俺たちの夏

南田朗 作
　10

　なんとなく帰りづらかった。一人になるのが嫌だった。陽二も同じ気持ちらしく、俺たちは陽二の部屋で黙り込んだまま一緒にいた。二人とも話しかける言葉が見つからなかった。

「なあ・・・」

　後始末もせずあわてて履いたパンツの中身が渇いて突っ張りだしたころ陽二が口を開いた。

「なに？」

「義姉さんに謝ったらどうなると思う？」

「そんな・・・」

「だよな・・・覗いたことくらいなら大目に見てもらえるかもしれないけど、あんなことやっちゃったからなぁ・・・」

「後悔してんのか？」

「わかんないんだよ。半々ってのか・・・やれてよかったっていう気持ちと、義姉さんにすまないって気持ちと・・・で・・・また、やりたいって気持ちもあるんだ・・・」

「じつは・・・俺も・・・」

「そっか・・・」

　陽二が少し笑った。

「俺は陽二に感謝してるし・・・お前がいい奴だって見直したんだ。俺のことぶん殴るって言われたとき・・・なんてったらいいのかわかんねぇや・・・」

「お前、尻の穴に生で入れてただろ」

「うん」

「なんか、すっげぇうらやましかった・・・どんな感じだった？」

「あ・・・うん。感じってより、美由紀さんにヘンタイなことしてるって方が興奮したな。それに、お前と一緒に美由紀さんを犯してるって思うとよけいにな・・・」

「俺もお前と一緒だって思ったよ。仲間って言うより共犯者かな・・・お前がいなかったら、いつか覗きがバレてやばいことになるんじゃないかって思ってた・・・その前に義姉さんとできて・・・お前には感謝してる・・・けど・・・」

「けど・・・？」

「言っただろ。やればやるほどやりたくなるって」

「うん」

「あのさ・・・俺・・・義姉さんを感じさせたいんだ・・・俺の手で悶えさせたいんだ・・・」

「あ・・・」

　それは俺も思っていたことだった。ベッドでオナニーしていたときのように俺のものを入れて美由紀さんを感じさせたかったし・・・お尻の穴に入れてどんな反応をするのか知りたかった。

「なに？」

「俺も、おんなじこと考えてた・・・」

「だからさ・・・」

「うん」

「謝ったら、させてくんないかなって思うんだよ・・・もちろん、すまないって気持ちはあるんだけど、それ以上に・・・ほら、頭ん中に悪魔がいるって話あるだろ？　姉さんを感じさせたいっていう俺がいるんだ」

「無理だろ。全部しゃべったら終わりだよ・・・ぜったい・・・」

「そうかな？」

「なに考えてんだよ・・・お前・・・」

「俺さ・・・わかるんだ。義姉さんに謝れば兄貴にはしゃべらないって・・・義姉さんって・・・そういう女性だって・・・」

「それって・・・いい方向に考えすぎだよ・・・」

「なあ・・・俺と一緒に謝ってくれないかな？」

「だって・・・もし、お前の考えとは反対のことになったら・・・俺たち破滅だぞ・・・」

「そうなったときは・・・俺と一緒に破滅してくれよ。仲間だろ」

　陽二の眼は真剣そのものだった。

　俺は二の句が継げずに陽二の顔を見続けた。

「じゃあいいよ・・・」

　しばらく間を置いて陽二が言った。

「あきらめるんだな？」

「いや・・・」

「えっ・・・？」

「俺ひとりで謝る。俺ひとりが酔っ払って寝ている姉さんを襲ったことにして。お前には迷惑かけない」

「そんな・・・本気か？」

「うん」

　やると言ったらやる。陽二の眼はそう語っていた。

「わかった・・・俺も一緒に謝るよ」

　陽二だけを悪者にするわけにいかない。そんな、きれいごとだけでなく、もし、美由紀さんが許してくれたならどうなるのかという淡い期待もあった。どの道、陽二が謝るって言いだしたんだから、これからも一緒に覗いたり、眠らせて悪戯するのは無理だ。

「さんきゅ。やっぱ仲間だな」

　そう言って陽二は笑った。

「で・・・いつ？」

「義姉さんが起きてきたら言うよ。だから、お前も泊まっていけ」

　なんだか陽二は変わった。もっと気が弱いタイプだと思っていたのに、そんな面影はどこにもなかった。それだけ美由紀さんへの想いが強いのかもしれない。俺は逆らうことができなかった。
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2013.2.20掲載
8話（2013.2/20時点）
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