４０　実兼の愛撫に乱れる二条

　鷹司兼嗣は屋敷で酒を飲んでいる。
　妻の立子がお酌をしてくれているのだ。
「それにしても、立子、近頃は御所さまと関東申次（かんとう・もうしつぐ）の西園寺さまとの仲が悪くて…」
「そうでございますか」
「あのお二人には、仲良くしていただかなくては…」
「……」
「そうでないと、亀山天皇派にやられてしまう」
「御所さまと関東申次さまとは、どうしてそんなに仲がお悪いのでございますか？」
「それはわかりきったことではないか。二条雅子（あがこ）さまを巡っての争いごと。御所さまと関東申次さまとは互いに恋敵ゆえ…」
「困ったことでございますね」
「そうなのだ。今はそういう時期ではないのに…」
「そうですわね」
「朝廷内で、亀山天皇派だの後深草上皇派だのと争っていてよい時期ではない」
「と、おっしゃいますと？」
「蒙古が高麗と一緒になって、わが国に攻め寄せて来るかもしれない…」
「まぁっ、恐ろしいこと！」
「こういう時期だからこそ、朝廷と幕府は心を一つにして、外敵に当たらねば…」
「御所さまには、そういうことは、もうおわかりになっているのではありませんか」
「そうだな。たぶん、わかってはおいでなのであろう。しかし、御所さまは絶対の権力者。諭す者がいないのだ」
「でも、どなたかが、御所さまをおいさめなさらなくては……」

　このところ、御所の中で、後深草上皇（＝御所）の評判が良くない。
　身分の低い女のところにお泊りになるからだ。
　しかも、朝になってお帰りなのはともかくとしても、お昼になってもお帰りにならず。
　夕刻にお帰りになるのだった。
　しかも、青白く、頬が欠けような、ひどく疲れた顔をしてお戻りになる。
　淫行（セックス）に深入りなさっている証左である。

「御所さま、よろしゅうございますか？」
　兼嗣は無理矢理、御所さまに面談を申し込んでいたのである。
「おお、兼嗣か。なんぞ用事でもあるのか？」
　御所さまは気だるさを感じておられる。

　涼子の屋敷で、何度も精を漏らしたのだった。
　君子は、一見、弱弱しそうなおなごに見えたのだが。
　いや、それは違っていた。
　閨の中では、まことに、しなやかな肢体の持ち主であり、疲れ知らずであった。
　何度も、君子の肉体にむさぼりついていってしまった…。
　今は、何となく気力が湧かない。
　いつまでも、横になっていたい…。

「御所さま、夜遊びが過ぎるのでは…」
　鷹司兼嗣の言葉が、胸にも頭にも痛い。
「まぁ、よいではないか。これでわれとて鬱屈しておる。時には遊びで発散せねば…」
「このままでは、亀山天皇さまの世仁（よひと）親王（＝のちの後宇多天皇）さまが皇位にお就きになられます…」
「……」
　御所さまには、鷹司兼嗣に反駁される元気もなくて…。

「御所さまには、少しは身を慎んでいただきませんと……」
「兼嗣、そのようにうるさいことを言うてくれるな」
「しかし、鎌倉幕府とて、御所さまの悪しき行状が耳に入れば…」
「幕府は相変わらずか？」
「蒙古や高麗が攻めてくるのは、もうまもなくと、幕府側はにらんでおります」
「そうか」
「幕府としては、借金を棒引きして、武士たちを救っております」
「うん？」
「それだけ今は、武士を大事にしているわけでございます。蒙古の兵と戦うのは、武士たちでございますから…」
「戦（いくさ）ともなれば、われらは、何の役にも立たぬというわけか…。が、それにしても、そんなに武士たちを優遇したいのか、鎌倉は…」
「武士の中には困窮する者たちもおります。彼らは所領（土地）を質入れして、借上（かしあげ）から銭貨を借ります。しかし、その借金が返せなくて質流れとなり、所領を失ってしまう者もいるのです」
「しかし、それでは、借上（＝高利貸し業者）たちの不満が募っていくのではあるまいか？」
「確かに…。借金を返済しなくても、武士たちには質入れをした所領が戻って来るのですから。借上（かしあげ）たちにとっては、まったくの貸し損ということになります…」
「武士たちとっては、まことに厚遇の措置ではあるな」
「御所さま、幕府は、そこまでして、来るべき蒙古の襲来に備えているのでございます。蒙古と高麗がやって来るのは、もう間近にございます」
「いやなことを申すな、兼嗣は…」
「御所さま、故後嵯峨法皇さまの追善供養のこともお考えなさってください」
「兼嗣、例えば、われは何をすればよい？」
「法華経の書写をなさってはいかがか、と」
「う――んっ・・・」
「そして、夜遊びは当分、お控えなされて…」
「うーむ…」

