２　あんなに仕事のできる女性上司が？
　
　僕は、何をやっても、不器用だった。
　上司の澤田班長には、いつも、しかられている。
　歩行訓練の計画表がずさんだの、実績表に記載漏れがある、だのと。
「あんたは、それだから、大学だって、続かなかったのよ」
　僕は、怒る気もない。しかし、多少は、情けなかった。
　近頃は、昼の休み時間になると、喫茶店に逃げた。
　澤田班長の顔を見るのがいやだった。
　
　僕は、茶店で、コーヒーを飲みながら、ぼんやりと考え事をしていた。
　茶店に逃げるなど、現実逃避なんだと思う。そうは思っても、職場で仕出し弁当を食べ終わると、本能的に、事務室から逃げていた。
　僕は、茶店の椅子に座ると、空想の世界に入るのだった。
　光は、粒子と波なのだと思う。
　光は、光ファイバーを通して、どこへでも、移動ができるのだ。
　今は、デイサービスセンターで、お弁当をつくり、それを、一人暮らしで寝たきりの高齢者のおうちに、バイクや車で配達している。
　そういう食べ物を、光ファイバーというか、インターネットで配達できないものかと、思うのだ。
　たとえば、おそば。僕の母方のおばあちゃんが好きだった。
　きつねどんべいの、カップのそばも、いいけれど。
　麺とスープという物質を光波に変換できないかと思う。
　デンプンとかしょうゆなんかという物質を、元素には分解できるだろう。この元素を光に変えることができれば。
　もっとも、光は粒子と波だとはいっても、光の粒子は、素粒子並みに、極小のものなのだ。元素を素粒子（＝陽子、中性子、電子、中間子、ミュー粒子、ニュートリノなど）に分解しなくてはだめなのだろう。
　送り手のデイサービスセンターで、物質→元素→素粒子→光粒子→光波という変換作業をし、そして、受け手の、高齢者のいる家では、光波→光粒子→素粒子→元素→物質という、逆の変換作業をやっていく必要があるだろう。
　今は、家電製品のデジタル化、半導体の時代で、日本の技術は、世界有数なのだ。
　お年寄りなんだから、ボタンひとつで、変換作業ができなくては。
　食べ終わった、おそばのどんぶりも、食器洗浄機で洗う。
　ベッドから、ステンレスの流し台まで、食器を運ぶ小型ロボットも要るなぁ。
「おばあちゃん、このどんぶり、もう片付けてもいいですか？」
　という音声付きのロボットにしなくては、とも思う。

　僕は、そんなまったく、くだらない空想をして昼の時間を茶店で、過ごしていた。
　ある日、僕が、昼休憩から職場に戻ってくると、なんと、澤田班長と、深尾主任が、大喧嘩をしているのだ。むろん、喧嘩といったって、口げんかなのだが。
「あんたは、発注していい、と言ったよ」
「そんなこと、言ってないわよ。部長に、なんて言えばいいのよ」
「あんたは、いつも部長、部長なんだよ。どうして自分の考えで決められないんだよ」
「わたしは、いいって、言ってない！」
「あんたがいいと言ったから、俺は、見積りを取って、もう、業者に、あの機械、発注したんだ！」
「そんなの取り消しなさいよ」
「そんなこと、できるわけ、ねぇーだろぉが！。あんたが、違約金でも払ってくれるというんかよ〜」
　僕は、喧嘩の中味が、よくわからなかった。
　ともかく、臨時職員の僕にできることは、何もなかった。もし、喧嘩を止めに入ったとしても、もっと、じらせることになるだろう。僕にできることは、事務室を出て行くことだった。

　その日、深尾主任は、早退をしてしまった。
『ちょっと、先輩も、大人気ないなぁ』と僕は思ったが、深尾主任としては、よほど、腹に据えかねることがあったのだろうと思い返していた。
