28

　加奈子は朝から出かける用意をしていた。産婦人科へ行くためだ。二週間前検診を受けて以来行くのは二度目だった。
　澤田は当然、堕ろすことは許してくれず、どうあっても加奈子に自分の子供を産ますつもりだ。

「母子手帳はもらったのか？」
　激しいアナルセックスを終え、ぐったりとする加奈子に問い掛ける。
「……いいえ…まだ産むかどうか決められなくて…先生も旦那さんと話し合ってから来てくださいと言ってくださって…」
「何言ってる…堕ろすなんて許さないからな…明日にでも医者に行ってもらって来るんだ…」

　今の加奈子に澤田に逆らう勇気などなかった。もし堕ろせばすべてを夫に話すだろう…そうなれば夫と娘と別れなければならない。そうなったら加奈子は生きていけないと思った。
　今の加奈子は誰になんと言われようと夫に嘘を吐き、真実を偽ってでも今の生活にしがみつくことしか出来なかった。
　産婦人科に入り、待合室のソファに座る。待合室にいる女性は皆幸せそうに見えた。もしかしたら加奈子のように望まれない生命を宿し、堕胎のために来ている女性もいるかもしれない。不謹慎だが今の加奈子はそんな女性でもうらやましく思えた。
「野々村さん、野々村加奈子さ〜ん、診察室にどうぞ」
　診察室に入ると前回と同じ中年の医師が加奈子を迎える。
「さ、野々村さん、ご主人とは話をされましたか？」
「はい…う、産んでくれと言われました…」
「そうですか、おめでとうございます。それでは診察をはじめましょうか」
　採血や採尿などを済ませ診察台に上がり大きく足を開いた状態になる。出産を経験し、診察も何度も受けてきたが、加奈子は恥ずかしさで顔が厚くなる。
「それでは失礼しますよ……！…」
　加奈子の下半身にかけられたタオルケットを外した時、医師の動きが止まった。無毛の股間は前回の診察で見知っていたが、今回はその無毛の亀裂の頂点には金色に光るリングがはまっていた。
　もともと乳首のピアスに次ぎ、クリトリスにもピアスを施されていたが、それは棒状の両端がネジになっており、球状のもので締めるといったモノだったため、加奈子は診察の前に自分で取り外していた。だが今回、加奈子の股間につけられたピアスは特殊な工具でなければ外すことのできない物だった。

「何だ…外していったのか…」
　前回の診察の様子を聞いた澤田はピアスを外していったことがおもしろくなかったようだ。
　澤田は自分の部屋に行き、小箱を手に戻ってきた。
「明日はこっちをつけていけ…」
　箱を開けるとリング状のピアスとそれを装着するための工具が入っていた。
「ああ…そんな恥ずかしい…許してください…」
　加奈子の哀願をよそにピアスをつけかえてしまった。

　医師は無意識に加奈子の表情を見ようとしたが、カーテンで仕切られているため表情を窺い知ることはできない。産婦人科という職業柄、多人数の女性の股間を見てきたが、中には加奈子のように陰毛を剃り上げた女性や、太ももに刺青をいれた女性もいたが、クリトリスにピアスを施した女性を見るのは初めてだった。
　医療用のゴム手袋をした手で触診していくと加奈子の閉じ合わされていた亀裂は妖しく光開いていった。濡れやすい女性もいるのだが、加奈子はその比ではなかった。
　これには女性を見慣れた医師といえども興奮を隠せず、ズボンの中で股間を膨らませてしまう。
「あ、え〜子宮の状態も異常はないですね…た、ただクリトリスの消毒はこまめにしておきましょう…」
　医師はそう言うとリングをつけられたクリトリスを消毒していった。この行為は診察を重ねるごとにエスカレートし、次第にリングを摘んで引っ張り、加奈子の反応を楽しんだりするようになり、看護婦がいなくなると仕切りのカーテンを開け放ち、加奈子の表情も楽しむようにさえなった。澤田に抱かれながら診察の様子を聞かれるが、この一連の医師の行為は澤田には告げなかった。何より医師の行為に感じてしまう自分が恥ずかしかったのだ。

