| 人妻加奈子の奴隷生活.68 澤田の会社の前に立つ祐平。しばらくし、一台の車が止まる。前に見たことのある車だ。 その車から澤田が降りてくる。祐平は彼の名前を呼ぼうとし、動きを止める。 もう一人車から降りる人影があった。 妻、加奈子だった。加奈子は澤田に寄り添うとそっと体を預けるように歩いた。 「加奈子！」 祐平の声に加奈子が振り向いた。祐平に向かってにっこりと微笑むと見せつけるように澤田と舌を絡め合うキスを始めた。 「あなた…離婚届は出してくれました？出来るだけ早くしてくれないと私たち一緒になれない」 「野々村悪いな…加奈子は俺のものだ…」 二人は祐平に背を向けると歩き出した。 「加奈子ッ！」 加奈子を引きとめようと動いた祐平は澤田の取り巻きのような連中に遮られてしまう。 「加奈子！加奈子！！」 目の前が暗くなり、次の瞬間、祐平はベッドの上にいた。全身は汗でぐっしょりと濡れていた。心臓は早鐘を打ち、呼吸も乱れていた。 時計を見ると夜の十時を回っていた。まだ思い出せる夢のことを考えていた。 加奈子が愛したと言う男は澤田の事だったのか…？今までに何度か二人の関係を疑った事はあったが、加奈子が浮気をする事なんて考えられないし、ましてやその相手が澤田だと考えられない…と疑念を振り払って加奈子を信じてきた。 加奈子からの手紙を受け取り、失踪した今ですら加奈子が自分やまなみを裏切るとは思えなかった。手紙も加奈子を騙った誰かの悪戯とすら思えてくる。 祐平はアメリカに残してきた娘の事を思った。まなみには加奈子のことは伝えていない。 もし母親の状態を知ったならどんなに悲しむだろう。日本へ発つ前日、手紙を受け取った祐平が自宅に戻り、急な出張で日本に戻る事になったと告げた。 「パパ大丈夫…？顔色悪いよ…」 「だ…大丈夫だよ…」 まなみは父親の様子にただならぬものを感じていた。女の勘というのか、父親が自分達にとって大事な事を背負っている事を少なからず感じ取っているようだった。 「ねえ…もしかしてママの事なの…？」 「え？どうしてそう思うんだい…？」 「だって日本にいる時ママの様子、おかしかった…ううん…ずっと前から…何か思いつめているというか…」 「大丈夫だよ…そんな事じゃないから…」 祐平は娘が妻から感じた、自分では気付かなかった事が何なのか聞きたがったがぐっと堪えた。最終的に娘も巻き込む事になるかも知れないが、手紙で別れを告げられたからはいそうですかと別れるつもりは無かった。 ちゃんと本人と会い、話をするまで納得するわけには行かない。 これからの事をまなみ抜きで決めるわけにはいかないが、現段階でまなみを巻き込みたくなかった。 祐平はアメリカのまなみへ電話をかけた。 「もしもし、パパだ…そっちの方はどう？ちゃんとやってる？」 『パパの方こそどうなの？疲れた声してる…』 「ああ、大丈夫だよ…ママも元気にしてるから…」 まなみは祐平が嘘をついている事に気付いていた。勘もあるが、何より祐平自身の初歩的なミスがあった。何かあったときの連絡先に祐平は自分が泊まるビジネスホテルの連絡先を教えていた。 日本に戻り、母親と一緒にいるのであればビジネスホテルに泊まる必要もないし、何よりまなみ自身、母親に連絡を取ろうとして自宅の電話、携帯ともに繋がらないのは知っていた。 父親が何故自分に嘘を吐くのかその気持ちを汲み取る事が出来たまなみは、父親に心配かけまいと嘘に騙されたフリをした。 『パパ、こっちの事は大丈夫だから、お仕事頑張って、そしてママと弟クンと一緒に帰ってきてね…』 短い会話を終え電話を切る。そして再びベッドに身を投げ出した。 「加奈子…」 妻の名を呟いてみても事態が進展しない事もわかっていた。 汗で濡れた服を脱ぎ、シャワーを浴びる。バスルームから出るとベッドの上に投げ出された携帯に着信を知らせるランプが点滅していた。