４６　あがこに振られた後深草院は…

　会いに行くべきか、行かざるべきか、実兼は迷っていた。
　二条雅子から『会いたい』という文をもらっていたのに…。
　会いに行ってやるのが本筋であろう。
　自分が勧めたのだ、雅子さんに、『おなかの中の子が誰の子かわからないようにするためには、あなたが御所さまに抱かれるほかに方法がないのです』と。
　
　しかし、実兼は躊躇している。
　雅子さんは、わたしの助言を得て、御所に上がったのであろう。そして、御所さまに抱かれたにちがいない…。
　御所さまの匂いが染み付いた雅子さんのそばに近寄りたくない…。
　会えば、きっと抱きたくなる。
　が、抱きたくない、御所さまに抱かれた、穢れたからだなど…。

　が、その一方で、いやいやながら、御所さまに抱かれた雅子さんがかわいそうで、いたいけなくて、会って慰めてあげたくて仕方がないのだ。
　考えすぎて、頭が痛くなる。
　しかし、実兼は、屋敷を飛び出していた。
　足早に、雅子さんの屋敷へ。

　と、実兼の足が止まる。
　前方に雅子さんらしい人の姿が。
　幸い、向こうは気がついていない。
　さっと、物陰に隠れる。
　そして、そっと物陰から片方の顔だけ出して、前方を見やる。
　玄関先を行き来しているのは、やはり、雅子さんであった。
「ああっ・・」
　実兼は、膝から崩れ落ちていた。
（わるかった、申し訳なかった。あなたを不幸にするために好きになったのではないのに…）
　実兼は、道端で泣き崩れていた…。

　他方、涼子の屋敷である。
　御所さまは、涼子を寝かせつけておられた。
　右ひじを立て、その右ひじで立てた半身を支えつつ、涼子の横に体を寄せられておられる。
　そういう体勢ゆえに、向かって右手にいる兼嗣と君子の姿は、涼子からは見えない。

「好きだよ」
　御所さまは、そう涼子に囁かれる。
　隣りでは、兼嗣に抱かれている君子がいる。
　君子の耳に、われの言葉が聞こえているかもしれない。
　しかし、それでも構わなかった、涼子のことが好きなのは事実なのだから。

「うそっ」
「ほら」
　御所さまは、涼子の手を取って、それをご自分の股間へと導かれる。
　股間のモノは、すでにビンビンに硬く大きくなっていた。
　涼子がにっこりと笑う。

　その顔に勇気を得て、御所さまは、涼子の着ているものを剥ぎ取っていかれる。
　そして自らも白綸子（しろりんず）の寝着をお取りになる。
　涼子の股座に手を置かれる。
　と、涼子が恥ずかしそうに、股間を締め付ける。
　が、御所さまは、強引に涼子の股をお開かせになる。
　そこに、御所さまはおのが下半身をすべり込ませになる。
　下半身をゴリゴリと涼子の恥骨に押しつけながら、柔らかい、搗きたての餅のような乳房を揉みしだかれていく…。
「うーん、御所さま、乱暴になさらないで」
「ああ、わるかった」
　涼子を抱くのは久しぶりなのだ、だから、ちょっと興奮しているのかもしれない。
　涼子のくちびるを、そして舌先を性急に吸い上げる。
　涼子が欲しくてたまらない。顔を押しつけるようにしてくちびるを吸う。
　涼子のくちびるを吸ううちに、涼子の口腔の中から、芳しいメスの匂いが沸き立ってきた。
　それで、おっぱいをやわらかく揉みしだいていたのに、興奮のあまり、ギュッと乳房を握りしめてしまう。
「ウッ、んっんんん…」
　痛かったのか、涼子が身をよじる。
　顔を見ると、赤味が差している。
「痛かったのか？」
「ええっ、ちょっと…」
　御所さまはちょっと、乳房をにぎっていた手の力を緩められる。
　そして、涼子の鼻息をうかがいながら、今度はゆっくり、やわやわと乳房を揉まれる。
「フン、フン」
　白い首筋に赤味が差し、涼子の鼻息が荒くなっている。
　おっぱいを揉まれるのも、まんざら嫌でもないらしい。
　そして、乳首が立ってきたので、それを指に挟んで、お揉みになる。

