ずっと愛してます4
羅衣 作
第26話　　システム


　「美あんず」としては、小林美咲は真也紗弥企業プロジェクトにとどまらず、もっと積極的に活躍して欲しいという意見が盛り上がっていた。
　「美あんず」メンバーはいつの間にか「会」の一員になっていて、実は詳しい事情が分かっていないし、そもそも入会したという意識もない。
　亜紀も確かに考えたことないって話題になり、郁美が健二に代表で確認することになったのだ。

　その夜、小林大輝・美咲夫妻の新規入会話を相談し、そのあたり全く知らない郁美は健二に質問した。

郁美　「「会」って　本来はどう入会するの？」
健二　「基本的に既存会員の紹介がないと入れないし」
　　　「紹介会員は保証人になる決まりだから」
　　　「みんな紹介には　かなり慎重だし」
　　　「そうそう簡単に紹介しない」
郁美　「そうなんだ」
　　　「じゃあ　彩佳か紗弥のとこで紹介すれば」
健二　「紹介するって　結構大変だよ」
　　　「あのね　入会して以後もずっと」
　　　「連帯保証人になるってこと」
　　　「彼らが　なにか問題起こしたら」
　　　「紹介者も連帯責任なんだ」
　　　「それだけの資産や財力ある人しか出来ない」
　　　「あと本人達の年収も　億円単位ないと」
　　　「まず無理だよ」
郁美　「え？」
健二　「入会金　１人５００万円からで」
　　　「夫婦で　最低１０００万円」
郁美　「１０００万円！！」
健二　「そして別に　年会費も１人５００万円から」
郁美　「夫婦で初年度　最低２０００万円」
　　　「毎年１０００万円なの？」
健二　「そうだよ」
　　　「実際は　その数十倍以上」
　　　「寄付込みで支払っている人が　大半かな」
郁美　「へえぇぇぇぇぇ」
　　　「うちも　支払ってるの？」
健二　「いや　うちは専任スタッフだから」
　　　「夫婦で 逆に　給料もらう立場だよ」
郁美　「えっ？　お給料あるんだ」
　　　「そういえば　うち働いてないのに」
　　　「確かに　お金　すごいある」
　　　「てっきり　凌に寄生してるって思ってた」
健二　「医療費とか　ＳＰとかの人件費とか」
　　　「確かにお世話になってるけど」
　　　「ちゃんと　ここの家賃とかも払ってるよ」
郁美　「えっ？　そうなの？」
　　　「ここ　幾らなの？」
健二　「色々あるから　月額２００万円くらい」
郁美　「高い！！」
健二　「そうかな　これだけの設備むしろ安いよ」
郁美　「うっ　で　うちって　お給料幾らなの？」
健二　「年俸制で　俺が２億円で　郁美は１．５億円」
郁美　「マジで！！　・・・・・・」
　　　「性調教師って　給料凄いんだ」
健二　「いやいや　ランクってあっただろ？」
郁美　「うん　私　Ｓだっけ？」
健二　「そうランクで給料変わる」
　　　「まあ個人別に調整あったり例外あるけど」
　　　「基本Ｓクラスは　億円単位で」
　　　「Ｓ１億　Ｓ＋２億　Ｓ＋＋で３億」
郁美　「それは凄いね」
　　　「わたし　え？　１億５０００万？」
健二　「君は例外　５大老ボーナスが全員分付いてる」
郁美　「まあ　てっ１人１０００万円なの」
健二　「そうだよ　全員から満額支給だよ」
郁美　「そうなんだ　わたしもっとサービスしなきゃ」
健二　「ほどほどにね」
郁美　「そっかぁ　Ｓクラスって凄いね」
健二　「だからこそ」
　　　「普通Ｓクラスには　ほとんど上がれないし」
　　　「今　現役世代では　僕ら以外では」
　　　「確か　引退間近の２人しかいないはず」
　　　「Ｓクラスは　基本　支配層ランクで」
　　　「一般人は　超優秀な人が引退間近に」
　　　「ご褒美で任官が普通だよ」
　　　「ハッキリ言って　現役若手は前例が無い」
郁美　「そうなの？　私たちって凄いとこにいるんだ」
健二　「そう　ほぼ君のチカラだけどw」
郁美　「またぁ　今のわたしがあるのは」
　　　「健二がいたからなのに」
　　　「麻輝さんも　美帆も　そうなのよ」
健二　「もう　さん付けは　止めようよ」
郁美　「いや　少なくとも　麻輝さんは譲れない」
　　　「わたしは年上姉さんを呼び捨てにはしない」
健二　「まったく　頑固だな」
「亜紀さんは　いつも呼び捨てじゃん」
郁美　「だって　亜紀は　もう実姉と同じだし」
　　　「親友だし　わたしの魂の同志」
　　　「全く別な存在だもん」
健二　「それは分かっているけど」
郁美　「とにかく　わたしは　そう育てられたの」
健二　「まあ　もういいか・・・・・」
郁美　「話戻って　じゃあＡとかＢはどうなの？」
健二　「Ａは　１０００万円単位」
　　　「Ｂは　１００万円単位」
　　　「ついで言うと　Ｃは１０万円単位」
　　　「Ｄは１万円単位」
郁美　「そしたら　少なくともＡにならないと」
　　　「まともに暮らせない？」
健二　「そうだね　Ａで初めて専業になれるか　だね」
　　　「普通　みんな別に　本業持ってるからね」
　　　「俺は弁護士と美容師　マッサージ師だし」
郁美　「なるほどぉ」
健二　「それにちゃんと納税してるから」
　　　「うち２人で手元に残るのは半分くらいだし」
