| 人妻加奈子の奴隷生活.74 会社の屋上で風に当たっている時に携帯の呼び出し音が鳴る。ディスプレイには澤田の名前。 「何の用だ…」 『何の用だ？わかっているだろ…離婚届は出したのか？』 「切るぞ…」 『まぁ待て、加奈子がいつ離婚してくれるのか心配してるんだ…お前も男なら女房の事も考えてやらないとな…』 「加奈子は…そこにいるのか…？」 澤田の声の向こうで女のくぐもった悲鳴が聞こえる。 『あぁ、ここにいるぞ…今ぶち込んでるところだ…』 『ん〜ッ…ん…むぅぅ…ん…』 『シーツがぐしょぐしょになって困ってるんだ…』 電話の向こうで澤田の下品な笑い声が響いている。祐平は堪らず電話を切った。 夕方、会社を出た祐平は長谷川と会うためいつもの喫茶店に向かう。長谷川はまだ来ていなかったがすぐに現れた。 長谷川は座ると鞄から書類を取り出す。 「澤田の方ですがこの一週間、出張があっただけですね…それ以外では女と会ってます…」 「え？女？」 「ええ、でも奥様ではありません…ちなみに仕事関係でもありません…」 「と言うと…？」 「まぁ、愛人ってとこですかね？男と女の関係ってヤツです。こちらも人妻らしいけど…」 「そうですか…」 祐平は一瞬加奈子の情報かと思い期待したが半面ホっとした部分もあった。もし情報の女が加奈子であれば本当に加奈子は澤田といるという事になる。いや、澤田の言う通り彼と一緒にいるのかもしれないが、少なくとも今回の情報では確認されなかった。 「その人妻ってのも野々村さんの奥さんに負けず劣らずの美人でしたよ…女の好みにはこだわりあるようですね…」 長谷川はそう言って笑った。 「あぁ、そうだ、例のサンプルですが、いくつか有効そうなのがあったので鑑定に回しておきましたよ」 「本当ですか？」 「えぇ、まぁ密封されてた訳じゃないから他の人間の物も混入している可能性はありますが…早ければ一週間程度で結果が出ると思います…あと少しお聞きしておきたいのですが…」 「何です？」 「奥様が立ち寄りそうな場所とかありますか？」 祐平は加奈子が個人的に立ち寄りそうな場所を思い返してみるけど心当たりは無かった。 結婚してからどこに行くにも家族で出かけ、個人で好きな事をするタイプでも無かった。 「実家ぐらいなら考えられますけど、もしそうなったら連絡が来る筈ですから…」 加奈子の両親は既に他界しており、実家には兄夫婦が暮らしている。 祐平はもちろんこの義兄とも面識があるし、何度か酒を酌み交わした事もある。義兄の人柄を知る限り、加奈子が実家へ帰り、自分に内緒にしてくれと言ったとしても必ず連絡をくれるような人だった。 「澤田の行動の中で奥様との接点がどこかにあるかも知れないと思ったのですが…」 長谷川は引き続き澤田の行動をマークすると言い、別れた。 次に動きがあったのはそれから一週間ほどが過ぎてからだった。澤田を調査していた長谷川から連絡があり、報告を受ける。 「澤田の出張ですが、確かに出張は本当のようですが、どうも出張先に女がいるようです…それと向こうも探偵を雇っているみたいですよ…」 「それは私を調べていると言うことですか？」 「いえ、そう言うわけではなさそうです…彼が頻繁に立ち寄ってる場所があるんですよ」 祐平は長谷川の次の言葉を待つ。軽い喉の渇きを覚え、唾液を飲み込む。 「O県の出張先、その隣町に頻繁に立ち寄っているようです…その少し前に探偵にその辺 りを調査させていたとか…」 「すみませんわかりやすく説明して頂けますか…」 「澤田がよく立ち寄るその町が匂うんですよ…私の勘ですが…」 「O県…その町の名前は…？」 「えっと、虹美ヶ丘…ですね」 「虹美ヶ丘…」 祐平はその名前に覚えがあった。そこは以前、何度か訪れた事のある町だった。 「何か心当たりでも？」 「妻と何度か行ったことがあったもので…長谷川さんはそこに妻がいると…？」 「あくまでも私の勘だったのですが…奥様との繋がりがあったとなればこれは…」 祐平は目の前の暗く何も見えない道に光が差し込んできたような気持ちになった。 「妻はそこにいるのかもしれない…」 長谷川は書類を睨み、何かを考えている。 「野々村さんのGOサインを頂ければ我々は動きますが…」 「そうですね…今私が動いても、例え妻がその町にいるとしても見つけ出すなんてとても…引き続き澤田の調査をして頂けますか…」 「わかりました…あ、そうだ…この前、澤田の女の事言ったの覚えておられますか…？」 「ええ…」 長谷川は手にした書類を捲りながら言う。 「名前は若林彩美…歳は三十三歳…」 「彩美さん!?」 「え？お知り合いですか？」 祐平が彩美との関係を説明すると、 「…それはまた…澤田という男はどこまで…」 長谷川は驚きを隠せないでいた。 「長谷川さん…その彼女に会って見ようと思うんですが…」 「ちょっと待った…もしかしたら彼女は澤田とグルという可能性も捨てきれませんよ…なんせ、愛人関係を続けているんですから…」 祐平は長谷川の調査内容を聞いても彩美が澤田と関係を続けている事は信じ難かった。 あの時見た彼女の涙は偽りの物だったのか… 「お会いになるのは結構ですが、慎重にやらないと…」 「つまり、こちらの手の内を見せるな…て事ですか…」 「簡単に言えばそうです…」 長谷川の言う事ももっともだと思うが、祐平が自分の目で見た彩美はそんな女性に見えなかった。 （何を迷っている…彼女だって澤田とグルに決まっている…） （そんな事はない…彼女はそんな事を平気でするような人間ではない…） （お前に何がわかる…自分の妻の事を何も知らなかったお前が、まして他人である彼女の何がわかるというんだ…） 心の中で迷いが渦巻いていた。信じようとする反面、今までの事を思うと素直に信じられない自分も否定できなかった。 信じる、信じない、どちらにしても祐平の出した答えは用心に越した事は無い…だった。 「わかりました…慎重にやります…」 祐平は言い残すと長谷川から渡された彩美のマンションの住所を頼りに向かった。 |
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| 2008.9.27掲載 |
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全８０話
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