２９　あがこのそばでイッてしまわれる
　
　二条雅子（＝あがこ）は参院している。
　御所などに上がりたくなかった。
　しかし、その参院を誰も止めようとはしてくれないのだ。
　せめて実兼さまに止めて欲しかった……。

　御所さまの子を産んだのだ。
　それなのにその男の子は奪い去られてしまい…。
　御所さまからはいたわりの文（ふみ）すら来ない。
　いやそれはそれでよかった。
　実兼さまからの文（手紙）をずっと待っていたのだから…。
　実兼さまに、『御所には上がらないで欲しい。あなたはわたし一人のものだから』と言って欲しかった。
　それなのに、実兼さまからは何のたよりもないのだ。

　そのうち、鷹司兼嗣家から女房が来られて。
　その方は何をしにおいでになったのか。
　でもその女房は、帰り際に、そっとつぶやかれたのだ、
「御所さまは、あなたさまのことを大変気にかけておいでのようでございます」
　と。

　御所さまのことを忘れたわけではない。
　苦しみながら御所さまの子を産んだのに…。
　それなのに、御所さまときたら、屋敷に来ても下さらないのだ。
　見舞いの文すらもなかった。
　御所さまのことが許せない。
　けれども、御所さまのお気持ちも何とはなくわかるような気がする…。
　ひょっとしたら、御所さまはわたしが実兼さまと不倫の仲になったことをご存知なのかもしれない……。
　そして、御所さまは怒っておられる…、わたしたちのことを。

　二条雅子にも暮らしがあった。
　実兼さまに頼ることもできない。
　意に沿わないけれど、御所に上がらなくてはいけない、それが女房としての勤め。そして例え気にいらなくても御所の勤めさえしていれば、食べるものや着るものが手に入る。
　二条は、重い腰を上げざるを得なかったのだ。
　そして、心ならずも、御所さまの宿直（とのい）をすることになってしまう…。

「あッ！」
　と、船子が大きな声を上げたので、御所さまは、あわてて、船子の口におのが手を当てられていた。
　すぐそばにあがこがいるのだ。
　御所さまはどうしたものかとちょっと迷っておられる。

　頭の中では、確かに自制心が働いている。
　あがこへの遠慮があるのだ。
　しかし、おのが手は言うことを聞いてはくれないのだ。
　愛撫の手がおろそかになり船子が静かになると、またぞろ好き心が芽生えてきて…。
　船子を横抱えしながらも、手は勝手に伸びて、船子の乳房を揉んでいる。
　やわやわとした、また、水気を含んだ、ねっとりとした感触がたまらなくいい。
　と、コリコリとしたものが親指の腹に当たり、そのコリッとした乳首を親指と人差し指の指先でもみ上げておられる。
「ハぁ、う〜ン」
　船子が細い腕を伸ばして、首を巻いてくる。
　御所さまは、そんな船子を愛おしく思われる。
　船子がくちびるを突き出してくる。
　われとあがことの間には、帳（＝布で作られた、部屋の中での仕切り用の幕）があるのだ。
　われが船子の肩を引き寄せ、船子のくちびるにわれの唇をくっつけたところで、あがこには見られないはずである。
　御所さまは、横向きの顔を船子に近づけられ、船子のくちびるに触れられた。
　首にかけられた船子の腕に力が入ったような。
　それで仕方なく、御所さまからも船子の首に手をかけ、船子の顔を引き寄せながら、チュウチュウとばかり船子の口をお吸いになった。

　しかし、御所さまには、ご自分の頭の中は冷えているようにお感じになっていた。
　股間のモノも今ひとつ元気がないように思われる。
（あがこはどうしているのだろう？）
　御所さまには、やはり、姿は見えないとはいえ、帳（とばり）の向こうにいるはずのあがこ（＝雅子）のことが気にかかられるのであった。
　御所さまは、船子を横抱えにしておられたが、船子の背中に手を回されて。その手で船子の背を撫で、そして船子のくちびるを吸われているのだが、なかなか股間のモノが思うようには硬くならないのだ。
　御所さまは、それでも、船子のむっちりとした内腿の肉を感じようと、股間を船子の股間にくっつけられるのだが…。
　勃（お）っ起たない。アレが立たないのだ。
　腰をピっコン、ピッコンと前後に揺すられるのに、肉棒に芯が入らない。
　フニャフニャのままなのだ。

