ずっと愛してます4
羅衣 作
第43話　美羽


　田原グループからの「会」スタッフである篠原和輝の妻である美羽(みう)も、葵と同じく人生が激変してしまった女性だ。
　５人のスタッフ妻達の中では、「美あんず」に一番深く関わっているのが美羽だ。

　元々参加した時には既にバイセクシュアルを自覚していたから、ある意味一番真っ先にどっぷり嵌まり亜紀と最も意気投合したのだ。
　だから出会った当時に身重だった亜紀にとって、その存在は好都合だったろう。

　各種イベントごとも計画時に彼女がいることで、亜紀が欠かさずに付与したいと考えているレズビアンとしての視点要素を漏れなく組み込むことが出来たのだ。
　郁美はなにかと工夫はして反映はしてくれるが、彼女は多忙すぎるしスタッフに同志が居ると居ないでは大違いなのだ。
　開幕の日に、恋との距離を早々に縮められたのも美羽の細かい配慮があったお陰だ。
　ちょっとした席の割り振り、男性陣との距離感など、美羽が亜紀と郁美の意図を察して調整してくれたのだ。

　夫である和輝は人事のプロであり、大学時代に革新的な人材評価に基づく活用術を纏めた論文を纏めた異端児でもあった。
　当時の大学教授陣による評価は決して良いモノでは無かったが、その論文が偶然田原凌の目にとまる。
　凌は人材は有限であり、優秀と思う者の大半は東京地区に流出していくジレンマに悩んでいたのだ。

　このままでは関西経済圏は人的リソース不足で衰退の一途を辿り、高度な産業は衰退していくばかりだ。
　ならば今居る、残る人材を有効に効果的に育成して行く必要がある。
　それには今までのような人材雇用育成しても太刀打ちできないのだ。

　田原は周囲の反対を押し切り、新卒の和輝を配下の３００人ほどの社員を有する事業の人事部長に抜擢した。
　そして彼に論文の実践を命じたのだ。
　初めは反発に晒された和輝だが、彼に逆らうことはグループ総帥への反逆なのだと知らされる出来事が幾つか発生して皆渋々従ったのだ。
　だが彼は３年ほどで、その論文通り実績を作って見せて、会社の業瀬が躍進し経常利益は２．５倍を達成したのだ。
　以来、和輝は総帥直属の人事改革者として活躍し続けていたのだ。

　和輝は現在３１歳で、田原氏から絶大の評価を受けて億円単位の報酬を受ける田原グループ人事統括者となっている。
　ある意味、田原グループが神戸だけの企業グループから関西地区を席巻する一大グループになった原動力は彼の才覚に寄るとこも大きいのだ。
　現在の主な仕事は、グループ内の各企業全てに新人事システムを普及させることだが、グループ内百数社あるのでまだ３割ほどしか実現できておらず道半ばだ。

　和輝の妻、美羽は２歳年下の２９歳で、彼の大学の同じ学部後輩でミスキャンパスにも選ばれた美女だ。
　和輝が大学在学中に夢中になり、付き合い始めた学生カップルでもあったのだ。
　美羽は大学卒業時に関西の某テレビ局アナウンサーとして就職が内定していたのだが、既に成功して高収入になっていた和輝が強引に結婚して彼女がアナウンサーになることを阻止したのだ。
　彼にすれば美羽を独り占めしたかったのだろう。

　だが和輝が卒業した後の２年間は彼も最も忙しい２年間であり、付き合っていたが週に１度会えれば良い程度で魔の期間でもあったのだ。

　大学１年生の時にミスキャンパス選ばれた彼女のモテ方は想像以上だ。
　大学の行事があればスター扱いだし、彼女を狙う男の達はゾクゾクだ。
　美羽にすれば和輝は彼氏との認識はあるが結婚するかと問われれば即答できない段階だし、女子アナウンサーになりたいという夢もある。
　なにより自分がモテ期にあるのは自覚している。
　自分の夢であるアナウンサーになるということに障害にならない程度自重しつつ、羽を伸ばすのは当然のことだろう。

　美羽は小学生時代から女性が好きという自覚が芽生えて、性教育を受けて自分は普通ではないんだと認識していたのだ。
　ただやはり普通でありたいと思うから意識的に自分の性癖を避けるようにしていたし、持ち前の容姿が良くて男性から好意を持たれやすいので男性と交際するようにしていただけだ。
　中学生時代に早くも初体験を迎えるが、それが逆に彼女の性癖を覚醒させていく。