　夕方、帰ろうとしていたら、僕は、澤田班長に呼び止められた。
「ねぇ、篠塚クン、遊戯室のビデオ、見てくれない？」
「はい。でも、何か？」
「今晩、ビデオ鑑賞会があるのよね。でも、テープを入れても、画像が出ないのよ」
「わかりました。見てみましょう」
　いつもは、そんなことは、深尾主任がやっていたのだろう。
　僕は、澤田班長と、遊戯室に行った。
　デッキにテープを入れる。しかし、テープが空回りして、映像が出ない。
「あのぉー、班長、ビデオが事務室にもありますよね。このデッキ、調子、悪いですから、とりあえず、交換して」
「ああ、それでいいわよ」
　デッキを取り替える。配線を取り替える。
　それを、澤田班長が見ていたらしい。
「ふ〜ん、やっぱ、君も男の子なんだ、器用なとこも、あるじゃん！」
『こんなん、誰でも、できますよ〜』
　と、僕は言いたかったが、言葉に出して言うのは、やめた。
　映像が出て来た。
「あっ、出た、出た」と、班長が言った。
『あたりまえ、じゃん。線を繋げば、そりゃ、出ますよ』と、僕は、心の中で答えていた。

　しかし、なんか、変なビデオだった。で、僕が小首を傾げていると、何か、エッチ臭いタイトルが現われた。僕は、顔が赤くなった。
　僕は、あわてて、リモコンスイッチの、ストップのところを押していた。
「あっ、班長、これで、大丈夫です」
「ありがとう」
「じゃ、これで、僕は失礼します」
「篠塚クン、あなた、ヒマでしょ。今晩のビデオ鑑賞会、あなたも付き合いなさいよ」
「しかし、僕は…」
「わたしは、機械オンチで。あなたがいてくれないと、もし、ビデオが途中で止ったりしたら、困るもん」
「そんなことは、ないと思いますが…」
「ヒマだし、いいよ、ね」
　僕は、仕方なく、承知させられた。
　本当は、今晩は、就職試験用の問題集の問題を１０問は解いて、それから、面接の受け方の本も読んでみるつもりだったのに。
　ビデオ鑑賞会は午後７時から、はじまるらしい。だいたい深尾主任が、この鑑賞会を仕切ってやっていたらしいのだ。班長の話だと、深尾主任は、ケータイまで切っているらしかった。
　６時に、出前を頼んだ。
　班長は、天麩羅そば、僕は、カツ丼を注文した。
　事務室に残っているのは、僕と澤田班長だけだった。
「ねぇ、なんで、君は、大学を、中退したのよ」
「大学の授業に、ついていけなくて」
「国立のいいところに入ったんだから、もっと勉強すればよかったのに。そうしたら、こんなところになんか、勤めなくてもよかったのに」
「……」
　僕は、班長が、『こんなところ』と言ったのが、気に入らなかった。ここのホームは、大切な施設だと思う。高齢者介護なんて、すごくやりがいのある仕事だと、僕は思っている。
　しかし、ともかく、僕は、ここでは臨時職員なのだ。大きなことは言えない。
「でも、君も、情報工学部なんて行ったんだから、その頃は、夢があったのよね」
「いやぁー、大した夢じゃ、ないですよ」
「でも、情報工学部なんか出た人は、たとえば、介護用のロボットなんかを作る、わけでしょ？」
「いや、僕には、そんな才能はないですよ。僕は、ただ、そういう技術者の方の助手みたいな仕事がやりたかっただけですから…」
「その助手って、どんな仕事をするの？」
「うーん、ロボットが受ける視覚情報とか聴覚情報を、知能制御装置に伝え、その装置から、ロボットの筋力装置に情報を伝えて、ロボットを歩行させる、そういう電算プログラムづくりを、手伝うだけですよ。おおまかなプログラム・デザインは、専門のシステム・プログラマーがやりますから、僕なんかは、それに沿って、ごく機械的な作業をやるだけですから」
