ずっと愛してます4


ずっと愛してます4 羅衣作
第30話　　席巻　九条瑠璃子は、迷うことなくエスターライヒ家に嫁いで瑠璃子・エスターライヒになった。　結婚式と披露宴としてパーティがオーストリアで行われ、出席者はサミット並の顔ぶれとなった。　日本では五摂家関係者に限定してお披露目会を行われたのだが、結果的に政財界に驚きが広がっていった。　九条家の影響力が遂にＥＵ圏に広がったことを意味しており、他の４家との勢力差は歴然となったからだ。　ただ彼女は不本意ながら務めていた商社は退社することになってしまったのだが、商社からの懇願により異例の社外取締役就任となったのだ。　九条家的には次期当主である武史と環の婚儀と続いての吉事であり、国内を盤石の体制を固めての国際的な展開であったから一族がますます勢いづく流れであった。　五摂家の中で完全に九条家が頭ひとつ抜け出ている象徴的な出来事であった。　ゼウスがそこまで見据えて、若かりしのデイビットを留学生として迎え入れていたのではないかと気がついてポセイドンは唖然としていたのだ。　五摂家の姫達は選りすぐられた血統であり、皆容姿端麗で少女時代は妖精のように可憐だ。　その中で九条家の瑠璃子は、究極の美少女だった。　五摂家の報道管制下で、五摂家の子女が俗世間に晒されるなどあり得ないのだが、瑠璃子の場合はあまりの美しさに美少女雑誌に写真が載ってしまった程だ。　直ぐに強い圧力が掛かり封じ込まれたが、大学進学すると頻繁に美人女子大生で注目されてしまうし、最後は首席卒業してしまい、どうしても目立ってしまうのだ。　商社に入社すると一般社会には取り上げられなくなるが、商社内では異例の目立ち方をしていくことになる。　極端な話、彼女が望めば日本国内誰とでも結婚できる存在であったのだ。　ＥＵ成立に伴い王族・貴族血族による影響力の低下が著しく、エスターライヒ家にとっては経済大国となった日本の近似勢力との結びつきは喜ばしい話だった。　伝統と格式は世界でもトップクラスの彼らも、時代の潮流には抗しがたい状況だったのだ。　その流れを忌避したイギリス王室を頂く勢力は、イギリスのＥＵ離脱を画策したのが真相であった。　エスターライヒ家から見ても、それは不愉快な事態であったので新たに東洋の勢力と結ぶのは望むところだったのだ。　そんな実家の思惑はともかくデイビット・フォン・エスターライヒは、少年時代から思い慕った瑠璃子と結婚できたので有頂天であった。　もちろん彼女が背負う役割や立場を理解していたし、その彼女を支えて守るのは自分しかいないと自負していたのだ。　もともと性欲はかなり強く女遊びは同時に複数人が当たり前の絶倫ぶりであったのだが、プロボーズするために来日にした際には全て精算してきた為、既に「魔性」に覚醒している瑠璃子も怯むほどであった。　多少、打算もあった瑠璃子だったが、彼にとんでもなく愛されていると実感すると、自身の選択は正しかったと満足していた。　なにより海外での自身のステイタスが別格になったと実感していた。　もともと九条家の影響力でＥＵ圏での待遇はＶＩＰ扱いだったが、それすらも一変してもう完全な貴族待遇になったのだ。　実質的に何か変わるわけでは無いのかもしれないが、彼女の自尊心は大いに満たされたのだった。　結婚式でオーストリアに行った際には、薫達と会おうかと迷ったが結果的に見送った。　例の契約調印式１ヶ月前というタイミングであり、自分は未だ商社関係者という立場でもあるので遠慮したのだ。　亀梨弥生は瑠璃子に同行して九条家からエスターライヒ家所属に移籍した。　両家の規模からすると年単位の準備をするのが普通なのだが、準備期間３ヶ月というかなり急な婚姻であり、弥生の存在無しでは実現出来なかったメモリアルイベントであった。　瑠璃子は経済人志向が強く、いわゆる上流階級層のパーティー外交には興味が無く遠ざかっていた存在であった。　結果、ＥＵ圏上流階級層の女性層には極めて知名度が低かったのだが、真逆に経済・財務関係などの経営層への知名度は飛び抜けて浸透していたのだ。　その結果、披露宴では予想したとおり名前も知らない女性層からの怨嗟と嫉妬の視線を浴びたが、そんなことに怯む瑠璃子ではない。　