３３　二条は船子になりきって…

　二条雅子は激しく口を吸われていた。
　誰なのだろう、と二条は思う。
　薄く目を開けてみる。
　まつげ、それは実兼のものであった。
　それなのに、『御所さま、もっと…』と二条は心の中で叫んでいた…。

　御所さまはひどいお方だと思う。
　わたしがそばにいるというのがわかっていながら、他の女をお抱きになるのだから。
　でも今、実兼に抱かれ、口を吸われていると、からだの芯がうずく。
　御所さまはにくいが、このからだのうずきは誰かに鎮めて欲しい…。

　二条は、船子になろうとしていた。
　あの夜、自分が宿直（とのい）をしたとき、帳（とばり）の向こうで御所さまにからだを貫かれていた船子がうらやましかった。だから、今夜は自分が船子になりたいと思っていた。
　今抱かれているのは、実兼さまであって、御所さまではない。
　にもかかわらず、御所さまに抱かれていると思っていた。
　いや、心の中で、御所さまに抱かれたいと思っているのだった…。

　男の舌が、ヌルッと入ってくる。
　その感じ、御所さまのものではなかった。
（ああ、実兼さまなんだわ…）
　目を閉じて、二条は思う。

（顕子さまに、わるい）
　二条は、そう思いながらも、御所さまの、いや実兼の首に回した手に力を込めている。

　実兼は、雅子さんの小袿（こ・うちき＝打ち掛け）を脱がせていた。
　そして、五つ衣（いつぎぬ）を開き、小袖（こそで）の襟に手を差し入れていた。

「いやっ！」
　雅子さんの声が耳元を刺激する。
　しかし、実兼は手をさらに胸元に差し入れる。指は雅子さんの乳房に触れていた。
「ダメよ」
「どうして？」
「顕子さまにわるいわ」
「……」
　実兼は、じっと雅子さんの目を見ていた。
　その目が潤んでいる。
　その目は、本当には批判をしていないと思う。
　実兼は雅子さんの拒絶の言葉を無視することにした。
　と、思わず、雅子さんの乳房をぎゅっと揉んでいた。
「いやよ、いやよ」
「もう、ここまで来ているのですから…」
「顕子さまにわるいわ」
「顕子のことはいいのです」
「そんなひどいことを、おっしゃって…」
「いいのです。愛しているのはあなただけ…」
　二条は、実兼に再び口を塞がれていた。
　
　実兼は、体をずらし、雅子さんの乳房に。
　乳房を揉みながら、乳首を唇にはさむ。
「はぁ〜〜」
　雅子さんのため息に、実兼は、その乳首を舌先で、トロトロと愛撫する。
　実兼は、その乳首をとてもおいしいと思った。

　実兼がお尻を撫でている。
　二条は、とても気持ちがよくなっていた。
　袴（はかま＝スカート）を取られやすいように、自然に腰を浮かし、実兼に協力していた。
　二条は、おっぱいをもっと吸って欲しかったのに。
　男の唇がなくなっていた。
　と、目を開けると、実兼が、狩衣（かりぎぬ＝上着）を取り、小袖（上シャツ）を脱いでいる。
　指貫（ズボン）も取っている。
　その様子に、二条は、実兼よりも御所さまを見ていた。
　いや、二条は、あの夜御所さまに抱かれていた船子になりたいと思っていた。
　そうすれば、顕子さまを裏切ることもない。

　裸身の白い膚を見せながら、実兼が近づいてくる。
　二条は待ちくたびれたように、実兼の首にしがみつき、実兼に口吸いをねだっていた。
　二条は、目を瞑り、
（ああ、御所さま・・・）
　と心の中で叫んでいる。
　そして、あの夜、最もにくらしく、うらやましかった船子になろうとしていた。

　実兼は、雅子さんの下紐を解き、下衣を荒々しく剥ぎ取った。
　もう、自分の股間のモノは、張り裂けそうであった。

（余裕を持たねば、雅子さんにきらわれてしまう…）
　実兼は上体を少し反らし、雅子さんを抱く力を弱めた。
　深呼吸をしている。
　しかし、股間のモノは天を仰ぎ、先からは透明な先走りの淫汁が湧出しているみたいだった…。
　実兼は、じっと我慢をしていた。
　淫気を殺そうとしているのだ。