郁美　「そっかぁ　そうなるんだね」
健二　「あと　今までは特例で麻輝と美帆のお給料」
　　　「会から直接支給だったんだけど」
　　　「俺　突如　Ｓ＋になったので」
　　　「特例無くなり　２人も特例のランクアップw」
　　　「なんで　３０００万円ずつ」
　　　「俺の分から払ってる」
　　　「本来は弟子の分は師匠支払いだからね」
郁美　「えっえぇぇぇ　じゃあ　あんまり残らないね」
健二　「そう　はやく　Ｓ＋＋ならないと」
　　　「キツいのよ」
郁美　「なるほどぉ」
　　　「徹達は　どうなるの？」
健二　「まだ任官してないからね」
　　　「Ａ＋＋なんかになられたら」
　　　「うちが破産だなｗ」
郁美　「そうなるんだ」
　　　「あっ　そう言えば　徹のとことか」
　　　「葵さんのところとか会費とかどうなってるの」
　　　「払ってるって聞いてないんだけど」
健二　「葵さん達のところは」
　　　「田原さんが関西地区ホストなので」
　　　「ホストスタッフということで」
　　　「対象外になってる」
　　　「田原さんウン十億単位で負担してるからねぇ」
　　　「徹と敬子は　うちの専属スタッフなんで」
　　　「同じく対象外だけど」
　　　「任官するとね　うちが破産する」
　　　「ただ交通費とか衣装費は　うちが出している」
　　　「任官したら　即独立してもらおうかなw」
郁美　「私たち赤字になったらどうなるの？」
健二　「その時は麻輝と美帆に独立してもらうよ」
　　　「彼女たちは」
　　　「独立したらランクアップするかもだし」
　　　「２人は嫌がるだろうけど」
　　　「無理なものは無理だし　２人は引き続き」
　　　「守っていくつもりだし関係を変える気もない」
郁美　「そうねぇ」
　　　「でも２人がＳになったら」
　　　「少なくも２億入るよね　いいなぁ」
　　　「わたしが説得してみる」
健二　「確かにね　そっかぁ　君に任せる」
　　　「いずれにしても　システムとして」
　　　「弟子は身の丈に見合った数だけ」
　　　「持ちなさいという意図があるんだと思う」
　　　「あとＡランクだと　普通独立するし」
　　　「なんで」
　　　「Ａクラスの弟子って想定してないだと思う」
郁美　「そうかぁ」
　　　「徹と敬ちゃんは」
健二　「まあ間違いなくいきなりＡ以上確定だよね」
郁美　「そういえば亜紀とか瑠璃子さんとかは」
健二　「彼女たちは別格　もう支配者最上層なんで」
　　　「給料なんて貰わないし　ひたすら払う側」
郁美　「そっ　そうなんだ　ある意味凄いね」
健二　「だから亜紀さん」
　　　「九条家の姫って　すげぇ驚いたよ」
郁美　「うふふ」
健二　「それで田原さん　新規組なのに」
　　　「いきなり支配者層の上の方だからねぇ」
　　　「もう異次元」
郁美　「それにしても「会」ってお金かかるのね」
健二　「うん　HIGH SOCIETYの道楽だからね」
　　　「そういえば山田のご両親も　達木さんも」
　　　「ちゃんと会費払ってるよ」
郁美　「知らなかった・・・毎年１０００万円か」
健二　「いやどちらも」
　　　「５０００万円ずつ　払ってくれてる」
郁美　「えっえぇぇぇぇぇぇぇ夫婦で１億！！」
健二　「達也さんは　その倍以上払ってるらしいよ」
郁美　「うそぉ～ほんとにぃ」
　　　｛お兄ちゃん　何億も払ってるんだ」
健二　「そのお陰で　うちはお給料貰えているんだよ」
郁美　「そっかぁ」
　　　「基本より多く納めるメリットってあるの？」
健二　「大ありだよ」
　　　「イベントの席も優遇されるし」
　　　「参加出来るイベントにも優遇措置がある」
　　　「君とステージで　達也君あの日出来たのも」
　　　「彼が優遇される立場だからだよ」
郁美　「ほおぉ　なんかすごく納得」
健二　「まあ　うちらは　かなり幸せだと思うよ」
郁美　「え？」
健二　「ＳＰとか各種スタッフとかの雇用費」
　　　「なにより美あんずメンバーの医療費と」
　　　「ブラックカードのお支払いは」
　　　「全部　田原さん負担だしw」
郁美　「あぁぁぁ　そうかぁ　それだけで凄い金額」
　　　「軽く億円超えてる」
　　　「そっかぁ　今度　もっと奉仕しなくては」
健二　「あはぁっ　よろしくお願いいたします」
　　　「実は郁美の分は払いますって言ったら」
　　　「田原さんがめっちゃ怒ってっさ」
郁美　「え？」
健二　「田原さん」
　　　「郁美に　もっとお買い物して欲しいらしい」
郁美　「あれれ　　　まあ　いいか」
　　　「そうだ　あと　真也さんはランクは？」
健二　「彼は　かなり脱線していたから」
　　　「まだ　Ａだったと思う」
郁美　「そっかぁ　紗弥の生活あるから気になる」
健二　「なるほど　推薦状書いとくよ」
郁美　「へ？」
健二　「一応　Ｓクラスになると」
　　　「下の者達の昇格を推挙する」
　　　「発言権限があるんだよ」
郁美　「じゃあ　わたしが書く　書き方教えて」
健二　「そっかぁ　良いよ　その方が良いかも」
郁美　「え？」
健二　「君が書いたら　５大老審査一発通過だと思う」
郁美　「そうかなぁ？」