歴史と格式は彼女達一族が古いかもしれないが、血統は何度も途絶えて傍流が嫡流へと何度も変遷してきた上での話であり、嫡流を脈々と数百年も紡いできた五摂家の方が正統血統の歴史は遙かに凌いでいるとの自負があるし、財力面も凋落傾向にある彼女達一族全てより既に九条家単独だけで凌いでいるのが現実だ。　だから彼女ら一族では果たせないであろう豪勢な会を開いたのだ。　彼女たちの誤算は瑠璃子がマルチバインリンガルでＥＵ言語のほぼ全てをネイティブに理解、話せることだった。　些細なニュアンスの嫌みや侮りをリアルに理解していたのだ。　そして女は受けた挑発は決して忘れないのだ。　彼女たちが挑発した相手の本性に気がついて慌てた時には手遅れであった。　普通なら妻に収まり気ままな生活を送り大人しく子供産み育てるのだろうが、瑠璃子はそのまま経済人として行動して夫の参謀として活躍するのだが、それ以前から顔の広さは既にＥＵ圏全域に及んでいた。　ジャパンマネーを豊富にもたらす彼女の存在で、エスターライヒ家の影響力が急激に拡大していく。　ＥＵ圏の名だたる金融・財務関係者は一斉にエスターライヒ家に靡いた。　名門ハプス○ルク家の復興を願っている一門であるエスターライヒ家は、これをチャンスと捉えていたから次男ながらデイビット・フォン・エスターライヒに金融・財務関係の全権を託し名門復興に動き出したのだ。　ハプス○ルク家に背いたり無視する傾向が多い他家への報復が金融・財務のチカラで行われ始めると、そこに瑠璃子が登場する。　結果的にそのチカラは瑠璃子の意のままになっていくと、アジアの辺境から来た女だと侮っていて者達は青くなったことであろう。　遠くはヨーロッパもアジアも、女が権力者になった暁には残酷なまでの選別が行われていくことになるのは歴史の必然であった。　もとより懇意にして助け合っていた家は重用され、背いたり無視した家、そして瑠璃子を不快にさせた者達へ返礼は辛辣な扱いであった。　日本五摂家のように浸透支配体制を作ることが出来ずにＥＵ圏成立して以来急激に弱体していた上流階級層にとっては致命的な事態に直面することになるのだった。　瑠璃子はエスターライヒ家にもプライベートジェット部門を設立して、新たに東京－ウィーン定期路線をＡ○Ａに委託して開設することにしたのだ。　更に懇意にしている他家にも呼びかけて、プライベートジェットを効率的に運用し徹底した安全管理する体制を構築してしまう。　他家からの人望を評価される段階で、瑠璃子はデイビットの子を早々に身籠もる。　ある意味、上流階級層の女としては完璧な人生だ。　良くも悪くも瑠璃子は、伝統ある名門の女だ。　名家同士を盤石に繋ぐために果たすべき役割を誰よりも理解している。　そして女だけにしか出来ない他家への浸透力を発揮することに迷いがない。　「美あんず」東京代表は妹の佳子に託すと、自らオーストリアでの出産に専念するべく、世界中から専門医を招集する。　もうその頃になると亜紀が完全に九条家の統制を出来るようになっていて、彼女は後顧の憂いなく夫デイビットがエスターライヒ家を牛耳るように動き出していたのだ。　瑠璃子に付き従ってエスターライヒ家に移ったスタッフは３００人を優に越える。　その全てを統括するのが弥生だ。　エスターライヒ家の方も次男が連れてきた嫁の影響力に驚き、九条家の財力にも驚嘆する。　彼女が日本政府とＥＵ政府との調整に活躍した結果、日ＥＵ経済連携協定（ＥＰＡ）が円滑に締結発効にこぎ着けたのだ。　この結果、次男であったデイビットの発言権は急激に高まる結果になった。　身重ということもあるが瑠璃子は公式の場では一切発言しないし、常に夫の半歩後ろに立つ姿勢貫く。　男女同権、対等との意識が強い社会なので、そんな和風な控えめな姿勢に皆が欺されていく。　誰より妻に夢中で誰より妻の能力を知っているデイビットは、そんな妻の演出に協力して自分に注がれる女性軽視批判を甘んじて受ける。　異国の地で妻が批判されることをかわす意味でも有効だし、妻があらゆる制約から自由になることを望んでいたからだ。　デイビットは周囲が呆れるほどの愛妻家ぶり発揮し、仕事以外では全く妻から離れようとしなかった。　デイビットにすれば思い慕った空白の十数年に彼女が経験したことを知りたがったし、彼女も彼のその後を知りたがったから、話題が事欠かなかったこともある。　もちろんお互い嫉妬心とか、興味本位ではなく、自分たちの出自に纏わるドロドロとした事情に今後対処していくのは深く相互理解が不可欠だったし、やはり国が違うだけに風習が異質ということもある。　