| 人妻加奈子の奴隷生活.76 「おい、スピードを落とせよ…もう近くまで来てるんだからさ…」 助手席に乗る木下が言う。 途中、長谷川から澤田に動きがあったと連絡が入った。O県に向かっているのは間違いないとの事だった。 祐平は焦る気持ちを抑えているつもりだったが、ついついアクセルを踏む足に力が入ってしまう。木下の言葉に深呼吸をするとスピードを緩めた。 「こう言う時、お前一人じゃ危なっかしいんだよな…」 木下は苦笑した。 虹見ヶ丘最寄のICを降りてそこでスタッフと合流する。澤田がO県に向かっているのは間違いないが、ここで降りると決まったわけじゃない。 本来の出張先はこのICを越えて次のICが最寄だ。もしこのICを通り越したら澤田は出張先に直接向かうという事になる。ここで降りると出張先へは一時間ぐらい走らないといけないからだ。 もし通過した場合は澤田を尾行する長谷川に任せるしかなかった。 一時間程してから長谷川からあと三十分ほどでIC付近に到達すると連絡が入る。 しばらくしてから読み通り、澤田がICを降りたと連絡が入る。 報告を受けた澤田の車が目の前を通過する。その後を長谷川の車が続いた。ここでスタッフと尾行を後退する。同じ車種、人物の追跡で相手に気付かれるのを防ぐためだ。 「また待たされるのか…向こうの車に乗ったらよかったな…」 木下がぼやく。祐平たちは澤田をつける車より距離を取り、スタッフからの無線連絡に従い車を走らせた。 三十分ほど走って虹見ヶ丘に到着する。 虹美ヶ丘…ここは祐平たちが結婚する前、会社の仲間達と何度か訪れた事のある場所だった。 当時、澤田からのセクハラで悩んでいた後輩の加奈子の相談を受けていた。他の女子社員にも手を出していた澤田の評判は知っていた。 何人かの女子社員は澤田の所謂『お手つき』となっており愛人のようになっていた。 加奈子は祐平が指導を任された後輩であり、彼女と澤田が万が一の関係になる事は祐平は我慢できなかった。木下の妻の冴子もセクハラの被害者であり、祐平たちは他の社員と連名で会社に対し改善要求をした。結果、澤田は海外支店への出向と言う形で日本を追われる事となった。 だが、澤田の出向は左遷ではなく、彼の業績を捨てられなかった会社側と祐平たちの要求という利害が一致したに過ぎなかった。 そんなゴタゴタで落ち込んでいた加奈子を励ますために同僚達と訪れたのが虹美ヶ丘だった。 小さな町で温泉もあり、海がキレイなビーチがあるがマイナースポットで、知る人ぞ知ると言った穴場的な町だった。 『対象が車を止めます…車から降りました…』 澤田とスタッフがどこにいるのかわからないがスタッフからは無線が入る。 『今、アパートの一室に入りました…女性が一人確認できました…人物は特定出来ず…』 スタッフからの連絡とGPS端末を頼りに合流し、軽い打ち合わせをする。時計は十二時を回っており、辺りは暗く、聞こえてくる音といえば遠くで波の音が聞こえるくらいだった。 複数の人間が動けば目立ってしまう。 見張りを残し、アパートから少し離れた場所に移動する。 「あれだけ暗かったら特定できないのは仕方が無いな…」 踏み込むにしても女が加奈子でなければ意味がない。長谷川は浮気の現場を抑えたいと言う依頼者とともに現場に突入した事があったが、今の状況は違っていた。 長谷川自身の勘はアパートの女性は加奈子だと踏んでいるのだが、決定打を放つ時には勘だけで動くと足元をすくわれる危険がある。 「野々村さん、ウチのスタッフがドアを叩き、出てきたら女が誰か調べさせます…相手が奥様じゃない限り野々村さんは絶対に姿を見せないで下さい…本当はこんな強引な事はしたくないんですけど…」 「あ、これ…慌ててたんで折りたたんでしまいましたが…持っておいてください…」 アパートの階段を前にして長谷川が上着のポケットから半分に折られた封筒を取り出し、祐平に手渡した。その長谷川の表情からは先程までの険しさが消えていた。 祐平たちはそっと階段を上ると、澤田が入った部屋の前に立った。祐平と長谷川がドアから離れる。 スタッフには加奈子の顔写真の確認をさせ、待機する。 ダン、ダン、ダン… 思いのほか激しく扉を叩くスタッフ。出てくる気配がない。長谷川がもう一度やれと指示を出し、繰り返す。 「どちら様ですか…」 「下の部屋の者ですけど、上から水が漏れてきてるんですよね…調べてもらえます…？」 スタッフは愛想もない口調で言う。 しばらくしてカギを開ける音がし、一同は息を呑んだ。ドアが開く。 |
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| 2008.10.11掲載 |
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全８０話
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