３　院の手で愛されるあがこ

　あがこは泣いていた。
　それにしても重いと、あがこは思う。
　自分の上に乗っかっておられる院のからだが、とても重く感じられる。
　そして痛い、自分の股間が焼け付くように。
　何か硬いものがはさまっているようでもある。それに中がヒリヒリと痛いのだ。
「あがこ！」
　あがこの耳元に、院の声がする。
「……」
　あがこは顔を逸らしている。院の声を無視するかのように。
「あがこ、よかったよ」
　あがこは怒っている。
　あがこは、何がよかったのだろうと不審げである。
　と、ズルッと、自分の股間から何かがずり抜けたような。
「ふぅぅぅぅ−−−っ！」
　あがこの耳元に、院のため息にも似たような声が届く。
「あがこ、いとおしいあがこ……」
　甘ったるい院の声がする。
　あがこは、耳元がくすぐったくて。
　でも、がまんをしていた。
　それなのに、院は上に乗っかり、しっかりとまだ、あがこのからだをお抱きになっていた。

　院は、やっと上半身を起された。
　院には、下を見られる。
　あがこのお尻の下に敷かれていた白い布を院はお取りになる。
　その白い布が真っ赤に染まっていた。
　院は、顔を真っ赤にされる。
『やったぞ、わたしが最初にあがこをものにしたのだ！』
　院は、その布で、あがこの陰部を丁寧にぬぐっておられる。

「あがこ、痛かったかい？」
「……」
　痛いに決まっているではないか、とあがこは心の中で答える。
　院は、からだをずらしながら、寝具にわが身をお横たえになる。
　あがこは、重いおもしから解放されたような気がして、仰向けから少し横向きになりながら、院の方には顔を向けないで、むくれていた。
　涙が出る。
　なぜだろうと考える。
　やはり実兼さまが悲しまれることをしてしまったからだと思う。
　頭の中に浮かぶ実兼さまの顔が、泣いている。
　あがこには、その悲しむ実兼さまを慰める手立てが見つからない。
　目の前で、泣いておられる幻（まぼろし）の実兼さまとともに、あがこも身を縮めながら泣いていた。

「あがこ、こっちを向いておくれ。そして、もう泣かないでおくれ。そんなにそなたに泣かれると、わたしは何かわるいことでもしたようではないか…」
　院の言葉が耳に入ってくる。
（御所さまは、あきらかにわるいことをなさったのに…。なんて白々しいことをおっしゃるのかしら）
　と、あがこは怒っている。
「あがこ、わたしを責めないでおくれ。わたしは、そなたを不幸せにしようと思ってこんなことをしたわけではないのだよ。止むに止まれず。そして、そなたが恋しくて、恋しくてたまらず、こんな仕儀になってしまったのだから……」
　まぁ、ひどいと、あがこは思うのだ。
（まったくひどい言い訳だわ。わたしの父まで取り込んで、計画的にわたしのからだを奪っておきながら、なんという言い草なんでしょう）
　あがこは、院を許していなかった。
　
　あがこは、泣き止まなかった。
　院はお困りになっていた。
　なぜなのだろう、と院は小首をかしげながらお考えになっている。
　あがこは、肩を震わせ、時々はしっくり上げるように泣いている。
　それを看ると、かわいそうなのだ、あがこが。
　痛かったのであろうなと、ひどく院は、あがこに同情なされた。

