ずっと愛してます4
羅衣 作
第29話　プロポーズ


　ゼウスは懐かしい外国人の来訪を受けた。

　来訪者はオーストリアのハプス○ルク家一族、次男のデイビット・フォン・エスターライヒ３２歳だ。
　彼は中世から20世紀初頭まで絶大な勢力を誇った大貴族の血統者で、元Ｆ－１ドライバー「ゲル○ルト・ベルガー」似の笑顔が優しいイケメンだ。

　彼は学生時代に日本に留学していて、その際にエスターライヒ家との協力関係にあった九条家ゼウスが後見人として支援していた経緯があり、ゼウスに言葉では言えないほどの恩義を感じていたための表敬訪問であった。
　留学以前から日本語を学んでいた為、既に日常会話は流暢に日本語話せるレベルだ。


デイビット　「ゼウス様　ご無沙汰しております」
ゼウス　　　「おお大儀じゃ」
　　　　　　「何年ぶりかのう」
デイビット　「はい　８年ぶりかと」
ゼウス　　　「ほう　早いものじゃ」
　　　　　　「立派な男ぶりじゃ　結構結構」
　　　　　　「一族は　皆　変わりないか？」
デイビット　「はい」
ゼウス　　　「今回は我が国で　なにかあるのか？」
デイビット　「個人的なものです」
ゼウス　　　「ほう」
デイビット　「お嬢様は　まだ婚姻の兆しは」
ゼウス　　　「なんじゃ　瑠璃子が目当てか」
　　　　　　「そういえば　留学時代に」
　　　　　　「たいそう」
　　　　　　「瑠璃子に　ご執心じゃったな」
デイビット　「恐縮です」
ゼウス　　　「めぼしい男がおらんと見えて」
　　　　　　「ふらふらして仕事ばかりのようじゃ」
　　　　　　「勿体ないのう」
　　　　　　「そういえば　おぬし」
　　　　　　「帰国するときに」
　　　　　　「瑠璃子を嫁に欲しいと言っておったな」
デイビット　「えっ　そんなこと申しましたか」
ゼウス　　　「言いよった」
　　　　　　「予が　あかん　と言ったの」
　　　　　　「覚えているだろう」
　　　　　　「あの時　そちは　ひょっ子」
　　　　　　「許せるわけ　なかろう」
デイビット　「ご無礼致しました」
ゼウス　　　「そちこそ　未だに独り身か？」
デイビット　「はい」
ゼウス　　　「なんともはや　ご両親お悩みじゃな」
　　　　　　「それにしても　今頃　唐突な」

　デイビットは今回の経緯を熱く語った。
　留学帰国後、一族の事業に従事してきた結果、今では大資本を運用する部門の代表を務めるまでになったということ。
　そして帰国後も瑠璃子への想いが全く変わらず、他の女性と何度も婚姻話があったが、どうしても踏み切れず独身を貫いたことなどを語った。
　何故今なのかという点は、ＥＵ事業の契約交渉の場で瑠璃子に偶然再会したことで、一大決心して日本にやってきたというのだ。

デイビット　「外国人に嫁に出せない事情は」
　　　　　　「承知していますが」
　　　　　　「なにとぞ」
　　　　　　「瑠璃子さんにプロポーズすること」
　　　　　　「お許し下さいませんか」
ゼウス　　　「そちは　それほどまでに」
　　　　　　「まあ良い」
　　　　　　「もはや時代はグローバルじゃ」
　　　　　　「それに　今のそちほどの男ぶりなら」
　　　　　　「予は異存ないが」
　　　　　　「そもそも　瑠璃子次第じゃな」
　　　　　　「ああ見えて　古風な子じゃ」
デイビット　「はい　そのお言葉嬉しいです」
　　　　　　「当たって砕けて本望です」
ゼウス　　　「いずれにしても」
　　　　　　「そうなると　そなた覚悟が必要じゃぞ」
デイビット　「は？」
ゼウス　　　「瑠璃子は　因子を持つ者じゃ」
デイビット　「はい　存じ上げております」
ゼウス　　　「そうか　どうもここ最近」
　　　　　　「覚醒しつつあるようじゃ」
デイビット　「そうなのですか！！」
　　　　　　「素晴らしいです」
ゼウス　　　「ほう　そう知った上でも」
デイビット　「それでは なおさらです」
　　　　　　「彼女の傍らにふさわしいのは」
　　　　　　「僭越ですが　わたししかいないと」
　　　　　　「そう自負しております」
ゼウス　　　「ほう」
　　　　　　「じゃが　予は隠居の身」
　　　　　　「もはや　決めるのは予ではない」
　　　　　　「後継者に　訊かねばなるまい」
デイビット　「おお　良義様　戻られたのですか」
ゼウス　　　「そうか　そちは知っておったか」
　　　　　　「残念だが　良義　客死してもうた」
デイビット　「なんと　お悔やみ申し上げます」
ゼウス　　　「だが子を残してくれた」
　　　　　　「一男一女じゃ」
　　　　　　「現在　姉の方が代行統率者じゃ」
デイビット　「なるほど　おめでとうございます」
　　　　　　「ゼウス様」
　　　　　　「長い間　お疲れ様でございました」
ゼウス　　　「うむ」
　　　　　　「まあ良い　亜紀というのだが」
　　　　　　「予から今回の件　伝えておく」
　　　　　　「亜紀も異論申すまい」
デイビット　「ありがとうございます」
　　　　　　「是非　今度　亜紀様に」
　　　　　　「お目通りをお願い致します」
ゼウス　　　「ふむ　しばし待て」
　　　　　　「追って　機会設ける」
デイビット　「はい　よろしくお願い致します」