　御所さまは、乳首を揉みつつ、口を吸いに行かれる。
　と、涼子もこれに応える。
　涼子の片方の白い腕が首に絡みついてくる。
　それがうれしくて、御所さまは、頭の中が後ろの方からジーンと痺れてくるのをお感じになるのだ。
　おのが唇を、涼子のくちびるから首筋へと這わせて…。
　首筋を舌で舐めると、涼子の首筋の血の管（くだ）がピクピクと反応する。
　おのが唇を、涼子の首筋から胸元へ移して。
　胸元に顔をくっつけ、おっぱいを揉みながら、乳首を舌でころがす。
「はぁ、フ〜ん、はぁはぁはぁっ、ハハハぁっ」
　涼子が、きざしてきたらしい。
　涼子は、どんな男に愛撫されても、こんな風にうれしがるのであろう。
　天性の、男好きのするからだを持っているのかもしれない。

（涼子は、わたしのことなど、好きではないにちがいない。ただ、まぐわいそのものが好きなのだ。相手は誰でもよいのだ）
　御所さまは、好色な涼子がにくい。
　徹底的に、この好きものであるおんなを苛めてやりたいと思われるのだ。

　御所さまは、しだいに体を下にずらされていく。
　みぞおち、わき腹、そして腹部へと、ゆっくり唇を這わせていかれる。
「ああっ、ああああっ」
　涼子が、あのいつものように口を半開きにしながら喘ぎ声を漏らす。
　この悩ましい顔を見るために、この悩ましい声を聞くために、われは涼子を抱きたいのだと、御所さまは思われる。

　御所さまは、涼子の腰を抱え込むようにして、顔を股間の中へくっつけられる。
　くちゅくちゅとばかり、涼子の玉門（膣前庭）を口でお吸いになる。
「アーン、アアッ、そんなことぉ−ッ」
　そして、玉門の口吸いにあきられると、今度はコリッとしたおサネ（陰核）を舌先でおころがしになる。
「アっ、アッ、アアアア、アッ！」
　涼子が激しく体をくねらせる。
　けれども、御所さまは涼子の腰をしっかりと抱え込み、グッとばかり、舌を玉門（膣口）の中に差し入れてやる。
「はう、あう、はぁ、はぁ」
　御所さまは、今度は、玉門に指を差し入れて…。
　玉門の中の、上っ面の、ザラザラっとしたところ（＝Ｇスポット）を指の腹で、グニュグニュと掻き掻きされて…。
「アゥ、アウ、アウ、もぉっ、ゆるし・・・てぇ・・・」
　涼子が手を伸ばし、股間のモノを掴みに来る。
　涼子は、御所さまの股間のモノが欲しいに違いない。
　御所さまの硬い肉棒で、わが身を一気に貫かれたいにちがいないのだ。

　しかし、御所さまは、それをお許しにならない。
　それはそうであろう。
　御所さまが、法華経の写経など、身を慎んでいるというのに、この女は、頭の毛が白くなった男や薄くなった男たちをこの屋敷に引き入れ、痴態の限りを尽くしたにちがいないのだから…。
　そんな女を簡単に楽にしてやるわけにはいかない。
　
　御所さまは、指で玉門の中を掻き回すことを止められた。
　そして、お口で、おサネをいたぶることすらも止められた。
　いったん涼子の股間の淫裂から顔を離される。
　このまま、玉門への指のいたずらや、おサネへの口吸いを続けたなら、涼子は簡単にイッて（クライマックスを迎えて）しまうであろう。
　そんなに簡単に、イッて（オーガズムに達して）しまわれたら、つまらない。
　涼子の秘裂をじっと見つめられる。
　そこからは、透明な、何かネバネバしたような淫液が、ジクジクと滲み出ている。
　その淫汁は、下門（小陰唇の下方）の堤を超え、渡り線（＝会陰縫線）へと流れ出して行く。
　そして、会陰部の縫線に沿って、後ろの淫穴（＝肛門）へと流れ伝わっていく。

