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　翌日、撮影のセッティングは東京都内の某ホテルにて行われていた。
「おはようございまーす」
　現場に到着した仁美が、監督やスタッフと挨拶を交わしながら入ってきた。
「おっ、仁美ちゃん、おはよう！　昨日はよく眠れたかい？」
　巨匠、黒田監督がタバコのふかせながら聞いてくる。
「はい。ぐっすり眠れました。監督は眠れましたか？」
　ニッコリと微笑み、逆に言い返してくる美女に黒田が年甲斐もなく照れて笑った。
「わっはっは、初めての濡れ場を前に熟睡できるなんて、やっぱり君は大物だな。今日から二日間はみっちりと濡れてもらうよ。君しか持たぬ、君自身のエロスをたっぷりと官能的に滲みだしてくれ」
『濡れてもらう』という言葉にやや顔を引き攣らせながらも、仁美は精一杯の明るい笑顔で返事をした。

「仁美ちゃん、頑張ってね。あなたにとって、この二日間が本当の勝負よ」
　高島が、前を向いたまま顔を寄せて囁く。
「う、うん……」
　室内にいるスタッフは約十名、空いたドアの向こうにも大勢のスタッフが待機している。
　仁美のメイクが別室ではじまった。
　ブラウンのショートヘアーにワックスをつけて光沢をだし、眉やアイシャドー、それにアイラインは、大人の色気を醸し出すために濃い色を使った。
　ふっくらとしたセクシーな唇は、真っ赤なルージュをひいたことでよりエロティックに変貌している。
　自分の顔を鏡で見ながら、仁美の緊張はピークに達しようとしていた。
　小さく震える仁美の肩。
　その肩に両手を添え、高島が懸命に励まし続ける。
「あまり気を張らないで。このシーンは演技しちゃ駄目。色んな概念を振り払い、素で快楽を感じるのよ。大丈夫、あなたならきっとやれるわ。自信をもって」
「う、うん。厭らしい……私は厭らしい女」
　仁美は、ブツブツと呟きながら自分の役作りに入った。

　ガチャ、―――

　時間前に突然ドアを開き、皆の視線が一斉にそこへ集まる。
「やあやあ、仁美ちゃん、おはよう。絡みの相手がこんなジジイで申し訳ないが、今日はひとつ宜しく頼むよ」
　突然の訪問者は、絡みの相手、津上幸太郎であった。
　エラの張った顎に大きな口がなんとも特徴的で、頭髪から髭まで、すべてが白に染まっている。この道四十年のベテラン俳優だ。
「ああ、これは津上さん。すみません、メイクが終わってからご挨拶に伺おうと思ってたんですが……」
　高島が深く頭を下げる。
「いやいや、そんなこと気にせんでもいいよ。それより、すごいね。君が濃厚な濡れ場に挑戦するっていうんで、ほとんどのメディアがこの映画を取り上げてるじゃない。ネットでの話題も君一色だよ」
「そ、そんな、恐縮です。あ、あの、わたし、一生懸命頑張りますので、今日はどうぞ宜しくお願い致します」
　高島同様、仁美も深く頭をさげた。
　胸のうちは、張り裂けそうなほどドキドキしていた。
「うんうん。私も経験だけは豊富だからな。君が演技しなくてもいいように、これまでに培ったものを全部出し切って頑張るよ。それじゃあ、後ほど」
　津上は、最後に舐めつくような視線を仁美の胸元に向け、豪快に笑いながら部屋を去っていった。
「ふう……」
　津上の貫禄と意味深な言葉が、仁美の身体をガチガチに硬直させていく。
「大丈夫、大丈夫よ、仁美ちゃん。なにも本当に抱かれるってわけじゃないんだから。ねっ。だけど、撮影がはじまったら抱かれる気持ちで望まないと駄目よ。わかった？」
　迫真の演技、いや、真の悦楽を期待する高島が強く念を押す。
「うん、わかってる。……本気で、本気でぶつかるわ」
　仁美は、艶めいた瞳にグッと力を込めて言った。