　それから日にちが経ち三ヶ月目に入り、子宮の大きさの変化により圧迫感を感じるようになった。子供の存在を感じるようになると同時に、不思議なことにあれだけ嫌悪していた澤田の子供に愛しさを感じるようになってきた。
「あなた…話があるの…」
　加奈子は祐平に国際電話をかけていた。その姿は全裸で横には澤田がいる。
　ベッドの中で加奈子がまだ夫に妊娠を告げていないと聞いた澤田が電話させたのだ。
「あ、あのね…私、今お腹に赤ちゃんが…妊娠したみたいなの…」
「え？妊娠…と、とりあえずおめでとうでいいのかな…？」
　電話の向こうの祐平の声がドギマギとしているのがわかる。何も知らずによろこぶ夫に加奈子の心が痛む…
「う、うん…今三ヶ月なの…」
「そうかぁ…ならこっちでいい産婦人科を見つけておかないといけないな…」
「ええ…そのことなんだけど…」
　加奈子は澤田に言われた通りアメリカに行けないことを告げた。その理由は澤田の立ち上げる会社で働くということだった。
「ど、どうして…何だってこんな大事な時期にキミが働かなくちゃいけないんだ？」
　電話の向こうから突然のことに動揺する祐平の声が聞こえる。
　今回の海外出張も含めて、家を開けることも多かったが、ようやく親子三人一緒に暮らせる時が来たと心待ちにしていた祐平にとって晴天の霹靂と言えよう。
「も、もう決めたことだから…」
「決めたことって…ま、まなみはどうする気なんだ…」
「まなみに話したら自分も残るって…」
　まなみは加奈子を一人置いていけないと残ると言っていた。
「でも、まなみには海外に出て世界を見て勉強してもらいたいし…説得するわ…」
「第一、お腹の子供はどうするんだ…」
「澤田さんの会社は小さい子供のいる女性でも働けるようにしていただいてるの…」
　もちろん澤田の会社で働くと言うのは嘘だ。事実上、澤田の愛人のような生活になるだろう。
「わ、私もこのまま老いていくだけの人生じゃ虚しいの…」
　これも澤田に言わされた台詞だった。加奈子にとって、愛する家族のために家庭に入り尽くすことが幸せだった。
「あ…ん…あなた…この話はまた…電話する…」
「ちょ…ちょっと…待っ…」
　祐平の声も虚しく加奈子はそう言うと電話を切ってしまった。澤田が急に膣内に指を挿入したため声を抑えられなくなりそうだったからだ。
「愛する妻に未練たらたらって感じだったな…だがその愛する妻は俺の女になってると
は思わないだろうな…」
　そう言うと加奈子を抱き寄せ口唇に吸い付き激しいキスをした。

　数日後、ベッドで澤田とともに横たわる加奈子。ヌメヌメと光る澤田のペニスと加奈子の股間、荒い息遣いが二人が激しい性交の直後だということを物語っていた。
「まなみちゃんを送るついでに一度アメリカに行ってしばらく野々村と過ごしてこい…」
「……ど、どうしてですか…？…」
　あれだけ加奈子のアメリカ行きを避けていた澤田が今になって何故そんなことを言い出したのかわからなかった。
「野々村に対するせめてもの情けだ…自分の妻を寝取られているとは夢にも思わないなんて哀れじゃないか…ははは」
「わ、私…アメリカには行きません…向こうであの人にあうと辛いだけですから…」
　加奈子は毅然とした態度でアメリカ行きを拒否した。それは祐平を馬鹿にした澤田に対する抵抗だった。
「そうか、そうか…もう亭主の傍に行くのも嫌だってことか…いよいよ哀れだなァ…くくく…」
　加奈子の態度の裏にあるものを悟り、澤田は更に追い討ちをかけた。加奈子は悔しさに涙を流すのだった。