４３　口づけの雨を降らされて

　御所さま（＝後深草院）に呼ばれ、二条あがこは、恐る恐る、御前に進み出ていた…。
　二条は前に出るのは、いやだった。
　身重なのだ。しかもその子の父親は実兼さまであって、御所さまでは決してない。
　それなのに、自分は御所に上がってしまっていた。
　実兼さまが、にくかった。
　実兼さまは、わたしに言ったのだ、
『精進潔斎の行が終わったら、後深草院には必ず女をお呼びになるでしょう。その時はあなたが真っ先に手を挙げて欲しいのです。そうすれば、わたしたちの子であるということを隠すことができるはずですから』
　と。
　実兼さまは、わたしに『御所さまに抱かれろ』と言ったのだ。これがにくくて何がにくいであろうか。
　恋しい女を他のおとこに抱かせる、そんなことがあるだろうか。
　実兼さまは、本当には、わたしのことを愛していらっしゃらないのではなかろうか。

　二条はうらめしかった、実兼が。しかし、その一方では御所さまのことも気になるのであった。
　御所に上がって、もし御所さまに声がかからなかったとしたら…。
　やはり、女としてはさびしいことだ。声がかからないということは、御所さまの心が他の女に移り、わたしからは離れてしまっているということだから…。

　いや、この際、御所さまから、『今夜は、閨に来てくれよ』という声がかからないことを二条は、ひたすら祈っていたのだ。
（御所さまを裏切りたくない。そこまでして俗世にこだわりたくない。尼寺に入りたい…）

　なぜ、あがこは暗い顔をしているのだろう。
　御所さまは、不審に思われている。
（からだに何か不具合なことでも生じたのであろうか？）
　本当に御所さまは、あがこの身を心配しておられるのだ。

「あがこ、そなた、いつものような元気がないが…。いったい、どうしたのだ？」
「御所さまには、写経の行、ごくろうさまでございました」
　か細い声が耳に届く。
　しかし、御所さまは、そのか細い声の中に、親しみを感じ取ることができなかった。
（あがこは、いつも冷たい…。そして、今、こうしてふたりっきりになっても…）
　御所さまは、実際、ため息をつきたい気分になられていた。
（こんなことなら、いっそ、涼子の許に行った方がよかったかもしれない…。こんな冷たい、人形のようなあがこを抱いてもおもしろくない…）

　御所さまは、それでもじっとあがこを見ておられた。
　あがこは、顔を伏せてじっとしていた、肩を落として…。
　やはり、こうして見ると、あがこは愛しい女であった。
　その肩がいかにもか細くて、はかないげに見ゆるのだ。
　しかし、そのか細さが何とも、男心を掻きむしる。
　それにしても、あがこは立ち去ろうとはしない。
　まんざら、ここにいるのがいやでもなさそうだ。
　あがこはしっかりしたおなごだ。
　いやならいやと、きちんと言葉に出して、自分の気持ちを伝えられるおなごなのだ。

（われは、まだ、あがこに、完全にはきらわれていない）
　御所さまは、勇気を奮われ、言葉を吐かれた。
「いったいどうしたというのだ、そんな青白い顔をして…」
　あがこが顔を挙げる。
　そして、こちらをじっと見つめている。
　大きな、澄んだ目。
　その目が、何かを訴えかけようとしている。
（あがこは、われに何を訴えたいのであろう？）
　御所さまは、あがこの心が知りたかった。
　近くに寄り添えば、多少は、あがこの心を打ち溶けさせ、あがこの心の中もわかるかもしれない…。
　御所さまは、勇気を出して、あがこのそばに、にじり寄られる。
（われは、このおなごが好きなのだ）

　御所さまは、息を呑まれる。そして、そっと肩に手を置かれる。
　あがこは身動きしない。
「何か、心配ごとでもあるのか？」
　御所さまが優しく問われる。
「……」
「黙っていてはわからぬではないか。まったくそなたらしくもない…」
　そう言いながら、御所さまは肩に置いた手に力を込められる。

「ぁぁぁ…」
　あがこは、切ない声を漏らせつつも、御所さまに肩から抱きすくめられていた。
（こんなことでいいのだろうか。わたしは実兼さまの子を身ごもっているというのに…）
　あがこは身を細くしている。

