２２　後深草院の自暴自棄
　
　明け方、牛車が迎えに来た。
　涼子が見送りに出てくれる。
「若者たちは、いいのか？」
「ええ。あの者たちはまだ眠っていますわ」
「ああ、そうなのか…」
　後深草院にすれば、少し心配なところもある。
　これからまたあの若者たちと涼子は一戦交えるのではあるまいかと変な憶測をしてしまって、胸が疼くのだった。
　しかし、院は快かった、涼子がすぐ近くに寄り添って、門のところまで見送りに出てくれるのだから。
　院は思われる、やはり権力は持たねばだめだな、と。
　実際のところ、もし自分が上皇という権力者でなかったとしたら、こんな若くて美しい女は決して相手をしてくれないであろう。
　権力者であるからこそ、寄進系の荘園などを通してお金が集まってきて、涼子にも美しい着物を贈ってやることができるのだ。
　院には、この権力者としての地位を絶対に守ろうと思われた。
　若くて美しい女たちに、ちやほやしてもらうために…。

　院は、御所に帰られて、腹心の鷹司兼嗣（かねつぐ）をお呼びになった。
「兼嗣、わたしは覚悟を決めようと思う」
「……」
「わたしにとっては、権力がすべてなのだ。たった女ひとりのために、権力の座を失いたくない」
「……」
「だから、西園寺実兼（さねつぐ）には、思うようにやってもらう。その代わり、鎌倉幕府との折衝をうまく運び、われらの勢力が弟たちよりも大きくなるように働いてもらいたい…」

　院は、遠くを見つめられていた。
　兼嗣は、院の目に悲しみの色を見ていた。
　御所さまは、二条雅子さまを正妃とすることをあきらめられたのだと兼嗣は思った。
　今、兼嗣は、立子に夢中であった。立子が他の男に抱かれるとしたら自分は本当に狂ってしまうだろうと思った。
　御所さまとて、本当は二条雅子（あがこ）さまがお好きなのだ、誰にも抱かせたくはないと思っておられるのにちがいないのだ。
　しかし、その大好きな二条さまを西園寺実兼さまに預けようとなさっている。政略のひとつの手段として自分の好きな女を他の男に宛がおうとなさっているのだ…。
　御所さまにはどんなにかお苦しみであろうにと兼嗣は心を痛めるのであった。

　その日の夕刻、鷹司兼嗣は、立子の屋敷に出かけていた。
　会えばもう抱き合い、そしてくちびるを吸い合った。
　あわただしくふたりは、はだかになり、互いにからだを密着させ合う。
　鷹司兼嗣は正常位が好きだった。動きながらも、立子のくちびるを吸うことができるからだ。兼嗣は立子のくちびるを吸いながら腰を上下動させ抜き差しをする。そして、立子が自分のくちびるを痛いほど吸ってくれると、兼嗣は頭の中が真っ白になり、股間のモノがプクーッと膨らむのを感じるのだった。そしてその直後しっかりと脈動して白い液を吐くのであった。

　兼嗣は、添い寝をしながら立子の髪を撫でていた。
「立子、そなたは二条雅子さまを知っているよな」
「はい」
「そして、そなたは西園寺実兼さまも知っている…」
「はい」
「あのふたり、できているであろうか？」
「わかりません。でも、あのおふたり、とても危険な匂いがします。だから、いつできてもおかしくないと思います」
「そうか…。で、そなたはどうしてそのように思うのだ？」
「実兼さまは素敵な方ですから…」
「ああ、そうなのか…」
「それに、とても情熱的な方です」
「そうか？、そんなに…？」
「そして何より、不良っぽいところがおありになるし…」
「ふーん、不良っぽい、ね。それがどうしたというのだ？」
「女って、真面目一辺倒ではちょっと物足りなくて。不良っぽいところもある方がいいのです。だから二条雅子さまもそういう実兼さまなら抱かれてもよいとお思いになるのでは…」
「ふーん、そんなものかねぇ？。で、その不良っぽいって、どういうことなんだ？」
「よくは、わからないけど。いつもベタベタするんじゃなくって。時には、突き放してくれて…」
「なんだい、そりゃ。君はわたしが冷たくしてもいいってことなのか？」
「今は、わたしたちのことじゃなくて、二条雅子さまと実兼さまのことでしょ」
「ああ、そうだったね」
「女は、ね、素敵な男性になら、少々冷たくされても構わないの。そして、素敵な男性になら、モノのように扱われてみたいの」
「なんだい、そりゃ。女は、モノじゃないよ」
「ううん、でもそんな風に乱暴に扱ってもらいたいときもあるの」
「うーん、よくわからん」
「実兼さまは素敵な方です。あの方に口説かれたら、二条さまとて平静なお気持ちではいられないと思うわ」
「えっえぇっ！、君もそうなのか！」
「そうですわ」
「そんな！」
「だから、しっかりとわたしを抱いていてくださいな。でないと、わたし、他の男の人にからだを許してしまいますわ」
「そんな…」
　兼嗣は、さきほど、もうしっかりと精をやってしまったというのに…。また、股間のモノを硬く大きくしてしまって…。立子のからだの上にのしかかり、立子のくちびるを奪いに行くのであった…。

