27

　数日後、訪ねてきた澤田は一枚のディスクを差し出した。
「このディスクにはこの前の旅行での種付けが記録されている…お前がどうしてもアメリカの野々村の所へ行くって言うなら、これをアイツに送りつけてやるからな」
「そ、そんな…私は野々村の妻です…あの人と一緒に…」
「勝手にしろ…このディスクを見たヤツの目の前で同じコトを言えばいいさ…」
　加奈子は悲しげな眼差しを澤田に向けることしかできなかった。澤田といえども加奈子の気持ちがわからないこともなかった。だが加奈子の気持ちを考えていたら加奈子を抱くことさえできないのだ。
「それに俺の子供を孕んでるかも知れんのにどうして野々村と暮らせるんだ…？」
「……」
　何もいえない加奈子。脅しではなく澤田ならやるだろう…今の加奈子に夫と娘を失うことは死にも等しい事だ。
「……でも何と言って日本に残るって言ったら…」
「くくく…俺の新しい会社で働くとでも言えばいいんだ…何だったら全部話して俺の愛人として暮らすか？」
　加奈子はもう自分が後戻りの出来るところにいないことを実感するのだった。

　買い物の帰りに加奈子は薬局の前で足を止めた。そっとお腹に手を当てると薬局に入り妊娠検査薬を手にした。
　旅行からすでに二ヶ月近くが経とうとしていたが予定日をすぎても生理が来ないのだ。
　マンションに戻り、妊娠検査薬を手にトイレに入った。しばらくして出てきた加奈子の表情は暗く、顔は血の気が引いていた。
（とうとう望まれない生命を宿してしまった…）
　検査薬の判定窓には陽性を示す『＋』のマークが記されていた。
（でも…まだ澤田さんの子供と決まったわけじゃ…）
　心の中で否定しようとしても澤田に種付けされた事実は変わらない。

「今度帰って来た時野々村とゴム無しでヤるんだ…」
　旅行の少し前、澤田は突然加奈子に言った。
「え？どうしてですか？」
　加奈子は怪訝そうな顔をして澤田に聞いた。今まではあれだけ夫の祐平とする時はコンドームをつけるように言っていたのに今になってどうして…と加奈子は思った。
「嫁を寝取られた野々村への情けだ…いいな…ゴムはどこに閉まったかわからないとでも言って誤魔化しておけ…生でヤってもいいが膣内で射精させるんじゃないぞ…」
　加奈子は夫とのセックスでいつもコンドーム着用を強要していたわけではなかった。澤田に命令され、一度避妊のためとコンドームをつけてのセックスをしたが、その後加奈子が罪悪感からコンドームの着用を促すことが出来なかったが、祐平が自らコンドームを着用するようになった。それは妻の意見を尊重する祐平の優しさだった。
「あ、あれ…ここにしまったハズなんだけど…」
　加奈子が出来るだけ不自然にならないように芝居をするがどうしても芝居がかってしまう。
「しかたないな…明日買ってくればいいよ」
　加奈子を疑いもしない祐平は簡単に信じてしまう。
「う、ううん…あなた…きて…」
　澤田の命令どおり夫とコンドーム無しのセックスをしたが、子供を作る意思の無い祐平は膣外に射精した。この時夫の精液を胎内奥深く受けていたならともかく情況からすると奇跡でも起こらない限りお腹の子供は澤田の子供だろう。今思えばこれが澤田の種付けのアリバイ工作だったのだろうと気付く。

「ママただいまぁ…」
　検査薬をテーブルの上に置きボーっとしていた加奈子はまなみの声に我に返り、検査薬を慌てて隠した。
「お…お帰りなさい…ご飯すぐ作るわね…」
「今日はいい…由紀ちゃんとこ寄ってから塾行くから…」
　まなみはいそいそと塾に行く用意をしている。
「じゃ、いってきま〜す」
　まなみが出て行くと再び静寂が訪れる。その静寂が加奈子にかかるプレッシャー増加させた。
（あなた…私、どうすればいいの？助けて…）
　加奈子は祐平にすべてを打ち明ける勇気はなかった。すべてを告げれば夫婦関係は破綻する。しかし、このまま夫に偽って生きていくのも辛かった。

　翌日、加奈子は化粧もしないで外出する。向かったのは産婦人科だった。
　待合室にはお腹の大きな女性が何人かいる。ふとまなみを授かった時のことを思い起こした。あの時は幸せに包まれていた。これが夫との子供だったら…
　診察室に通された加奈子を医師が迎える。
「今日はどうされました？」
「あ、その生理が遅れてまして…それで…」
「とりあえず診察してみましょう…」

　色々な検査を終え再び医師と向き合う加奈子。
「え、と…妊娠なさってますね…六週目です…」
「そうですか…」
「またご主人とよく相談なさってからお越しください…」
　医師は加奈子の暗い表情からなにか事情があるのを悟り、加奈子を気遣った。