ＥＵと長らく交渉してきたプロジェクトも無事契約締結となり、工藤一人は瑠璃子の後任としてプロジェクト責任者に正式に任命された。　薫は彼からのプロポーズを受け入れて結婚して、オーストリアに拠点を移した瑠璃子の直属スタッフに復帰することになった。　社外取締役である瑠璃子との調整役という形で、事実上瑠璃子の専属スタッフという極めて異例な人事であった。　本来であれば薫は寿退社にならざるを得ない流れであったが、そこは瑠璃子の影響力の賜だ。　優秀な女性社員を結婚と共に排除する風習に、瑠璃子が真っ正面から異議を唱えたのだ。　瑠璃子は要望が受け入れられない場合、社外取締役を辞任すると表明し商社の経営陣は完全な腰砕けだった。　　結果的に薫は瑠璃子の事実上仕事面での最側近になるのだが、身重になる瑠璃子の代行的役割になる。　必然的に「美あんず」での立ち回りも、当面彼女が対応せざるを得ない状況だった。　大まかの主要な役割はもちろん佳子が引き継いでいたのだが、それでも引き渡せない部分もそれなりに存在していたのだ。　数ヶ月ぶりに帰国した薫は成田空港に降り立った。　今回は「美あんず」関係のことで佳子と詳細相談するのが主な目的であるが、夫である一人(かずと)と結婚後初めて離れる機会となった。　結婚生活はラブラブで充実した日々であるが、長く独身貴族であった薫にはそろそろ息苦しく感じるタイミングでもあったから、息抜き的に開放感にウキウキが少なからずある。　出迎えが来てくれると連絡を受けているから、探していると見知った男性の顔があったから激しく動揺していた。「えっ　なんで　嘘でしょ・・・・・」薫　　「徹さん　なんでぇ？」徹　　「お帰りなさい　お久しぶりです」　　　「佳子ちゃんから聞いて　立候補したんだ」薫　　「立候補って・・・」　　　「だって徹さん大阪じゃないの？」徹　　「ああ　今　事務所の研修の一環で」　　　「大手ゼネコンで勉強中なんだよ」　　　「ほとんど東京だからね」薫　　「あら奥様は？」徹　　「３ヶ月だから単身赴任だよ」　　　「しばし羽伸ばしてるんだ」薫　　「まあ　なんか分かる気するけど　うふふ」　　　「それで佳子様なの？」徹　　「まあねぇ　そしたら薫さん帰ってくると」　　　「聞いたから　こうしてお出迎えに参上」　　　「では　奥様参りましょう」薫　　「そうきた訳ね」　薫は、一気にオンナモードになってしまう。　徹とのあの一夜の経験は彼女を変えてしまったし、一人との夫婦生活が貪欲なオンナに目覚めさせてしまったのだ。　もとより夫である一人も商社マンであり、浮気のひとつやふたつは許容しないと妻は精神的に保たない。　夫が許されるなら、妻も許されると考えるのが商社に現役で務める女の考え方だ。　実際、上司に愛人が居ることを見て見ぬふりをしたのは１度や２度ではない。　オンナにとっては、セックスは一様ではない。　夫のセックスも歴然と楽しむセックスと子作りのセックスがあるし、違う男のセックスにも求めるものがあるのだが、違う男との関係はタブー視するのが普通の感覚であろう。　男性の９割９分そう考えるし、女性でも大多数がそう考えるものだろう。　しかし「会」の女性達は違う。　それは違う男といっても、その質だ。　極上のスペシャルな男性を知ってしまうと、ほぼ全ての女性が薫のように考えが真逆に変わってしまうのだ。　もうオンナは最高の繋がりを育んだ男性を忘れられないし、無意識に吸い寄せられてしまうのだ。　薫にとって徹はもはや特別な男性だったのだ。　もう半年ぶりの再会なのに、彼の腕に縋ってしまう。　彼も当たり前の様に受け入れてくれるから、年下の彼に夢中になってしまう。　彼の運転で定宿にしているホテル「星○や東京」に送って貰うが、彼も同じところに逗留していると知ってドキドキが止まらない。　薫は、これは瑠璃子が仕組んだ自分に対するご褒美だと理解した。　もちろん夫を愛しているし、大事にしている。　それでも徹は別の存在だし、これは「美あんず」に属しているオンナとして大切なことなのだ。　彼から今週末は二人っきりで満喫しようと言われて、もう有頂天であり、実は実家に顔を出すつもりだったのだが徹との逢瀬を優先してパスしてしまう薫だった。　徹と過ごす時間は確実に薫の精神を癒やしていく。　