　ガヤガヤ、ガヤガヤ、―――

　本日の共演者は津上ひとり。
　仁美は、津上とともに立ち位置や進行のチェックを念入りに行った。
　リハーサルは一度もしなかった。
　緊迫感が失われるという津上の意見だった。
　一回目の撮影は、敵の罠にわざと嵌ったヒロインが、敵をあざむく為に自らの意思で肉体奉仕をするという設定で行われた。
　その内容は、まず仁美が男の前で服を脱ぎ、パンティ一枚の姿で男の足元に跪く。そして、スラックスとトランクスを脱がせた後、屈辱の口唇奉仕をはじめるというものだった。
　動き出すカメラが、スーツ姿の津上を背に、Tシャツにスリムジーンズ姿の仁美を正面から捉えた。
「それでは本番いきまーす！」
　野太い監督の声で、室内の空気が一気に張り詰めていく。
　仁美は、ヒロインの内情に溶け込もうと懸命だった。
　張り詰めた空気の粒子が、鋭い針となって肌を突き刺してくる。
　心の中で、何度も自分に活を入れた。
　一世を風靡した美女のヌードとあって、まわりにいるスタッフ達も緊張を隠せない。
　なかには、早くから咽を鳴らす輩もいる。
　監督の言葉を待ち、シーンと静まり返る室内。
　仁美の細い咽が小さく動いた。
「よーい、スタート！」
　ダミ声の合図で、津上が一歩前に出た。

「おい、服を脱げ」
「えっ？」
「服を脱げといったんだ」
「はい……」
　Tシャツの裾に手をかけ、それを軽やかに上半身から抜いていく。
　仁美に躊躇いはなかった。
　美しいラインの上半身がブラ一枚を残して露わになると、まわりのスタッフはもちろん、津上さえもハッと息を呑んだ。
「下も脱げ」
「はい……」
　仁美の眼が僅かに強張る。
　だが、乱れることなくボタンをはずし、ジッパーをさげ、肉感的な腰からゆっくりとジーンズをおろしていった。
　みっちりと張った流麗な太もも……腰に張り付いた小さな布が、スラリと伸びた美脚をさらに長く見せている。
「ふむ……次はブラジャーだ」
　大勢の眼に晒される中、仁美が静かに両手を後ろへまわす。

　パチン、―――

　ホックがはずれた。
　震える手で、ゆっくりと肩紐をはずしていく仁美。
　津上、監督、スタッフ、皆の眼がギラついていた。
「……どうした？　はやくブラを取れ」
「あっ……は、はい」
　ブラカップがずれないよう、片手でしっかりと支えながら、なんとか肩紐を抜いた。
　しかし、どうしても胸に押し当てた腕が離れようとしない。
「できないのか？」
　津上が、冷静な口調で煽った。
「あ、ああぁ……」
　おもわず顔を伏せる仁美。
「はい、カァット！！」
　監督が怒鳴るようにして撮影を止めた。
「どうしたの、仁美ちゃん。駄目？　脱げない？　このまま止めようか？」
　怒りを露わに監督が叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待ってください！　三分、三分だけ時間をください！　津上さん、すみません、少しの間だけ待っててもらえませんか？」
　飛び出してきた高島が、監督と津上に対して必死に頭を下げる。
「監督、ちょっと待ってあげようよ。彼女、はじめてなんだしさ、無理もないよ。それに、今回の絡みは稀にも見ない激しさだしね」
　高島の肩を軽く叩きながら、津上が優しくフォローした。
「んん〜、まあ、しょうがないなぁ〜。じゃあさ、仁美ちゃん、ちょっと気持ちの整理をしてきなよ」
「あ、ありがとうございます」
　高島は、涙ぐんでいる仁美の手を引き、急いで隣の部屋へ駆け込んだ。

「涙をこぼしちゃ駄目！　これくらいのことで負けないで！　あなたは国内だけでなく、そのうち海外へも羽ばたける逸材なのよ！　私を信じて！」
　涙をグッと堪える仁美に、高島自身が眼を潤ませながら懸命に励ます。
　高島は、仁美の芯の強さをよく分かっていた。
　だからこそ今回の映画出演を勧め、背中を押した。
　仁美もまた、両親に負けぬほどの愛を高島には感じている。
　二人で女優の道を切り開いていこう……涙ながらに語り合った日も多々あった。
「マネージャー、ごめんなさい。もう大丈夫。わたし、負けないわ」
「ひ、仁美ちゃん……」
　高島は、こぼれそうになる涙をグッと堪えながら仁美を抱きしめた。

　仁美は、固い決意を美貌に忍ばせ、津上らが待つ室内へと戻ってきた。
「監督、津上さん、それにスタッフの皆さん、ご迷惑をおかけしました」
　頭を下げる仁美に、笑顔でうなずく津上。
「もう大丈夫？」
　監督が尋ねる。
「はい、もう大丈夫です」
　仁美はキッパリと言い切った。
「さっきの絵は非常によかったからさ、続きはブラを外すところから始めるよ」
「はい」
　再び静まり返る室内。
　今度こそ長澤仁美のヌードが見られる……先ほど以上にギラついたスタッフらの眼が、一斉に仁美の肢体へ向けられる。
「はい、よおい！……スタート！！」
　監督が力強く叫んだ。