　院は、後始末を終えられていた。
　しかし、このまま、あがこを放っておいて、ひとり眠りにつくわけにもいかない。ふたたび院は、寝ているあがこのふとんの中に、身をすり入れられる。
　そして、あがこに添い寝をされた。
　院は、あがこにからだをくっつけていかれる。
　あがこは逃げない。まだ泣いているのだ。
　それをよいことに、院は、空いている右手を伸ばし、あがこの肩を抱かれた。
　そして、あがこをこっちの方に向かせてしまわれる。
　院は、あがこをわが胸元に引き寄せ、あがこの顔をわが胸にくっつけさせられた。
　あがこは泣いているせいで、顔が熱い。しかも、あがこの涙が、胸にくっつく。
　あがこの体温が、胸に伝わる。
　
　院は、そんなあがこが、かわいくて、かわいくてたまらない。
　あがこのからだから発せられる匂いすら芳しく、院はしっかりと、肩から、あがこを抱き締められる。
　院は、泣くあがこを慰めるように、あがこの背中をゆっくりと撫でておられる。
　しかし、院は再び、催されて来るのだった。
　何しろ、自分の股間はまだ下衣の布で覆われてはいないのだ。
　それに、あがこの股間とて、まだ、剥き出しなのである。
　股間のものが勃（お）っ立ってくるのが、院にはわかる。
　年の離れた妹のようにあがこをいとおしく思っているのに、なんということだと院はお思いになるとともに、自分がいかにも淫蕩な人間のように思われ、頬を朱に染められた。

　そうはいえ、院は、あがこを抱くことをおやめにはならない。
　どうにも、身を離すことはできない。あがこの下半身の方に、自分の股間のものを押し付けになるのだ。
　そうして、じっとしておればよいものを、院は、腰を前後に動かされる。
　と、なにやら、股間のものが、さらにむっくりと大きくなり、熱を帯びてくるように、院には感じられるのであった。
　院は何やらたまらなくなって、あがこの顎の下に手をやって顔を挙げさせ、そのあがこのくちびるをお吸いになった。
　院は、剥き出しになった自分のものを、やはり剥き出しになったあがこの股間に押し付けられている。
　院は、股間の自分のものがうずき始めていることに気づかれている。
　なんとわれは、淫蕩なことよ、と院には思われながらも、自然と手を動かされる。
　その手は、あがこのおっぱいの上に向かう。
　院は、やがて、その手をおっぱいの下に。
　そして、下からゆっくりと持ち上げるように、おっぱいをお揉みになる。
「あっ、あっううううっ！」
　泣きながら、うめくあがこが、院にとっては、残忍なほどにも、いじらしくてたまらない。
　やさしく、時に、いじわるそうに、ぎゅっと、乳房をお揉みになる。
「はぁっ、う〜んっ、んんん、んっんっ・・・」
　あがこが胸を反らしながら呻く。
　あがこの乳首が起（た）ってきた。
　その固くなってきた乳首を、院は、右手の人差し指と中指の間に挟みこむようにし、そして手の平全体で、白い胸を、ぎゅっぎゅっと、まるでお餅でも捏（こ）ねるようにお揉みになる。
「ああっ、あああっ・・・・・ああっ」
　あがこが大きなため息を漏らす。
　脈拍が早鐘のように速く打ち、胸がドクドクと鳴っているような…。
　院は、あがこの呻きに、股間のものがビックンと脈打つのを感じられた。
　股間のものの血管が浮き上がり、蛇のように凶暴になっているらしい。
　もう股間のものを収めずにはいられない。
　しかし、院はがまんをされた。
　なにしろ、あがこは、アソコに血を流したばかりなのだ。
　いくらなんでも、少し濡らしてあげないことには、痛くてたまらないだろうとお考えになった。
　院は、自分の手をあがこの股間に伸ばされる。
　茂みの中で、お○ねを探される。
　さわさわとした陰毛の中に、やや湿り気を帯びた、コリッとしたものが指に当たって。
　院は、探し当てたおさ○を、中指の腹のところで、ていねいにお揉みになる。
「あっ、あっんっ、っん、んんんんっ・・・！」
「あっ！、あがこ、痛いのかい？」
「………」
　返事はない。
　あがこは、腰を後ろに引いている。
　でも、さほど、後ろに逃げていない。
　それで、少しは院には安心された。
　安心をされたので、また、院はしつこく、あがこのお○ねを揉まれた。
　おさ○は、やがて、コリコリっと勃（お）っ立ってくるのだった。

