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「こちらを向きなさい」
「は、はい」
　津上に促され、痺悦感を胸に残しながら身体を横にして相対する。
「顔も身体も、本当に美しい……」
　皺だらけの掌で、紅潮した頬を乱暴に撫でまわす津上。
　親指が唇の上をなぞり、柔肉を厭らしく捲りながら落ちかけのルージュを口の端から引き伸ばしていく。
　津上の乱暴な手つきは、仁美の性感をさらに昂ぶらせた。
「お願い……はやく抱いて」
　虚ろな眼で甘く囁きながら、しなやかな腕を男の背中にまわしていく。
　還暦を越えた男の肌は、すっかり張りを失い、くたびれていた。
　身体を寄せ、男の背を柔らかく撫で擦る仁美。
　グニャリとした男の生温かなものが、ちょうど恥丘の部分に当たってきた。
　その存在に気付き、仁美はカァーッと頭に血が昇った。
「ふふっ、積極的な女だ」
　津上が初めて笑みをこぼした。
「まだ信用できませんか？」
　軟らかいペニスを恥丘に感じながら、仁美が妖艶な笑みをつくる。
「そうだな」
　津上は、仁美の髪に指を滑り込ませながら円やかな後頭部をグッと掴み、顔を引き寄せておいて唇を重ねた。
　乾ききった薄っぺらな唇で瑞々しい女の上唇を挟み、それを軽く持ち上げてはパッと離す。
　下唇も同じようにして弄んだ。
「舌を出しなさい」
「えっ？」
「舌を、おもいっきり突き出すんだ」
「は、はい」
　言われるとおり、仁美はしずしずと可愛らしい舌を差し出した。
「もっと出しなさい」
「んっ、んん」
　舌先を小さく震えさせながら、津上の前に限界まで伸ばしていく。
　仁美は、乳房を露出したとき以上の羞恥を感じていた。

　無色透明の粘膜を湛えた薄紅色の舌。
　白髭に隠れている口から、赤黒い舌が仁美の舌を狙ってヌルリと伸びてくる。
　津上は、自身の舌で仁美の舌裏をヌルヌルと愛撫しはじめた。

「お、おい、これって、なんだかアダルトビデオの撮影みたいだな……」
　高島の背後で、誰かが小声で呟いた。
　確かにその通りだった。
　しかし、キャストが津上と仁美だけにただならぬ重圧感がある。
　官能シーンと呼ぶにはあまりにも軽すぎた。
　演技派の津上はもちろんだが、飼い主に殺されたスナイパー（父）の復讐に燃えるヒロイン役を、仁美が実に上手く表現している。
　初めての露出に、初めての絡み。
　心中では、他人には計り知れぬ羞恥が渦を巻いて湧き立っているに違いない。
　そんな中で、嘘を見抜かれないよう本気で感じなければならぬというヒロインの心情を、仁美は細かい表情と仕草で天才的に演じきっていた。
（仁美ちゃん、ここはもう演技はいらないわ……本気で……本気で感じてちょうだい）
　高島は、メガネの奥にある流美な瞳にグッと力を込めた。

　チュル、チュ、チュ、―――

　津上が、わざと大きな音をたてて仁美の舌をしゃぶる。
「んっ、んん」
　津上の行為はなんともネチッこいものだった。
　ずっと舌を出しているため、口端から垂れそうになる唾液を吸い上げることもできない。
　仁美は、いったん口を離そうかと考えた。が、それはしなかった。
　唾液に濡れた自分の口元を想像してみると、これほど厭らしい表情はないと感じたのだ。
　シーツの中で、ずっと恥丘に当たっていた軟らかなものが少しずつ膨らみだしてくる。
　津上も欲情している……そう思った瞬間、卑しくも官能がムラムラと昂ぶった。
　津上が舌の根までをチュルッと吸い込みながら唇を重ねてくる。
　仁美は、自らも積極的に舌を差し込んで津上の口腔をまさぐった。

