４７　あがこも涼子も好きな後深草院

　二条あがこ（雅子）は御所に上がっていた。
　まだ、おなかは大きくなっていない。
　実兼があれから会いに来てくれないのだ。
　自分の屋敷にいて、ふさぎ込んでいても仕方がない。
　二条は御所の務めを果たそうとしていた。

　おなかの子は２カ月を優に過ぎていた。おなかの子はたぶん、昨年の暮れ、実兼さまとのまぐわい（セックス）の結果…。
　しかし、ついこのあいだ、精進明けの御所さまに抱かれてしまったのだ。
　ごまかせないことはない、おなかの子は御所さまのお子だ、と。
　実際、おなかの子は御所さまのお子にしようと、実兼さまと共謀したのだから。そして、事は順調に運んでいるのだ。

　実兼は、二条の屋敷に出かけていた。
　いや、その屋敷の近くまで…。
　近くでたたずみ…。
　そして、自分の屋敷に引き返していた。
　二条雅子には会えなかった。
　会えば、雅子さんを責めることになるだろう。自分が計画し、勧めたことなのに。でも雅子さんが御所さまに抱かれてしまったということは、なかなかに許すことができなかったのだ。
　屋敷に帰る。
　寝付かれない。
　と、誰か寝所に入ってくる者が…。
　正妻の顕子（けんし）であった。
　顕子は、村上源氏、三条坊門道成（みちなり）の女（むすめ）で、二条雅子とは、またいとこになる。
　顕子は気立てのよい女だと、実兼は思っている。確かに表向きの器量という点では雅子には劣るけれども、実に、自分には尽くしてくれていると思うのだ。
　３年前には、長女の章子（のち、伏見天皇中宮の永福門院）を生んでくれた。そして昨年の暮れには次女の瑛子（のち、亀山法皇妃の昭訓門院）を生んでくれた。
「どうなさったのですか？」
　顕子が心配そうに尋ねてくる。
「いや、何でもない」
「でも。何やら、あなた様の呻き声がして…」
「ああ、そうなのか…」
　実兼は実際、自分がそんな声を出しているとは気がつかなかった。
「何か、ご心配なことでも？」
「いや、大したことではない。ただ、亀山天皇さまがお子に譲位をなさるらしいのじゃ。そうなれば、われがお仕えをしている後深草院さまには、さぞや、お気を落としのことであろうか、と…」
「でも、もう夜が更けております。どうぞ、お休みを…」
「そなた、そばにいてくれぬか。われが寝付くまで…」
「はい…」

　二条の顔色はわるかった。
　御所さまを騙している、という思いがぬぐいきれないのだから。
　と、御所の廊下で、ばったりと後深草院（＝御所さま）と出くわしてしまう。
「あっ！」
　御所さまは、びっくりしたような声を上げられて。
　そして、赤い顔をされて…。
「いや、では、また……」
　御所さまはそれだけ言われて。立ち去っていかれてしまう…。

（御所さまはどうなさったのだろう？）
　二条は不審げな面持ちで、御所さまを見送っていた…。
（ひょっとしたら、御所さまは、怒っていらっしゃるのかしら、このあいだ、御所に泊まらず、黙って帰ってしまったことを…）
　二条は大盤所（台盤所ともいう。御所や内裏における女房たちの詰所のこと）にいた。
　そして、あれこれと思い悩むのだ。
（実兼さまは、文を出しても、なかなか会いに来てくださらない。どうなされたのかしら。わたしが御所さまに抱かれ、気分を害しておられるのかしら…）
（御所さまはどうなさったのかしら。以前なら出会ったときは本当に優しく言葉をかけてくださったのに。御所さまのわたしへの気持ちは薄らいでしまったのかしら…）

　一方、御所さまのこと。
　御所さまは、さっき、突然、廊下であがこに会い、動転してしまわれていた。
　まだ胸がドキドキしていて…。
　なぜ引き止めて、あがこに言葉をかけなかったのだろう？。
『ねぇ、このあいだは、どうして帰ってしまったのだ？。わたしはとても寂しい思いをしたのに。そなたは本当に情の薄い女だね…』
　とでも、あがこに言葉を掛けたかったのに…。
　しかし、また、何か不細工な応対になってしまったのだ。
（あのとき、あがこは、どうして帰ってしまったのだろうか？。どうして待っていてくれなかったのだろうか。わたしとしては、もっともっとあがこと話がしたかったのに。もっともっとあがこを抱きたかったのに…）

　御所さまのおなかの中に、何かしら、腹立ちの感情がふつふつと湧いてくる…。
（あがこは、わたしのことがきらいなのだ。わたしのことが好きなら、わたしに黙って帰ってしまうなんてことはないはずだ…。夕刻からは誰かと会う約束があったにちがいない…。だから、わたしには内緒で、いそいそと帰ってしまったのにちがいない…）
　御所さまは、あがこは誰に会いたかったのだろうか、とお思いになる。
　すると、それは、西園寺実兼しかいなかった…。