　院は、中指をもう少し下の方へずらされた。
　そして、ゆっくりと、中指一本を、あがこのほこらの中に差し入れられた。
　中は、湿り気を帯びていた。
　院は安堵なされた。
　もっとも、女の本能として、自分のやわらかな、傷つきやすいほこらの中に、固いものを受け入れるためには、防御の本能が働き、自然と湿り気を帯びるものかもしれないと、院は考えられた。
　院は、自分の固いものを何が何でも、このほこらに入れてみたいとお考えになった。
　それゆえに、また、辛抱強く、あがこのほこらの中を指で愛撫された。
　人差し指で、まるで、琵琶の弦でも弾くように、コリコリっとしたおさ○をお掻きになりながら、同時に、中指を湿ったほこらの中で、クリクリっとおかき混ぜになるのだった。
　院の中指が根元まで濡れてきた。
　ほこらは、濡れるものの、広がらない。狭くてとても窮屈そうであった。
　しかし、院は、たとえ、そのほこらの入り口を傷つけても、自分の股間のものを入れずにはいられない気持ちになられていた。
　もう自分のものは、コッキンコッキンに固まり、今にも破裂せんばかりに膨れ上がってしまっているからだった。

　院は、横抱えにあがこを抱え込みながら、あがこの股間に、わが逸物を収めようと考えられたようだ。
　院は、横向きで、下になっている自分の左の腰のあたりに、二つ折りにされた子布団を置かれた。
　２寸（６．６センチ）ばかり、院の腰が上に上がる。
　そして、院は、自由になる右手で、横になっているあがこの左足の足首を捕まえになった。
　院は、あがこの左足を高く、上へお上げになった。
　あがこの股が大きく縦に開く。
　院の股間のお○ん○んは、腹にぴったりとくっついていた。
　院は、とても、窮屈そうに、からだの下から左腕を出され、その左手をお○ん○んに添えられた。
　お○ん○んの先っぽを、あがこのお○んこの入り口へ導かれる。
　先っぽが、お○んこに近づくにつれ、お○ん○んの先からはよだれが流れ落ちる。
　と、あがこが動く。
　院は、少しあせられた。
　しかし、落ち着いて、右手をあがこの足首から、膝の後ろに移された。
　そして、その膝の後ろをギュッとにぎって、あがこの動きを封じ込めになった。
　やや腰を前に進められる。
　お○ん○んの先っぽが、お○んこの入り口に入り込む。院は、グッとばかり力強く、腰を前に突き出された。
「アッ、ギャ――――ッ！」
　あがこは、目から火花が飛び散ったような気がした。
　メリメリっと、何か音がしたような気がしたほどであった。
　あがこは仰向きになろうとするが、院は、そうはさせじと、手であがこの太もものあたりの柔肉をしっかりとにぎっておられる。
「アッ、アアア―――ッ！」
　あがこは、股間がバリバリッと引き裂かれたようで、あまりの痛さに目から涙を流している。
「あっ、あっ、あああああ、あっ！」
　キリキリっと、何か、こん棒のようなものが、まだ奥へめり込んでくるような……。
「ウッ！」
　痛みはない。しかし、苦しい。
　あがこは、あまりの苦しさに、背を反らす。
　その拍子に、あがこは、自分のお尻の穴がきゅっと締まったような気がした。
「うっ、ぅぅぅうううぅぅぅ！」
　院は呻かれた。
　股間のものが締め付けられる。
　院は、窮屈で、動くことができない。
　しかも、ほこらの中が濡れてこないので、抜き差しができないのだ。
　仕方なく、あがこの横に寝転がっておられる院は、あがこの中に、自分のものを突っ込んだまま、腰を前後にお動かしになる。
　あがこは、腰を密着させられているので、自分の腰も大きく前後に振らされる格好になってしまうのだった。
「うっ、うっ、うーん、うーんっ、んっんっんんんっ！」
　あがこは、腰をぐいぐい押しつけられるので、呻く。
　それに、腰を振らされるので、あがこは恥ずかしくてたまらない。