　御所さまは一人になられていた。
　うるさい兼嗣がやっと帰ってくれたのだ。
　御所さまは、身を横たえておられる。
　鷹司兼嗣は、関東申次の実兼とさらによしみを深くして欲しい、と訴えていた…。
　そんなことができるだろうか？。
　それに、兼嗣は、女を断ち、写経でもなされたらと勧めていた。
　涼子や君子とのまぐわい（セックス）をわれが我慢できるというのだろうか？

　それに、実兼のやつは、最近、二条あがこの許に入り浸っているというではないか。
　そんなやつと仲良くしろと言われても。それはとうてい、できないことだ。

　御所さまは、二条あがこのことを想われる。
　二条のことが忘れられないのだ。
　二条の笑顔を思い出すと、胸が掻き毟られるほど恋しい。
　しかし、なぜか、会いに行けない。
　御所で、声を掛け、呼び止めるということができないのだ。
　なにか、最近では、互いが互いに避けているような…。

　それに、涼子ともしっくり行かない。
　無理もない。
　涼子を縛りつけ。猿轡をし、目隠しをし。その涼子のそばで、君子と戯れたのだから…。
　御所さまは深いため息をおつきになる。
（一体、わたしは何者なのだろう。ごく平凡に生きたいのに。むしろ、荘園に暮らす農奴たちのように、太陽の許で、からだを動かし、何のことを憂うこともなく、のんびりと毎日を送り暮らしてみたい。そして、あがこといつも一緒にいて…。あがこといつも田畑で働き、そして夜は互いに体をくっつけ合って眠るのだ…）

　文永１０（１２７３）年も、早や暮れになっていた。
　二条雅子（＝あがこ）は御所から里下がりをしていた。
　二条はなぜか、気持ちが晴れない。
　御所さまはちっとも声を掛けてくださらないのだ。
　なにかよそよそしい。
　いつもわたしを避けておられるようだ。
　それに、噂なのだが、御所さまは、夜な夜な、牛車を繰り出し、若い女のところへお通いになっているという。

　二条は横になっていた。
　ところが、誰かが屋敷に…。
　西園寺実兼がやってきたのであった。
　二条は、実兼を迎え、お酒を出す。
「御所さまには、困ったものですね」
　実兼が問いかけている。
　二条は返事をしない。
　その代わりに、自分で盃にお酒を注ぎ…。
　そして、それを飲み干す。
「もう少し、政務にご熱心になっていただかなくては…」
「……」

　二条は実兼の問いに答えかねていた。
　実際、御所さまは政務にご熱心ではない。
　しかし、その原因は…。
　たぶん、若い女に心を奪われておられるからなのだろう。
　わたしには、御所の廊下で会っても、声を掛けてくださらない…。
　夜ごと、わざわざ御所を抜け出て、若い女の許にお通いになるとは…。
　そして、何度も何度も、その若いおなごのからだをお抱きになっているのでは…。

　二条は心が乱れていた。
　二条は、実兼を前にしながらも、時々、御所さまのまなざしを思い出していた。
　あのまなざし…。
　あれは、まだ、わたしのことを、想っていてくださ…………。