「でも、おもしろそうなのに、ね」
「そうですね。でも、手伝うにしても、プログラミングの基礎的なものができてないと、まったく、役に立たないですからね」
　７時前になったので、澤田班長と、遊戯室に行った。
　もう、１５人ばかりの人たちが集まっていた。なんと、おじいちゃんたちばかりだ。
　なるほど、澤田班長が、僕にも付き合え、というはずだと思った。
　ビデオを、僕が、スタートさせた。
　ビデオは、やはり、案の定、アダルトビデオだった。色んな女の子が出て、男の人にやられるのだ。しかも決まって、アノ時の最後になると、男の人は、白い液を女の子の胸のところに噴射させるのだった。
　しかも、その女の子ときたら、とっても、嫌そうに、白い液を舌で舐めるのだった。
『嫌なら、そんな、きったねぇーもの、舐めるんじゃないよ！』
　と、僕は、その画像の女の子に、言いたかった。
　僕は、気になって、横に座っている澤田班長を、ちらりと、横目で盗み見した。
　澤田班長は、シラッとした顔をしていた。
　そうか、やはり、女の人は、視覚的・聴覚的には刺激を受けないんだ。男の人の手によって性感帯を触られるという、触覚的な刺激にしか反応しないんだな、と僕は思った。
　とすると、仮に、女性の介護ロボットを作る場合、視覚的・聴覚的情報をキャッチする反応プログラムは、Ｓｌｏｗ反応の触媒プログラムを挿入し、触覚的情報には、Ｈｉｇｈ反応の触媒プログラムを噛ませる必要があるかもしれないな、と僕は考えていた。
　深尾主任が、レンタルビデオ屋さんから借りて来たらしい、今回のアダルト・ビデオは、ストーリーもなにもあったもんじゃない。とにかく、男の人が、女の子をいたぶり、女の子は、ぎゃあぎゃあ、と、わめいているだけだ。
　もっとも、そう言っても、僕の股間のモノは、大きくなっていた。
　やっと、終わった。
　女の子の、あえぎの声がひどすぎて、頭がガンガン、痛い。
　リモコンのストップボタンを押す。
「深尾主任さん、もう一回！」
　ひとりのおじいちゃんが、後ろを振り返りながら、そう言うのだ。
　僕は、横にいた、澤田班長を見た。
「わたしは、もう帰るわよ。あなたが判断しなさい」
　そう言いながら、澤田班長は、さっさと、遊戯室を出て行く。家庭もあるんだ、早くうちへ帰りたいんだろうなと、僕は思う。
　僕は、しようがないな、と思った。
　それに、日頃、深尾主任には、お世話になっている。
　深尾主任は、こうして、おじいちゃんたちのアンコールに応えていたのだろう。深尾主任の人気を、僕が落としてもいけない。僕は、ビデオを巻き戻し、再生のボタンを押した。

　それから、深尾主任は、３日、職場を休んだ。
　その間、結構、僕は忙しかった。むろん、失敗ばかりで、澤田班長には、その都度、もんくを言われたが。
　深尾主任が、仕事場に出て来た。
　僕は、うれしかった。
　昼休みになって、ふたりで、屋上に上がった。
　深尾先輩が、缶コーヒーを僕にも投げてくれた。
「篠塚、すまなかったな」
「いえ、別に、大したカバーリング、やってませんから」
「すまん、すまん」
「そうですねぇ。ビデオ鑑賞会、あれには、ちょっと、まいりましたが。おじいちゃんたちが、何度も何度も、リクエストして…」
「そうか、そうだろうな」
「やはり、年は取っても、ああいうの、見たいんですか、ねぇー」
「よくわからんが、そうなんだろぉね。まぁっ、ああいうのも、見せておかないとね」
「どうして、ですか？」