　あがこは苦しいであろうなぁ、と院は心配をされてはいる。
　あがこが、本当にかわいそうなのだ。
　それにも拘わらず、院には、おのれの快楽のためにのみ、あがこの左の内腿を抱え上げ、股を開かせながら、ご自分の腰を前後に揺すられる。
「あーっ、うーんっ、いやいやっ！」
　あがこが額に皺を寄せて苦しがっている。あがことて、腰を大きく振らされているのだ、苦しいに決まっている。
　それなのに、院は、あがこの股間に向かって、腰を突き上げることをおやめにならないのだ。
　院は、あがこを横抱えにしたままでは、とてものこと、気持ちが収まらないほど、興奮なされていた。
　院は、たまらず、あがこをねじ伏せるように仰向けにし、あがこの上半身の上にのしかかっていかれた。
　院は、あがこの上半身にのし掛かったまま、今度は上下に腰をお使いになる。
　あがこの股間は、とても熱くなってきたようだった。
　それに、なんということか、ヌラヌラと中から淫液があふれ出てくるのだ。
　横抱えにしたときには、窮屈であったので、なかなか抜き差しがままならなかった。
　しかし、上にのっかり、腕を立てながら腰を上下動させるうちに、あがこの中に淫液が満ちてきて、抜き差しが可能となってきたのだ。
　あがこのほこらから、クチュクチュという音すら聞こえてくるようになった。
　抜き差しをすると、院にはとても気持ちがよくなられた。
　院はあまりの興奮に、顔を赤らめ、さらに腰の動きをお速めになる。
　と、院にも、爆発のときが近づいてきたようであった。
「ああ、いっいっー、いい、いくいく、気持ちいい、チョー・気持ちイッイッ―――！」
　院は、呻かれ、あがこの肩の肉に、指先が食い込むくらいに激しく抱きしめられる。
　快感の波が腰から湧き上がると、それが一気に脳天を突き抜けて行った。
　院は、ビックンとひと腰跳ねられると、激しくあがこの中で弾かれる。
　そして、ガクッとばかり、あがこの胸に、全体重をかけつつ、うつ伏しになられた。
「あああっ、ふぅぅーっ、よかった、よかった、気持ち、良かったよ」
　やがて、院は、体をあがこの上から下ろし、あがこを、横抱えにしながら、目を瞑られた。
　院にはお疲れになったのであろうか、やがて、あがこの肩に置いていた手もぐったりと寝具の上に落とされ、すうすうと寝息を立てながらお眠りになる。

　院は、夢を見ておられた。
　ひとりの女が近づいてくる。
　近子ではないか。近子が笑っていた。
　院は、１１歳のとき、元服を迎えられたのだった。
　その元服の日の夜、少年の日の院に添い寝をして、閨房（セックス）のことを手取り足取り教えてくれたのが、「典侍大」（すけだい）こと、大納言典侍（すけ）の近子であった。
　どうしたのであろうか、今頃になって、典侍（すけ）が現れるなど…。
　典侍（すけ）が笑いながら近寄ってくる。
　そして、典侍は手を伸ばしてきて、院の陰部をまさぐるのであった。
『あああ、典侍（すけ）、そのようなことを。なんだか、あたまがおかしくなるよ』
『いいのですよ、みかど、御心をお解き放しになって！』
『あああ、変になる、変になるぅぅぅ！』