とにかく会話して楽しいし、心地よいのだ。　薫が日頃ストレスを感じている話題を、あまりに心地よいから女性同士の感覚で話してしまうのだが、それに対して彼自身も同様な話題を出しつつ共感してくれる。　それだけにとどまらず、男性の視点の見方も織り交ぜて話して同調してくれるのだ。　決して男性視点の解決提案ではないし、あくまでも同じ高さの視点なので感覚としては年上の先輩女性と話している感覚に近い会話が出来る男なのだ。　会話が楽しいと時間が経つのは早い。　ホテルに着いてからも直ぐに食事の誘いをしてくれるし、お店の手配も交通の手配も全て手際よくしてデートを演出してくれる。　彼女が日頃果たしているような細かいことは一切する余地すら残してくれないし、まだ社会人１年生なのにベテラン商社エリート社員の彼女が惚れ惚れするエスコートぶりだ。　建築設計事務所勤務だということだが、もう一流商社マン真っ青の接遇プロと言って良いレベルだ。　一緒に高級ステーキを楽しみにながら、もう薫は徹に夢中になっていた。　食事中の会話も、しっかり方向性を引っ張ってくれて食事が楽しくなるような話になるようにしてくれる。　そこは同性同士でも感じない配慮だが、それをしてくれることで男性と食事しているのだというプレミアム感が増す演出に感動する。　食事の後には、彼女ですら行ったことのないバーに誘われ、軽くお酒を楽しんでホテルにスムーズに帰るコースだ。　ホテルに帰ると、今日は飛行機で遠路疲れたでしょうと若い男性には不似合いな身の引き方をする彼に淋しくて抱きついてしまう。　薫はどうしたのと尋ねられても、胸に顔を埋めて行かないでとねだってしまう。　年下の男性なのだが、徹相手だと少女化が止まらない薫だった。　無言で彼は薫の部屋に同行して入ってくると、一転笑顔で一緒にシャワー浴びようかと言ってくれるのが、またまた彼女を嬉しくさせる。　薫にすればそのような展開を望んだから彼を引き留めたので、余計な言葉や段取りは不要だし、変に間を開けると自ら不貞関係を望んだ現実がリアルになりすぎて避けたかったのが本心だ。　とはいえそういう進行は男性にリードしてもらいという我が儘な女心が見え隠れする。　そんな意図を徹という年下の男性は当たり前のように察して早々に実行出来る存在なのだ。　それも無邪気な少年のような笑顔を添えてくれる。　あの日の神戸に来て、徹と出会ってデートして夜経験した思い出は、薫の中で決して消えることがない。　夫となった工藤一人には申し訳ないという思いもあるが、薫が結婚したいと意識したきっかけも徹との出会いにあるのだから許してとの想いも強い。　そして一人の充実した夫婦生活が薫のオンナとして変貌させる土台になったのも現実で、もう「美あんず」のメンバーに相応しいオンナぷりを発揮しつつあった。　二人でキャッキャッ言いながら、お互い脱がしあいながら浴室に駆け込む。　シャワーを浴びながら、もう待ちきれない二人は濃厚なキスを始めてしまっていた。　もう二人は昨年出会った頃のテンションに戻っていたのだ。　瑠璃子は薫からの弾むような喜ぶ文章のメールを見ながら、微笑んでいた。　薫は多くのものを犠牲にしながら実に頑張ったし、瑠璃子が商社で早期に活躍出来のも彼女がいてくれたからだと認識していたのだ。　二人で取り組んできたＥＵプロジェクトも形になったことだし、そろそろ彼女には女として休息が必要と考えていたのだ。　瑠璃子自身恵まれすぎていて、薫にも幸せを分かち合いたい思いが強いから結婚も後押ししたし、これからもオンナとして同志として彼女を優遇する気配りは怠りない。　オーストラリアの夫の実家で出産するにあたり、弥生が常に傍にいて欲しいから在籍していた商社に働きかけて弥生の夫、雅己をＥＵ圏統合支店長に任命して貰うように働きかけ、家族ごと一緒に来て赴任して貰うという豪腕ぶりだ。　ただＥＵにおける商社の幹部職が全員が瑠璃子の影響下になったことで日本からの資本力に実権が瑠璃子に集約する形になり、ＥＵ圏の金融・財政への影響力が絶大になり席巻していくことになるのだった。つづく
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2021年12月11日掲載
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