１５　院と実兼とが兼嗣にいじわるを

　牛車（ぎゅっしゃ）の中である。
　院と実兼、兼嗣の３人が座っている。
　今夕も、牛車は、涼子の屋敷に向かっている。
　院と実兼は、ふたりで何やら内緒話を。
　兼嗣は居眠りをしている。
　たぶん、昨晩のアレが過ぎたのにちがいない。
　何しろ、立子が兼嗣を離さなかったらしいのだ。
　そんな立子に情が移ったのか、昨夜は兼嗣も立子をしっかりと抱き、離さなかったという。

　もっとも、院には涼子が、実兼には君子がいるというのに、院と実兼は、兼嗣が立子を独占したということが許せないのであった。
　それで、兼嗣がうつらうつらと居眠りをしている間に、院と実兼は、ひそひそと内緒話をされていたのであった。

　今夜も、涼子の屋敷では、二つの衝立によって仕切られた、三つの部屋が用意されていた。
　一番左端の部屋には、院と涼子が。真ん中の部屋には、実兼と君子が。そして一番右端の部屋には、兼嗣と立子が寝ることになった。
　むろん、やがての頃には、一番左端と真ん中を区切っている衝立は取り払われていく。
　院は、涼子のからだの上にのしかかられ、涼子の下半身を開かれて、おのが下半身を入れられ、腰を大いにお使いになる。
　しかし、それが飽きられると、右隣にいる実兼の左肩をお叩きになる。
　すると、実兼は、重なっていた君子のからだの上から起き上がり、股間のモノを抜いて、左の涼子の許に移動をする。
　院は、這うようにしながら、右へ移動して君子の許に行かれ、君子の口をお吸いになる。そして、君子の胸を揉みながら、せわしなげに、君子の足の間にわが身を入れられ、涼子の淫液で濡れそぼった陰茎を、君子の玉門の中に差し入れられる。
　君子の玉門は、すでに濡れそぼっていた。なにしろ、実兼が先ほどまで、固いモノを抜き差ししていたのだから。
　むろん、院の左隣でも、実兼が涼子のからだの上にのしかかり、激しく腰を使っていた。

　院は、左隣で、実兼が、スカリスカリと腰を使っているのを横目で見ておられる。
（実兼に負けてなるものか）
　とばかり、院も、君子のからだの上で、君子の口を吸いながら、腰を使って、君子の玉門を攻め立てておられた。

「うっ、ううううっ・・・」
　実兼がうめく。
「あっ、ああああっ・・・」
　涼子があえぐ。
　ふたりの声が調和して…。
　ふたりは同時にイッたらしい。
　
　君子の上にのしかかっておられる院にも、もう限界であった。
　君子が上半身を反らし、腰を跳ね上げてきたとき、
「ドクドクドク―――ッ」
　と、院は、したたかに君子の玉門の奥に精を吐き出されていた。

「ふーっ」
　院は、寝具に寝そべりながら、満足そうなため息を漏らされている。
　と、実兼が、やはり寝そべりながら、院の方を見ていた。
　院は、そんな実兼を見て、にやりとお笑いになった。

　ところで、まぐわい（性行為）が、男女一組（ワン・ペア）で行われる秘めごとと考えるのは、現代人の勝手な空想かもしれない。
　かつて、まぐわい（性行為）は、集団での遊びごととして行われたこともあったにちがいない。いわば、男女入り乱れての雑魚寝（ざこね）の習慣は、こうしたことの、ひとつの証左であるかもしれない。
　また、万葉集の時代（８世紀）には、「歌垣」（うたがき）といって、集団で歌いながら異性を口説き、みんなで楽しんだということがあったらしい。
　万葉集に、「人妻に　われもまじらむ　わが妻に　他人（ひと）も言問へ（こととえ）」という歌がある。
　たぶん、年に一度の収穫祭の夜には、無礼講で人妻とも恋ができ、互いが気に入れば、木陰に行って、その人妻とまぐわうこともできたのであろう。
　多くの恋が生まれれば、多くの子に恵まれる。
　人口の少ない時代にあっては、子沢山というのは、村という共同体の生産の拡大を意味したにちがいない。よって生まれた子は、共同体という社会全体の未来を担うものとして大切にされていったのであろう。
　このように、古き時代にあっては、まぐわいというのは、人に隠れて個々に行うというような閉鎖的で不自由なものではなく、もっと開放的で自由なものであったのかもしれない……。