　と、院は、気づきなされた。
『あっ、夢であったのか！』
「ウン？」
　院は小首を傾げられた。
　なんと、そばに、典侍（近子）がいるではないか！。
　典侍（近子）は、もうとっくに亡くなったはずだが…。
　いや、よく見ると、典侍（近子）ではなく、あがこであった。
　あがこがいとおしかった。
　いや、典侍（近子）がなつかしかった。
　典侍は、最初に添い寝をしてくれた女であったのだ。
　院は、その典侍を忘れることができなかった。
　その後、添い寝をしてくれた典侍は、大炊御門冬忠（おおいの・みかど・ふゆただ）と性交渉を持ち、中院雅忠と結婚してしまったのだ。
　しかし、少年の日の院は、典侍への想いを断つことができず、ひそかに典侍（近子）と会う機会をうかがっていたほどに、心を狂わせていたのだった。

　院は、つい、「典侍（すけ）！」とお呼びになった。
　あがこは、目を覚まさない。
　あがこも、軽い眠りに落ちているらしい。
　あがこは、近子（典侍）の娘。院には、あがこがまるで近子のように思えた。
　院は、思わず、
「典侍（すけ）！」
　と呼びかけつつ、目の前にいる、あがこを抱きしめられた。
「典侍、もう、そなたを誰の許にもやらぬ」
　院は、そう叫びつつ、あがこのからだの上にのしかかられた。
　院は、股間のものが、ギンギンに膨れ、固くなっているのに気がつかれていた。
　典侍（近子）、いや、あがこの足を広げ、あがこの股の間に、しっかりとご自分の体を入れられる。
　そして、典侍（近子）の、いや、あがこの秘裂（割れ目）に、指を差し入れられる。
　院は気ぜわしく、その指を秘裂の奥に押し込み、グリグリと掻きまぜになられた。
　ジクジクと淫液が奥から湧いてくる。
「典侍（すけ）、われは、もうがまんができぬ！」
　院は、夢の中にいて、典侍（近子）に話しかけておられるのだ。
『まぁ、若君さまったら！』
　典侍（近子）の、大人びた艶っぽい声が、院には聞こえてくるようだった。
「典侍（すけ）、もう、われは、入りたくて、入りたくてっ！」
『まぁっ、もう少し、我慢をなさって！』
「いやじゃ、いやじゃ、もう、出そうなのじゃ！」
『まぁっ、仕方のない、若君さま！』
　院は、固くなった股間のものに手を添え、典侍（すけ）の、いや、あがこのお○んこの入り口に、先っぽを宛がわれる。
（ウン？。奥に入らない！）
　院は、下を覗かれる。
　先っぽは、入っているのに、そこまでで、そこから先に進めないのだ。
　院は、左の腕を立て、少し上体を開けながら、右の手で、典侍（すけ）のお○ねをさすられる。
　と、徐々に、典侍（すけ）の戸口がゆるやかになる。
　院は、安心をされ、ゆっくりと、腰を下へ降ろしていかれる。
『ずぶずぶ、ずぶぅぅぅ――っ！』
　院の大陰茎（マラ）が、典侍（すけ）のお○んこの中に埋まっていく。
「はぁ、ふぅぅぅぅ――っ」
　すべて、根元まで埋め込まれて、院はためいきを漏らされた。
「ああ、典侍（すけ）、やっと、そなたが、われのものになったよ」
　院は、幻の典侍（すけ）に、そうささやかれた。

　あがこは、ぼんやりとながら、気がつきはじめていた。
　なにやら、上に物が乗っているような。
　自分のからだが上から押し付けられているような…。
　誰かが、わたしの上にのしかかっているみたい…。
（あああっ、御所さまだわ、きっと）
　あがこは、少しずつ目覚めていく…。
　何やら、股間にものが挟まったよう…。
　それに、股間に挟まったものが、ぐにゅぐにゅと蠢いているような。そして、その蠢きが何やらむずがゆい。

