んでしまう。
　狼狽えて身をよじると、はだけてしまった上着の隙間から男性とは異質な柔らかくてスベスベの手が侵入してくる。
　彼女の舌が侵入してきて舌を絡め取られてしまう。

　嫌っと再び身をよじると、あっさりブラのホックを外されて乳首を弄られてしまう。
　ビクッと反応してしまうと、自らに膨れ上がる官能への期待が抑えられなくなる。
　下半身にも侵入されてしまう。
　もう相手が同性だけに、なにしても先手を取られて良いようにされてしまう。


　亜紀にすれば、やっと訪れたチャンス到来だ。

　従姉妹と分かった佳子への興味は日に日に膨らんでいく過程で、瑠璃子との関係が深くなればなるほど妹である佳子への欲望は肥大化していく。
　そして九条家当主代行というより五摂家総帥を務めるには、実は最強実力組織を有する綾小路家を完全に掌握することが大事だと理解していたのだ。
　これにはゼウスですら驚く展開に発展していく。
　ゼウスもそういう意図で優貴に綾小路家を継がせたのだが、亜紀は女だけにしか出来ない手法で短期間に完結してしまうのだ。

　そのためには佳子を自分のものにして、優貴を自ら直接調略してしまうつもりであった。
　自分は女だから、遠慮無くその武器を容赦なく使うことになんの迷いも無いのだ。
　なにより郁美は優貴に興味津々なので、彼女のためにも佳子への攻勢は猛烈だった。

　正直、瑠璃子とは違って佳子には同胞の因子は全く感じられないのだが、亜紀にはノンケの女ですらレズの世界に引きずり込む知識とテクニックを身につけていたのだった。
　それは男性とのセックスの悦びを知っている女ほどたやすいから、佳子を引きずり込むのは赤子の手をひねるよりたやすいことであった。

　佳子は自身の肢体に駆け巡る官能の悦びに飲み込まれてしまっていた。
　従姉妹とは根本的に経験値も知識も天と地ほど差があることを思い知らされる。
　もとよりあの郁美が姉と慕う存在なのだ。
　そしてもう彼女は２児の母であり、女として次のステップを堂々と歩んでいて死角が全くない存在だ。
　郁美への対抗心で、実は本丸の彼女が全く目に入っていなかった愚かさを今頃知ったのだ。

　姉は早々に気がついて、彼女と密接に協力することにしたのはこういうことだったのだ。
　気がつけば２人とも全裸で絡み合っている状況に、もはや彼女への憧れの気持ちにいっぱいになる。
　佳子が目指した生き方は、女の武器を効果的に使って面白おかしく我が儘に生きることだった。
　それを完全に体現した存在が亜紀なのだ。
　そして彼女は従姉妹である自分に、その知識もなにもかも惜しみなく伝授してくれると感じていた。

　マンぐり返しにされて極上のクンニされると、もう女の悦びが制御できなくなる。
　緩急とチカラ加減が同性なだけに、絶妙過ぎて破壊力が想像を絶する。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2021年9月26日掲載
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