「つまりさ、じいさんたちの欲求不満がたまると、診療部の看護師や、リハビリ部の介護福祉士の女の子たちのお尻、触るものが増えてね。ああいうのを見せて、多少は、解消させてやらないと」
「でも、あんなの見せて、逆効果になりませんか？」
「まぁ、そりゃ、そういう奴もいるけどさ、概して、ああいうのを見せておけば、多少は発散できて、セクハラ事件が少なくはなる」
「そういうもんですか？」
「それに、ああいうものを見ると、元気が出るというか、生きる張り合いが出てくるという、じいさんもいるしな」
「ほんと、見に来ているのは、おじいちゃんばかりで。おばあちゃんはひとりもいなかった。それに、澤田班長も、おもしろくなさそうな顔して。男って、ほんと、すけべぇーなんですね」
「まぁ、そうでもないだろぉうが」
「……？」
「あの班長だって、どんな気持ちで、あのアダルト・ビデオ、見ていたか、わかったもんじゃない！」
「そうなんですか？。澤田班長は、興味なさそうな顔、しておられましたけど。無理矢理、付き合わされているような…」
「あの女、そんな女じゃ、ないって！」
「……」
「あいつは、前の事務部長と、いい仲になって。しかし、その不倫がばれて、事務部長はクビ。しかし、なんでかわからんが、あいつだけは、このホームに残った。そして、また、今の事務部長にも、色目を使って。結局、あの女、上昇志向が強いっていうか」
「何です？、その上昇志向って？」
「つまりさ、班長から課長へ、課長から部長へと、出世がしたいのよ、あの女は。ったく、男みたいな性格、していやぁがるんだからさ」
「そんな、出世したからって、給料がちょっと上がるだけで…」
「そうだろぉ。なのに、人は、お金が欲しくて、そして、人の上に立って、いばりたがるんだよ。事務部長なんて言ったって、ホームから一歩外へ出れば、ただのおっさんじゃ、ないか。それなのに、あの女！」
　深尾先輩は、顔を落とし、それから、空を仰いでいた。
　その横顔が、ちょっと、さびしそうだった。
　深尾主任は、澤田班長のことを、『あの女！』と言った。
　いやしくも、上司なのに、そんなことを言っていいのだろうか、と僕は思っていた。

　ケータイが鳴っている。
『ウン、何時だ？』
見ると、１２：００を過ぎている。しかし、今日は、日曜日、ホームの仕事は休みなのだ。
「はい」
　僕は、目をこすりながら、それでも、ケータイに出た。
「篠塚、俺んちへ来てくれんか？」
　僕は、まだ、眠っていたかった。
「急用なんですか？」
「わるいが、急いで、来てくれや」
　なんか、深尾主任の声が、切羽詰っているようであった。
「じゃ、これから、チャリンコで、ホームへ向かいますから」
「ああ、俺は、ホームの玄関で待っている。それから、俺の車で、俺んちのマンションに来てくれよ、な」
「ウン？」
　僕は、ともかく、顔だけ洗って、チャリンコでホームに向かった。
　　　　　　　　　　
「おお、篠塚、すまんな。チャリンコは置いて、車に乗れよ」
　僕は、チャリンコを自転車置き場に置いてきて、深尾先輩の車に乗り込んだ。
「３時に、俺の部屋に、来客がある。それまでに部屋に帰っておかなくちゃ、な」
　深尾先輩が、車を飛ばしていた。
　僕は、深尾先輩のマンションに入った。
　なんか、安心したら、おなかが、グーッと鳴った。
「あれっ、篠塚、昼飯、食ってないのか？」
「はい」
「まぁ、何もないが、牛乳と食パンはあるぜ」
　僕は、トーストと牛乳をいただくことにした。
　トーストをかじりながら、聞く。
「ところで、先輩、今日は、なに？」