　診察を受けてから二週間、加奈子は妊娠を夫にはもちろん澤田にも告げられずにいた。この日はまなみが塾でいないため澤田は亭主気取りでリビングのソファに座っている。
「妊娠したか？」
「え…？」
　澤田の妻のように台所に立ち、ビールのつまみを作っていた加奈子は突然、尋ねられドキっとした。
「え…それは…」
「わかっているんだぞ…生理も遅れているじゃないか…」
「……に、二週間ほど前に診ていただいたら…」
　いずれかは話さなければならないと覚悟を決めた。
「ははは…そうか、とうとう俺の子を孕んだか…」
「ま、まだ澤田さんの子供と決まったわけじゃ…」
「何言ってるんだ、旅行の時これで散々突きまくられてたっぷり種付けしたろうが…」
　澤田は加奈子の傍に寄るとチャックを下ろし、ペニスを引っ張り出し加奈子の手に握らせる。それはすでに熱く、硬くなっており澤田の興奮が窺い知れる。
「いや…やめてください…もうすぐまなみが帰ってきます…」
「ならさっさと済ませないとな！」
　澤田は加奈子をソファに押し倒すとスカートを捲り上げた。透き通るような白さの太ももが露になり、股間を覆っている純白のパンティを毟り取った。
「いや…だめです…ああ…」
「なにがいやか…こんなに濡らしてるじゃないか…」
　澤田は愛液でぐっしょりと濡れたパンティを見せ、愛液を溢れ出させている膣口にペニスを擦りつけ一気に挿入してきた。
「あッら、乱暴にすると赤ちゃんがっ！」
　子宮を突き上げられ快感を覚えながらもお腹の子供を庇う。
「懐妊祝いだ、今日くらいは派手に突きまくってやるぞ…」

　まなみが帰って来た時加奈子はシャワーを浴びていた。つい十分ほど前まで澤田と抱き合っていた。
　まなみも自分の母親が他人と抱き合っていたとは夢にも思わないだろう。
「おかえり…帰っていたの…すぐにご飯用意するわね…」
　濡れ髪をバスタオルで拭いながら話す加奈子は妖艶なオーラを発していた。。
「ママどうしたの？最近元気ないよ…」
「ううん…大丈夫よ…」
　髪を拭っていたバスタオルでロングヘアをアップにまとめるとキッチンに向かいまなみの夕食を作った。
「おいし？」
　料理を運ぶまなみを見ながら、加奈子は自分が夫だけでなく娘までも不幸にしてしまうかもしれないことを思うと涙が出そうになった。

　翌日、洗濯物を済ませソファに腰を下ろし一息つくとお腹の子供の事が頭を過ぎる。
　これまでつわりらしい症状もなく妊娠の自覚はないのにお腹の中に宿った子供は確実に成長している。
　加奈子は知らぬ間にソファで寝ていた。外は夕闇が迫り、部屋の中は暗かった。ベランダに出ると冷たくなった洗濯物を取り込み、夕飯の支度をする。
　学校から戻ってきたまなみが夕飯を食べ塾に出かけると、再び加奈子は一人になる。
　まなみに妊娠のことを打ち明けるべきか悩み、今日こそはと思うが告げられずにいた。
　インターフォンがなり、澤田が訪ねてくる。まなみが塾に出かけたのを見計らってくるのだ。
　澤田は入ってくるなり熱いキスを加奈子にし、加奈子も抵抗するでもなくされるがまま受け止める。
「まなみちゃんには妊娠のこと言ったのか？」
　ねっとりとしたキスを終え口唇を離すと澤田が聞いた。
「そんな…言えるわけない…」
「何が言えないんだ…いずれ野々村にも言わなきゃいけないんだぞ…」
「言えない…」
「勘違いしてるようだな…腹の子は野々村のガキとして産めばいいんだ…まだ野々村のガキとでも言いたそうな顔だな…なら尚更、野々村に伝えないとな…」
「………」
　澤田は言いながら加奈子のブラウスの前をはだけていく。そしてブラを上にずらすと白い乳房がぶるんと揺れこぼれる。
「言われてみれば乳首が黒くなってきているな…俺の子供を孕んだという証拠だ」
「…あ…」
　妊娠のため敏感になった乳首は勃起し、澤田がピアスを動かすだけで甘い疼きが走る。
　加奈子の股間に手をやるとすでに熱く濡れていた。瞳はすでに潤み、澤田はこの加奈子の表情がたまらなく気に入っていた。
（この顔だ…亭主がいながら他人のペニスに溺れる淫乱な人妻…加奈子は絶対離さない…）
　まなみが塾から帰るまでの間、二人の熱い時間が始まるのであった。