　兼嗣は、西園寺実兼の屋敷を訪れた。
　そして、実兼に後深草院の気持ちを伝えたのだ。
　鎌倉幕府との折衝を成功裡に導いたとするならば、何をしても許される、と。
　兼嗣は、実兼がぽっと頬を赤らめたのに気がついた。そして実兼が顔を俯けるのを見て、『実兼さまは深い意味をお悟りになった』と思った。
　兼嗣は実兼の屋敷を辞して、御所に向かっていた。

「なにっ！」
　後深草院は、顔を真っ赤にされていた。
「しかし、・・・」
　兼嗣は言い訳をしている。
「われは、そう、はっきりと言ったわけではない…」
「しかし、御所さま、それでは往生際が悪いというものです。おあきらめください」
「われは、おぬしに、そんなことを頼んだ覚えはない…」
　後深草院は、がっくりと肩を落とされていた。
　兼嗣は、そっと御所を辞した。
　もう賽（さい）は投げられたのだ。後戻りなどできるはずもない。院には二条雅子を独り占めなさることを止めていただかなくてはならない。実兼を懐柔し、鎌倉幕府の支援を得て、亀山天皇派の勢力を殺いでいかねばならないのだ。
　雅子さまを政略の道具にしてしまい、雅子さまにはお気の毒なことをしたと思う。しかし、院を守り、関東申次職を守るためには、誰かを犠牲にしなくてはならないのだ。

　兼嗣は帰ってしまっていた。
　院はひとりになっておられた。
　兼嗣が実兼にどう言ったのか、詳しくはわからない。
　しかし、兼嗣のことだ、実兼にやる気を出させ、勇気を奮い立たせるようなことを言ったにちがいないのだ。
　おとこなんて、単純な生き物なのだ。
　確かに権力を獲得するために画策をするのが好きなのだが、そんな精力は、また、恋する女がいてこそ湧き出（い）ずるものなのだ。
　あがこ（＝雅子）への恋を募らせることによって、実兼も元気を出し、関東申次の職を全うするようになってくれればそれに越したことはない…。

　権力を維持するためには、身の回りにいる女のひとりやふたり、部下に分け与えてやってもいいではないか、そう院には考えられるのだが、心の中は決して平静ではない。
　頭がガンガンと鳴る。そして頭が痛いのだ。
それは、頭の周りに鉄の輪を掛けられ、外から締め付けられるような痛さだった。
　それで院は夕刻前ではあるが寝床に臥せっておられた…。
　と、そこに、文（メール）が届けられた。
　涼子からだった。
　誘いの文であった。
　また、他の男客たちもいるのであろう。
　男たちに抱かれる涼子を見るのはつらかった。
　それなのに…。
　すでに、院には股間のモノを熱くしておられた。
　どんな状況であれ、どんなことが行われるにせよ、その後で涼子のアソコに、この熱く滾ったモノを突っ込めるのだ。涼子のあの中に吐き出すときの快感、それは何物にも代え難いものがあった。
　院にはじっとしておられなくなった。
　院は寝間から起き出しになり、召し物と牛車の注文を発せられていた。

　不思議なことであった。涼子の屋敷に着かれると、院にはすっかり頭痛のことをお忘れになっていた。
　侍女に案内をされて奥の院へ行かれる。
　なんと、今夕の客はふたりだけであった。
　院はなぜかほっとされる。が、よく見ると若者ではない。年配者であった。年はふたりとも４０歳の坂を超えているみたいだった。涼子とはふた回り（２４歳）以上も違う、年配の男たちなのだ。
　年配のくせになんとも物好きなことよ、と院にはお思いになるが、自分とて３１歳になっている。他人のことを言えたぎりではない。それでこうしてお忍びで若い女のもとに通ってきたのが、何となく気恥ずかしく思われるのであった。