　と、御所さまは、股間の下にさらに深く、顔を突っ込みになられて、その淫穴口（＝アナル口）に垂れ光っている淫液を、ちゅるぅチュルゥーっとばかりに、お吸いになる。
「アぅ、アウっ、アンッ！」
　涼子が、ギューンと両の足を突っ張って、弓なりに反りかえった。
　が、御所さまは、淫穴（＝アナル）攻めをお止めにならない。
　御所さまは、２１世紀のてれび・こまーしゃるではないが、『お口、クチュ・クチュ（モンダ○ン？）』と、おのが口びるで、涼子の後ろ側の尻穴を吸いつつ、一方ではおのが鼻頭で、涼子の前側の陰裂をば、グニュ・グニュと刺激されるのである。

「アーン、そんなぁ―――」
　涼子が泣いている。
　しかし、御所さまは、お許しにはならない。
　淫裂（＝ヴァギナ）からお鼻の頭を動かし、今度は淫裂の上にある陰核（＝クリトリス）を、顔を上下しつつ、鼻のあたまでクリクリと愛撫なさるのであった。

「御所さま、御所さま・・・」
「涼子、涼子、どうしたのだ？」
「来て、来て・・」
「どこへ？」
「ハァーン…、欲しい、ほしいわ……」
「何が？」
「ハァん、んんっ、早く、はやく、ハヤクぅ〜ン…」

　涼子が身をよじるようにして、ねだっている、われの硬い肉棒を。
　御所はうれしくて…。
　そして、涼子がかわいくって…。
　涼子が、われを求めているのだから…。
　それで、鼻の頭ではなく、おのが上のくちびると下の唇で、やさしく涼子のおサネをはさみ、そして、くちゅくちゅとゆっくりお吸いになるのであった。

「ハァーン、御所さま、もっ、だめ、ダメェー」
「いや、もう少し、がまんをしなさい」
「いやいや」
「もう、しかたのないおなごじゃな」
　御所さまは、身を起こされる。
　と、涼子は、少し首を起こして、手を伸ばしてくる。
　そして、御所さまの股間のモノをつかむ。
「ハヤク、ハヤク」
　涼子は、御所さまの股間のモノをにぎり、からだを下にずらしつつ、おのが秘裂にそれを宛がい、ぐっと腰を上げてきて…。
「ウッ、ウグッ―――っ、いっイーッ」

　御所さまは、根元まで、股間のモノを、しっかりと涼子の淫裂の中に、入れられてしまっていたのだった。
　と、涼子の蜜壷の中の襞肉が、しっかりと陰茎にからみついてくる。
　御所さまとしたら、それがあまりに気持ちよくて、もう、それだけで、漏れそうになる。ちっとも動かないうちに…。
　それではいかぬとばかり、御所さまは、腰を浮かし…、そして、しずめ…。ゆっくりと腰をお使いになる。
「ハァ、いいわ、イイわぁ」
「そうか、そうか。われも、いい」
　御所さまは、抜き差しするうちには、腰が痺れ、あまりに気持ちよくて、とてもゆっくり腰を動かすというわけにはいかなくなっておられた。
感情がどんどん、上昇していくのだ。
それとともに、腰を激しく上下に動かさざるを得ない…。
激しく抜き差しをして、涼子をお責めになる。
「だめぇ、ダメ、ダメ、ウッ、ウっ―――ッ！」
　下に組み敷いている涼子が、あばれる。
　そして、涼子の肉壷の中すらがあばれ、肉棒をよじれるほどに絞り、締めつけてくる。
　が、御所さまは、上半身を涼子の胸に合わされ、しっかりと涼子をお抱きになる。
　と、キュ―ッとばかりに、涼子のやつが玉門を締めてくる。
「むっ、ムッ、ムムムム、ムッ！」
　もう御所さまも、堪えきれない。
　肉棒が、その淫汁の吐き出し限界を超えてしまっていた…。
「涼子、涼子！！」
　御所さまは涼子の肩口に、涼子は御所さまの背にしがみつき…、互いに、ぶるブル、ブルッとからだを振わせて…。
　ふたりは同時に、頂き（＝オルガスムス）に昇り詰めてしまっていた…。