　しかし、御所さまは、そんな縮こまっているあがこが愛おしくてたまらないのであった。
「この１カ月半のあいだ、わたしは、いつもそなたのことを想っていた…」
（『うそぉっ！』）
　あがこは、心の中でつぶやく。
（浮気な御所さまのこと、わたしなんかのことより、他の女のことを想っていらっしゃったに、ちがいない…）

「そなたを想わぬ日はなかった…」
「そんなこと…」
「そなたは、毎夜、会話をしていたのであろう？」
　あがこは、ドキッとする…。
（まさか、実兼さまとのことが、知られたのかしら…）
　あがこは息を潜めていた。

「月を相手に…」
「・・・」
「わたしには、そなたのような風流なこころはない。そなたがいないとつい、イライラとしてしまう。夜の散歩に出て、気分を紛らわせていた…。そのようなことをしないと、眠れないのだから…」
　御所さまの熱い息が、かかってくる。
（そんなこと、うそに決まっている。夜な夜な若い女の許にお通いになっていたくせに…）
　あがこは、心の中で怒っている。

「あがこ、わたしには、そなただけなのだ、そなただけなのだよ。そなただけを愛しているのだよ」
　御所さまがこちらを見つめておられる。
　
　あがこは、御所さまの目をしっかりと見た。
　瞳が濡れているように思える。
　その瞳は、深い湖の水面のような青色をしていた…。
　深い藍色、でも、湖の底まで写すように、澄んでいる。
　しかも、少年のようにあどけない表情でもある。
　あがこは胸がドキドキする。
（ひょっとしたら、御所さまは、本当にわたしのことが、まだ好きなのかもしれない…）

「ねぇ、あがこ、ずっと待っていたのだよ。だから、ねぇ…」
　御所さまの顔が近づいてくる。
「いやっ」
「ねぇ、いいだろぉ、好きなのだから」
『ちゅっ！』
　御所さまは、あがこの額（ひたい）に『キッス（Ｋｉｓｓ）』じゃなかった、『くちづけ』をされていた。

　何が起こったのか？、あがこは、一瞬目の前が暗くなって。
　でもなつかしい匂いがした。
　それは御所さまの匂いだった。
　御所さまったら、額から頬に、頬から鼻頭にと、くちづけの雨をお降らしになって。
　そして、強く、唇を押し付けてこられて。そして、わたしのくちびるを開いて。わたしの舌までも探ろうとなさっている…。
（ああ、そんなに強く吸ってはダメっ！）

「御所さま、いけませんわ」
　あがこは、手を御所さまの胸に当てて、どけようと…。
「好きなのだ、だから・・・」
　御所さまは、また、あがこを引き寄せられる。
「でも、まだ、陽は落ちていませんわ」
「がまんできないのだよ。だから、ちょっと、ちょっとだけ…」
　御所さまのまなざしは、もう、子どものようで。
「まぁっ、いやな御所さま……」
「ごめんね、ヤリたいのだよ。そなたと。ずっとずっと、がまんしてきたからね」
「そんな…」
「好きなのだ、だから、ねぇ、ちょっとだけ…」
「いやっ」

　しかし、抵抗するひまもない。
　あがこは、御所さまに抱きかかえられていた…。
　そして、隣りの部屋に運びこまれていく…。
　あがこは、泣きたい気持ちだった。
（実兼さま、あなたがわるいのよ。『御所さまに抱かれて欲しい』なんて、あなたが言ったからよ）

　見ると、御所さまは、敷物を丸めておられた。
　それを枕の代わりになさろうというのだろうか？。
（ああっ、実兼さまに、わるいわ）
　と、あがこは、御所さまに押し倒されてしまっていた…。

「だめよ」
「でも、シたいんだ」
　御所さまの真剣なまなざしが、あがこの胸を締め付ける。
「ここでは…」
「閨（ねや）の間は、まだ用意できてないんだよ。だから、ここでシようよ」
「でも…」
「でも、なんだい？」
「明るすぎますわ」
「ああ、そうだね」
　御所さまは、立ち上がられて。
　帳（とばり）を降ろされ、衝立をそばに持って来られる。
　少しは、部屋が薄暗くなったような…。

