| 人妻加奈子の奴隷生活.77 「あの…ちょっと私じゃわからないんですけど…」 ドアの陰になって見えないが、祐平は声で加奈子だとわかった。 「野々村、加奈子さんですね…」 「ひ、人違いです…」 目を逸らしながら扉を閉めようとするが祐平の横をすり抜け、長谷川がドアを抑えた。 はっと視線を上げた加奈子は目の前に立つ二人の男の後ろにいる人影に気付いた。 「…あ、あなた…」 「加奈子…」 薄明かりの下で見る妻は幾分やつれて見えた。 「いや…！帰ってください…いや…」 夜中にも拘わらず大きな声を出し取り乱す加奈子。 「何をしてるんだ…だから無視しろと…」 加奈子の背後から太った体を揺すりながら澤田が出てきた。 「ふん…野々村か…どうやってここを嗅ぎ付けた…」 祐平の姿を見た澤田は驚きを隠すように鼻で笑った。 「澤田ァッ！」 澤田の姿を見て激昂する祐平。澤田はその醜く太った体に何も纏わず全裸だった。祐平を長谷川が制す。 「野々村さん、暴力は…」 祐平はハっとなり、身を引いた。よく見ると加奈子もキャミソールを纏っているだけでその豊満な乳房、乳首が透けて見えている。 そのあられみない姿に祐平は上着を脱いでかけようとするが、加奈子はそれを避けるように澤田の傍に寄った。 「加奈子…」 「くくく…まだわからんのかお前は…帰れ負け犬が…」 祐平が加奈子の方へ視線を向けると悲しげな表情を見せた後、顔を背けてしまう。 「とにかく今日の所はこれで引き上げます。夜分に失礼しました…」 「何だお前は…おいこいつは何だ？野々村…お前にお守りか…？」 「奥さん、我々は明日、改めて伺わせて頂きます…このまま逃げたまま終らせるつもりですか？あなたがご主人と離婚したいのであれば話をしない事には何も出来ない…いいですね…必要なら弁護士に協力してもらうといいでしょう…」 長谷川は澤田の挑発を無視し、加奈子に話した。 「いいだろう…話をしたいのならしてやろう…加奈子の答えは変わらないが…わかったらとっとと帰れ…」 祐平は長谷川がいなかったら飛び掛っていただろう。 「澤田さん、あなたも今夜は別の所で夜を明かした方がいい…仮にもまだ既婚女性と一夜を共にするのは不謹慎だ…」 長谷川が言う。 「加奈子、すまんが今日はお預けだ…おい、明日帰りに夜から会うのは夕方からにしてくれ…」 「あなたはそれでも構いません、奥様とはそれまでにお時間を頂きますから…」 加奈子は俯いたまま答えなかった。 「野々村さん、あまり感情的な行動は慎まれた方が良い…暴力沙汰を起こせば向こうの思う壺ですよ…」 アパートを後にした長谷川は祐平の行動を諌めた。 「木下、付き合わせて悪かった…もう戻ってくれていいよ…」 「冗談、こんなんで帰ったらウチのに怒られちまうよ…」 「何だよ、いつから恐妻家になったんだ…？」 祐平が笑顔を見せた。 昨晩、一睡もしていないにも拘わらず眠れないでいた。横で眠る木下を残し、車を出る。 夜道を歩き波の音がする方へ足を向ける。夏も終わりひんやりとした外気は心地よかった。 そして浜辺へと出た。 手前に設置された防波堤に登ると腰を下ろした。息を吸い込むと鼻腔内に潮の香りが広がり、夏を思い出させる。 ゆっくりと横になると加奈子と翔のことを思う。 『僕に似ているな…』 初めて翔と対面した時、自分が口にした言葉を思い出していた。もし澤田の子供なら自分に似ている筈が無い。 なら翔を見て自分に似ていると思ったのは何だったのだろう？子供が産まれた事で昂揚していた事から錯覚したのだろうか… そして数時間前のアパートでの事を思い出す。 もし居場所を知らず、誰もアパートを訪ねなければ加奈子は澤田に抱かれていたのだろうか… それに加奈子の態度も気になった。明らかに自分を避けようとしている。それは手紙を貰った時からわかっていた事だが、どこかで加奈子の事を信じていた祐平にとって見ればショックだった。加奈子は本当に澤田を愛しているのか…否定したくてもどうしようもない自分に苛立つ。 色々な考えが頭の中を駆け回る。祐平はふと長谷川から受けとった封筒を思い出した。 何が入っているのか…祐平は封を切り、中身を確かめる。中身はDNA鑑定の結果だった。 結果は… 確かめようとしたその時、近くで人の気配がし、上体を起こしその方向を見る。防波堤の照明の下には子供を抱いた加奈子がいた。照明によってもたらされたコントラストのせいで加奈子は祐平の存在に気付いていないようだった。 祐平より少し離れた場所に座り、翔をあやしている。祐平は近付くとそっと横に座った。 「あなた…」 加奈子は驚いたようだが、静かに座る祐平を見て何も言わずに座っていた。 「…ここに来た時の事覚えてる…？」 祐平が口を開いた。 「…ええ…」 「あの時、キミが悩んでて…ほら、みんなで励まそうと…」 加奈子は黙って聞いていた。 「キミを…家族を放ったままにしていた僕が悪かった…」 ハっと祐平の横顔を見る。 「そんなことない…これは私が勝手にした事です…」 「もう一人で背負い込むことは無いんだよ…加奈子…」 「私は…あなたを必要としていない…それにこの子はあの人との子供です…確かに一方的に逃げたのは悪かったと思っています…どんなにかかっても償いはします…だから私と離婚してください…私達の事は放って置いてください…」 そう言い放つ加奈子の頬は涙で光っていた。 「まなみはどうなるんだ？キミはあの子の母親だろ…」 「あの子には…あなたがついています…でもこの子は私しかいないの！それに…私はあの子の母親である資格はありません…」 翔を抱きしめる加奈子から母親の強さのようなものが伝わってくる。 「これ…」 祐平は確かめようとしてそのままにしていた鑑定書を渡した。 「僕はまだ中を見ていない…その子のDNA鑑定の結果だ…」 「DNA鑑定…」 「そうだ…その中にはその子の父親が誰か記されている筈だ…僕の子供なのか…」 祐平は言葉に詰まる。可能性はあっても加奈子の前では口にしたくなかった。 「……澤田の子供か…正式に証明するには改めて鑑定をしなければならないけど、その鑑定結果は少なくともその子が僕の子供かそうじゃないかが記されている…キミの目で確かめてくれ…」 祐平は言うと立ち上がった。 「明日、話をする時に僕も答えを出す…別れるにしても別れないにしても最後くらいはちゃんと向き合って欲しい…すっと放っておいた僕がこんなこと言えた義理じゃないけど。…風邪を引かないうちに戻った方がいい…それじゃ、明日…」 加奈子は俯いたまま祐平の足音が遠ざかっていくのを聞いていた。 |
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| 2008.12.13掲載 |
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全８０話
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