　御所さまは、部屋を出て、さっきのところに戻り、あるいは台盤所（詰め所）まで行き、あがこに会って、あがこを追求したいと思われた。
（あがこ、このあいだはなぜわたしに黙って帰ってしまったのだ。そなたには、屋敷で会いたい人間がいたのであろう。その人間とはいったい、誰なのだ……）

　しかし、御所さまはグッと我慢をなさった。
　そんなことを問い詰めるというのは、やはり、みっともないことなのだ。
　あがこに、『まぁっ、そんなことでお妬きになるなんて…』と一蹴されるのが落ちであろう。

　御所さまは、悶々とした日々を送り暮らされていた。
　昼間は、弟の亀山帝が譲位するだの、そのあとは亀山帝の皇子が即位するだのと、噂話が耳に入り、疎ましくもある。
　夜は夜で、正妻の東二条院のところでお泊りになるというわけでもなかった。
　もう東二条院のからだにときめくということはなかった…。
　本当は、あがこに会い、あがこを問い詰めたいのだ。
（なぜ、あの時、帰ってしまったのだ？。そなたはわたしのことを愛していないのだな…。そなたが愛しているのは実兼であろう…）

　あがこを部屋の中に呼び込んで、叱責してやりたいのに、なぜかそれができないのだ。
　そうこうするうちに、日にちはどんどん流れて行く…。
　そして、御所さまには、またぞろ、女のからだが欲しくてたまらなくなられるのであった。
　かといって、女なら誰でもいい、というわけでもない。
　やはり、股間のモノがピクピクと蠢き、時にはビックンビックンと飛び跳ねるごとくに強く反応するような、官能的なからだを持つ女でなくてはならなかった。そういう女でなければ、イキ方がよくない。「ドクッ、ドクッ、ドクドク、ドク――ッ」と鋭い感覚で、「ヌける」というおんなは、今は、涼子しかいなかった。
　なぜかはわからない。
　涼子には、白髪頭や薄禿げの男たちがいるはずなのに…。
　その男たちへの嫉妬なのだろうか、涼子には特別の淫情が湧き上がるのだ。

　あがこの屋敷に行けばよいのに。
　しかし、ひょっとしたら、実兼と鉢合わせをするかもしれない。
　そうなったら、わたしはどうするであろうか。
　たぶん、実兼を左遷してしまうであろう。
　実兼は関東申次の職を解かれる。
　そうすれば、鎌倉幕府と折衝をするのは誰なのだ。
　幕府には、わが息子の煕仁（ひろひと）を、是非、皇太子として認めてもらわねばならない。そうでなければ、煕仁は、永久に天皇に即位できないことになる…。

　あがこには、わたし以外の男がいても、いいではないか。
　わたしには、あがこ以外の女がいるのだから…。
　御所さまは、ひとりで涼子の屋敷に向かわれていた。
　正妃の東二条院は、涼子のことではさほどもんくは言わない。
　なぜだろう、こと、二条あがこのことになると、東二条院は眉や目を逆立てて怒るのであった。
　ひょっとしたら、正妃の東二条院は、あがこの母親に嫉妬しているのかもしれない…。われにとって、あがこの母親こそが、初恋の人であり、はじめてのまぐわい（セックス）の相手であったのだから…。

　牛車の中は一人であった。
　今日は、兼嗣がいない。
　今夜、涼子がひとりかどうかもわからない。
　ひょっとしたら、白髪頭の男や頭髪の薄い男が涼子の屋敷に来ていて、はちあわせをすることになるかもしれない…。
　それでも、御深草院は、涼子の屋敷へと牛車を向かわせられるのだった。
　今は、涼子のピチピチした若いからだに夢中になっていると言われても仕方がないと思われている。
　涼子の股間に、顔をくっつける。
　すると、若い女の、とてもいい匂いがするのだ。
　草叢を撫で、恥骨、陰阜（恥丘）を指先でなどる。
　そして、おサネ（陰核）を舌先で舐める。
　おサネを、舌先で下から上へ舐め上げると、包皮がめくれる。
　その包皮の剥がれた薄い紅色の玉の表面を薄く舌で這うように撫でると、涼子は目に涙さえ浮かべる時がある。
　それに、涼子はそのおサネの根っ子のところを舌先で強くいじくってやると、本当に喜ぶのだった。
　そうしておサネ（陰核）をいたぶってやるうちには、玉門（膣口）から淫液がジクジクに滲み出てきて…。その淫汁を舌先を丸めながら啜ると、涼子は「うっ、うううう、うっ」と声を上げ、身をよじるほどに嫌がるのだけれども、こちらとしては何とも興奮してくるのだった。

