�H

　熟練した津上のテクニックにより、奥深い所に潜んでいた高島の淫心が少しずつ表へと引っ張り出されていく。高島自身、これほど色んな感情が交差するなんて今までに一度たりとも経験がなかった。
　またそれらが不気味に重なり合い、これまでになかった何か新しい感情が自分のなかで誕生したかのようでもある。
　身体は熱いのに、ときおり背筋を伝う冷たい汗―――悪寒とは違う感覚。
　心の奥底にひどい怯えに似たものがある。だがそれは恐怖が織り成しているものではない。どちらかというと、武者震いに近い感覚だ。
　もしかすると、心が悦楽を求めて先走っているのではないか……高島は、自分の胸奥に湧き立つものが劣情であることを認識した。
「おおっ、まだ始めたばかりなのに、ずいぶんと濡らしてくるじゃないか。もしかして欲求不満だったんじゃないのか？」
「うむ……ん、んふぅ」
　けっして淫らに振り乱すような動作などしない高島だが、本人がどれほど情欲の焔を燃やしているかは、口に突っ込まれた指への粘っこい愛撫がその心情をありありと物語っていた。
　蠢く舌が指の表面にたっぷりと唾液を塗り、その唾液を擦り取りながらニュルニュルと指に絡み付く。遠慮がちだが、頭を動かしながら軽いピストン運動もおこなう。屈辱的な奉仕にもどこか恍惚とした表情の高島に、津上は大物俳優らしからぬ野卑な顔でニヤついた。
「どれ、君にとって忘れられない夜にしてやろう」
　眼を細めながら色づいた美貌を見やり、挿入した二本の指で膣の中をクルクルと円を描くようにしてかき回す。ピチャピチャという淫らな音が室内に響くと、高島の頬がポッと朱色に染まった。
　高島の反応は非常に分かりやすかった。
「んくっ……」
「おっ、お前のツボはここか！」
　高島の双瞼が悲痛に歪んだ瞬間、陰唇をかき回していた指がピタリとその動きを止める。
　膣口から深さ四〜五センチあたりの恥骨裏。津上は、ややザラついた秘肉の濡れ壁をゴシゴシと指の腹で擦りはじめた。
「うっ……んむむ」
　強く押し揉んでやると秘肉全体からトロトロと卑猥な液体が溢れ出してき、指を咥えたふくよかな唇は切な気にわななく。そのうち、口腔にある二本の指もクネクネと厭らしく動きだした。
　しっとりと濡れた口腔の感触を確かめながら、舌の柔らかさ、その裏の筋、歯の裏や歯茎にまで指の先が這っていく。高島自身も、マニアックな指の動きに積極的な態度で舌を絡ませてやった。
　ほんのわずかでもいい、少しでも主導権を握っておきたかった。
「ふははっ、お前の舌は本当にスケベだな。男の淫心をしっかりと知り抜いておる。だが、いまはちょっと鬱陶しいなぁ」
　そう言ってから、津上は口唇から指を引いた。
　目の前で、根元までヌラついた唾液まみれの指がテカテカと蛍光灯の光を反射させている。高島の思惑はあっさりと崩れた。
「んっ、んはぁ……」
　片方の津上の手は、休むことなく狙いつけた膣肉箇所を摩擦し続けていた。
　形の良い細眉を歪めながら、口の中に溜まった唾液をゴクリと咽を鳴らして飲み込む高島。身体中の性感が熱く疼きながらじんわりと開いていく……肉体はすっかり火照りあがっていた。
「先ほどのように舌を突き出せ」
「んんっ……は、はい」
　また口唇を嬲られるのかと思い、高島が眼を伏せたまましずしずと舌を差し伸ばす。
「んあっ！」
　ギュッと舌根をつかまれ、高島は驚いて眼を見開いた。
「んふふ、お前の舌は淫らすぎる。こうやって、しばらく拘束しておこう」
　滑り止め用にと、津上はタオルを舌にあててから指で摘んだ。
「んっ、あ、ああぁぁ……」
　舌を引っ張り出されると同時に透明の液体が唇のふくらみに伝い、それがなんとも厭らしい感じで細い顎に垂れ落ちていく。予想すらつかない津上の行為に、高島はくぐもった声で呻いた。