　チュ、チュプ、チュパ、チュ、―――

　二人のキスがいかに激しいかは、おうとつを繰り返す頬の動きを見れば一目瞭然だった。
　津上の手が、再び豊満なバストを嬲りはじめた。
「んっ、……んふぅ……」
　分厚い掌で下乳を掬いながら、親指を器用に使って乳首を揉み転がす。
　仁美は、鼻から悩ましい喘ぎを小さく漏らした。
「おい、俺のものを可愛がってくれ」
「……えっ？」
　仁美は、一瞬何を言われているのか分からなかった。
　だが、背にまわした腕を掴まれ、それをシーツの中の逸物に押し当てられたとき、何を強要されたのかが理解できた。
「ほら、どうした？　こいつを大きくしないとお前も困るだろう？」
「あっ……ゴクッ」
　毛深い太ももに手を当てたまま、仁美は悩んだ。
（ど、どうしよう……）
　互いの下半身はシーツに隠れている。先ほどのフェラと同じように擬似でもいいのだが……。
　間を恐れた仁美は、とりあえずペニスを扱いているような動きをつくってみた。
「おいおい、餓鬼じゃないんだから、もっと愛情を込めて厭らしくやってくれ」
　津上が方眉を極端に吊り上げて言う。
　眼底の垂れ下がった、津上ならではの独特な表情だ。
　白毛に年輪を刻んだ深い皺の顔つきは、どう見ても孫を可愛がりそうな優しい初老なのだが、津上が作る一つ一つの表情にはどこか鬼面が滲んでいる。
　それは、これまで多種多様の役にのめり込んできた津上だからこそ発することのできる気なのだろう。
　仁美は、ぽってりと赤く膨らんだ唇をうっすらと開いたまま、眼をクリッと丸くして津上を見つめた。
　そして、なんの躊躇いもなく剥き出しのペニスを握り締めた。

（さあ、いよいよ津上さんの本気が始まるわ……）
　二人の動向を食い入るように見つめていた高島が、メガネをズリ上げながら重い吐息を静かに吐き出す。
　仁美の絶頂は最高の絵になるだろう。だから津上は本気でやると言った。
　監督、津上、仁美、この三人の決意に高島も異存はなかった。
　しかし、どうしても払拭しきれない大きな不安がひとつある。
　それは、津上の理性だ。
　高島は、仁美の素晴らしい裸体を知っているだけに、津上の理性が崩壊することを恐れた。
　以前、冗談半分で仁美の乳房を揉んだことがある。
『きゃっ、やめてよ、マネージャー』
『仁美ちゃんのおっぱいって、すごくエッチな感触だわ』
　そのとき高島は、迂闊にも同姓の仁美に欲情してしまった。
　ツンと上向いた張りのある乳房。
　バランスよく膨らんだ二つの球体は、美乳という言葉では足りぬほどに美しい。
　どこまでも柔らかく、それでいて、艶かしい弾力性が魔性の如く隠された人間の劣情を煽り立ててくる。
　いくら津上が女遊びに長けているとはいえ、これほどの逸材を抱いた経験というのは、そんなにはないだろう。
（津上さん、あなたには最後までしっかりと演技してもらわなきゃ困るわ……）
　高島は、津上の自制心に心から祈った。

　津上は、上背をググッと曲げて乳房へ食らいついた。
「あっ……」
　しこった乳首を口に含み、すぐさま舌でコロコロと弄びはじめる。
　熟女の大きな乳房に慣れていた口が、滑らかな若い女の乳首に歓喜をあげ、いつも以上に唾液を分泌させながらこねくりまわす。
　シーツの中に潜り込ませた手は、仁美のクリンッと張り出したヒップをゆるゆると撫でまわしていた。
「ほう、意外に大きな尻だな……」
　乳首から口を離し、津上がボソッと呟く。
「んっ、……お、お尻の大きな娘は嫌いですか？」
　仁美が羞恥心を堪えて聞いた。
「いや、嬲りがいがある」
　ニヤッと笑う津上。
　その表情には、仁美が思わず鳥肌を立てたほど卑猥な情欲が浮かんでいた。
　乳首を強く吸い、尻朶をギュウッと掴んでは、それを上下左右に大きく揉みまわす。
　仁美の秘肉が、本人の知らぬ間にネットリと濡れていく。
　ヒップを撫でまわしていた津上の手が、異様な動きを見せてきた。
「あっ……あああぁぁ……」
　双臀の中央に走る、縦の深い亀裂……津上の手がそこへグイグイと食い込んでいく。
「あぁ……い、いやぁ……」
　ヒップの割れ目なんかに指を入れられたことのない仁美は、あまりにもおぞましい感覚に小さくかぶりを振った。
「おい、手が休んでるぞ」
「あっ、はい……」
　身体をくねらせながら、仁美が半勃起の肉幹をゴシゴシと扱く。
　津上は、胸元から顔を上げて再び仁美の唇を吸った。
「んっ、ん、んん」
　鼻で悲痛の呻きを漏らす仁美。
　深い谷間の底にたどり着いていた指の先端は、溝に沿って下へ這い降り、小さく窄まったアナルの上で変質的な動きを施してきた。
「んっ、んん……んふぅ」
　津上の指が、アナルの皺を押し伸ばしながら中心の壺口をトントンッと軽くノックする。
　仁美は狼狽した。
　そこは彼氏にも触れさせたことがない場所であった。
　おぞましい感触の不快な虫が、ぞわぞわとヒップから脊髄へ駆け上がってくる。
「んふうぅぅぅ……」
　身体がブルブルと震えた。
　堪らず津上の口を引き離し、演技に支障がでないよう津上の耳を甘く噛みながら、『そこはやめてください』と小声で懇願した。
　津上が厭らしく笑った。
「んっ、そうか。お尻より、こっちを弄ってほしいのか？」
　マイクが拾える大きさでわざと言い、なおもアナルを軽く揉みこんでから指を移動させていく。