「次はブラジャーだ」
「はい……」
　迷いを失くした仁美の手が、パチッとブラのホックをはずす。
　肩紐がゆっくりとしなやかな腕をすり抜け、ブラを支えているのは仁美の片腕だけとなった。
　皆の眼が一様に血走る。
　その瞬間を、誰もが息を潜めて見守った。

　ポトッ、―――

　両腕をダラリとさげる仁美。
　瞬きする者は誰もいなかった。
　グラビア時代、青少年から中高年の男性をも魅了して止まなかった見事なバスト。
　それがいま、赤裸々にみんなの眼を魅了している。
　美しい……津上は、真剣にそう思った。
　釣鐘型に張りつめたバストは堂々とした量感を湛えており、先端にある小さめの乳輪と乳首は淡いピンク色でなんとも瑞々しい。
「ううむ、綺麗な乳房だ……」
　津上は、おもわず台本にない台詞を口走っていた。
　何人もの熱い視線がバストに注がれ、仁美の頬が徐々に赤みを帯びていく。
　モニターを食い入るように見つめていた監督も、まるで少女のような羞恥感を表す仁美に、グッと息を飲み込む。
「ふむ、こっちへこい。そして、俺の足元に跪け」
「はい……」
　仁美は、小さな歩幅で歩いた。
　官能的に揺れる美しい乳房。
　ふわっと膨らんだ乳椀が足を踏み出すたびに弾み、それは、まわりのスタッフだけでなく、仁美自身にもある変化を与えていた。
　多くの眼に覗き込まれる羞恥……身体は次第に熱を帯び、それが役に入り込んでいた仁美に淫らな感覚を増幅させていく。
　ピリピリと張りつめた室内で、ひとり淫猥な姿を晒すという辱め。
　揺れる乳房の振動だけで、仁美の性感は敏感に昂ぶっていた。

　男の前で、両足を開いてグッとしゃがみこむ仁美。
　スタッフの何人かが、首をひねって股間の膨らみを覗き込んでいる。
　国民的美女の卑猥なポーズは、色欲に湧いた男の劣情をおおいに煽り立てた。
「俺のズボンとパンツを脱がせろ。そして、しゃぶれ」
「は、はい……」
　カチャカチャと、仁美がぎこちない手つきでズボンのベルトをはずした。
　ストンッ、と簡単に落ちていく男のズボン。
　仁美の眼はブリーフに注がれた。
　中央をこんもりと盛り上げている男のブリーフ……仁美の手が微かに震える。
　仁美は、無意識に下唇を噛み締めていた。
（大丈夫よ、ちゃんと前貼りがつけてあるわ……）
　鼻で小さく溜息を漏らし、掴んだブリーフの端をゆっくりと毛深い脚へ滑らせていく。
「うっ、……」
　津上の男根は、前貼りの中からでもその大きさを強調していた。
（さあ、ここからだわ……ヒロくんのおちんちんを舐めているつもりで……）
　仁美は、両手で津上の太ももを優しく掴むと、スッと眼を閉じ、前貼りのすぐ近くにまで顔を寄せた。
　あたかもそこに勃起した男のペニスがあるかのように、頭を悩ましく前後に揺らす。
　ときおり舌を差し伸ばし、妄想の肉幹にネットリと絡みつかせていく。
　凄まじい仁美の演技力には、ベテランの津上といえ唸らずにはいられなかった。
　淫らな妄想と擬似行為が、自らの秘芯をもズンズンと疼かせていく。
（あああぁぁ……ヒロくん……ヒロくん……）
　昨夜のセックスを思い出したのか、秘芯の奥がトロリと淫靡な粘液を分泌させてきた。
（あ、イヤ、濡れてきちゃう……）
　恍惚とした表情で偽フェラを続けるなか、太ももの中央にある仁美の股間では、ピッチリと張ったパンティの生地に小さな蜜のシミができはじめていた。
「おお、上手いじゃないか……んっ、もうそろそろイキそうだよ」
　津上はアドリブをかませ、仁美の頭を両手で掴んだ。
　童顔に似合わぬグラマラスなボディ……意外に大きなヒップはムッチリと後ろに突き出され、小さなパンティの生地が透けるほど引き伸ばされている。
　仁美の痴態に、呼吸すら忘れて眼を凝らしている男たち。
　この時点で、すでに何人かの男は射精を余儀なくされていた。

「はい、カァット！！　オッケー、オッケー！　素晴らしい、素晴らしかったよ、仁美ちゃん！　グッド！！」
　部屋中に充満していた淫靡な空気が、陽気なダミ声によって一瞬のうちに消えていく。
　ふと我に返った仁美は、その場にペタンと腰を落とした。
（できた……ちゃんと出来たのね、わたし）
　ぼんやりしながら、何気に自身の秘部を見やる。
　そこには、ハッキリと恥ずかしいシミがついていた。