　院は、実兼をじっと見ておられた。
　実兼も、院の視線を反らさず、受け止めている。
　院は、とても実兼に親しみを感じておられた。

　と、院は、実兼に、目で合図をされた。
　実兼が頷いている。
　どうも、ふたりは、牛車の中で打ち合わせていた、わるさを、今仕掛けようと思い立たれたらしい。

　院と実兼は、起き出して…。
　兼嗣と立子のふたりを隠している、衝立を取られる。
　兼嗣と立子は横向きに抱き合い、眠っているようだ。
　もう、一回戦は終わったらしい。

　実兼が、静かに兼嗣の背中に近づいて。そして、背中から羽交い絞めに。
　兼嗣が驚いて、目を覚ます。何が起きたのか、わからないらしい。
　そのすきに、院は、立子の横にすっと、寝転がられて。
　立子が目を覚ます。
　立子が目を丸くしている。驚いて横向きのからだを起こそうとしている。
　院は、起こすまいと立子の左肩を上から押さえつつ、横抱えにされる。
　立子がいやがっている。
　しかし、院は右足をからめながら、がっしりと立子の横腰を抱きかかえられる。

　院の背後からは、泣き出しそうなおとこの声がして…。
　兼嗣の声である。
　それは、まるで母親のお乳から遠ざけられた、赤ん坊が泣くような声であった。
　が、院は容赦をなさらない。
　兼嗣から立子を奪おうとされているのだ。
　兼嗣は実兼に後ろからしっかりと抱きかかえられているはず…。
　邪魔は入らない。
　院は安心して立子の肩を抱き、足をからめていかれる。

　兼嗣と立子はどうも好き合っているらしい。
　兼嗣は、涼子や君子を抱こうとしないのだ。
　それに立子も、院や実兼に抱かれようとしないのだ。
　これでは遊びにならない。
　だから、院はどうしても立子を抱きたいと思われた。
　そして、兼嗣にも、涼子や君子を抱いてもらいたかったのである。
　がともかく、今は、立子から兼嗣を引き離し、立子を抱きたかったのである。
　実兼は、我慢強く院のために、じっと、あばれる兼嗣を抱いているらしい。
　これで邪魔されずに、立子を抱けるというものだ。
　立子がその気になるまでと、院はじっと立子を抱いておられた。

　しかし、立子は、じっとしていないのだ。何とか逃れようともがいている。
　むろん、口吸いすらさせてもらえない。
　逃がさぬよう、しっかり抱いているだけで、精一杯なのだ。
　院には、手がだるくなっていかれる。
　それでも好色な院は、立子を徐々に抱き寄せつつ、下半身をも引き寄せられる。
　立子の内腿が、なんともやわらかくて気持ちがいい。
　院の股間のものは固くなっていく。
　横向きながら、しっかりと立子の内腿に、おのが固いモノを押し付けられていく。
　おとこの股間は、ゴツゴツとしているが、おんなの内股は柔らかい。
　院には、立子の内股に腰を押し付けているだけで、股間の固くなったモノが気持ちいいのである。

「あっ、あああ、あっ」
　後ろの方から、おとこのあえぎ声がする。
　何事が起きたのか、院は後ろが気になられた。
　立子を逃がさぬように、右手で立子の左肩をしっかりとにぎりしめ、その上で後ろを振り向かれる。
　兼嗣が、どうやら、ふたりのおんなに攻められているのだ。
　何しろ、兼嗣は、実兼に羽交い絞めにされているから上半身の動きがままならない。
　そのような状態で、君子に、両足の上に乗っかられ、下半身すら自由が束縛される。
　身動きできない状態で、兼嗣は涼子に股間のモノを攻められているようなのだ。

　院は、からだを元に戻され、立子に向き合って、横抱えをしておられた。
　そして、院は、立子のくちびるを奪おうとなされた。
「いやです」
「よいではないか」
「いやです」
「どうして？」
「どうしても」
「しかし、兼嗣とて、諒子や君子にかわいがってもらっておるではないか。そなたとて、われと楽しもうではないか」
「いやです」

　院は、右手を立子の股間に差し入れられる。
　立子は、股間が濡れていない。
　こんなときに、無理矢理、股間の固いモノを入れると、こちらも気持ちがよいどころではない。痛くてたまらない。
　とすれば、無理矢理入れられる立子だって、痛くてたまらぬであろう。
　これでは決して楽しいまぐわいの遊びとはならないのだ。