　デイビットは時代の変化に感謝した。
　留学当時はまだ九条家のような名門では、自分のような外国人との婚姻は御法度だったのをよく知っていたからだ。
　それが認められる時がきたのだ。
　仕事も頑張り、一族内でも人一倍努力して、男を磨いてきた結果が活きるときが来たともいえる。
　数え切れないほどの名門の美女とも付き合い何度も婚姻目前までいったが、最後に踏み切れなかったのも、この日のためだと思った。

　瑠璃子との出会いは１４年ほど前だ。
　当時、瑠璃子は１３歳、デイビットは１８歳で、彼は九条家に煩雑に出入りしていた。
　彼は眩しいばかりの美少女に夢中になってしまった。
　暇さえあれば九条家を訪問し、時間がある限り彼女と遊んで過ごした。
　乳母の弥生からは相当妨害された記憶も、今では楽しい思い出だ。

　帰国後も彼女が忘れられずロリータコンプレックスかと不安になり何度も精神鑑定なども受けたが、そういう診断結果は出なかった。
　実際、瑠璃子以外の少女にそのような感情は覚えず、多くの成人女性との交遊で彩られてきた。
　留学時も特例で「会」にも出入りして、セックスもかなりの好き者でかなりの武勇伝を持つほどであり、今でもＥＵでの性的交友関係はかなり派手であった。

　帰国後は瑠璃子への想いを秘めつつ迷走していたが、何度も婚約破棄を繰り返した後に、瑠璃子への一途な想いを自ら意識するようになった。
　そして３年ほど前にＥＵ公共事業契約交渉の場で偶然にも瑠璃子に再会して、彼は驚喜した。
　ただ瑠璃子は彼には全く気がついておらず、今でも取引先の大物としか認識されていない状況だ。

　当たり前の話だが公的な機関契約の場であるから、公的側にいる彼は、入札企業の代表である彼女に個人的に接触する訳にはいかない立場にあるので、未だに名乗り出ずに早３年間も経ってしまったのだった。
　思えば彼女が１３歳頃の交流でも、「会」に出入りしていた経緯で、「アレキサンダー」という通り名を使っていたので自分を認識できないのは致し方ないと考えていた。

　彼は入札決定契約締結を心待ちにしていたのだが、それを目前にして彼女が突然帰国して戻らず、代わりに工藤という男が赴任してきたと聞いて驚くと共に、悲しくて動揺した。
　急な帰国となれば、彼女の婚姻が予想できた。
　彼は焦りまくった。
　そして自らの立場を弟のフランツに押しつけ、日本に彼女を追いかけてやってきたのだった。
　もし婚姻だったら略奪する気満々だし、ゼウスに泣きつく覚悟をしていた。

　婚姻の懸念はなく、ゼウスから九条家の家内事情で彼女が帰国を決めた結果だと聞かされて安堵した。
　察しの良い彼は、おそらくは後継話の絡みだと理解していたのだ。
　彼はいかに彼女に近づくかを思案した。
　ゼウスに頼るのは簡単だが、それではスマートではないと思ったから避けた。
　彼女との繋がりは、名刺だけだ。

「一日でも早く　逢いたい」
「会社訪問で　突撃あるのみ」



　瑠璃子は帰国後、貯まりに貯まった有給休暇を消化して身辺の事態に対処していたが、ビジネス会話におけるマルチバイリンガルが傑出しているので、再三会社に呼び出されて通訳として活躍していた。
　特に役員クラスの者達の依存度は高く、適切なビジネス通訳をしてくれる彼女の存在は貴重だった。