　二条は、あきたらない。
「どうなさったの？」
「ごめんなさい」
　二条は目を開けた。

「雅子さん、ごめんなさい。少し、休ませてください」
「本当に、どうなさったの？」
「わたしは、興奮しすぎてしまったようで…」
「えっ！」
「このままだと、暴発してしまいそうなのです…」
「まあっ！」
　二条はおかしかった。
　御所においては、とても真面目な、神妙な顔をなさっておられるのに…。
　今の実兼さまときたら、まるで母親にいたずらを見つけられ、しかられて、しょぼくれた、子どもみたいな顔をなさっているのだ。

　二条は、からだをねじって起き上がり、灯りを消していた。
　暗闇が広がる。
「少し、お休みをしましょうね」
　二条には、暗闇とて、実兼のいるところはわかる。二条は、実兼に向かってつぶやく。
「いやです」
「えっ？！」
　二条は、口を塞がれていた、実兼によって。
　でも、闇の中で、二条は御所さまを求めていた。
　そして自分は船子になり、御所さまにいたぶられたいと思っていた。

　船子になった二条は、実兼の、いや御所さまの股間に手を伸ばしていた。
「あっ！」
　実兼が声を挙げる。敏感なモノをにぎられたからだ。
「大丈夫よ。あせらないで」
　闇の中で雅子さんの声がする。

「でも・・・」
「元気なのね。でも、これをすぐに入れなくてもいいわ。でも、あなた、あなたの指で、わたしの・・・」
　二条は、実兼の手を取っていた。
　実兼の手を、二条は自分の股座（またぐら）に導いていた。
　実兼は、おそるおそる、自分の指を伸ばし、雅子さんの蜜壷に。
「あっ！」
　雅子さんの蜜壷はびっしりと濡れていた。
　ゆるゆると、奥へ中指を差し込む。
「はぁ、はぁ、いいわ、あなた・・・」
　中指を今度は外へ抜き去る。
「ア〜ンっ・・・」
　そして、実兼は大胆にも中指を深く差し入れ、そしてゆっくりと差し抜く…。
「ああっ、そんなぁ、うーん、はぁ〜ん」
　実兼は、雅子さんを喜ばせたいと思い、中で、ぐりぐりっといじくる。
「ハァ、ハァ・・」
　雅子さんが、お尻をもじもじさせているような…。
　実兼は、あせらないよう、自制心を持とうと自分に言い聞かせている。
　実兼は、濡れた指を抜いて、そして、濡れた指先で、裂け目の突端のおサネ（＝クリトリス）を揉むことにした。
　そこは、ヌルヌルッとしていて、こちらの指の腹さえ気持ちがいい。
　でも、その陰核（＝クリトリス）が硬く、大きくなる。
「あっ、あああ、いいわ、いいわ、あなた・・・」
　二条は船子になって、御所さまに甘えている。
いや、御所さまの好き心を刺激した船子がにくく、それでも、その船子のまねをして、腰を振っている。
たぶん、それはとってもみだらな姿であろう。
　でも、今は暗闇。
　御所さまの目には見えないはず。
　船子のように、いっぱい、いっぱい、乱れてみたい……。

　実兼は、雅子さんのおサネ（＝クリトリス）を揉んでいる。
　雅子さんのあえぎ声が耳を打つ。
　おサネは中指でしか揉んでいないのに、小指や薬指まで濡れてくる。
　たぶん、雅子さんの蜜壷の中から淫汁があふれ出ているのだろう。
　実兼は股間のモノを入れたくなる。
　その硬くなったモノは、先っぽの裂け目から涎さえ流しているのだから…。
　しかし、今入れたら、爆発することはまちがいなかった。
　今、入れるわけにはならない。

　実兼は気分を逸らすために、蜜壷からあふれ出ている淫汁を舐めてみたいと思った。
　暗闇の中だ。
　恥ずかしいことはない。
　雅子さんの蜜壷に入れてすぐに爆発してしまい、恥を掻くより、まだましである。

　実兼は、暗闇の中で身を起こし。雅子さんに股を広げてもらう。
　そして足を内に折り曲げ、膝を立ててもらう。
　パックリと雅子さんの股が開いたような気がした。
　実兼は顔を雅子さんの下半身に近づける。
　そっと、唇を蜜壷（膣）の入り口へ…。
「あ〜ん、だめぇ〜」
「……」
　実兼は、開いた太ももをしっかりと握り、股座を閉じさせないようにしながら、唇をくっつける。
「アーンッ！」