　実兼は、御所さまの話題から遠ざかり…。
　若い貴族たちと、舟遊びをしたことを、話して聞かせていた。
　でも、時々は、実兼の目が光り…。実兼さまはわたしのからだを抱きたいと思っていらっしゃるのだわ、と二条は思っていた。

　いつしか、二条は実兼と、とりとめもない話を繰り返しながら、朝を迎えてしまっていた。
「あらっ、もう朝を迎えてしまったのですね」
「ああ、そのようだね…」
「顕子（けんし）さまはきっと、あなたさまのお帰りを待っておられますわ」
「そんなこと、あなたが心配なさらなくても…」
「でも…」
「あの人のことは、どうでもよいのです」
「そんなことをおっしゃって…」
「あなたにとって、もうわたしは用無しなのですか。一晩中、話し相手をさせられて。それで何もなく…」
「……」
「では、わたしは顕子の許に帰りましょうか？」
「……」
　なぜか、二条は胸が痛い。
　御所さまが恋しいのであろうか。
　それとも、顕子への嫉妬なのだろうか。
　このまま実兼さまが正室の顕子の許にお帰りになっても、わたしはちっともさみしくはないはずなのに…。

「あなたは冷たい人ですね」
「えっ、どうして？」
「引き止めてはくれないから」
「引き止めて欲しいのですか？」
「はい」
　実兼が子どものような顔をしている。

「あなたを抱きたいのです」
　実兼のすがりつくような目。
　それをどうしてことわれようか…。
　二条は、立ち上がり、隣りの寝所へ向かう。
　後から、実兼も付いてくる。
　二条は実兼のために寝着を差し出す。
　寝所には、実兼の寝着も置いてあったのだ。
　もう実兼は二条の愛人になっていた…。

　二条は、唐衣（からぎぬ）を取り、打ち袴を脱ぎ捨てていた。
　二条も、寝着に着替えていた。
　すでに、実兼は寝具の中にもぐりこんでいて。
「ねぇ、はやく…」
　実兼が催促している。
　二条はちょっとじらしている。
「もう少し…」
「何をしているのです？」
「打ち衣（うちぎぬ）や五つ衣（いつつぎぬ）が皺になりますもの」
「雅子さん、わたしはもう待てないよぉ」
　二条は、小袖をたたんでいる。
　しかし、実兼は寝具から抜け出し、二条を背中から、羽交い絞めにしてしまう。

　腋から手を入れて。
　実兼は、うなじをくちびるで攻めながら、お乳を揉んでいる。

　後ろの首筋に、熱い息を吹きかけられて、二条は胸を疼かせていた。
　耳の後ろを実兼さまの唇が這っている。
　しっかりと後ろから抱きかかえられて。
「愛しているよ」
「顕子さまは…？」
「顕子より、ずっとずっと、あなたのことを…」
　二条は不安なのだ。
　御所さまにとっても、自分は正妃ではない。
　愛人にしか過ぎないのだ。
　実兼さまにとってもそうなのだ、正妃は顕子さま…。わたしは愛人でしかない。

　実兼が二条の寝着を剥ぎ取る。
　肩から、二条の白い肌が現れ出る。
　その白い肩口に、実兼が接吻（キッス）をする。
「寒いわ」
「では、布団の中に入りましょう」
　二条は寝具の中に導かれていた、

　二条は、背を向けていた。
（御所さまにわるいわ。御所さまを裏切っているような…）

　でも、実兼さまは、横抱えするように、背中から抱きついてくる。
　男は、首筋に唇を這わせながら、後ろから回した手で、ムギュとばかり、おっぱいをにぎってくる。
「あっ、ふーん。乱暴にしないで…」
「ごめん」
　そう言いながらも、実兼は、ぎゅっと、おっぱいを手の平ににぎったまま。
　そして、むぎゅむぎゅと、その長い指で揉んでくるのだ。
　そして、背中に抱きつき、下半身の股座すらぴったりとお尻にくっつけてくる。
（ああっ、実兼さまったら、もぅ、硬くなさって）
　実兼の股間のモノが、こっつん、こっつんと、お尻を突っついているのが、二条にはわかるのだった。