「ああ、今から、澤田班長が、ここに来るからさ。おまえ、あいつの正体を、よく見ておけよなぁ」
「えっ！」
　僕は、トーストが、咽喉に、引っかかってしまっていた。
「ピン　ポーン！」
　チャイムが鳴った。
「おい、篠塚、そこのクローゼットに隠れてろ。絶対、そこから、出るんじゃないぞ」
　僕は、澤田班長が苦手なのだ。急いで、クローゼットの中に、もぐり込んだ。

「あんた、何よ、わたしを、呼び出し、したりして」
　あっ、ほんとだ、澤田班長が来ている。僕は、クローゼットの中から、部屋を覗いているのだ。
「まぁ、そこに座れよ。茶店で話すようなことじゃ、ないからさ」
　澤田班長は、正座して、絨毯の上の座布団に座っている。深尾先輩は、椅子に腰掛けて。
　ふたりから、僕のところまでは、２メートルも離れていない。これじゃ、息もできないじゃないかと思ったら、部屋には、ＣＤラジカセから、軽音楽が流れていた。
「おまえ、このあいだ、事務部長と飲みに行ったらしいな」
「なに、それ？」
「コリアンの焼き肉屋にさ」
「それが、どうしたのよ」
「課長に、俺は聞いたんだ。おまえ、ワインを飲んで。それも、グタァーッとなるまでよ〜。女として、恥ずかしくないのかよ」
「なんで？」
「男というものはな、そんな、女のだらしない格好に、妙に、情欲をそそられるってことが、おまえには、わからんのか！」
「そんなぁー」
「酒を飲むのは、いいさ。しかし、酔っ払うまで、飲むんじゃないよ、おんながぁー。だらしない格好をしてさぁー。おとこのセクハラを、誘発してるもおんなじことよ。で、その夜は、部長に送ってもらったらしいじゃないか！」
「そうよ。帰る方向がおんなじだもの、タクシーで送ってもらったよ」
「それが、馬鹿というもんだ」
「あっ、あんた、焼いているんだ」
「馬鹿！。焼いているんじゃねぇ。腹が立っているだけよ」
「なんで？」
「おまえはなぁー、上昇志向が強すぎるのよ。なんで、そこまでして、部長に付き合うんだよ。おまえには、旦那もいるだろぉーが。あんなに、何度も飲み会に付き合うんじゃ、ねぇよ」
「そんなこと、わたしの勝手よ。旦那も、適当にやっているし…」
「フン、まったく、おまえんとこの家庭は、どうなってんだか！」
「で、なんで、わたしを呼び出したわけ？。やりたかった？」
「馬鹿。おまえに、説教したかっただけよ」
「わたしは、あんたに、やってもらいたくて、来たんだけど」
「俺は、おまえみたいな浮気で、だらしない女とやる気はないよ」

　澤田班長が、膝頭をつきながら、前に進んでいる。
　そして、なんと、深尾先輩の、ジーンズのベルトに手をかけているのだ。
　深尾先輩は、逃げない。股間にかかった、澤田先輩の手をどけようともしない。
　僕は、不思議だった。
　深尾先輩は、澤田班長が、ジーンズを脱がすのを、椅子の上の尻を浮かせて、協力しているようにも、思える。
「あんたね、わたし、そんな浮気な女じゃ、ないわよ。あの夜は、部長から無理矢理誘われて。課長も一緒だったんだからね」
「そんな、ぐだぐだの言い訳は、いいから、おまえ、ちゃんと、俺のものを舐めなよ」
　侮辱したような言い方なのに、澤田班長は、喜んでいるようで。
　澤田班長は、澤田純子になっているような…。
　深尾先輩は、椅子に座ったまま、背もたれに、背をあずけ、ふんぞり反っていて。
　その深尾先輩の股のところに、顔が来るように、純子さんは、膝をついて、中腰になっていて。
　純子さんは、深尾先輩のジーンズのチャックに手を掛け、チャックを下に降ろしていました。深尾先輩は、白いブリーフを穿いていて、そこがもっこりとしていて。僕のより、それは大きそうでした。