　二条は、ビリビリッと下半身が痺れ、その痺れが頭のてっぺんまでやってきたように思った。
　もう、船子になりきるしかなかった。
　船子になって、感じたい。
　と、二条は、からだの奥から、また、ジワーッと淫液が湧きだしていくのを感じた。

　実兼は、雅子さんの裂け目に、しっかりと唇を押しつけていた。
　べっとりと雅子さんの愛液で唇が濡れる。
　それに、とってもいい匂いだ。
「あっ、アッ、だめよ、だめよ、あなた、そんなことしちゃ…」
　二条は、股間から実兼の頭をどかそうとしている。

　が、実兼は舌を出し、ぺろりと雅子さんの裂け目からにじみ出ている淫液をすくい取る。
　ちょっとしょっぱいけれど、とても美味しい。
　実兼は、両の手で、雅子さんの下のお口を大きく広げる。そして、口をくっつけて、チュウチュウと蜜壷から沸き出ずる愛液を吸いつづける。
「アンアン、もう、ゆるして、御所さまっ！」
　
　実兼は、ビックンとなる。
　心が一瞬、冷える。
（御所さまに抱かれていると思っている）
　しかし、今、こんなすばらしいことを止められるわけがなかった。
　それに、今やめたら雅子さんがかわいそうな気がした。
　御所さまと間違われていようが構わないと思った。

　実兼は急に思い立ち、顔を上げ、一気にオサネにくらいついた。
「アーン、ダメ、ダメ、だめよぉぉ〜」
　両方の内腿で、実兼は顔を締め付けられる。
　でも、実兼は夢中で、オサネを唇で吸い続けた。
「アーン、イクイク、そんなことしたら、イクッ、イクッ、イッちゃうぅぅぅ―――」
　実兼は顔の横の頬骨が痛くって。
　でも、ビックンビックンと腰を跳ね上げている雅子さんのことがわかる。
　雅子さんは、イッてしまわれたみたいだった。
　それでも雅子さんは、なかなか内腿の締めつけをゆるめてはくれなかった…。

　雅子さんが静かになった。
　実兼はやっと雅子さん内腿の締め付けから顔を開放されていた。
　実兼は上体を起こし、体を上に持っていく。
「大丈夫？」
　闇の中だが、顔を近づけながら雅子さんに尋ねる。
「あっあっ、あなただったの？」
「……」
　実兼は胸が痛む。
　しかし、今こうして雅子さんといられるのだ。
　ここにはおられない御所さまに嫉妬したところでしかたがないではないか。
　
　しかし、ちょっと悲しかった。
　一生懸命相手をしているのは、わたしなのだ、御所さまではない。
　そしてまた、御所さまに抱かれているという錯覚の中で、イッてしまわれた雅子さんも、にくかった。
　実兼は、手を雅子さんの股間に伸ばす。
　そして、蜜壷に指を差し入れる。
「いやっ、もう、いい。もういいわ」
「……」
　実兼は、許さなかった。
　怒っていた。
　御所さまに抱かれていると、錯覚した雅子さんのことが、やはり許せない…。
　雅子さんがやはり下半身に手を伸ばしてきて、股間に置いた実兼の手をどかそうとしている。
　しかし、実兼は、その手をはらいのけ、蜜壷をしきりにいじくる。
　犯したいのだ、にくい雅子さんを。

　が、裂け目から淫液が出ないのだ。
　仕方なく、オサネを刺激することとした。
　オサネを撫でる。
　そして、蜜壷に指を差し入れる。
　乾いている、濡れていない。
　これでは、股間のモノを入れることができない。