　院は、また、後ろを振り向かれる。
　そして、涼子に哀願されるのであった。
「涼子よ、立子がわれに抱かれるのはいやじゃと言っている。どうか、われを助けてくれ」

　涼子が、うなづきかえしながら、にっこり笑う。
　そして、涼子が、立子の足元に移動してきてくれる。
　涼子は、いとも簡単に立子の両足を広げる。
　院は、その手際の良さに感心され、ポカーンと涼子の動きに見惚れておられた。
　立子の股間を、涼子が口で攻めている。
　と、涼子は舌を出して。その舌は、牛の舌みたいに長い。

　涼子は、鼻の頭のところで、立子のおサネをグリグリといたぶっているみたいだった。
　そして、涼子は舌を丸め、それを玉門に差し入れしている。

　よく見ると、立子の玉門は唾以外のもので濡れ始めている。
　そのうち、淫液が、ごぼごぼと湧き出てくるではないか。
　院には、それを見られて、股間のモノを固くされている。

　院は、顔を挙げて、立子の顔を見られる。
　立子は泣いていた。
　悲しいのだろうか、それとも、気持ちがよくてうれしいのだろうか？

　しかし、今、院にはそんなことを忖度されるひまはなかった。
　濡れそぼった立子の玉門に、ビックンビックンと脈打っているモノを、早く差し入れたかった。
　と、ようやく、涼子が身を起こし、『さぁ』とばかり、あごをしゃくって院を促す。
　院は、涼子に代わって、立子の足の間に身を入れられる。
　そして、天を仰いでいるモノに手を添え、ズボリっと。
　院は、スカリ、スカリと抜き差しをされる。
　ああ、何という気持ちのよさ。
　院は目を瞑られる。
　何か、腰に手が当てられたような。それで院は目を開けられる。
　なんと、立子は手を腰に伸ばしてきているではないか。
　立子がきざしたらしい。
　院はうれしくなられて、今まで以上に気合いを入れられ、しっかりとゆっくりと腰をお使いになる。
　すると、立子が、腰をよじりはじめる。

「いいっー、いっいーっ」
　立子がよがりはじめる。
　院には、『こは（これは）信じられぬ』という顔をなさっている。
　何しろ、先ほどまでは、あれほど立子はいやがっていたのだ。
　立子はあえぎ、そして、腰を跳ね上げてくる。
　院は振り落とされぬよう、立子の腰に手を宛がい、立子の腰の動きに合わせて動かれる。

　やがての頃には、立子の腰の動きと院の腰の動きが合ってくる。
　何といっても、立子の蜜壷が濡れ、とても動きやすく、院には満足そうな顔をしておられる。
　院は、腰を大きく使って、玉門の上っ面や下っ面を亀頭部でえぐるように、掻いていかれる。
「あっああ、あっああああっ」　
　立子は、院の体の下で、身を震わせながら、イッてしまっていた…。
　立子が勝手にひとりでイッてしまい、がっくりと体中から力を抜く。
　しかし、院は、ぐったりとなった立子のからだの上で、なおも激しく腰を使われ、そして、気をおやりになった。

　院は、立子のからだの上から寝具の上に降りられる。
　そして、うつぶせになりながら、ふーっとため息を漏らされていた。
　目を瞑られる。
　院は、少し、まどろんでおられた。

　と、おとことおんなが泣き合っているような…。
　院は目を覚まされた。そして、上半身を起こされる。
　なんと、そばに、兼嗣と立子がいるではないか。
　しかも、ふたりは抱き合っているのだ。
　互いに涙を流しながら。
　ふたりは、互いに口を吸い合っていた。
（ああ、ふたりは好き合っているのだ）
　と院は思われた。

　所詮、まぐわいなど遊びに過ぎないのだ。
　確かに、われの固いモノの抜き差しで、立子はイッてしまった…。
　しかし、それは、好きとかきらいとかといった範疇のものではないようだ。
　ただ、からだが気持ちよくなったというだけに過ぎない。
　立子は、心の底から喜んだわけではないのだろう。
　立子の心の中にあるのは、兼嗣だけかもしれない。

　身も心も満たされたい……。
　院は、なぜかその時、あがこのことを深く思い起こされるのであった。
（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
　　「とはずがたり」　　　　　　　　　　　富岡多恵子　著　　講談社　刊
　　「張形と江戸をんな」（Ｐ４５）　　　　　田中優子　著　　洋泉社　刊
　　「出雲風土記の旅
　　　　　　神々のくに　そのくにびと」（Ｐ５３）田川美穂　著　中国新聞社　刊