　純子さんが、ブリーフを下へ降ろしている。
　先輩のものは、すごい恥毛の草叢でした。そこから、もっこりと大きなモノが飛び出ていて。
　純子さんが、悩ましげな顔をして、深尾先輩の顔を下から、見上げていて。
　僕は、その悩ましげな顔つきに、何か、ちょっと、焼けるようでした。
　純子さんは、手で、深尾先輩のモノを揉んでいて。
　あっ、大きくなる。
　純子さん、大きな口をあけて、深尾先輩のモノをパックリと、半分くらいまで、口に入れ込んで。何か、純子さん、うれしそうに、まるで、女子高校生が、ソフトクリームでも舐めるように、しゃぶっているのです。
　そして、純子さんは、頭を後ろに引く。深尾先輩のモノが、モロに見える。何か、長そう。優に１８センチはあるような。そして、その口径は３８ミリもあるように、僕の目には、映っていて。
　僕のは、そんなに長くもなければ、太くもない。僕のは、１５センチを切るはずだった。太さは？、がしかし、そのとき、恥ずかしくなって、思わず、クローゼットの中で、僕は顔を伏せていた。
　しかし、何か、サワサワと、卑猥な音がする。
　深尾先輩の、長くて、太い、チ○ポの先を、純子さんは、舌の先で、舐めている。そして、雁首のところを、包皮が完全に剥れるほどに、じゅぼじゅぼと、口をすぼめて、吸っている。
　純子さんが、おしっこの出る、先輩の裂け目のところを、舌先で、チロチロと舐めると、先輩は、目をしっかり閉じ、うめきながら、腰を捩っている。
　でも、純子さんは、攻撃の手を休めずに。
　手を、アノ袋に添えて。そして、袋の底を指先でさすっている。そして、顔を落とすと、袋の玉のひとつを、口にくわえ、そして、口をはずすと、舌で、袋を舐めているんです。
　と、深尾先輩のモノが、天を仰いでいるのです。その天を仰いで、おなかにくっついている陰茎の裏側を、純子さんは、唇でなぞり、そして、口を開けて、舌を出し、チロチロと這わせているのです。
「ウッ、ええわ、純子、ええわ」
　深尾先輩が、目を瞑りながら、あごを上げるようにして、気持ちよさそうな声を発している。
　すると、深尾先輩が、椅子から床の絨毯の上に、ずり落ちた。
　膝頭を絨毯の上につき、中腰になって、手を、純子さんの股の間に差し入れている。
「ぉっおー、おまえ、けっこう、濡れてるなぁ〜」
　深尾先輩は、指の先を純子さんの中に入れ込んで、膣の中をいじくっているような。
「アン、いやいや」
「いやなのか、こんなに濡れてるのにぃ」
「ハンハン、いやいや」
　なんか、じゅぶしゅぶと、純子さんの膣の中の卑猥な音が、クローゼットの中の僕の耳元にまで届く。
「おい、純子、欲しいか？」
「いや〜ん、ばかばか、わかってる くせにぃー」
「何が、わかってるんだよ〜」
「あ〜ん、欲しい！」
「何が？」
「ア〜ン、あなたのものが…」
　純子さんは、下半身をくねらせていて。何とも、その肢体の動きが悩ましいのです。
『あんな動き、ロボットで可能なんだろうか？』
　と、クローゼットの中の僕は、考えていて。
　純子さんが、生唾を飲み込んだような。そのとき、僕も、生唾を飲んでいて。
「どうなんだ、あっあ〜ン、気持ちいいか〜？」
「アンアン、気持ちいい。欲しいよ、欲しいよ！」
「あぁあ〜。だがな、まだまだだ。ちょっと、そこに、寝るんだ」
　純子さんは、絨毯の上に、仰向けに、寝転がって。

　深尾先輩が、Ｔシャツを脱いで、純子さんの上着も取り、キュミソールも剥いでいて。
　そして、乱暴に、深尾先輩が、ブラジャーも剥ぎ取っている。