　それになぜだろう、仮に涼子が白髪頭の年配者たちに抱かれることになっても、近頃はさほど嫉妬で苦しむことがなくなったような気がするのだ。
　それは、たぶん、涼子という女がわかってきたからかもしれない。
　確かに、涼子は白髪頭の男や頭髪の薄い男たちのことを気に入っている。しかし、それ以上に涼子は、まぐわい（セックス）そのものが好きなのだ。
　極端なことを言えば、涼子は、男というものを白髪頭の男や頭髪の薄い男たちに限っていないのだ。それは、われであってもいいのだ。性の快楽を与えてくれる男でありさえすれば誰でもいいのだ…。
　それに、自惚れかもしれないが、涼子はわれに馴れてきた。われに心を許すようになってきた。
　白髪頭の男や頭髪の薄い男とまぐわい（セックス）をしたとしても、後で必ず、われのところにも来て、抱かせてくれる。そんな優しい気遣いもできるし、ともかく、何と言っても、まぐわいそのものが心底好きな女なのだ。

　御所さまはまだ、牛車の中だ。
　早く、涼子の許に行きたい。
　頭の中では、もう涼子とまぐわいをしているところを想像なさっているのだ。
　空想の中で、御所さまは、涼子のおサネを舐め上げておられる。
　舌を丸めて、玉門（膣）の中に入れる。
　すると、もう玉門の周りはびちょびちょに濡れそぼり、口の周りはベトベトになってしまう。
　おサネを舌で愛撫しながら、長い指先で玉門の中を掻きまわしてやると、涼子はもうそれだけで、ビックンビックンとからだを震わせながら、イッてしまうのだった…。

　涼子の屋敷に着いた。
　急ぎ、牛車を降りられる。
　この屋敷には、何度も来ておられる。勝手を知っておられる御所さまは、ズンズン中にお入りになる。
「おお、涼子、いたのか」
　涼子は、使い走りの女とふたりで、夕餉を摂っていた。
「御所さま…」
「よいよい。そのまま食事をするがよい。われは、あちらの部屋で待っておる」

　御所さまは寝ころがっておられる。
　と、屋敷の使い女（め）が、御酒を持ってきた。
　みすぼらしい着物であった。
　涼子は吝嗇な女なのだろうかと思ってしまう。
　御所さまは、その女に何かをお渡しになっている。
「よいか、涼子には内緒じゃぞ」
「……」
　使い女（め）はおじぎをして部屋を出て行く。
　御所さまは、手酌でお酒をお飲みになっている。
　涼子が来るのが待ち遠しい。

（われには、あがこという恋しい女がいるというのに…。しかし、あの女には、実兼という男がいるのだ。われとすれば、涼子と遊んでも誰にも文句は言われまい。しかし、近頃は涼子のことが気にかかるようになってきた…。涼子を愛しているのだろうか？。もし、そうであるならば、われは、あがこと涼子と二人の女を同時に愛していることになる、そのようなことがあっていいものなのだろうか…）

「どうなさいましたの？」
「うん？」
　何と、そばに涼子が来ていた。
　気がつかなかった。
　考え事をしていたせいなのだろうか。
「いや、われは何も考えてはいなかった」
「うそ！」
「うそではない。もし考えていたとすれば、このお酒はどこの産か、と…」
「他（ほか）の女の人のことを考えていらっしゃったのでしょ？」
「馬鹿な。そなたこそ、今夜はまたわれだけでなく、他の男たちも会いにやってこようものを…」
「いいえ、今夜は、他には誰も…」
「おおっ、そうなのか！」
　御所さまは、実にうれしそうな顔をなされた。
「そなたにはさびしいことかもしれないが。他には誰も来ないとなると、われにとってはこの上もなく好都合なことじゃ…」
「どうしてですの？」
「そなたを、われが独占できるからじゃ」
「えっ、そんな。どうして？」
「そなたが好きだからだ。好きな女というものは、他の男には誰にも渡したくない。われ一人のものにしておきたいのだ…」
「ほんとうに？」
「ああ、そうだよ」
「……」
　なぜか、涼子は恥ずかしそうに、うつむいた…。

　涼子が裸になる。
　美しい裸身であった。
　もう、股間のモノはギンギンに膨れ上がっている。
　涼子が仰向けになる。
　御所さまは、涼子に膝を立てさせて。そして、股間を少しお開かせになる。
　御所さまは、寝ている涼子の右横におられて。涼子の下肢の方に向かってひざまずかれる。