　あと彼らにも瑠璃子が抑えているフェロモンが作用してしまう状況もあった為、彼女自身企業人として続けられるのか不安を感じ始めていたのだった。
　だからこそ彼らと一定の距離を取りたいと腐心していたところもある。

　弥生の身代わりとして始まった武史との関係も、一時は頻度は平日のほとんどと濃密な状況に陥っていたが、環が本格的にやってくるようになると彼も日に日に大人しくなりつつあり、今ではむしろ彼女の方が彼との合瀬を必要とするほどの状況に陥っていた。
　彼女の肢体は活性化し貪欲な渇望感が膨れあがりつつあり、すっかり郁美と大差ないほどまでの「魔性」も発現し第二の人格「瑠璃子姫」もすっかり覚醒してしまっていたのだ。
　
　そういう環境の変化もあって彼女には辛い状況となってきて、彼女は夫、彼氏の不在を痛感するようになる。
　毎日のように膨れあがる淫欲がもはや制御できない有様で、神戸にいる「美あんず」のメンバーが羨ましい。
　毎日毎日、濃厚に抱いて欲しくて堪らないのだ。

　恐れていた血の活性化は想像以上で、このままでは暴走しそうで自分自身が怖くなりつつあった。
　既に郁美に匹敵する色香をまき散らし、男達の吸引力は制御不能だ。
　会社の役員達も仕事より彼女と過ごすことを求めているのかもしれないと、感じていたのだった。

　そんな時に、社長からＥＵ圏で交渉している財団の幹部が来るから同席して欲しいとの連絡が入る。
　先方からのご指名らしい。
　客人の名前を聞くと、聞き覚えのある名だ。
　記憶ではつい先日までドイツで交渉していた取引先の責任者ではなかったか、という記憶が蘇る。

　会合に出席すると儀礼的な挨拶だけであり、結局観光案内のような役割を社長は彼女に丸投げしてきた。
　正直休暇中の身で迷惑千万だが、先日ドイツの後任について我が儘を聞いて貰った恩義があるから、渋々引き受けた。

　丁度連休前の週末で、数日間暇であったことも引き受けやすい状況でもあった。
　彼は宿泊場所も決めていないとのことで、あと数日も付き合って欲しいとの話だったので、手っ取り早く自分も定宿にしているホテル「星のや東京」に宿を取る。

　お約束の東京都内観光巡りするが、彼は自分ばかり見ていて違和感を禁じ得ない。
　そもそもだが流暢な日本語を駆使していて、明らかに日本在住経験があるのだ。
　会合の時から日本語で、何故あの時違和感感じなかったのかと今更思う。
　それほど自然な日本語なのだ。
　自然すぎて思いっきり外国人なのに、今まで気がつかなかったという自分に驚く。

　自身の溢れ出るフェロモンが作用し、彼を狂わし自身への欲望を暴走させているのかと思ったが、彼の少年のような懐かしい笑顔でまあいいやと思ってしまう。
　彼女自身まだ企業戦士の鎧を脱いでいないし、公私の区別はしっかりしているタイプだから、未だＥＵに残してきた薫も頑張っている状況だから彼女達の足を引っ張るようなことはしたくない。

　だから徹底してビジネスとしてそつが無い接待をこなしていく。
　常に感じる彼の視線。
　彼からは自分に対して興味しか感じられないが、その思いに応える訳にはいかない。
　ドイツで会ったときも、なんとなく親近感を覚えた記憶があるが、なにも思い出せない。

　ホテルに戻ると夕食を一緒にしたいと彼が言い出す。
　承諾すると、とうとう彼は部屋で一緒に夕食したいと言い出す。
　意図見え見えの誘いだ。
　ならば瑠璃子の部屋で、という条件で承諾する。
　彼女とホテルサイドは長年の付き合いで、彼女の意向にはなんでも合わせてくれるからだ。

　夕食始まっても、瑠璃子の意向を受けてホテルのスタッフが常時複数いる状況を作ってくれる。
　彼からすると明らかな二人きりになりたかっただろうが、彼女の立場でそれは許すことは出来ない。
　困惑する彼をちょっと可哀想にも思うが、ここは致し方ない。

　すると突然彼はアプローチ方法を変えてくる。
　唐突にドイツ語でしゃべり出し名字ではなく名前を呼んでくる。
　不意に再び懐かしい胸騒ぎがする。
　帰国子女でもある瑠璃子もどちらかというとドイツ語の方が日本語より得意なところもあるから、話しやすかったりする。