　と、その時だった。
　かすかに衣ずれの音がしたのだ。
　帳の向こうにいるあがこが、何か身動きしたのにちがいない。
　やはり、あがこは、すぐ近くにいるのだ。
　帳の向こうとはいえ、そばに控えているあがこがとても恋しかった。

　すると、御所さまの頭の中に、あがこが御所の廊下で、若い公家と親しそうに話している場面が思い浮かんできた。

「二条さん、裾にほころびの糸くずが…」
　若い公家が腰を落として、下からあがこを見上げている。
「えっ、なに？」
　あがこの表情がひどく馴れ馴れしい。
「足袋（ソックス）がほころんでいるみたいだよ」
「あらっ、いやぁっ！」
　あがこが媚びた声を上げて。
　あがこは片足をちょっと上げて。
　あがこの白い足首が見える。
　御所さまはドキッとされて。
　でも、われのあがこに話しかける若い公家がにくらしくて。
　そして、若い公家と親しそうにしているあがこがにくくて、にくくて。
　あがこは、わたしが近くにいるということを知っているのに…。
（何という、ふしだらな女・・・）
　あがこの、そのような蓮っ葉な仕草はわれへの当てつけなのかとも御所さまは思われて…。

　御所さまは、先日の、そんな廊下でのことを思い出しながら、妙に胸がうずいて。
　船子という女房を抱いているのに、まるでにくらしいあがこをギュッと抱かれるように、女を抱き寄せられて。再び激しく、女のくちびるを吸われる。
　女が吸い返してきて。御所さまは、ビックンと股間のモノが跳ねるのに気がつかれる。
　あまりにも激しく女のくちびるを吸われ、女が差し入れてきた舌さえも吸い込まれたものだから、少し息苦しくて、女から唇をはずされて…。

「あ・・がぁ・・・」
　御所さまはあわてて自分の言葉を飲み込まれる。
　本当は、『あ・がぁ・こぉぉ・・・っ！』と言葉を発せられたかったのだろう。
　危うくも、目の前にいるのが、あがこではなく船子であることに気がつかれたのだった。
　奥深き口吸い（＝ディープ・キッス）によって、どうも、相手の女に火をつけてしまったらしい。
　女がグリグリと腰を、下半身を押しつけてくるのだ。
　すると、股間のモノが固くなる。

　御所さまの目の前に、苦しそうな顔をしたあがこの姿が浮かぶ。
　あがこのそばに行きたい。
　あがこを慰めてやりたい。
　頭の中ではそう思っておられるのに。
　手は、女の背中を撫で、やがて、腰にお尻にと、移動していくのだ。
　お尻に手を回すととても気持ちがよくて。
　女のお尻を後ろから抱え込み、おのが股間を女の股間にくっつけていくと、ますます股間のモノが喜ぶのだった。

　あがこは耳を塞いでいた。
　なにやら、隣から、おんなの含み笑いが聞こえてくるような。
　そして、御所さまの含み笑いの顔が思い描かれてくる。

（実兼さま、たすけてぇ・・・）
　そう思うのだが、言葉にならない。
　御所さまをうらんでいる。
　だから、御所さまのことを気にしないようとしているのに。
　実兼さまのことを考えて、御所さまのことを頭の中から消し去ろうとしているのに。
　でも、御所さまのことが気になる。
　帳（とばり）の向こうで、若い女と戯れておられる御所さまがにくい。
　御所さまの含み笑いの顔は、とってもきらいだ。
（わたしへの、あてつけなの？）
　あてつけ（＝あてこすり）なんて、御所さまらしくない、そう思うのだが、何だか悲しくて涙がにじむ。
　この場を去りたい。
　しかし、身動きできないのだ。
　まるで呪文をかけられてしまったように…。

　御所さまは、帳（とばり）の向こうが静かなのが気にかかっておられる。
　ひょっとして、あがこは、怒って部屋を出ていったのかもしれない。
　あがこが帳の向こうにいない、そんなことを考えると、股間のモノが萎えていくようなのだ。

　と、御所さまは、首に掛けられた手で、船子によって引き寄せられていた。
　船子は、自分を求めているのだと御所さまには気がつかれる。
（船子は淫気を催しているのだ、船子を喜ばせてやらなくては…）
　御所さまは、船子の股間に手を差し入れていかれる。
『あがこ、すまない…』
　そんなことを心の中でつぶやきながら、御所さまは、女のまたぐらをいじくられていく。
　と、御所さまの中指が、女の穂登（ほと）を探り当てられて。
　指先が濡れていく。
　御所さまは、目を閉じてうっとりとしている女のくちびるを吸われる。
　左腕を立てられて、上半身をやや起こされる。
　そうすると、もっと、右手が女の上から自由に動かせる。
　顔も女の顔の上に来て、しっかりとくちびるを吸えるのだった。
　女のくちびるを吸いながら、ぐにゅぐにゅと指で穂登（＝膣）の中をお掻きまぜになる。
　女の唾液がすごくて、でも、その多い唾液すら気にならない。
　女が喜ぶのならと、その唾液すら、御所さまは吸っておられる。
　下の割れ目（クレバス）からも、淫液の湧出がすさまじい。