加奈子から連絡があったのではないかと、慌てて携帯を手にする。 しかし履歴に残された名前は加奈子ではなく、同期の友人のものだった。かけなおそうとした時、ちょうど着信があった。 『やっと繋がった、野々村、今こっちへ帰ってきてるんだって？』 「あぁ、ちょっとな…」 『今から会えないか？ちょうど会社出たとこなんだけど…』 「相変わらず遅くまで頑張ってるな…で、どこに行ったらいい？」 祐平は入社以来の親友の声を聞いて沈んだ気持ちが幾分か軽くなるのが感じていた。 待ち合わせ場所で落ち合うと久々の再開を喜んだ。名前は木下と言い、祐平が海外事業部に異動になってからは別々の部署になったが、時々連絡を取り合い、飲みに行ったりもした。 木下の妻も加奈子同様、寿退社するまでは同じ会社のOLだった。会う機会は減ったが、家族ぐるみの付き合いをしていた。 「いいのか？あんまりウロウロしてると電車がなくなるぞ？」 「大丈夫、いざとなったらタクシーがあるから」 「言うねぇ、お前の家までだと相当かかるぞ？そんなに稼いでらっしゃいますか？」 木下は祐平たちとは違い、通勤時間が長くても郊外に庭付き一戸建てを手に入れていた。 二人は昔よく飲みに行った居酒屋に入った。 「そういや、二人目産まれたんだってな、おめでとう…」 祐平の複雑な事情を知らない木下が切り出す。しかしすぐに祐平の様子がおかしい事に気付く。 「どうした…？」 「…お前に隠してもしょうがなか…」 祐平は自分たち夫婦に起こってる問題を簡単に説明した。 「えぇ？何でそんな事になってんの？お前…」 木下にとっても信じられない話だった。昔から祐平と加奈子の事を知っているから尚更だった。 「だってあの澤田だろ？」 「いや、まだ決まったわけじゃないんだ…」 「それって状況からすると澤田が怪しいけど、だとしても加奈ちゃんが澤田となんて…」 「もし、相手が澤田だとしたら子供の父親もあいつってことになる…」 「嘘だろ…」 木下は信じられない事ばかりで目を白黒させていた。 「だとしたら僕はあいつが加奈子の上司と言う事もあって何度か飲んだり、家へ招いたりしてたんだぜ…全くとんだピエロだよ…」 祐平は自嘲気味に笑った。 「お前、それ絶対加奈ちゃん、澤田に脅されてるんだぞ…何かで…とにかく今日はお前、ウチ来い」 祐平は木下に連れられ彼の家へ向かった。 「野々村さんいらっしゃい、久しぶり…」 木下の妻、冴子は突然の訪問に嫌な顔一つせず迎えてくれた。 「冴ちゃんも相変わらずきれいだね…」 「やだ、そんな事言っても何もでないわよ…さ、上がって…」 「え〜ッ？」 「バッ…お前…静かにしろよ…」 冴子も木下と同じく祐平たちの現状を聞き、驚きを隠せなかった。 「ごめん…で、何でそんな事になっちゃったの？」 これも木下と同じ質問を投げかけてきた。 「それって野々村さんが仕事が忙しかったから澤田さんと加奈ちゃんがって事？」 「お前さ、加奈ちゃんが澤田みたいな男とどうにかなるわけないだろ？」 「そうね、ごめん…」 「加奈ちゃんがさ、最近会っていた人とかわからないかな？細かい事でも何か加奈ちゃんの事に繋がることある筈よ…」 祐平は焦りのあまり、加奈子の男が誰なのか、そればかり考えていたが、加奈子の交友関係を思い返してみる。 「そうだ…」 祐平は携帯電話を取り出すとアドレス帳を開いた。 「これ…彼女なら何か知ってるかも…」 |
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| 2008.8.2掲載 |
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全８０話
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