　院は、典侍（すけ）を抱いておられる。
　典侍（すけ）の腋の下に手を入れて、しっかりと、典侍（すけ）の上半身をかき抱かれる。
　そして、ゆっくりと腰を上下動させながら、股間の固くなったものを、抜き差しをなされた。
「ハァン、アッ、アアアッ、ア〜ンっ！」
　典侍（すけ）、いや、その娘のあがこは、腰を揺らしながら、わけのわからないうわごとを口にしている。
　
　院は、怒張した股間のものが、典侍（すけ）の中で、しめつけられるような気がした。
　そして、それにもかかわらず、怒張したモノの先っぽは、さらにプックーーッと膨らんでいく。
「あああっ、典侍（すけ）、イク、イク、われは、もぉ――――！」
「ウ―――ンっ！」
　典侍（すけ）がのけぞり、うめき声を発したとき、院は、もう我慢の限界を超えてしまわれた。
　ドクッ、ドクッ、ドクッ―――ッ、と、すさまじい勢いで、典侍（すけ）の奥深くに、たくさんの気をやられていた。

　あがこは、気がついていた。
　身が縮むほど恥ずかしかった。
　明け方、御所さまに、また挑まれて。
　からだを開いてしまって。
　なんと、実兼さまに言い訳をしたものか。
　実兼さまは、きっと、
『なんという浮ついた女だ！』
　とお思いになることだろう。
　あがこは、実兼のことを思い、悩み沈んでいるのだった。
　
　院も、正気に返られていた。
　夢の中で、典侍（すけ）を抱いたらしい。
　恥ずかしかった。
　典侍（すけ）は死んでいて、この世にはいないのだ。
　しかし、典侍（すけ）の娘、あがこがそばにいる。
　今となっては、あがこを愛するほかに、ないではないか。

　院は完全に目覚められた。
　そして、同様に目覚めているあがこを、寝床の中で、いたわっておられた。
「時は流れていく。けれども、わたしの心は変わらないよ。これから、毎夜毎夜、そなたと会うことができなくても、心だけはそなたのそばにいつも置いておくからね」
　院の言葉を、あがこは、聞いているような、聞いていないような。

　短い夜は明けていく。
　そして、遠くから鐘の音が聞こえはじめた……。
「あがこ、あまりに陽が昇り、明け過ぎては、この家の人々にも迷惑がかかる。わたしはもう帰らなくてはならない」
　院は、あがこのくちびるに軽くくちづけをして、お起きになる。
　あがこがぼんやり見ていると、院は、みずから御衣（おんぞ）をお召しになっている。
　院が近寄って来られる。
　あがこは、まだ床の中に居た。
「あがこよ、そなたと一時（いっとき）でも別れるのはつらい。名残（なごり）がとても尽きないのだよ。でも、いくら名残が惜しいからといっても、わたしは御所に帰らなくてはいけない。せめて、あがこよ、見送っておくれ」
　あがこの肩を掻き抱くように、院が言われる。
　あがこも、お見送りすることまでも冷淡にしてあげては、御所（院）さまがあまりにもかわいそうに思える。
　わたしの好きな人は、実兼さま。
　今でも、実兼さまにはわるいことをしてしまったと悔いている。
　でも、ついさっきまで、そばにいて抱いていてくださった御所さまと、このまま別れるのも、つらいことはつらい。
　
　御所さまとの別れ、実兼さまには顔を合わすことのできないほどの恥ずかしさ、そのような矛盾した想いが、あがこの頭の中で交錯しているのだ。
　でも、しっかりしなくてはと、気だるいからだをあがこは起こしている。
　あがこは、寝具の上に座ったまま、肌着を身につける。その肌着の袖は、夜もすがら泣いたせいか濡れている。
　そして、肌着の上に、薄い単（ひとえ）を引っ掛けて、あがこは立ち上がり、部屋の、廂（ひさし）のあたりへ出てみる。
　あがこは、空を仰いでいた。
　正月１７日の月は西に傾いており、東の空には横雲がたなびいている。
　何やら、あがこは心が沈み込みそうになった。
　御所さまは、もうお帰りになる。
　ひとりになってせいせいするはずなのに、このやるせなくもさみしい気持ちになるのは、なぜなのだろうと、あがこは不審に思うのであった。

