人妻加奈子の奴隷生活.59

　加奈子が再び眼を覚ました時は朝の五時を回っていた。自分が寝かされている場所が病院の一室だと気付き、悲劇が現実だということを改めて認識させられた。
　動く気力も無く天井を見つめる。
「あら、お目覚めになったわね…」
　看護婦が加奈子に気付き声をかけてくる。
「あなた余程疲れていたのね、だめよ妊婦さんがそんなんじゃ…」
「ご迷惑かけてすみません…あの…彩美さん…若林さんは…？」
「心配しなくても大丈夫よ…それよりもう暫くゆっくりしてなさい…」
　そう言うと部屋から出て行った。
（どうして彩美さんが…）
　彩美のように家族を大切にする女性が、何故こうまで不幸な目に遭うのか…と加奈子は思った。
　北村は天罰が下ってもおかしくない事を繰り返してきたが、彩美はただの被害者だった。
　家庭が壊れる事を恐れ北村の言いなりになっている事が罪なのだろうか？
　どんなに考えても答えが見つかるはずも無いが、加奈子は一人病室で世の中の不条理さを呪った。

　午前八時を回った頃、再び看護婦が加奈子の様子を見にきた。
「あら、だいぶ顔色が良くなったわね…」
「ありがとうございました…」
「でも無理しちゃダメよ？無理してまた倒れたら意味が無いものね…それにお腹の赤ちゃんの事も考えないとね…」
「すみません…でも、もう大丈夫ですから…」
　加奈子はゆっくりと体を起こすと笑顔を作った。
「若林さんは…」
「余程心配なのね…大丈夫、まだ意識は戻ってないけど、先生は安心していいって…」
「そうでしたか…良かった…」
　加奈子は彩美が無事なのがわかり、一気に力が抜け、大きな溜息を吐いた。
「すみません…私、一旦帰らせて頂きます…彩美さんのお部屋の番号は…」
「ちょっとまってて…」
　加奈子は彩美の病室の番号のメモをもらい病院を後にした。
　マンションに戻ると、彩美の夫の健史が到着した時、姿を消したまま澤田が加奈子を待っていた。
　澤田に声をかけることも無く寝室に入ると、服を着替えた。
「おい…あいさつもなしか…」
「私、すぐに出かけますから…」
「出かけるって何処へ行く気だ？」
　加奈子は答えない。その背後から澤田が抱きすくめる。
「いや…やめて…やめてください…今はとてもそんな気分じゃ…あんなことがあったのに…」
　首筋を這い回る澤田の舌に加奈子の肉体が反応する。
「ん…ふ…いや…はぁ…やめて…」
　澤田の口内に加奈子の汗の味が広がり、それが澤田をさらに興奮させた。加奈子をベッドに押し倒すと狂ったように口唇を貪る。
「ん…うん…うふ…」
　口を塞がれ鼻から漏れる声と唾液をすする音が寝室に響く。澤田はベルトを解き、下半身を露にすると、片手で加奈子のマタニティショーツを剥いでいく。
「入れるぞ…！」
　加奈子の膣穴はすでに十分に潤っていた。亀頭を何度か擦りつけた後、一気に挿入していく。
「あッ…うッ…あぁ…」
　巨大なペニスは肥大した子宮に到達し、押し上げる。
「いや…そんなにしたら…赤ちゃんが…あ…」
　澤田は何かに取り憑かれたように激しく腰を動かした。加奈子が妊婦である事など忘れてしまったかのように。
「俺は北村のように終わらないぞ！絶対にお前を放さないからな…」
　言うと子宮に亀頭を押し付けるようにして精を放った。いつもの澤田では考えられないほど、早い射精だったが、子宮に熱い精を感じた時、加奈子も絶頂に達した。
「くくく…お前もイッたか…？」
　ずる…とペニスが引き抜かれると精液が溢れる。
「北村のことは気にするな…あいつには運が無かったそれだけだ…」
　事を終えた澤田は人が変わったかの様に抑揚のない声になり、加奈子に言った。
　服を身につけ寝室を出て行く澤田。
『それじゃ彩美さんはどうなるの？』
　その背中に言葉を投げかけたい気持ちだったが、絶頂後の脱力感で言葉を発する事が出来なかった。
　短い情交をを終え、加奈子もゆっくりと起き上がるとシャワーで汗を流した。
　そして改めて身なりを整えるとマンションを出た。