「これで我慢してよ」
「でも、いいのかしら？」
　あがこは、まだ、実兼のことに、こだわっていた。

「構わない、少々、夕餉が遅くなったって…」
　御所さまの目が、獲物を狙う狼のようにキラリと光って…。

　あがこは、肩を抱かれ、くちびるを吸われ、目を瞑っていた。
　何か頭の中が空白になっていくような。
（ああ、実兼さま、ゆ・る・し・て・・・）
「あがこ、とても会いたかったよ。愛しているよ」
　御所さまの熱い息が耳にかかって、頭の中が熱を帯びてくるような気がする。
（つらいわ、つらいわ。御所さまのお子を宿しているわけじゃないのに）
　あがこの頭の中には、まだ、冷たい芯が残っていた…。

　御所さまったら、狂ったように、唐衣（からぎぬ）や表着（うはぎ）をお取りになって。
　それから、打ち衣（うちぎぬ）や五つ衣（いつつぎぬ）までも。
「あがこ、あがこ」
　御所さまは、顔といわず、首や胸に、チュッ、チュッとくちづけ（キッス）の雨をお降らしになる。
「あがこ、あがこ、愛しているよ。とっても会いたかったよ」
　あがこの頭の中から、徐々に、実兼のまぼろしが消えていく…。

　おっぱいを揉まれ、乳首を口に含まれると、
「アッ、フーン」
　と、あがこは思わず声を漏らしてしまうのだった。

　おなかやわき腹まで、くちづけで攻められると、
「アッ、フーン、くすぐったいっ！」
　と、あがこは身をよじる。
　御所さまの手が震えている。しかし、その手は確実に、小腰（女の裳の腰に取り付けられ、前で結んである細い紐のこと）を解いていた。
　打ち袴（はかま）を引き降ろされ、下衣の紐まで取られてしまう…。

　と、あがこは、両の足を御所さまの手で開かされていた。
　内腿に、御所さまのお顔があるのに気付く。
　ちょっとくすぐったい。
　御所さまのおひげが、内腿の柔らかい肉に当たって。
　御所さまのくちびるが上がってくる。
　と、亀裂を飛び越えて、いきなり、陰核（クリトリス）に。
「アッ、ウぅ―――ン」
　あがこは、下肢をピーンと伸ばし、背を反らしてしまう。

　御所さまは、小石のように硬くなった陰核を舌で嬲られる。
　すると、薄い皮が剥けて、紅色（ピンク色）をした小豆がプックリと現れ出でた。

　御所さまは、盛り上がり硬くなってきた陰核を口びるに挟まれて。そして、舌の先で優しく舐められる。
「ふーん、ふんふん、いやよ、いやよ」
　あがこが腰を振っている。
　その腰を押さえつけるようにして、御所さまは、指を、玉門（膣）の中へ…。
（あがこは、実兼にヤられているのではないだろうか？…）
　御所さまは、それを確かめるようにゆっくりと指先をねじ込めていかれる…。
　ねばっこいものが、からみついてくる。
（あっ、ああああああっ・・・）
　あがこのうめきは全く無視されて、御所さまには指をさらに奥へ。
　狭い。
　さほど、実兼に突かれた、という感じがしない。
　ぐっと、押し入れられると、指の先が濡れてくる。
　御所さまは、やっと、安堵なされた。
（こんなに狭くて窮屈ならば、あがこは、さほど、ヤられまくった、ということでもなかろう。それに、濡れているではないか。われに抱かれても、さほどいやではないらしい）

　御所さまは、あがこの股間にひざまずかれる。
　あがこの足を広げられて。そして、膝を上げて折るようにされる。すると、目の前にぱっくりと、あがこの股間が開（あ）いて…。まるで、玉門（膣）の中が丸見えになるぐらいに…。