　ヌルッ―――

「んっはぁ……」
　アナルから這い降りてきた津上の指は、躊躇いもなく深々と秘裂をえぐってきた。
「あっ、……あぁ……」
　仁美の喘ぎが、見つめる者の情欲をひどく昂ぶらせる。
　演技ではなかった。
　太い中指の腹が、膣内のザラザラを磨きあげるように擦るたび、肉体が淫熱の焔に灼かれていく。
　津上は、無理な体勢にもかかわらず器用に身体を捻って膣内を掻き回した。
「ハア、ハア、……あ、ああぁ……」
　耳元で、仁美がゾクッとするような甘い声を発する。
　若さをじゅうぶんに湛えた声は、内側のエロスを幻想的に含ませながら鼓膜の粘膜へと張り付いてきた。
「ふふ、君はずいぶんと厭らしい女なんだな」
　言いながら、津上自身も酷く興奮していた。
　ほんの僅かだが、呼吸が乱れはじめている。
　半勃起だったペニスは、いまや仁美のしなやかな手の中で完全なる屹立を果たしていた。
「ううん……うむ、ちょっと待ちなさい」
　秘裂から指を抜き、恍惚とした仁美を仰向けの体勢をとらせる。
　津上は、体を入れ替えた。
　仁美の右側に移動し、横向きの姿勢で陰部をまさぐりはじめた。
「あああっ……」
　肉体の成熟ぶりが伺える陰毛をザラザラと手のひらで撫で、そのまま下に滑らせながらクリトリスに軽いタッチを与える。
「あっ、あはああぁぁ……」
　仁美は、細い顎をいっぱいに突きあげて鳴いた。
　眉間に刻まれた深い皺は、もう痕が残るくらいまで維持されている。
　津上の指がクリトリスに触れた瞬間から、仁美の肉体はエクスタシーの絶頂に達していた。

　クチャ、ヌチャ、チャ、クチャ、―――

「お、おい、……前張り、してないんじゃないか？」
「ゴクッ、……あれって、本当に互いの性器を弄りあってるぞ」
　通路側で釘付けとなっているスタッフらが、ボソボソと囁きはじめる。
　皆が不審に思うのも無理はない。
　開いた両脚の付け根部分で激しく動きまわる津上の手。
　そそり起った男根は、仁美自らが右手を伸ばして扱いている。
　互いの性器はビッショリと喜悦の淫蜜で濡れており、シーツの中から聞こえてくる淫音は、もはや通路のほうまで生々しく響いていた。

　高層ホテルの一室で行われている、空前絶後の撮影シーン。
　まわりにいる誰もが驚愕の光景に眼を見張っている。
　清楚で国民的美女のイメージが強かった長澤仁美。
　その彼女がいま、皆の前で流麗な裸身を露わにし、男の粘っこい愛撫に本気で悶えている。
　シーツを揺らし、ベッドをけたたましく軋ませながら、津上の手がどんどんスピードを上げていく。
「あ、あぁ……あっ、……ん、んくっ、……うっ、んあっ！」
　優美な仁美の裸体が一際大きく跳ね上がった。
　背中を仰け反らせ、開いた唇が震えながら悦楽の悲鳴を上げる。
　いったん美乳を天に突き出し、それからゆっくりとベッドに沈んでいく。
　津上がシーツから手を抜いた。
　そして、ヌラヌラに濡れた二本の指を仁美に見せつけてから、スッと唇へ押し当てた。

「お、おい、あれって……」
「あ、ああ。イッたんだよ……彼女」
　監督らに聞こえぬよう、小さな声で囁きあうスタッフ達。
　そんな時、誰かが通路側にいたスタッフの肩を叩いた。
「撮影は順調に進んでる？」
「えっ、……あっ、い、岩……！？」
「シッ！　撮影中だろ？」
　男は、声を上げそうになったスタッフの口を咄嗟に手で押さえ、二カッと笑った。
　レイバンのサングラスに白のTシャツ、ジーンズ……不意に現れたこの男は、なんと、共演者の岩瀬晃だった。