　実兼はまた、からだを下の方にずらしていった。
　雅子さんのアソコを唇で愛撫しようと思ったのだ。そしてアソコを濡らし、硬いモノを差し入れようと思ったのだ。
　実兼は丁寧に蜜壷の入り口（膣口）を唇と舌で愛撫する。
　時々は、入り口（膣口）の上にある、オサネ（陰核）を舐めた。
「クゥ、クククっ、クッ・・・」
　上の方で、雅子さんの悶えの声がする。
　その雅子さんの声で、実兼の股間のモノは、ギューンとみなぎる。
　実兼は再び中指を蜜壷に差し入れる。
　濡れはじめていた。
　実兼は、股間のモノが脈打つのを感じながら、指の差し入れを続ける。
「アン、アアアッ、早く、ハヤクッ・・・」
　でも、実兼は股間の硬いモノを入れられない。
　入れたら、ドビャーッと出てしまいそうなのだ。
　だから、実兼は、舌先でオサネを舐めながら、中指の抜き差しを続けることにした。
　
　ゆっくりと指の出し入れする。
　蜜壷から、再び蜜があふれ出てくるのがわかる。
　クチュクチュと闇の中に卑猥な音がして、実兼は股間の、おのれのモノがビックンビックンと猛り狂っているのがわかる。そして、その先端口からは再び涎が垂れ流れていることもわかるのだった。
　入れられない。
　今入れたら、だめになる。
　だから、実兼は、気分をそらさんとばかりに、ぐにゅぐにゅと指で、荒々しく蜜壷の中を掻き混ぜる。
「アッ、アッーッ、ア―――ッ、また、また、イク、イクッ、イク――ッ！」　
　中指が、その蜜壷の締め付けを感じている。

　二条は、からだをくねらせながら、また、イッてしまったことを感じていた。
　二条は自分がどこにいるのかわからなくなった。
　でも、気持ちのいいことが二度ばかりあったことがぼんやりとわかる。
　こんなに気持ちよくなっていいのだろうかという気持ちがある。
　子どもを産んだばかりなのに。
　相手は御所さまではないのに。
　そして、御所さまに抱かれた船子がこんなにもいい気持ちになったなんて、本当に船子がねたましかった。
　船子の、御所さまに硬いモノで身を貫かれたいと思う気持ちがよくわかるのだ。
　
　実兼が、静かに、身を重ねてくる。
「雅子さん…」
「ごめんなさい、わたしばかりイッテしまって…」
「いいのですよ」
「あなたは？」
「まだです…」

　二条は手を下に伸ばす。
　実兼の股間のモノを摘む。
（硬いっ！）
　二条は心の中で叫ぶ。
　この硬いモノで、貫かれたい、と思う。

「ねぇ、あなた、お口を吸って」
　二条は甘えている、実兼に。
　いや、二条としては、暗闇の中で船子になり、御所さまのモノで刺し貫かれたいのだった。
　甘えれば、御所さまはもっとかわいがってくださるはず。

　実兼は身をずりあがらせるようにして、雅子さんの口を吸う。
　すると、もう、出そうになる。
　と、雅子さんの手で先っぽがつままれたような。
　実兼は腰をちょっと浮かせる。
　と、雅子さんは、少し腰をずり降ろされて。
　股を開き、足を折り曲げるようにして。
　そして、蜜壷の入り口に、股間のモノの先っぽを導かれる。
　実兼は、グイッとばかり腰を下から跳ね上げるようにして、大陰茎を入れ込む。
　ズボッとばかり、一気に。
「うっ！」
　実兼はあまりの気持ちよさに、目に涙が滲む。

「あっ、あああっ、いいわ、いいわ」
　雅子さんは胸を反らし、身をよじっている。
　実兼は、我慢している、今にも出そうなのをぐっと我慢しているのだ。
　できるだけ長く持ちたかった。
　できるだけ、雅子さんの中で、硬さを保ちたかった。
　いったん出したら、ふにゃふにゃになってしまうのだ。

　雅子さんが腰をよじる。
「あっあああ、動かないで…」
　泣き出しそうに、実兼が訴える。
「あっあああ、いいわ、いいわ…」
　でも、もう限界だった、実兼には…。
「雅子さん、わたしはもうだめ。もう、だめですぅ。・・・出そうです…」
「お願い、もっと、もっとよぉっ」
「でも、でもぉっ・・・」
　そう言いながらも、実兼は動く。
　額に汗がにじむ…。

「もっと、もっとよ、お願いっ・・・」
「あっあっ、もう、だめ、だめです」
　実兼は、もう我慢できず、涙が出そうだった。

「あっ、あああ、わたしもイキそうよ、あああ、あっ、イク、イク、イクっわぁっ！」
　二条は胸を突き上げ、下半身を反り返らせ、何やら叫びながら、深い谷底へ落ちて行く。
　実兼は、振り落とされないよう、しっかりと雅子さんの上半身にしがみつき、ドクドク――ッと、激しい気をやっていた…。

（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