　今朝病院で聞いた彩美がいる病棟を訪ねた。看護婦に聞くとまだ意識が戻っていないらしい。ただ様態は安定しており、一般の個室に移されていた。
「彩美さん…」
　ベッドに横たわる彩美は自分の身に起こった悲劇を知る事も無く眠っている。お腹の子供をなくした事も知る由も無く…
　加奈子のマンションを出た北村は彩美を送るため車で国道を走っていた。そこでセンターラインを割って走行してきた大型トレーラーと接触した。運転席側がトレーラーに接触する事故で、北村はほぼ即死の状態だったという。
　彩美は潰れた車体に挟まれた右足の他、右腕の骨折、ムチウチと、事故の大きさからは奇跡的とも言える怪我で済んだ。ただ一つお腹の子供の犠牲を除いては。

　加奈子は表情だけ見るとただ眠っているかのような安らかな表情の彩美を見てせめてこれからの彼女の人生が平穏なものであることを祈った。点滴の管が痛々しい左手をそっと握り締め一刻も早く意識が戻る事を願った。
「加奈子さん…」
　そこへ着替えを取りに帰っていた健史が入ってきた。
「すみません、心配して頂いて…私は大丈夫です…それより彩美さんが心配で…」
「ありがとうございます…でも、加奈子さんとお腹の赤ちゃんにもしものことがあったら……少し外で話をしませんか…？お礼にお茶でもご馳走させて下さい」
「そんな…お礼だなんて、彩美さんの傍についていてあげて下さい…私、失礼しますので…」
「待って下さい…」
　健史は加奈子を引きとめる。
「実は妻は深い昏睡状態にあって、もしかすると目を覚ます事は無いかも知れないと…」
　加奈子は返す言葉も無い。
「それにご馳走させてくれなんて回りくどい事言ってしまいました…実は色々とお話がしたくて…加奈子さんがよろしければ…ですけど…妻のことは心配なさらないで下さい…別に命に関わるような危険な状態ではないそうなので…」

　二人は病院の地下にある喫茶店に入った。
「実は妻がここ最近頻繁に家を開ける事があって、心配していたんです…その、何と言うか…他に男がいるのでは…と」
「そんな…彩美さんに限ってそんなことは…」
　加奈子は健史に心の隅の隅まで見透かされているような気分になった。
「妻がそんな女じゃない事はわかっているのですが…ただ、今回の事故で亡くなった男性がもしかすると妻の…」
「北村さんは…」
「ええ、加奈子さんに聞いて安心していたんです…ただ、普段の妻の様子がおかしかったもので…どこか私を避けているというか…」
　加奈子に健史の言葉の一つ一つが圧し掛かってくる。夫の祐平も加奈子の様子がおかしい事に気付き、澤田との事を疑うこともあった。
　目の前にいる彩美の夫、健史の言葉は全て祐平のもののように感じられた。
「彩美さん、悩んでおられたんだと思います…その…妊娠されたことで…私もそうでしたから…産みたくないとかじゃなくて…誰でも不安になるものもです…」
「加奈子さんがそう仰るのならそうなんでしょうね…中々、女性の気持ちが読めなくて…」
　苦笑いする健史に加奈子の顔がほころぶ。
「これから彩美さんをしっかりと支えていてあげて下さい…何があっても…」
　加奈子は北村は気の毒だったが、これで彩美を縛り付けるものは何もなくなった…これからは幸せに暮らしてほしいと思った。
「すみませんつきあわせてしまって…妻のところへ戻ります…」
　喫茶店を出た健史は加奈子に頭を下げ彩美の元へ向かった。