デイビット　「瑠璃子　お久しぶりです」
瑠璃子　　　「はい　先日はお世話になりました」
デイビット　「うぅぅぅむ　違います」
　　　　　　「アレクサンダーです」
　　　　　　「お忘れですか？」
瑠璃子　　　「えっ？　なにぃ？　え？」
　　　　　　「あっ・・・・ひょっとして」
　　　　　　「えっ　アレク？　アレクなの？」
デイビット　「そうです」
瑠璃子　　　「あぁぁぁぁぁぁぁそっかぁ」
　　　　　　「嘘みたい」
デイビット　「やっと思い出してくれましたか」
瑠璃子　　　「だって　もう１０年くらい前でしょう」
デイビット　「そうですね」
瑠璃子　　　「そうかぁ　だって眼鏡かけてるし」
　　　　　　「横も貫禄出ているし」
　　　　　　「頭薄くなってるし　全然雰囲気違う」
　　　　　　「分からないよぅ」
デイビット　「ハゲはお嫌いですか？」
瑠璃子　　　「うふ　そんなことないよ」
　　　　　　「キャラ的に　似合ってるし」
デイビット　「ちょっと　太りました」
瑠璃子　　　「そう　確かに昔　凄い痩せたよね」
　　　　　　「貫禄出たよね」
デイビット　「ああ　あれから　空手を習いました」
瑠璃子　　　「なるほど」
デイビット　「一応　世界大会にも出てました」
瑠璃子　　　「そうなんだ」
　　　　　　「そういえば　指輪してないけど」
　　　　　　「結婚してないの？」
デイビット　「はい　だから来ました」
　　　　　　「実は　瑠璃子追いかけて来たのです」
瑠璃子　　　「えっ・・・・・・」

　そこから彼はこれまでの経緯、過去からの彼女への気持ちなどを怒濤のごとく熱く語るから圧倒される。

ゼウスに彼女へのプロポーズの許可も貰ったというやいなや、彼女のそばに跪き指輪差し出す。
　お気に入りのブランド「ヴァン○リーフアーペル」のエンゲージリングだ。

　ホテルのスタッフ達はドイツ語でも様子で事態は理解するから全員固まる。

　瞬時に彼女の打算が高速で駆け巡る。

　以前は外国人との婚姻は認められない立場だったが、今は亜紀達の帰還で状況が変わった。
　一番大事なお爺様も反対しない。
　自身が五摂家一族で初の国際結婚って、彼女の自尊心が満たされる。
　国内では見合った結婚相手はいないと感じてる。
　彼女より仕事の能力もかなり上だ。
　一族の格式は、国際的にもむしろ彼がかなり格上だ。
　彼はちょっとハゲちゃったけどイケメンだし、以前から「会」に出入りしていたので、おそらく「美あんず」への活動に理解得られるし余計な説明いらない。
　「会」での昔の武勇は聞いたことがあるから、夫婦生活もかなり期待して良い。
　もはや肢体の渇望は限界であり夫となる人が欲しい。
　なにより彼への想いに甘酸っぱい思い出もあるし、自分をずっと思っていてくれたという事実が自尊心をかなり擽られる。

　トータルパーフェクトの相手だと、査定が出る。

瑠璃子　　　「あとわたし　資質が」
デイビット　「覚醒したんだね　おめでとう　大丈夫」
　　　　　　「そのために　再会したんだと思う」
　　　　　　「もう運命だと思う」
　　　　　　「瑠璃子の傍らに　ずっと居たいんだ」
瑠璃子　　　「うふっ　分かって下さるのね」
デイビット　「もう一度　言います」
　　　　　　「私の妻になって下さい」
　　　　　　「絶対　ガッカリさせません！！」
　　　　　　「愛しています」
　　　　　　「ずっと愛すること誓います」

　瞬時に男の心を鷲づかみにする笑顔を浮かべると、必殺の言葉が口から出る。

瑠璃子　　　「光栄ですぅ　わたくしでよろしければ」
　　　　　　「お受けいたします」
　　　　　　「デイビット　可愛がって下さいね」
デイビット　「はい　やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
　　　　　　「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

　歓喜してはしゃぐ彼を優しいまなざしで見つめる彼女は既に女モード全開である。
　これでもかと夫になる男の心を鷲づかみにして独り占めにしていく。

　ホッとしたホテルのスタッフ達にも生気が戻る。

　そんな中で瑠璃子の打算が再び高速で駆け巡る。

　九条家の家訓。
「婚姻相手に先に惚れるな　先に惚れさせて支配せよ」

　お爺様、わたくし勝ちましたわ！！
　デイビットもハプス○ルク家も私が手に入れるわ。
　これでわたしもあのマリーア○トワネットの親族よ。

　げに恐ろしきかな女の打算。


つづく
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2021年11月27日掲載
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