　院がお座りになると、涼子がお酒を注いでくれる。
　院は黙っておられる。
　本当なら、『そなたが恋しくて、われはまたここに来てしまったよ』と言いたいのだが、他に来客がいるのだ…。
　涼子は、院の沈黙に耐えられなかったのか、ふたりの年配の男たちにお酌をしに行く。そして話し込んでいる。涼子はその男たちとの会話が楽しいらしい。院はブスッと機嫌のわるそうな顔をしてひとりでお酒を飲んでおられた。
　そして、院には涼子がうらやましいというか、にくかった。若い男であろうと、年配の男であろうと、ともかく快楽を飽きることなく求めていく涼子の淫らな心と体がとてもにくらしく感じられるのであった。
　しかし、そうかといって院は席を立って帰る気にはなれなくて…。自分とて体の中には淫らな血が流れていて、その血がどうしても涼子を求め、例え淫乱な女であろうとも涼子を許さざるを得なくなっていたのだ。

　院には、涼子をチラリチラリと見遣っておられる。
　そして、涼子の濡れた、半開きになったようなくちびるを看られると、股間のモノがウズウズするのを感じられるのであった。

　院は、ひとりおとなしく酒を飲んでおられる。
　それなのに、男たちは、涼子の肩をさわったり、太ももをさわったり…。
　涼子は、その手をはねつけることはしない。男たちに、両脇から抱え込まれるようにしながらからだを触れられ、むしろ、それをうれしそうに受け止め、身を捩じらせている。
「クッ、クククッ・・・」
　涼子が悩ましげな含み笑いをしている。
　院は、怒っておられる。なのに、股間のモノは硬くなる。
　院にはなぜ股間のモノが硬くなるのか、わからない。
　今、男たちの手でおっぱいを触られ、含み笑いをしている涼子を、院は本当におきらいであった。そんなきらいな女なのに、なぜ股間のモノが熱く大きくなるのであろうか？。

　男たちが、ふたりがかりで、涼子を抱え、布団の上に運んでいく。
　よせばいいのに、院もまた、畳の上を這うように、三人の後を追っておられるのであった。
　やや、揉みあげのところに白いものがまじっている男が涼子のくちびるを吸っている。なんということか、涼子はその男の首に手を回し、自分からもその男のくちびるを吸っている。
　もうひとりの男は、なんと、涼子の足を広げ、股間に頭をつけようとしている。その頭、てっぺんにはさほど髪の毛がないようなのだ。
　こんな年配者のどこがいいのだ、そう院には内心毒ついておられるのだが、自分の弱点にはあまり気がついておられない。

　院は、涼子のからだに触りたいのだ。しかし、手が言うことを利かないのだ。
　いかにも物欲しそうにしながら、ふたりの男たちと涼子との遊びの中に入っていけないのだった。
　きっと、院には自尊心（プライド）というものがあって、まだそれを捨てきれていないのであろう。
　今はただ、残りものにありつこうということしか考えておられなかった。
　この男たちの遊戯が終わったら、涼子と別の部屋に移り、そこで涼子を抱かせてもらおうとお考えになっていたのだ。

　頭のてっぺんの毛の薄い男は、涼子の股間に潜り込んで、しきりに頭を動かしていた。
　と、その男が両方の指で、涼子の陰毛を掻き分けている。そして、左右のビラビラ（小陰唇）が交じり合わさっている突端のおサネを掻き出して。そのおサネにむしゃぶりついていった。
「あっ、あああっ、いっいいっ、ハァ、いいわ、いいわぁっ」
　看ると、かたや揉み上げに白いものの混じっている男は、涼子のおっぱいを揉んでいた。

　頭の頂きの頭髪が少なくなった男が、上半身を起こした。
　しかし、その股間のモノはさほど元気ではない。大きいことは大きいが。天井を向いているわけではない、やっと立っているという程度であった。触れば、少しフニャフニャ感が残っているような感じであった。決して、１０代の若者のような、触ればはじき返されるような硬さではないように見えた。
　しかし、そのフニャフニャ感の残る、大きなモノは、なんと、じわじわっと涼子の股間の中に入っていくではないか。
　不思議であった。
　考えられることとすれば、涼子の淫水があふれていて、少々男の陰茎がやわらかくても受け入れが可能かもしれないということであろうと院は思われる。
　頂の薄い男は、からだを屈めつつ、涼子の上にのしかかっていく…。
　涼子のやつときたら、お尻を上に挙げ、男の腰に手をやって、より深く大きな陰茎を受け止めようとしていた。
　涼子のやつは、性の快楽に貪欲なのだ。
　院には、そういう涼子をにくく思われるが、かといって軽蔑はできない。自分とて性の快楽をむさぼっておられるからだ。
　院は、男の腰の動きを見ておられた。
　その巧みな腰使いを見ていると、股間の先っぽから、先走りの淫汁がにじみ出てくる。
『早く終わってくれ、たのむ…』
　院はしきりに祈っておられた。早く、自分の滾った股間のモノを涼子の中に差し入れ、放出（射精）したいのだ。今は頭が燃えるように熱いのだ。早く頭を冷ましたい。それには早く放出（射精）して楽になるしかないのだ。
　しかし、頭の毛の薄い男はなかなか終わらなかった。
　もう一人、鬢（びん）に白髪のある男は相も変わらず、おっぱいを吸ったり、乳首をいじくったりしている。それにこの男、どこか頭が変なのではないかと思われるのだが、涼子の腕を上げさせ、その腋のところに鼻をくっつけ、クンクンと匂いを嗅いでいるようなのだ。
　この男の股間のモノもさほど硬くはなっていないが…。それでも、涼子の股間の中に入り込むくらいの硬さは有しているのかもしれない…。
　今抜き差しをやっている、頭髪の希薄な男が終わったら、たぶん、この揉み上げに白髪の混じった男が涼子の上にのしかかり、陰茎を涼子の玉門に差し入れて、いい気持ちになるのであろう。
　その後でないと、自分は涼子の中に入れることができないのだ。
　院は本当にイライラとして落ち着きを失っておられた。