　翌月、あっさり真也は突然２階級昇格してＡ＋＋になったのだが、本人には全く身に覚えなく驚いていたのだった。

　もっと驚いたのは郁美だった。
　実は健二に隠れて、末尾に麻輝と美帆の給料のことも特例扱いに戻してって愚痴ぽく書いたのだが、それもあっさり承認されてしまったのだ。
　そこでやっと自分のおねだりに、本当に５大老はめっちゃ弱いんだと初めて自覚したのだった。
　申し訳ない気持ちになり、以後おねだりは自重するようになったのだった。

　実際、妊娠安定期に郁美が入ると、５大老は全員彼女に会うためだけに神戸にやって来るようになる。
　孫娘のような年齢のたった１人の女性が、その存在そのものが彼らにとって生きがいになっていたのだった。
　彼らは彼女とたわいない会話を交わすだけなのに、帰り道は生き生きして楽しげであった。
　この事態がじわじわ権力者達に影響していくことになる。

　郁美は高齢の彼らの健康を心配して、彼らの食生活の偏食に苦言を言い彼に付き従っている者達にあれこれ意見する。
　そもそも五摂家の者達でも最高顧問長老である５大老に意見するなど反逆に等しい行為であり、それを出来てしまう郁美は脅威の存在だ。
　既に何人かの者達が諸事情を知らなかったばかりに、郁美に対する態度が５大老の逆鱗に触れて左遷されたと言う話が広まっていてスタッフは一様にピリピリしていた。
　その彼らが驚愕する事態を再び目撃することになる。

　左遷されたと言われた３人が郁美のいる「美あんず」病院に在籍していたのだ。
　過剰な処罰に驚いた郁美が亜紀に助けを求めて、彼らを救い上げたのだ。
　怪訝な表情のゼウスに、郁美は彼らの恩赦を願い出たのだった。
　それに対するゼウスの裁定に、スタッフの者達は驚愕することになる。
　ゼウスは彼女の願いを受け入れて、彼らを免責したのだった。

　右を左と言われても逆らえない存在だった５大老が郁美だけには寛容であり、むしろ彼女の気持ちを優先していることが明らかだったのだ。
　これは数百年の歴史では初めての事態であり、周囲の者達とっては一大事だ。
　彼らにすれば郁美が妊娠して活動が制約されたことに安堵しているところもあっただろうが、結果的に郁美と亜紀が送り込んできた女性の存在に気がつくのが遅れてしまうのだった。


　郁美は、大輝・美咲夫妻の「会」入会を進めたいから亜紀と対応を話し合う。
　亜紀自身もシステム無理解だったら、ちょっと驚く。
　話の途中で現れた凌が彼女達の様子に反応する。
　彼女達からの説明を聞いた彼はあっさり話を引き受けてしまう。
　凌は、先日から会計処理で有能に活躍する美咲が大のお気に入りであった。
　実はここ数ヶ月に渡って凌と祐司の間に彼女の争奪戦が勃発していたのだ。