　クチャ、グチャ、ヌチャ、ヌチョ、―――

「なんてスケベな身体だ。厭らしい汁がどんどん溢れ出てくるぞ。それに、俺の指をずいぶんと締め付けてきやがる。ふははは！　いいぞ！　今夜はお前の本性をすべて余さず見せてもらおう」
　津上が愉快そうに笑い、指の動きを早めていく。膣壁の、あるピンポイントのみを苛めている指先も、徐々にその力を増しながら摩擦の度合いを高めた。
「あっ……あう、……んっ、あうぅ」
　美唇からこぼれてくる喘ぎは、さらに濃厚なものへと変わった。
　津上の指はなんとも逞しく、これまで寝てきた男達とは比べようもないくらいに力強かった。そして手練だった。
「ほれ、こっちを見ろ！　お前の厭らしい汁がビチャビチャと飛び散りだしてきたぞ」
　野卑に言いながら、津上がグイッと舌根を引っ張る。高島の顔が強制的に前へ突き出された。
「うっ、んあぁぁ……」
　水しぶきの音は高島の耳にもハッキリと聞こえていた。とても信じられなかった。
　いわゆる潮噴きというものは、アダルトビデオ業界が作り出した売り物ジャンルの一つだとばかり思っていた。まさかそのような現象が実際に起こり、しかも自分自身がそれを体験するなど、実際にその眼で見てもすぐには信じることが出来ないでいた。

「ああぁ……あ、あ、ああぁぁ……」
　掴まれた舌が上に下に、右に左へと引っ張りまわされる。そのつど、口から漏れてくる唾液がダラダラと流れ落ち、透明の糸が二本、三本と増えていく。
「どうだ！　ぼちぼちイキそうなんじゃないかね」
　フッ、フッ、と鼻息を荒くしながら、津上が熟練の動きでGスポットを責め上げる。指先は膀胱の変化を捉えていた。
「あ、ああ、あうううぅ―――」
　わずかに膨らんできた膀胱を、津上の指がスピーディーな動きで刺激していく。高島は、喉から迸る声を必死に堪えた。わずかに残っている理性がそうさせた。しかし、秘芯を起点にドッと押し寄せてくる峻烈な愉悦が肉体をビクン、ビクン、と震わせ、堪えきれない喘ぎは濃厚な吐息となって切なく美唇から漏れた。
「遠慮せんでいい！　ほら、イキなさい！　全身に力を込め、思いっきりイクんだ！」
　痺悦感に喘ぐ高島をジッと睨み、津上がラストスパートをかける。
「アンッ」
　思わず甘い声が漏れた。
　膣壁に鋭いバイブを送り続けられ、股間を中心に身体全体が不気味な焔に包み込まれていく。自分の身体がここまで熱く燃え疼くことに、高島は虚ろな思考の中で驚いた。

　クチャ、グチョ、グチャ、ヌチャ、―――

　強制的に開かされた長い下肢は、いまや自分の意思で堂々と大きく開いている。自身の腰が津上の動きに合わせ、僅かにグラインドしているのを高島は気付いていなかった。
　何かが下のほうから押し寄せてくる……認識している絶頂感とはまるで違う別の感覚……どこか焦れったさのあるムズ痒い快美感……その感覚が次第に愉悦を増長させながら大きくなっていく。高島は、わなわなと唇を震わせながらグッと股間に力を込めた。
「イケ！　ほれ！　イケッ！」
　熱く燃え上がった秘肉のツボをグリグリグリッと津上の指が押さえつけた。そして、なおも擦り続けた。
「アッ、アア、アウッ、ウアアアッ―――」
　高島が似合わぬ声で叫び、全身をひどく痙攣させた。膨張していた愉悦の塊が一気に下肢のほうでスパークしたのだ。