　御所さまは、お毛け（＝陰毛）を掻き分けられて、玉門の土手（＝大陰唇）を指でなぞられる。
　そして、玉門（膣）を左右から囲う、門構え（＝小陰唇）を軽くさすられる。
　でも、そのビラビラとした薄い肉片は、指を嫌がっているように見えた。
　それで、その門構え（＝小陰唇）の肉片は、くちびるで愛撫しようと思われた。
　縦に伸びる肉片を、顔を横向きにするようにくちびるでなぞっていくと、くちびるが濡れてくる。
「はぁ、ハァ、ハァ〜ン」
　あがこが、興奮しはじめたらしい。
　お尻を上げ、左右に揺らしている。
　門構え（＝小陰唇）をくちびるや舌で愛撫してやると、あがこは、とても気持ちがよさそうである。
　御所さまは、内心、とても喜んでおられた。
　そうであろう。あがこは、まだ、完全には、実兼のものになってはいないのだ。あがこを愛せば、まだ、あがこの心を取り戻すこともできるのだ、と御所さまは思っておられるのだ。

　御所さまの目に希望の光が宿りはじめていた。
（あがこ、あがこ、正妃にはできなかったが、本当はそなたのことを愛しているのだよ。実兼に負けぬくらい。いや、実兼以上に、わたしはそなたのことを愛しているのだよ）
　御所さまは、くちびるから舌を出し、玉門（膣）といわず、陰核といわず、まるで子どものように夢中になって、舐めまわしをなさる。すると、玉門（膣）の奥からは、じくじくと愛液が湧きいずるのである。

　御所さまは、口をあがこの玉門（膣）にぴったりと、くっつけられて…。
　なつかしい、あがこの愛液を啜られるのであった。
「あっ、あ、あっ、アアアアッ・・・」
　あがこが、身をよじるようにしてあえぐ。
　もう、御所さまには、がまんがおできにならなかった。
　早く、あがこの中に入れて、１カ月半も溜まった、アレを吐き出してしまいたいのだ…。

　御所さまは、身を起こされた。
　天を仰いでいるモノの茎を、右の指でつつまれて…。
　もう、そのモノは、先っぽから透明な淫汁を滲みださせていて、その淫汁は陰茎にすら垂れ流れ、つまんだ指をびっしょりと濡らしている。
　恋しきあがこの玉門を左の指でちょっと開いて。
　亀頭を宛がい、腰を前に進めて、ずぼりッと。
「あれーっ！」
　あがこは、ずり上がる。
　でも、ちゃんと、あがこは、腰を揺すり上げてくれて。
　御所さまには、スッポリと、根元まで、押し込むことがおできになる。

　御所さまは、ゆっくりと、あがこの胸の上に覆いかぶさっていかれる。
　あまりの気持ち良さに、
「うーん、あがこ、気持ちがいいよ」
　と、あがこの耳元で囁かれる。
　あがこは、もう身も世もないように、髪を振り乱して、
「ふーん、あーん、アンアン・・」
　とばかりに、鼻を鳴らしている。

　御所さまは、あがこの上になって、腰をお使いになっている。
　今は、確か、１２７４年、文永１１年のはずであるが…。
　７３１年後の、２００５（平成１７）年に登場する、「れ○ざー・ら○ん・え○ち・じぃー」と名乗る、ハード・ゲ○の若者の腰振りに負けてたまるかとばかりに、激しく腰を使われる…。

　しかし・・・。
「アアっ、あがこ、アアッ、どうしたんだろう、ああっ、われは、われは…」
　何ということだろう、抜き差しをはじめて、さぁ、これからだというのに…。
　不覚にも、御所さまは、ドクドクっと、気をやってしまわれていたのだ…。
「あああっ、ぁぁぁ……」
　御所さまは、あがこの上で情けない声をお出しになって。
「あああ、ごめん、出してしまった…」
「・・・」
「わるかった。書経の修行中で。もう、ずいぶん、ヤッていなかったものだから…」
「・・・」
「自制が効かなかったんだよ、許して欲しい…」
「・・・」
　あがこが、少女みたいにすねた顔をしている。

「まだ、イかなかったよね？」
「ぇぇ…」
「許して。でも、われは、もう一度デきそうだから…」
「・・・」
「少し、休ませてね。回復したら、今度はきっとがんばるから…」
　御所さまは、早く出してしまったおのれが情けなく、涙ぐみそうになりながらも、ちゅっ、ちゅっ、チュッ、チュッとばかりに、あがこの顔に、くちづけの雨をお降らしになるのであった…。
　そして、次は必ず、あがこを喜ばせてやらなくてはとお思いになるのであった…。
（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