　深尾先輩は、純子さんの足を広げさせ、両膝を、純子さんの胸に押し付けるまで、押し付けている。
『なんで、先輩は、純子さんを、まるで、物でも扱うようにしているんだろう？』
　と、僕は不思議で。
　そして、先輩は、剥き出しになった自分の腰を、前に進めている。
　それに、なんで、純子さんは、物のように扱われながら、喜んでいるんだろうと、僕には不可解で。
　深尾先輩が、純子さんの上体に覆い被さっていき、乳房を揉み、乳首を口に含んでいる。
「アン、いっいー、欲しいわ」
「そうか、そうか」
　深尾先輩は、半身を起こし、純子さんの股に手をやって、クリトリスをぐりぐりと揉んでいるみたいだ。
「入れて、入れて！」
　深尾先輩は、純子さんの両足を折り曲げている。そして、その間に手を通して。そして、純子さんの上体に再び襲いかかり、二の腕を立てて。それから、片方の手を、折りたたんだ純子さんの足の間からはずし、自分の固いモノに、手を添えて、グッと、腰を差し込んでいる。
「アン、いいっー、もっと、もっと、奥までよ〜」
　深尾先輩が、ちょっと腰を上げ、純子さんのお尻の後ろに手をやって引き寄せ、自分の腰を、グサリッと押し込んだ。
「ハァッ、グゥーッ、イイーッ！」
　深尾先輩の、腰の上げ下げが大っきい。
　深尾先輩が、腰で上から突くたびに、純子さんは、身をよじらんばかりにして、よがっている。
「ハンハン、いいわ、もっと、もっと突いてぇぇー」
　純子さんは、髪を振り乱している。その顔は、とても悩ましそうで、あの昼間の、眉間に皺を寄せて、僕を怒るときの顔つきとは、まったく違っていた。
　純子さんは、胸の乳房の上にまで、汗を吹き出させている。そして、背中を持ち上げ、胸を反り返らせている。
　深尾先輩の腰のピッチが、速く、激しくなっていた。
「いくぞ、いくぞ、出る、出る、出るぅぅぅ」
　深尾先輩の上体が、逆「く」の字のように、後ろに反り返った。腕や肩の筋肉が震えている。
「アッ、アァ、アッ　アッアーッ！」
　純子さんの腰が持ち上がり、胸が押し上げられ、胸が反り返った、そして、上体を激しく左右に振り動かせていた。
　僕は、深い、ため息をついた。そして、がっくりと肩を落としていた…。

「おい、篠塚、起きろ！」
　目の前に、深尾先輩の顔があった。僕は、クローゼットの中から引き出されていた。僕は、失神していたのだろうか？。たぶん、クローゼットの中で、空気中の酸素が不足し、それで、頭の中を巡る、血中の酸素が少なくなって、気を失っていたのかもしれない…。
「澤田班長は？」
「もう、帰ったよ」
「ああ、そうなんですか」
「あいつにも、家庭というもんがあるからな」
「先輩、班長と肉体的関係が、あったんですか？」
「まぁ〜な。一年前くらいからかなぁ…。前の事務部長が辞めさせられてから、俺が、結局、あいつのセフレ（セックス・フレンド）になったということか」
「なんで、先輩は、このあいだ、３日も休んだんですか？」
「まぁ、あいつと、痴話げんかになって。やっぱり、俺たちは、からだだけの関係じゃ、なくなったかも、な。そんなつもりじゃ、なかったのに。単なるセフレと思っていたのに。だが、やはり、俺たちも生身の人間なんだろうか？。感情というものが、出てくるようになってしまった…」
　深尾先輩が、目を細めて、遠くを見つめていた。
『先輩は、セックスをするうちに、澤田班長のことが好きになってしまったのだろうか？』　
　と、僕は考えていた。
　そして、僕は、セックスをするのもいいが、こんな風に、感情がもつれ合うのは、いやだなぁ、と思っていた。