　実兼さまったら、乱暴にもわたしを仰向けになさって。
　そして、顔を押し付けてきて。力いっぱい、わたしの口を吸い上げて。
　それから実兼さまは、お口を大きく開けて。わたしの舌を自分の口に誘いこみ、ちゅうちゅうとお吸いになる。
「ふーん、くるしいわ、ちょっと…」
「そうなの？」
　実兼さまは顔を離してくれて。

　実兼さまは、寝着を取られ、裸になられていく。
　再び、わたしを襲われる。
　覆いかぶさってきて。
　思い切り、わたしのくちびるや舌をお吸いになって。一瞬、御所さまのお顔が。でも、もう、わたしは頭の中がからっぽになって。どうなってもいいとさえ思えてくる。
　実兼さまが体をまったく密着して来られ…。もう、実兼さまの股間のモノはビックンビックンと跳ねているみたいで…。
　その硬いモノが、わたしの股間をさまよっているみたいで…。
　耳たぶから、うなじへと接吻の雨を降らされて…。
　おっぱいを、むぎゅむぎゅと揉まれ、腰をもじもじしていると、乳首を思いっきり吸われて。
「アーン、アッフーンッ！」
　コリコリっとして来た乳首を、指先で揉み揉みされると、なんか、じわぁーっと、股間が奥から濡れてくるような…。
　実兼さまは、わたしの股間にもう、片方の足をお差し入れになって。
　その足で、わたしの股間を広げ、そして、恥丘のあたりを腿の上側でこすられる。
「あっ、あああっ・・」
　そして、お乳を揉まれながら、乳首を吸われていた…。

　おなかを撫でられていると、もう、じっとはしていられなくて。
　蜜壷から淫液があふれ、股間が濡れてきて…。
　敷き布団がよごれるようで、ちょっとばかりお尻を上げたくなるような…。
　おなかに唇を這わされると、もうはやく、下衣の紐を解いてもらいたくなる。

　実兼さまの手がようやく、股間の茂みに触れてきて…。
　実兼さまの手が、やさしく股間の草叢を這う。
　そして、指に草をからめ、そして草叢を掻き分けられる。
　それから、下の窪みに、指先が当たり…。
　恥ずかしい。
　だって、もう窪みは、蜜壷からあふれた淫液でビチョビチョになっているにちがいないから・・・。
　
　指先で、蜜壷の入り口にあふれた淫液を掬われる。
　そして、濡れた指先で、こりこりとした陰核を、塗るように撫でられて。
「はぁっ、はぁっ・・・」
　思わず声が洩れ出てしまう。

　実兼さまに、両手で腰を捩られ、そしてお尻を上げさせられ、下衣を取られてしまう…。
　もうわたしのすべてが、実兼さまの目にさらされてしまって…。
　腹部に実兼さまの焼けるような熱い視線を感じてしまう。
　でも、股間がさらに濡れていくのはなぜなのだろう。
　おなかを舌先で舐められ。
　指先が、蜜壷に入ってくる。
　実兼さまに、かき回されて。
　とってもいい気持ち…。
　もっと、蜜壷の奥まで、ぐりぐりっと掻き回して欲しいような。
　わたしの蜜壷の襞肉はヒクヒクと脈打ち、もっともっと欲しがっている…。

　実兼さまのお指が出入りするたびに、クチュクチュと音がして。
　わたしのあふれ出る淫液のせいなのかしら。そのいやらしい音がだんだんに大きくなっていく…。
　わたしの蜜壷を掻き乱すものは、実兼さまの中指で…。
　その中指が、最初はおとなしかったのに。今は、我が物顔で、あばれている。
　ああ、そして、実兼さまったら、親指の腹で、わたしの敏感な陰核（クリトリス）を。
　蜜壷と陰核を同時に愛撫され、あまりに気持ちよくて、腰が自然に浮き上がってしまう。
『ああっ、お願い、おっぱいをもっと強く揉んでぇ・・』