　もともと学生時代女子同士の距離感は非常近いし、異性でないから当たり前のように警戒心も緩い。
　仲良しになり距離が近くなり、徐々に性的なアプローチされて崩されて行ってしまう子は多いのだ。
　美羽は早くに初体験を済まして、それなり男性経験を積んでいるから同年代の女子達から見れば、性体験の先行者であって彼女の経験談に興味津々だった。

　その彼女が実はレズビアンとは夢にも思わない。
　既に女の性感を知っている彼女の性的アプローチに、多くの子達が抗えず引きずり込まれていく。
　高校生３年間は女子校に進学し、高身長170センチで容姿端麗な彼女は女の花園を満喫した。
　１度レズビアンと覚醒してしまえば、同性の感性も持っているからモテるのも容易かったのだ。

　高校生時代には女子アナウンサーに成りたいと意識始め、雑誌モデルとしてスカウトされて活動し始める。
　そのまま大学に進学すると、当たり前だが学年で一番有名な女の子として注目を集める。
　そしてミスキャンパス選考実行委員会で委員長をしていた篠原和輝に出会う。

　篠原のアプローチに美羽は戸惑う。
　もとより彼氏など欲しいなどと思っていないし、自分のキャリアとして「ミスキャンパス」の称号が欲しいだけだ。
　そして難なくミスキャンパスの称号も手に入れた彼女にとっては彼は用済みという感覚だった。
　いろいろ誘われながらも大学２年までかわし続ける。

　何度も交際を断っても自分に対してずっと好意を示してくれるし、彼の人となりと学内の評価が耳に細かく入ってくる。
　学内行事でも自分に対していろいろ助けてくれるし、同じ学部の先輩ということで彼と行動を共にすることが多い存在でもあったのだ。

　学部内では篠原は大学創設以来指折りの天才と言われている有名人でもあったから、周囲からは付き合っていると思われている状況でもあった。
　実は美羽的には彼氏持ちと思われることで、都合が良い部分もありレズビアンな性活を満喫している部分もあったのだ。

　そんな２人に一大転機が訪れる。

　美羽が大学２年の夏に、彼女の両親が自動車事故に遭って生死を彷徨う。
　彼女が当時、高校1年生の妹と狼狽えつつ対応する状況に卒論で忙しい中にやってきて数日に渡って助けてくれたのが篠原だったのだ。
　全てに冷静に的確に対応してくれる彼の姿に、今までなかった感情が芽生えた。
　そして家族全員が父親に依存してきた故に、自分も父親に代わる存在が欲しいと思い始めたのだった。

　その後、篠原の態度が決定的だった。
　一環として友人として当然のことしただけで、それで美羽との関係を進展したいなどという態度は取らなかったのだ。
　もちろん彼も学業が忙しかった部分もあるだろうが、それでレズビアンだった彼女の気持ちに変化を起こしたのは事実であった。
　ほどなく美羽から付き合って欲しいとの逆告白があって２人は付き合い始めるのだ。

　篠原の卒論はあまりに革新的で賛否両論巻き起こすものであったので、所属したゼミの教授とも衝突してしまう。
　異例であるが、篠原は自己主張曲げないことに担当教授は激怒し卒論認めないとも言い始める大問題になり、それが噂となって一学生と教授との意見相違は学内で波紋が広がっていく。
　当然のことながら篠原は誹謗中傷に晒される。

　美羽は彼を陰で支えつつ、持ち前の負けん気で立ち上がる。
　学内で学生の意見を頭ごなしで潰す大学で良いのかと署名活動を始める。
　美羽には同胞の女の子達が十数人いて彼女達も賛同して一緒に行動を共にしてくれる。
　ミスキャンパス女子学生による署名呼びかけの破壊力は絶大で、たちまち学内女子学生８割を超える署名が集まり、それが女子職員にまで広がり、急に学内雲行きが怪しくなる。

　驚いたのは教授会だったが、メンツに拘るあまりに無策だった。
　女性に釣られるように男性学生の支持も集まり出す事態に、学長が仲裁に乗り出すことになったのだ。
　学長の仲裁は、篠原の卒論は受理し卒業も認めるが、採点としては平均点扱いというものであった。
　篠原は仲裁を受け入れる。
　この騒動は関西で求人を積極的に行っている田原の耳に入ることになるのだ。

　この波乱は学長の願いも虚しく、自らの仲裁が裏目に出ることになる。
　篠原が田原に抜擢されて、卒論の人事評価・活用理論を実証して見せて学会で話題になるのだ。
　すると当時の大学対応が問題視されることになる。
　美羽が大学４年の春には、学内で教授陣にも変動が生じると、当事者でもあった彼女に対する扱いも微妙な状況であった。
　しかし美羽自身は、この出来事で夢だった女子アナウンサーの道においてマイナスになる。