　美咲は早々に「美あんず」の空気に馴染んでいた。
　もともと自身が女であることを有効に利用して生きる生き方を憧れていたが、一般女性には限界があるから１人の男性に頼るという生き方に我慢していたのだ。
　その彼女の前に、夢のような環境の変化が訪れた。
　友人である紗弥を通して知り合った亜紀と郁美の生き方に感銘を受けた。
　自分自身が諦めていた生き方を出来てる２人が眩しくて仕方がない。

　美咲と同じように亜紀も２児の母親であり、郁美も妊娠中で、自分自身と環境に差があるわけでないのだ。
　それなのに彼女達は「美あんず」というオンナ達の楽園を構築して、したたかに男達を絡め取ってしまっていたのだ。
　美咲１人では夫である大輝を惹きつけるだけで精一杯だったのに、彼女達との差に確然とさせられる。
　そんな劣等感にも繋がりそうな状況であったが、彩佳との相互理解が彼女を救った。

　亜紀と郁美は恒星であり、彼女達は「美あんず」のメンバーには自分たちを利用して自由気ままに生きて欲しいという集まりだと聞かされたのだ。
　そして自分、非常に幸運に恵まれたのだと気がついたのだ。
　祐司の庇護を受けることで、一気にHIGH SOCIETYの生活に手が届いたのだ。
　そして凌に出会って、オンナモード全開している自分自身が楽しくて仕方がないのだ。
　「美あんず」のメンバー１人１人が個性的で、それぞれの生き方にも刺激を受ける。

　自分自身が早々に平凡な生き方に妥協していたことを恥ずかしく思い知らされるばかりだ。
　ただ元々の本質がオンナそのものだったから、馴染んでしまうのも人一倍早い。
　自分を巡って競い合う凌と祐司の間を見事に立ち振る舞っていく。
　既に彼女は理解していた。
　どちらを選ぶ必要も無いし、どちらとも仲良しな距離感を保ちつつ、女の武器を効果的に使いつつ楽しく美味しい生活をすれば良いだけなのだ。

　凌と祐司の２人とも自分を選んで欲しいと競っていたけれど、大人のラブゲームであり相手を選んだとしても彼女を責めたり嫌ったりする意図は全くない。
　選んでくれたらたっぷり可愛がるだけで、自尊心を満足するだけだ。
　だから彼女がどちらも選ばず立ち回るなら、お互いに譲って彼女をそれぞれで引き立てるだけだった。
　彼らにすれば一番大事な妻が居るわけで、その上での大人の楽しみなだけだ。

　特に凌の場合、もう亜紀との仲が過去最高の親密状態だから、あくまでも「美あんず」メンバーの新しく入った可愛い子という感覚だ。
　郁美の願いに応えて、大輝・美咲夫妻の「会」入会は異存なかったが、どうしても彼らの収入では一般入会厳しいと考えていた。
　金銭的には「関西支部」スタッフ枠にすることに全く問題なかったのだが、美咲が優秀でありオンナとして素養がかなり高いと感じていて亜紀に意見を訊くとやはり彼女もすごく期待していると分かったら悩んでいた。

　いずれにせよ子育て真っ最中であり、まだ「会」の環境に組み入れるのは時期尚早と考えていた。
　とはいえ郁美の願いは早々に応えたいのも本心だ。
　そこで「会」には出入りするが、亜紀の保護下で外部から全く干渉を受けない佐紀子と同じ立ち位置で当面向かい入れることにしたのだ。
　田原家のスタッフ扱いとすれば、実質的に亜紀の配下であり誰の干渉も受けないし、あるとして５大老だけであろうが彼らにしても九条家当主代行となった亜紀の配下に無断で手出しできないのが現実だ。

　凌は亜紀と郁美に自身の考えを伝えると、彼女達から絶賛される。
　亜紀と郁美２人が共有する女社会の機密性が高い話題に凌が常に加わるようになったのは、この頃からだ。
　彼女達からの凌に対する信頼感は絶大であり、それに伴い依存度も、この頃から日に日に高まっていったのだった。
　彼女達にすれば、亜紀の出自に関することを彼に直ぐに伝えられなかったことが負い目に感じていたこともある。

　当事者達は意識していなかったが、五摂家などの支配者層からの「田原 凌」へ注がれる目は、当初「関西支部」の主宰者基準を満たしていれば良しとするレベルであったが、亜紀の出自が明らかになり九条家当主代行となると一変していたのだ。
　亜紀の夫であるから九条家の権力も彼に付与されることになるからだ。

　亜紀が西園寺家問題で名声を獲得するとともに、凌との関係が円満で彼女が彼を頼っている状況が伝わると、彼への五摂家からの信頼度が自然と高まる効果を生んでいく結果となるのだった。


つづく
【前頁】/【次頁】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2021年10月18日掲載
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