　お指ではない、もっと太くて硬いものが欲しいような。
　わたしは、腰を浮かして、催促している…。
　だって、とっても気持ちがいいもの…。
　それに、実兼さまったら、わたしの下の方ばかりに行ってしまわれ…。
　実兼さまにしっかりと胸を抱いてもらいたいのに。
　そして、あの実兼さまの分厚い胸にすがりつきたい…。
　いや、股間の奥深くを、実兼さまの硬いモノで貫かれたいと思う…。
「あーん、もぅ、もぉ・・」
　実兼さまは、あそこがもうびちょびちょに濡れそぼっているというのに、さらに濡らさんとばかりに、指で蜜壷を掻き回されるのだ。
　実兼さまったら、わざと、わたしをじらそうとなさっておられるのかしら…。
　これまでに、ずいぶんと抱いてもらっているような気がする。
　もう、実兼さまには、わたしのからだの弱点を知られてしまっている。
　ああ、そんなに陰核をいじられたら、頭の中が狂ってしまうわ。
「ああっ、あああ、欲しいわぁ！」
「・・・・」
　実兼さまが身を起こす気配が…。
　もうすぐだわ。
　ああ、足を大きく開かれるわ。
　ああ、欲しい、欲しい、ハヤクぅ！
　お尻が実兼さまの手で、ちょっと持ち上げられたような…。
『ああっ、入ってきた！』
　脳天まで突き抜けるような快感が…。
　わたしは、もうしっかりと、両の足を実兼さまの腰に巻きつけて。
　決して実兼さまの股間のモノを逃がさないようにと。

　ああっ、とっても息が苦しいわ。
　実兼さまのゆるやかな動きが股座の腿を刺激し、そして蜜壷の奥からうねりのような波が打ち寄せてくる。
　でも、しっかりと動かれている。
　はらわたまで、実兼さまの動きが伝わってきて…。
　わたしは、下半身から突き上げるような快感に襲われる…。

「ああ、お願い、おっぱいを吸って・・」
　実兼さまが乳首を含んでくださって。
　歯でコリコリっと、噛んでくださる。
「ああっ、いいわ、とっても・・・」
　実兼さまの頭をしっかりとわたしの胸に抱え込む。
　すると、実兼さまは、本当に、わたしのおっぱいにむしゃぼりついてきて…。
「あああっ、いいわ、いいわ」
　実兼さまの腰の動きが激しくなる。
　あの実兼さまの硬いモノがわたしの中で、あばれ、そして、どんどん大きく膨らんでいく。
「雅子さん、雅子さん」
「ああ、いいわ、いいわ、来て、来て！」
「ああ、いいよ、いいよ、イッテしまうよ」
「ああっ、いいわ、いいわ、来て、来て」
「ハァッ、イクイク、イッてしまうよぉ！」
「いいのよ、いいのよ。ああっ、お願い、一緒に、一緒に、よぉ！」
　わたしは、ふわぁっと浮き上がり。まるで雲の上で寝ころがっているような・・・。
『ああっ、実兼さまが、わたしの中ではじけるぅっ！』
　わたしは、のけぞり、実兼さまの背にしっかりとしがみついて。
「はぁ、ぐぅぅぅ―――っ！」
　わたしは仰向けになったまま、真っ逆さまに、谷底に落ちていく……。
　気が遠くなって…。
　でも、闇の中で、なつかしい声が…。
『あがこぉぉ、あがこぉぉ・・・』
『だぁ〜れ・・・？』
『あがこ、あがこ、わたしだ、わかるか、わたしだ・・・』
『ああっ、ごしょさぁ、まぁっ！』

（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊
「時頼と時宗」　　　　　　　　　　　　奥富敬之　著　　　ＮＨＫ出版　刊