　頭髪希薄の男はまだがんばっていた。
　その持続力には驚くほかはない。
　それは、涼子とておなじこと。
「あっあ、ああ、あっ、また、イクイク、ああっ、イッイッ――ッ！」
　涼子は何度となく続けさまに気をやっていた。
　院は、もうがまんができなかった。
　頭髪希薄の男のそばに寄られて、声を掛けられる。
「もういいでしょう。すみませんが、わたしに変わってもらえないか？」
「いやいや」
「お願いです」
「いやだ、いやだ」
「では、早くイッてしまってくださいよ」
「いや、まだまだだ」

（くそぉっーっ）
　と、院には思われるが、仕方がない。
　それで、おっぱいを吸ったり、乳首を指先でいじくっている鬢白髪の男のそばに行かれる。
「そなたは、次なのか？」
「ああ、そうだよ」
「すまないが、順番を変わってはもらえないだろうか？」
「がまんできないのか？」
「はい」
「そちゃ、まだわかいのぉ〜」
「すみません」
「よっしゃ、わかった。こいつが終わったら、あんた、次にやったらいいよ」
「ああ、そうですか、ありがとうございます」

　院は、また、頭髪希薄の男の近くに寄って、囁かれる。
「どうか、早く終わってください」
「いやいや」
「お願いです」
「まだまだ」
「早く、早く」
「うんにゃ、まだわしゃ、イカぬ」

「ああっ、イクイク、来て来て、左門さまぁ・・・」
「ああっ、あっ、りょうし、りょうし、かわゆい、りょうし・・・」
　頭髪希薄の男がからだを反り返らせ、全身を振るわせた。そして、がっくりと涼子のからだの上に自分の体をあずけていく…。
　何やら、そのさまに圧倒されて、院は生唾を飲まれていた…。
　全精力を使い果たしたのであろうか、頭髪希薄の男は、上半身を涼子の胸の上にあずけたまま、ぐったりとして動かない。
　院は、うろうろとしておられた。
　早く降りて、変わってもらいたいのだ。
　しかし、そう邪険なことも、無粋なこともできなくて。
「おおっ、左門や、お次の方がお待ちじゃから、はように、変わってやりなされ」
　鬢に白髪の混じった男が声を発している。
「ぁぁぁ…」
　頭髪希薄の左門という男は、眠たそうな目をし、大儀そうに、体を下ろしていく。

　院は、もう待ちきれなかった。
　頭髪希薄の男が涼子のからだの上から降りるや否や、涼子のからだの上にのしかかられて、今にも爆発しそうに、天井を向いていた硬いモノをズブリッとばかり涼子の玉門の中に差し入れて。
　院は動かれる、とてもせわしなく…。
「ああっ、涼子、涼子、気持ちいっい―――っ」
　涼子がもじもじとお尻を動かしている。
　もう涼子のことはどうでもいい、涼子が感じようが感じまいがそれはどうでもいいことで、院はおのれ自身の快感を求めて、ひたすら硬いモノを玉門に打ち込まれていく。
　そして、玉門の中がヒクヒクとうごめく。
「ああ、涼子、ダメダメ、そんなに締め付けては…」
　院は、涼子の玉門の中の襞の肉に、自分の陰茎を、キュッキュッと締め付けられて、もう、腰の辺りが痺れてきてしようがないのであった。
「ああ、涼子、もうだめだ、出る、出るぅうううっ、ゆるしてぇぇえっー」
　院は、両手で涼子の腰を引きつけ、自分の腰をしっかりと押しつけられると、涼子の奥深くに、ドクドクドク―ッと白い液汁を思い切りよくお吐きになっていた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
　　「とはずがたり」　　　　　　　　　　　富岡多恵子　著　　講談社　刊