　御所さまは、涼子のからだの上から降りられていた。
（なんとも、気持ちよく、イッたものよなぁ）
　涼子の顔をわが胸の中へ抱き込んでおられる。
　そして、涼子の髪をやさしく撫でておられた。
「涼子、よかったよ。とても気持ちよかったよ。そなたはどうであった？」
「よかったわ。腰のあたりが溶けちゃうくらい気持ちよかったわ」
「ああ、それはよかった」

　と、涼子が、顔を胸から挙げ、御所さまを見つめる。
「ねぇ、御所さま・・・」
「なんだい？」
「わたしね、今度は、兼嗣さまのモノが欲しいわ」
「えっ？！」
　御所さまは最初、涼子が何を言っているのか、よくわからなかった。
　御所さまは、じっと涼子の顔を見つめられて…。
　幾分か、涼子の顔に羞恥の色が…。
「そなた、あの、兼嗣のでかいモノが欲しいのか？」
「はい…」
　涼子が消え入りそうな声で答える。
　御所さまはあきれておられる。
　が、やがて、それが怒りに…。
「そなた…」
「だって…」
「何だ！」
「もっと欲しいんですもの」
「何と言うことを！」
「御所さま、わたしのこと、おきらいなのですか？」
「馬鹿もの！。そういう問題ではない…」
　御所さまは、胸が締め付けられる、いや、胸がチクチクと痛いのだ。
　嫉妬なのだろうか？
　でも、涼子が愛おしいのだ。
　胸の中がジーンと濡れてくる。
（われは、もう、３３にもなる。しかし、涼子はまだ１７歳なのだ。まだまだ男が欲しくてたまらぬ年頃なのだろう）
　御所さまは、悲しくて…。
　しかし、それ以上に涼子がかわいくて…。涼子のわがままを、きいてやりたいと思われるのであった。

「われがそばにいてもいいのか？」
「ええ…」
「そうか。それなら、ゆるしてやろうかな…」
「うれしいわ…」

　と、涼子は、這いながら、隣りの寝床へ移っていく。
　涼子が寝ている兼嗣を揺り動かしている。
　兼嗣の横にいる君子は、もうぐっすりと眠っているようだ。

「ねぇ、今度はわたしをかわいがって…」
　涼子が兼嗣を口説いている。
　兼嗣が御所さまの方を見遣っている。
　御所さまは、うなずいておられる、とても悲しそうな顔をしつつも。
（すまぬ、ヤッてやってくれぬか。涼子の、たっての望みなのだ）

　兼嗣は、御所さまの許しがあるものの、迷っていた。
　いとしい倫子のことが気にかかる。
　しかし、涼子に覆いかぶさってこられ、涼子に口を吸われているうちに…。
　兼嗣は、これも出世のためだと思い定めた。
　そう思い定めたとき、身を起こし、涼子を組み敷いていた。

　兼嗣が、涼子の股間を手で広げている。
　兼嗣の魔羅（ペニス）は大きい。
　兼嗣は、早くも先走りの淫汁を垂れ流している肉棒に、おのが手に添えて…。
　それを、涼子の玉門（ヴァギナ）に宛がう。
　兼嗣は、半身を起こしている。胸を反り返すようにしながら、腰を前に進めていた。
『ぎし、ギシッ・・』
「うっ、ううううっ」
　太い肉棒が狭い秘裂にきしんでいるのだ。
　涼子が呻く。苦しげに、額に皺を寄せて…。