　署名活動家と見なされ忌避されて、関東有名放送局は全て落ちてしまうことになる。
　そしてやっと関西放送局から内定を勝ち取る事が出来たのだった。
　実際、英会話も堪能で、容姿端麗で、既に有名人だった彼女は、雑誌でも関東有名放送局のどこに入るか記事になる位であったので、学内署名活動のヒロインという姿は忌避されたのは事実であろう。

　そういう就活では苦労があった彼女だが、プライベートは順調そのものだった。
　篠原という彼氏は出来たが、彼は先に卒業して２年間は自由に学生生活を謳歌していた。
　実際、篠原はモテすぎる彼女が心配で堪らなかった筈で、新卒ながら凄まじい大役を任されて激務の中でも必死で週に１度は一緒に過ごす時間を作っていたのだ。

　美羽の場合、ライバルは男性だけでなく女性も含まれるので、彼女の周囲に他人の気配が絶えない状況が続くのだ。
　篠原はその雰囲気を察していた筈だが、やせ我慢して触れずに耐え抜いたのだ。
　彼にすれば指摘して彼女との関係が損なわれるのが怖かったに違いない。
　激務の中で週１度の彼女と過ごす時間が唯一の癒やしでもあったし、そのことに費やす時間の余裕もなかったのだった。

　結果的に２年間という羽根を伸ばす時間があったことで、その後に美羽が自身の夢を諦める決断に至る土壌整備になることになるのだった。
　美羽が卒業し念願の女子アナに成ろうかという頃に、篠原が億円プレイヤーとなってプロポーズして立ち塞がるのだ。
　篠原は、交通事故の経緯で美羽の両親まですっかり味方につけており、２４歳の若さで年収１億円を超えるまで成功していた彼の根回し力は凄まじい。

　半ば押し切られるように結婚して、女子アナの夢を諦める形になる。
　しかし彼女は自分の夢を捨てた代償で得た生活とステイタスに驚くことになる。
　夫となった篠原が２年かけて得たものは想像より大きかったのだ。
　同年代の年収や生活水準が天と地ほど違い、彼らが務める会社の社長や役員達と大差ない水準であり、毎年数千万円で単位で増えていく年収に戸惑う。
　夫は成功者だと認識していたが、桁違いなんだと理解していくと夢を諦めたことにある種の妥協が生まれたのだ。

　いつしか夫の築き上げたステイタスは妻に反映される形になり、名門校である大学同窓生の中での社会的地位は若い世代では断トツであり、彼女は自尊心は満足するのだった。
　大学創立記念行事に、実社会で飛ぶ鳥の勢いで席巻する夫である篠原と一緒に出席した美羽であったが、自分たち数千万円の寄付と共に田原グループからも億円単位の寄付をもたらした結果、学長、学部教授達が皆頭を垂れる様を爽快の気分で眺めていたのだった。
　記念講演で講話する篠原の姿に、改めて惚れ直して自分は凄い男を伴侶にしたのだと再認識したのだ。

　そこから５年ほどの歳月が流れて、篠原和輝・美羽夫妻にとっては恩人からの要請によって２人驚くべく世界に招かれることになる。

　和輝にとっては、田原 凌氏は絶対的な上司であり、かつ自身の成功は全ては彼があってのことであり尊敬する存在であった。
　自身の評価も過剰なほど評価してくれて、若輩の自分に絶大な権限も与えてくれて毎日夢中に仕事にのめり込む日々であったが、その報酬も身に余るほど与えてくれた恩人である。
　そもそも与えてくれた仕事は自分のライフワーク実現に他ならないから、その環境を提供してくれた田原氏には感謝しかなかったし盲目的に信じている存在でもあった。

　和輝・美羽夫妻にすれば、そろそろ子供欲しいかなという時期に、スワッピングありきの不道徳な「会」への協力要請であった。
　２人は迷うが、和輝は田原氏を信じてついて行きたいと主張して美羽を説得したのだった。
　美羽にしても躊躇はあるが夫の考えは企業人としては致し方ないと思ったし、自分たちの贅沢な生活の基盤は田原グループにあるから納得したのだった。

　ただ２人はすぐに気がつくことになる。
　自分たちはHIGH SOCIETY社会に正式に入ることを許されたという事実だ。
　その恩恵は凄まじい。
　田原グループにおいて凌・亜紀夫妻に日常的に直接交流する立場になるとトップクラスの権限者になるし、その影響力は一般社会にも及ぼし選挙で選ばれた一般庶民の市長や県知事より影響力が大きいのだ。
　地元の決め事でも鶴の一声発する立場となったのだ。