　御所さまがとうとう船子のからだの上にのしかかられる。
「あっ、ふーンッ！」
　船子がうめく。
　御所さまはビクッとされる。となりにはあがこがいて、耳をすましているにちがいないのだ。
　しかし、もう、船子のからだの上にのしかかってしまったのだ。
　硬いモノを船子の中に入れずにはおられない状態になってしまっている。
『あがこ、すまない』

　御所さまは、上にのっかったまま、あがこの悲しげな顔が思い浮かんで、硬いモノを船子の穂登（ほと）の中に入れるのをひるんでしまわれていた。
　入れたら、あがこをまた、苦しめることになる。
　と、女が手を下の方に差し入れてきて。
　おんなの指先が、硬くなった先っぽを指でつまんでくるではないか。
　そして、その女は、少し、からだをずり上がらせて。
　その指にもう導かれていくしかない。
「アッ！」
　嵌められてしまっていた。そして、熱いのだ、蜜壷の中が。
　大きな声を上げられて、御所さまには。
　御所さまは、真っ赤な顔をされている。
　あがこにわるいと思われているのだ。
　それに、あがこに見られているわけではないが、思わず声を上げてしまったことが恥ずかしくて。
　でも、もう、硬いモノは、すっぽりと船子の穂登（膣）の中に嵌まり込んでしまっていた。

　御所さまは、上にのっかかっておられるものの、腕の肘のところを寝具につけておられるから、全体重を船子にかけておられるわけではない。
　しかし、何とも、船子の蜜壷が熱くて、そしてぬるぬるっとした淫汁がおち○ち○の根っこのお毛（け）けまでも濡らし、それが何とも気持ちがいいのだ。
　御所さまはもうがまんできなくて、船子の股間をさらに広げつつ、手のひらを寝具に突き、肘を伸ばし腕を立てて、お動きになる。
「ぬるり、ぬるり、ヌルッ、ヌルッ・・・」
　と、すべりよく、おち○ち○が蜜壷の中を行き来する。
　そこまではよかったのだが…。
　御所さまは、さらにおのれの欲望を満たされようとなさる…。
　腕を立てられ、胸を反らし、おのが股間をさらに船子の股間に密着させられる…。

　そして、大きく腰を船子の股間に打ち付けつつ、抜き差しをされる。
『あっ、ああああ・・・』
　と、声が出そうなくらい、気持ちがいい。

　しかし、その一方では、性器の接点から、
「ジュボォ、ジュボォ」
　と、大きな卑猥な音が響くのだ。
　御所さまは、両腕を立てたまま、腰の上下動を止められる。
　卑猥な音をあがこに聞かれるのはいかにもまずい。

　それで、また上体を少し起こし、背を反らしながら奥深くに○ンポを突っ込み、船子の子宮口に亀頭部を固定させ、その接点を支点にして、○ンポの根元で円をお描きになる。
　グリグリと大陰茎を回し、円を描くように腰を回されるが、これなら、両性器の接点から卑猥な音は沸きあがってこない。
　しかし、その御所さまの腰回しに、どうも女は反応してしまうのだ。
「あっ、ああああっ、アン、アアアアッ！」
　御所さまはゆっくりと腰を回しておられるのだが、船子はあえぐのだ。
　困ったことだ。
　御所さまは仕方なく、上体をまた船子の上にもどし、胸を合わせて、船子の口をおのが口でお塞ぎになる。
　御所さまは、口吸いをしつつ、腰を回しておられるが、幾分、円が小さくなったような。
　船子のうめき声を防ごうとすると、どうしても、腰の動きが鈍くなる。
　そして、今ひとつ、気持ちがよくならない。
　雁首を穂登（膣）の中に突き入れる瞬間の、小陰唇で擦られる先っぽの快感、そして、お○ん○んを抜く瞬間の、小陰唇で擦られる雁首のくびれの快感、これがどうしても欲しいと思われる。
　これはもはや、円運動ではなく、深い抜き差し（＝ピストン運動）をする以外には求められぬ快感なのだ。