　兼嗣は心配げに…。
　しかし、何とか、亀頭部を入れようと懸命に腰を進めようとしている。
　兼嗣の額に汗が…。
涼子の白い肌が、全体に赤味が増している。
　さらに兼嗣が腰を進めると、涼子がお尻を振り上げ、胸を反らす。
「あっ、あああ、あん、んっっ」
　涼子が、苦しそうだ。
　ああっ、しかし、兼嗣の魔羅の先がきしむように入っていく…。

（涼子は、大丈夫なのだろうか？）
　と、そばの後深草院は心配になられる。
「うっ、うううっ、いっ、痛い・・・っ」
　涼子が身を捩りながら、うめく。
　亀頭部がめりこみ、その姿を消す。
　そしてそれからはすぐに陰茎が、中ほどまで…。
「ズルッ！」
　何か、音でもしたような…。
　目をこらし、よく見ると、兼嗣の魔羅は、もう根元まですっぽりと入ってしまっていた…。

「あっ、うっ、うっ、ふうーぅぅ」
　入りきってしまったのか、涼子が少し、ため息を吐く。
　と、兼嗣が腰を引く。
「あぅ、うう、あっうーん、んっ・・」
　涼子がお尻を持ち上げるようにして、兼嗣の腰を追う。
　そして、また、兼嗣が腰を押し込む。
「ああっ、あああああっ」
　涼子の表情が変わる。
　あんなに苦しそうだったのに…。
　何か、目を瞑りながらも、その顔には、込み上げる悦楽をもっともっと味わいたいかのように、淫靡な表情を垣間見せるのだ。
　
　兼嗣がゆるやかな腰の前後運動を続けている。
　と、涼子のからだが、ブルブルと小刻みにふるえはじめる。
　涼子の伸ばした足に痙攣が走る。涼子がその下肢を突っぱねる…。
「あああっ、アン、ああああっ、アッ！」
　涼子が足を突っ撥ねつつ、ぐいーっと胸を反らす。
「あああっ、いくっ、イク、イっちゃうゥゥゥ――ッ！」
　涼子が、兼嗣の肩口に顔をつけ、背中に回した手に力を込めて兼嗣に抱きつく。
　涼子がびっくんビックンと上半身を跳ねさせる。
　そして、休み…。
　兼嗣はまだイかない。
　兼嗣がゆっくりと動く。
　涼子が跳ねる。
　涼子は、何度もイッた。

　御所さまは、目を伏せ、がっくりと肩を落とされて…。
　やっと、静かになった。
　目を上げられる。
　そばに、グターッとなった涼子が…。
　そんな涼子を見るのは…、嫌だった、たまらなく…。
　が、目が閉じられない…。
　と、涼子の股間に目が行く。
　涼子の股間の秘裂から、乳濁色の淫液（精液）があふれ出していて…。

　御所さまは、顔面、真っ青になられ…。
　ジーンと耳鳴りがして、気を失いそうになられる。
　御所さまは、バッタリと布団の上にうつ伏せになられた…。

「御所さま…」
　と声がし、誰かが肩に手を置く。
　御所さまは目を瞑っておられる。
　しかし、わかっておられる。声は涼子のものだということが…。それに肩に置かれた手は涼子のものにちがいない。
　それに、涼子の体の匂いがするのだ。
「いやだ、いやだ」
　御所さまは、うつ伏せになったまま、わざと、すねておられる。
「御所さま・・・」
　同情など要るものか…。

「御所さま、わたしのわがままをきいてくださって…」
　上を見上げると、涼子も目に涙を溜めていた…。
　御所さまは、オイオイと泣かれる、肩までふるわせて…。
　にくかった、涼子が…。
　しかし、それにもかかわらず、そんな涼子が見捨てられなかった。
　いや、そんな涼子を見捨てられないわが身が情けなかった。

「御所さま…」
　涼子の切なそうな声が耳元で…。
　御所さまは、いきなり起き上がり、涼子に抱きついていかれる。
「涼子、涼子、いとしい涼子、われを捨てないでおくれ…」
　御所さまは、涼子の胸にとりすがり、まるで子どものように泣きじゃくりになるのであった…。
（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