　ビシャアアアアッ―――

　秘裂から噴出してくるおびただしい淫水は、もうそれが尿なのか何なのか判断がつかないほどであった。

　テーブルから長い美脚をダラリと下ろし、上半身をゆっくりとテーブル上に落としていく高島。
　胸元の双乳は荒い呼吸で大きく膨らみ、絹のように滑らかな白肌にはうっすらと汗が滲んでいる。まさかいきなり前戯でイかされるとは思ってもいなかった。不意をつかれた身体がひどい虚脱感に見舞われていく。
「おいおい、ど〜した？　寝るにはまだ早すぎるぞ」
　萎えた高島の身体へ、津上がヌーッと両手を伸ばしてきた。
「あっはぁ！」
　高島のしなやかなボディが、ビクンッと派手な動きで跳ねた。伸びてきた津上の両手が、わずかに横へ広がった乳房を外側から厭らしく握り締めてきたのだ。
「ふっふっふ、乳首もいい感じにしこっておる」
　ゴツゴツした手が乳椀をギュウッと絞り上げると、尖端にある乳首がさらに強度を増していく。乳椀をしゃくり上げる両手の親指が、ススッと下乳から這い上がってきた。そして、その平べったい腹の部分がぐりぐりと乳首を弄くる。
「ああっ―――」
　高島が陶然とした表情で派手に身体を震わせた。
　先の愛撫で肉体の性感は恐ろしいほど剥き出しにされている。乳首にいたっては空気の粒子すら敏感に捉えてしまうほどだ。
　乳椀からじわじわと押し寄せてくる鈍い波、そして、乳首からは鋭敏な感覚でビリビリッとした電流が突き抜け、それらが脳へ達した瞬間に甘美な響きとなって全身へと燃え拡がっていく。このとき高島は、自分が女であることをまざまざと思い知らされた。
「どれどれ、次は俺をよがらせてもらおうか。ほら、こっちへ来て跪け」
「うはぁっ！」
　津上の太い指が尖った乳首をギュッと摘んだ。そして、それを容赦なく手前に引っぱり上げた。高島は堪らず津上に従って上体を起こした。
　乳首を摘んだまま再びソファーへ腰をおろした津上に、高島が引っ張られるようにして津上の上へ倒れ込む。津上はかまわずソファーの背に深くもたれ、乳首を解放してやってからスッと優美な脇の下へと腕をすりこませた。
「あっ―――」
　老いた両腕が華奢な背中で交差し、高島の裸身をきつく抱きしめる。高島は必然的に津上の胸へ顔を埋める形となった。そこからは、頭の中がクラクラするような、あまり好きではない濃い香水の匂いが鼻腔をついてきた。しかしそれが、昂ぶっていく肉体の興奮度を助長しているようにも感じる。
「おい、奴隷、顔をあげろ」
「……はい」
　津上の言葉に、高島はゆっくりと顔をあげた。
「ほう、すっかりと高慢ちきさが消えている。お前でもこんな可愛らしい表情ができるんだな」
　威厳ある切れ長の瞳にはうっすらと潤みが生じ、色っぽい美唇はわずかに震えている。白かった肌色も、上気しているせいで全体がほんのりと赤みを帯びてきたようだ。津上はグイッと胸に抱いている裸身をずり上げた。
「今晩だけと言わず、いっそのこと俺の愛人にならんかね？」
　深い皺を何本も刻んだ津上の顔が、にっこりと笑みながら冗談ともとれる口調で言う。
「そ、それはお許しください……すみません」
　少し引き攣った顔で、高島は言葉を返した。
「ふむ、そうか……仕方ない。それじゃあ、今晩は存分に楽しませてもらおう。お前もちゃんと奴隷としての自覚をもって接するんだぞ。わかったな？」
「はい、かしこまりました。ご主人様」
　なんと妖艶な表情か……長い睫毛に縁取られた黒目が妖しいまでに深い色を放っている。津上は無意識のうちに目の前の熟れた唇にむしゃぶりついていた。

「舌を突き出せ。おもいっきりだ」
　津上が小声で言うと、高島は素直に舌を差し出した。
（ああ……早く、早く終わってほしい……）
　差し出した舌をチュバチュバとしゃぶられながら、高島は強くそう願った。このまま続けられると、自分のあさましさが次々に掘り出されそうで恐かった。