　あがこは、後ろを振り返る。
　部屋の中に、院が立って、こちらを見ておられた。
　とても優しいまなざし…。
　後深草院の桜萌黄（さくらもよぎ）の甘（かん）の御衣（おんぞ）に、薄紫の御衣、固文（かたもん）の御指貫（さしぬき）を召されている後深草院のお姿は、いかにも美しい。　その見目麗しい姿が、いつになくあがこの目に止まってしまうのだ。
（この御所さまに、わたしは昨夜、何度も抱かれてしまったのだわ）
　あがこは、ついしんみりとしてしまう。
　一度からだを許すと、どうしてこうも御所さまに心を引かれるようになるのか、何とも不思議な気持ちが、あがこにはするのであった。
　そして、顔には、熱っぽい御所（院）さまの視線を感じてしまう。
（この御所さまに、先ほどまで、あんなに激しく愛されてしまっていて、わたし、とっても恥ずかしいわ！）
　いよいよ帰りの車が寄せられる。
　鳥の鳴き声が聞こえる。
　河崎観音堂の鐘の音までが、何やらわびしさを誘う。
　昨夜の出来事が恨めしくもあり、一方では懐かしくも恋しくもある。
　左にも右にも袖が濡れる。
　それでも、あがこは門まで見送りに出る。

　あたりは有明の月の光で白々となっている。
　庭には、物思わしい雰囲気が漂っているようであった。
　車がちかづいてくる。
　車の御簾が上げられた。
「では、あがこ、また、会いにくるからね」
「……」
　院には、あがこが、小首を横に振り、いやいやをしているように思われた。
　そのしぐさを、院は、あがこが別れをいやがっているようにお取りになる。
「あがこ、われとて、そなたと別れるのはつらい。われは、そなたをさらって、御所に連れて行きたいほどなのだ」
「……」
　あがこが濡れた瞳で院を見上げる。
　突然、後深草院は、あがこをかき抱かれる。
　と、院は、あがこをお抱えになり、車に乗せてしまわれた。
　まるで、盗賊のかしらが、ある家から女を盗み出していくようなさまに似ている。
　あがこにすれば、せめて父上には、何か言付けでもしておかなくてはと思うのに。
　そのようないとまもなく、あがこは牛車の中へ抱え込まれていってしまったのだ。

　車の中の御簾より、有明の空が垣間見えて、鐘の音が渡ってくる。
　あがこは、昨夜はほとんど眠れなかったので、鐘の音に覚めるというのでもない。しかし、何やら夢のような一夜を明かしたようにも思える。
　しかし、夢ならば覚めようが、覚めようもない現実が、ここにはあって、時間だけが無情に流れていくように思えるのだった。
　この有明の空に、何とも悲しいことだと、あがこは顔を伏せ、単衣の袖を目に当てている。

「あがこ、どうしたのだ？。そのような悲しい顔をして。そなたがそのような顔をすれば、われとて胸が締め付けられるように苦しいのだよ」
　あがこの目にうっすらと涙が浮かんでいる。

　車の中でも、御所さまは、しっかりとわたし（あがこ）を掻きいだきになって。
「あがこ、寒くはないかい？」
　とか、
「あがこ、もう、そなたを離したりはしないからね」
　などと、院はわたし（あがこ）に優しくしてくださるのだけれど。
（わたしの運命はどうなるのかしら？）
　と、あがこは、不安で、不安でたまらないのだった。

　牛車が揺れるたびに、あがこのつらさはぐんぐん大きくなる。
　そのつらさを抱えこみながら、涙のほかには、あがこには、わが身の行き先を尋ねる相手もいなかった…。
　そして、それでもとうとう、あがこを乗せた牛車は、御所へと着いたのであった。

（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の書物を参考としました。
　　　新潮日本古典集成　「とはずがたり」　福田秀一　校注　　新潮社　版
　　「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
　　「とはずがたり」　　　　　　　　　　　富岡多恵子　著　　講談社　刊