　美羽は当初は戸惑っていたが、亜紀が同胞の嗜好だと知りたちまち意気投合すると「会」の活動に誰よりも早くのめり込んでいった。
　同時に参加した須貝 葵がトータルマネージメントリーダーを務める傍らイベント関連マネージメント担当となって、亜紀の参謀として活躍していたのだ。
　そして亜紀と連携して、女性陣のバイセクシャル化浸透も男性陣には悟られることもなく着々と進められていたのだった。

　本質はレズビアンであるだけに、もちろん夫、和輝に愛情はあるが、性的に１００％満たされているかと言えば嘘になるし、今では亜紀との繋がりの方が深いというのが本心だった。
　それでも女は性的な充足感だけで伴侶を選ぶわけでないし、社会的なステイタスと収入も綺麗事ではなく重要な要素で、なにより男から愛されていると実感がないと駄目なのだ。
　和輝の妻であることは、美羽には最高の環境だったのは紛れない事実だったのだ。

　そんな美羽も唯一例外で理性を保てない存在がいる。
　「会」に誘われた時に出会った、違う女性の若い旦那様である徹だった。
　あの日の彼とのセックスで、美羽の何かが変質したのは間違いない。
　以来、和輝に申し訳ないと思いながら、徹との逢瀬に心躍らせてしまう自分を自重できないのだ。
　もちろん彼の妻、敬子への遠慮もあるし、周囲への配慮もあるから自制はしている。

　その日、美羽は出張で東京に来て用件を済ますと、本来は日帰りが可能でありながら徹と待ち合わせ出来るとなった途端に泊まりにしてしまうのだった。
　遠隔地であり周囲の存在を意識しなくても良いとの開放感で歯止めが効かないのだ。
　美羽がレズビアンなのに徹相手には女丸出しになり、平気で嘘を言ってしまう堕ちぷりが徹の無双伝説になっていくだった。

　彼の宿泊するホテルに到着すると、彼女の雰囲気が一変する。
　それまでは封じているであろう女として発情オーラが抑えられず溢れ出す。
　エレベータで階表示灯を見上げる瞳はもう既に潤んでいる。
　小走りで彼の居る部屋まで行きインターホーン鳴らすと、もう爆発寸前だ。
　なんだかとお互い忙しくて、４ヶ月ぶり逢瀬だ。
　ドアが開くとすぐ抱きついてしまう。

徹　　「おっとぉぉぉ　美羽　久しぶり」
　　　「どうしたの　淋しかったのかな」
美羽　「・・・・・・・・・・・」

　美羽は毎回徹が凄いなと思うのはこの瞬間だ。

　背骨が軋むほどキツく抱きしめてくれて、永遠に続くかと思うほどの長いディープキスで迎えてくれるのだ。
　そして優しく頭を撫でてくれる。
その瞬間に美羽の中の女が弾けた。
　夫である和輝はおろか誰にも見せた事の無い女の顔満開だった。
　自覚があるから恥ずかしくて顔を彼の首筋に埋めて隠してしまう。

　そこからは流れるようにエスコートされる。
　当たり前のように服を脱がされて、ジャグジーに一緒に案内される。
　仕事終わりに直行したらシャワー浴びたいなと思っていたが、そんな事をわざわざ言わなくて済むのだ。
　後ろから抱かれて歩き疲れた脚を優しくマッサージされると、ジャグジーの泡と絶妙に調整された温度がびっくりする程心地よい。
　口移しで冷たいミネラルウォーター飲まされると、もうリラックスしてどうにでもしてって感じだった。

　優しくウエストラインも撫でられた瞬間に吐息が漏れてしまう。
　ジャグジー内なのにもう秘部は溶けてしまっていると感じて恥ずかしくなる。
　吐息が彼にゴーサイン出してしまった形になり、彼の右腕がバストを鷲掴みしてきて、左手はあっという間に秘部に滑り込んでくる。
　秘部の状態知られたくなくって身をよじるが無駄だ。

徹　　「美羽って　凄くエッチになったんだね」
美羽　「・・・・・嫌っ　そんなことないもん」
徹　　「そう　僕はそんな美羽　メッチャ好きだよ」

　耳元で囁かれて、同時に彼の手淫に翻弄されて思わず声が漏れてしまうが、ジャグジーの音が彼女恥ずかしさを和らげてくれる。
　もう身体に力が入らないが、彼がしっかり抱きしめてくれるから不安を感じずに二人の時間に没頭できる。

　この年下の彼はインキュバスなのかもしれない。


つづく
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
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2022年6月12日掲載
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