　チュバ、チュパ、チュプ、チュパ―――

　津上は、伸ばされた細長い桃色の舌を口いっぱいに含みながら、しつこく丹念に嬲った。
　チュルチュルッと舌全体を吸い込んでは吐き出し、また吸っては吐き出す。まるでフェラチオでも行なうかのように、何度もその行為を繰り返していく。ときおり舌の裏へもネチッこく舌先を滑らせ、その舌根の筋を伝いながら歯の裏や歯茎といったところまで丁寧に舐め取っていった。
「んっ、んはぁ……」
「ふふ、俺は女の唾液が大好きだ。どういうわけか、とても甘い味がするんだよなぁ。特にお前の唾液は甘い。それにエロい。どうだ、もっと唾液を飲ませてくれんか？」
　舌の粘膜を残さず吸い尽くしておきながら、津上は好色満面の顔で言った。
「ど、どうすればよろしいんですか？」
「俺の口の中にたっぷりと唾を垂らしてくれればいいんだよ」
　尋常ではない行為をさらりと言い、津上が口を大きく開ける。
「ちょ、ちょっと、それは……」
　この要求にはさすがの高島も抵抗があった。人の口腔に唾を垂らすなど……しかも相手は大物俳優の津上幸太郎なのだ。
「焦らすな。いいから早く垂らせ」
「うくっ……」
　クマのある皺だらけの眼に冷たく睨まれ、観念したかのように恐る恐る津上の顔を見下ろす高島。津上は再び口を大きく開けて待っていた。その奥のほうでギラギラと光っている威圧的の金歯。高島の背筋にブルブルッと悪寒が走った。
「いいか、たっぷりと垂らすんだぞ。もし遠慮などしたら、嫌というほど口の中をしゃぶり倒してやる」
「……わ、わかりました」
　高島は、口腔の隅々に舌先を滑らせて、できるだけ多くの唾液を集めた。そして、口腔内の粘膜をすべてこそげ取ると、それをいったん舌の上に集めてから津上の口に狙いを定めていった。

　物静かに唇をすぼめ、慎重に唾液の塊を落としていく。
　気泡にまみれた唾液の塊は、最初はゆっくりとしたスピードで、途中から勢いを増して津上の口腔へと落ちた。
　津上は、それをいったん舌の上でこねてからゴクリと咽を鳴らし飲み込んだ。
　ネットリとした淡白な粘膜液……しかし、それは、津上にとってあまりにも甘美なものだった。その唾液には高島の内部臭みたいなものが全て含まれているように感じてならなかった。
　どうして女の分泌物はこうまで美味いのか。おもわず首を傾げそうになったが、すぐにやめた。そんなことはどうでもよかった。とにかく今夜はこのエリートマネージャーの分泌臭や分泌物の味を存分に愉しめればそれでいい。高貴な高島の唾液に、淫情はさらに高まった。
「おお、いかんいかん、尺八させることをすっかり忘れていた。それじゃあ、そこへ跪いてもらおうか。そうしたら、ガウンの中に手を突っ込んで俺のものをマッサージしなさい。うんと悩ましくやるんだぞ」
　そう言ってからガバッと足を開き、腰を少しだけ前へ突き出すと、津上は上体を深々とソファーに倒した。
「し、失礼します……」
　津上の態度はなんとも高慢だった。だが高島は、怪訝な色など微塵にも見せずにススッと両足のあいだに進み寄った。屈辱感より、ようやく本題に取り掛かれると、安堵の気持ちさえ湧いていた。

　ピーンと横に張ったガウンの下から手を差し込み、生地の合わせ部分を裂きながらゆっくりと腕を上へ移動させていく。
「あっ……」
　しなやかな指の先端に、何かグニャッとした柔らかいものが当たった。
「おいおい、そこは金玉だ。もっと大事に優しく扱ってくれよ。いいか、そこも竿も尻の穴も、うんと厭らしく愛撫するんだぞ」
「は、はい、わかりました」
「はい、かしこまりました。ご主人様。だろ？」
「も、申し訳ありません。ご、ご主人様」
「ふむふむ、いい響きだ。さあ、続けてくれ」
「はい。ご主人様」
　高島は完全に開き直った。今夜は奴隷という役を精一杯演じきろうと思った。

　離れた指が再び睾丸に触れた。
　中指、薬指、人差し指……三本の指先が陰毛を掻き分けながら優しく皺くちゃの皮膚を撫でていく。そこへ親指と小指を加え、高島は柔らかく睾丸を揉んでやった。
「おっ、おっ、いい感じだ。尻のほうも頼む」
　言われるままに指先を滑らせ、睾丸から蟻の門渡り、そして、密着した尻肉を裂きながら指を食い込ませ、肛門をも優しくマッサージしてやる。津上が興奮しながら片尻を上げてきた。

（ふう、今夜は長くなりそうね……）

　やわやわと優しくマッサージしながら、躊躇いなくガウンの裾をめくりあげる。津上の股間には下着などついていなかった。
　肉棒はすでに筋肉の鎧を身にまとい、ギンギンにいきり立っている。ぶよっとした下腹部からはとても想像しがたい逞しさだ。それほど長さはないが、異様に幅がある。特に亀頭部分のエラは大きかった。
「ご主人様、しゃぶらせて頂いてもよろしいでしょうか？」
「ふむ、よかろう」
　高島はそっと左手の掌で肉幹を包み、軽く上下に扱いてからゆっくりと唇を被せていった。