　御所さまは、あがこのことを気にはなさりながらも、肉の快感を求め、腰の上下動をはじめられる。今はあがこよりも、おのが肉欲の欲望を満たしたいと思われるのだ。
「ズボッ、ズボッ」
　卑猥な音がする。
「じゅぼ、じゅぼ」
　抜き差しの振幅が大きくなるたびに、その音にも変化が訪れる。
「アッ、いいっ、いいワ、いいわ、御所さま、いいわ、とっても・・・」
　そして船子のあえぎも高くなる。
（ああ、こんなことでは、あがこにきらわれる・・・）
　悲しくて、目に涙がにじむようだ。
　しかし、下半身だけは、気持ち良さを求め、蜜壷の中を肉棒が勝手に行き来するのだ。

　不思議なことだが、股間のモノが蜜壷の中で、ぷくぅーと大きく膨らむ。そして、なぜか船子の中のぬるぬる感が、強い締め付け感に変わる。
　その強い締め付けのなか、しきりに動くと、小陰唇の襞肉で硬さの増した大陰茎が擦られ、快感の上昇気流（＝上昇カーブ）は急角度になる。
『あがこ、あがこ！！』
　御所さまはそうお叫びになりたいのだ。
　しかし、あがこは帳の向こうにいる。
　声を出すことはできないのだ。
　御所さまは、『あがこ、あがこっ！』と呼ぶことを我慢されていた。
　心の中で言葉を吐くことを我慢するため、口を真一文字に結んで、からだを使い、グイグイ腰を突き動かされる。
　すると、船子は、腰を跳ね上げ、背を反らして。
「ハァ、もうだめ、もうダメェ、イクイク、イク――――ッ！」
　船子のからだが引きつってしまい、そしてブルブルッとからだを震わせて…。
　船子は先にイッてしまったらしい。
　御所さまはイキ遅れてしまわれている。
　上にのっかかったまま、両肘で体重を支えつつ、しばらく休まれる。

　と、一瞬、気を失ったらしい船子が気がつき…。
　下から御所さまに口吸いをねだっている。
　御所さまは船子の口をお吸いになり。
　そして、ゆっくりと腰を上下動させ、再び抜き差しをおはじめになる。
「ウッ、ウウウウ、ウッ！」
　船子が呻く。
　しかし、御所さまは容赦をなさらない。
　船子の口を塞いだまま、船子の蜜壷を、硬い肉棒で、これでもか、これでもかと、お突きになるのだった。
　それはまるで、われを裏切った、あがこを折檻されるような気持ちであったのだ。
「もぉっ、堪忍、かんにんしてぇぇぇー、ウ―――ンッ・・・」
　船子が大きくのけぞって。
　大丈夫なのだろうか？、御所さまは、腕を立て上体をお起し気味にしながら、船子の顔をのぞき見られる。
　船子の目の端から涙がにじんでいる。
　御所さまが上体を起こすようにして、船子の髪を撫で付けられている。
　と、船子の蜜壷の淫肉が収縮して、肉棒を締め上げる。
「アーン、また、また、イクイク、イク――――ッ！」
　船子が眉間に皺を寄せて。
　その苦しげな顔に、御所さまもとうとう頂きに突き上げられていく・・
「ウッ、ウッグ――――ッ！」
　御所さまは、はしたなくもうめかれて。そのうめき声とともに、肉棒の先から何かがほとばしって行くような…。
「ウッ、うっうううぅぅぅぅ・・・」
　肉棒の根元から大きな波が打ち寄せ、先っぽから淫汁が多量に吐き出されていく…。

「フ――――っ」
　御所さまは気がつかれる。
　御所さまは顔を船子の胸にくっつけておられた。
　おのが顔が熱いのだ。
　そして船子の胸は汗にまみれ、そしておのが背中には汗が噴き出しているのがおわかりになった。

（あがこは、どうしただろうか）
　あがこのことが心配で。
　しかし、御所さまは、船子によって、船子の胸の谷間に頭を抱えられていた。
　身動きできない。
（あがこ、あがこ、許して欲しい）
　御所さまの目から、汗なのか涙なのかわからない液状のものが流れ出していた…。
　快い、吐き出した後は快いのだ。
　しかし、何ということか、心はあがこを求めていた。
（あがこ、あがこ、愛しているよ。こんなわたしだが、おまえだけを愛しているのだよ）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