　御所さまは、上半身を倒されて、涼子の股間に顔をくっつけていかれる。
　両手で、涼子の股間を大きく広げつつ。
　涼子の股が大きく広がったので、御所さまは、左手で、おサネの上の恥丘の皮膚を上へ引っ張りあげられる。
　おサネが顕（あら）わになる。
　玉門（膣）の中からは、ぷーんと、いい匂いが湧き上がってきて…。
　その雌の匂いで、御所さまはすでに硬くなっている股間のモノを、ビックンビックンと脈打たされる。
　その蜜のような甘い匂いに誘われるように、首を折り曲げて、口びるを涼子の股間に。
　玉門（膣）をくちゅくちゅと、唇で吸う。
「はぁ、ふーん、ふんっ、んんん・・・」
　玉門（膣）を口唇で吸いながら、内腿の肉を指先で撫でる。
　内腿は、指先に吸い付くような、すべすべとした肌。
　そのもちもちっとした、もち肌の肉を指先で揉んでやると、涼子がお尻をもじもじさせてくる。
「フン、フン、フーン」
　涼子がかわいい声を上げる。
　御所さまは、ちょっとばかり、いたずらっ気を出されて…。
　玉門（膣）を指で広げつつ、口びるを当てて、膣穴におのれの息を吹きかけられて…。
「あーん、いや〜ん・・・」
　涼子は、お尻をびっくん、びっくんと跳ね上げさせる。
「気持ちわるいの？」
　御所さまは、涼子の股間から顔を上げられる。
「あーん、ばかばか・・・」
　涼子が、手を伸ばして、御所さまの股間のモノを掴む。
　御所さまは、少しからだを起こされて。
　左手で、涼子のおっぱいをムニュムニュと揉まれていく。
「ムッ」
　御所さまが呻かれる。
「えっ？！」
「そんな、もっと、やさしくしてよ。そんなにギュっとにぎられては、痛くて…」
「ごめんなさい」
　涼子の、御所さまの股間のモノをにぎっていた手がゆるくなる。
　実際、男の股間のモノ（陰茎）とて、女性の玉門（ヴァギナ）と同様、敏感なものなのだ。
　仕返しとばかり、御所さまは、涼子の乳首を上と下の歯で挟んで、コリコリ、カリカリと軽く噛まれる…。
「あっ、ウーン、イヤイヤ」
　涼子が身をよじる。
「痛かった？」
「……」
　御所さまは、左手で涼子のおっぱいを揉みつつ、顔を再び涼子の股間に移して、涼子のおサネを口唇を当ててお吸いになる。
「はぁ、うー、うううっ、はぁーん・・・」
　おサネを舌先でちろちろと舐めると、涼子は謳うように泣く…。
　そして、右手の人差し指を、ビチョビチョに濡れた涼子の蜜壷の中へ突っ込みになって…。
　人差し指を内側の方に折り曲げつつ、玉門（膣）の中の上っ面のヒダヒダの部分（Ｇスポット）をコリコリとお掻きになる。
「ハァ、ウーン、ううううっ、ウウッ！」
　涼子はとても喜んでいるように見える。
　御所さまは、もっと涼子に喜んでもらいたいと思っておられる。
　人差し指ではコキュコキュと蜜壷の襞肉を、薬指ではすぅすぅと会陰縫線部を、小指ではコチョコチョと肛門を撫でられるのである。
　その指使いの巧みさは、琵琶（今のアコースティック・ギターのような楽器）の演奏のおかげでもある。
　乳房への揉み揉み、おサネへのお口クチュクチュ、玉門（膣）へのコキュコキュ、肛門（アヌス）へのチロチロ、御所さまには、涼子に対し、いわば「四ケ国攻め」をなさるのであった。

「御所さま…」
　涼子が、われの股間のモノをにぎってくる。
「どうしたの？」
「うっ、うーんっ…」
「どうしたの？、何か欲しいものがあったら、言いなさい」

「うーん」
「うーん、じゃ、わからないよ」
「……」
「何が欲しいの？」
「……」
「欲しいものがあったら、言ってごらん」
「……」
　御所さまには、わかっているのだ、涼子が欲しがっているが何か…。
　それに、もう、おのれの股間のモノは、先っぽから涎を流し、涼子の蜜壷の中にその身を埋めたくて埋めたくてたまらないこともわかっておられるのであった。
　と、涼子が泣いている。
「そなた、そんなに、われのモノが欲しいのか？」
『うん』とばかりに涼子がうなずく。
　おんなとは、何と言うかわいい生き物なのであろうか。
　御所さまは、そっと涼子の股間に身を移されていく…。
　そして、おもむろに、涼子の最も欲しがるものを、しずくを垂らしつつ待っている淫裂の中に、お与えになるのであった…。
（つづく）

（注）この翻案小説を書くにあたり、下記の図書を参考としました。
　　「とはずがたり」　新潮日本古典集成　　福田秀一　校注　　新潮社　刊
「女西行――とはずがたりの世界――」　松本寧至　著　　　勉誠出版（株）刊